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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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18/39

二話 見送り

 翌朝。


 透子は身支度を整え、

 出発に向けて

 荷物をまとめていた。


 危険な旅になるだろうと

 透子は緊張していた。


 スパーン!!


「透子様!」


「わぁー!」


 透子は驚いて、

 思わず大きな声が出た。

  

 振り返れば、

 部屋の入口にいちが立っていた。

 その後ろには他の妖たちも

 大勢いた。


「聞きましたぞ!」


「黄泉の奥へ行かれるとか。」


「危険ではありませぬか?」


 口々に話す妖たちに、

 透子は目を瞬く。


「どうして、

 皆さん知っているのですか?」


「屋敷での中なら

 なんでもお見通しです!

 私、座敷童子なので!」


 いちが胸を張った。


「屋敷中大騒ぎですぞ!」


「そりゃ騒ぎにもなりますぞ!」


「黄泉の奥など危険極まりない。」


 透子は苦笑した。

 この屋敷で

 隠し事はできないらしい。


「透子様。

 私も一緒に行きます!」


 いちが真面目な顔で

 透子に詰め寄った。

 

「駄目だ。」


 即答だった。


「主様!」


 いつの間にか

 部屋の入口に

 黄泉守が立っていた。


「行きます!」


「駄目だ。」


 いちは頬を膨らませて怒った。


「どうしてですか!」


「危険だからだ。」


「そんなことは承知の上です!

 私だって、透子様をお守りしたいのです!」


 透子はいちの熱い思いに

 胸を震わせた。


 男は小さく息を吐いた。


「お前は、この屋敷の座敷童子だろう。」


 男はいちの頭を優しく撫でた。


「留守を頼む。」


 その一言で、

 いちは黙った。


「お前たちも、

 俺たちが帰ってくるまで

 この屋敷を頼むぞ。」


 後ろで見守っていた妖たちの方を向いて、

 男はそう言った。


 俯いていたいちは

 顔を上げた。


「……絶対、

 戻ってきてください。」


 小さな声だった。


 透子は思わず

 いちの手を取った。


「必ず帰ります!

 待っててください。」


 透子はぎゅっと

 手に力をこめた。


 いちの目には

 涙の膜が張っていた。 

 

 

 後ろで様子を見ていた妖たちが

 次々と、透子の部屋へ入ってくる。


「どうかご無事で。」


「必ず帰るのですよ!」


「屋敷のことは

 お任せくだされ!」


「透子様も

 ご無理はなさいますな。」


「透子様は、

 主様がいるから大丈夫だろう。」


 口々に声をかけられて、

 皆の優しさに

 胸がいっぱいになった。


「当たり前だ。

 透子は俺が守る。」


 さも当たり前のように

 言い切る男に、

 皆が吹き出した。


「はいはい。」


「それはもう分かっております。」


「透子様のこととなると、

 主様は相変わらずじゃのう。」 

 

 男はわけが分からず

 眉を寄せた。


「何の話だ。」


「おやおや。」


「やれやれ。」


「重症ですなぁ。」


 妖たちはくすくすと笑い合っていた。


 透子もつられて笑っていると、

 いちがそばまでやってきた。


「透子様。

 これ……」


 いちの掌には

 色鮮やかな糸で編まれた

 組紐があった。


「綺麗……」


「これは、お守りです。」


 いちはその組紐を

 透子の手首に結んだ。


「私の護りが込めてあります。

 絶対に、外しちゃだめですよ!」


 いちは今にも泣きそうな顔をしていた。


 透子はそっと

 手首を撫でた。


 いちの力がこもった組紐は、

 透子に見えていた。


「ありがとうございます。

 必ず、帰ります。」


 そう言って

 透子はいちに笑いかけた。


 いちはようやく

 少しだけ笑顔を見せた。

 

「さて、そろそろ行こうか。」


 ハクの一言で、

 皆の顔が引き締まった。


「そうだな。

 行こう。」


 男の一言で、

 皆も覚悟を決めたのだった。


 皆で庭先へ出た。


 男が柏手を打つ。


 黄泉の門が静かに姿を現した。


「では、

 行ってくる。」


「みんなも頼んだよ。」


「行ってきます。」


 屋敷の妖たち、

 そしていちは

 黄泉へと向かう三人を

 思い思いに見送る。


「行ってらっしゃい!」


「早く戻ってくるのですぞ!」


「屋敷はお任せあれ!」


「行ってらっしゃいませ!」


 皆が口々に別れの言葉を言う中、

 いちが涙を堪えて

 手を振った。


「行ってらっしゃい!

 必ず!

 必ず、帰って来てください!」


 透子はつられて

 瞳に涙を浮かべる。


 強く手を振り返した。


「必ず帰ります!」


 向かうは

 黄泉の奥。


 この先何が待ち受けているのか。


 何があろうとも、

 黄泉守の心を取り戻して、

 絶対に帰る。


 透子はそう誓って、

 門の中へ

 足を踏み出した。

 

 シャラン……


 胸元の呼魂鈴が

 小さく鳴った。


 透子の決意に答えるように。

 

 二話 見送り [完]

 


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