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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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13/30

二話 相談

ハクに連れられて、

 透子はハクの部屋に入った。


 向かい合って座る。


 いつもの診察が始まると思っていた。


「診察の日というのは嘘なんだ。」


 ハクの言葉に

 透子は目を丸くした。


「嘘?」


「ああ。

 今朝、君を見た時、

 なんだか思い詰めているような

 気がしてね。」


 見抜かれていたことに

 透子は驚いた。


「黄泉守様も、

 気づいておりました。」


「主には話さなかったの?」


 透子は胸元にそっと触れた。


「まずは、

 ハクさんに聞いて欲しかったのです。」


 透子は真剣な眼差しを

 ハクに向けた。


「何があったんだい?」


 ハクは静かに問いかけた。


「夢を見ました。

 ……雅さんと黄泉守様の

 過去について。」


 ハクはわずかに

 その細い目を見開いた。

 

 「雅さんの?」


 透子は静かに頷いた。


「はい。」


「……詳しく聞かせてくれるかい。」


 透子はゆっくりと目を閉じて、

 夢の中での出来事を

 思い出すように、

 話し始めた。


「夢の中で鈴が鳴って、

 白い糸を見たんです。

 その糸をたどると、

 雅さんがいたんです。」


 そして、

 透子は夢で見た、


 鈴の音。


 雅との会話。


 呼魂鈴の秘密。


 そして、


 黄泉守が失った心。


 全てを語った。


「……なるほど。」


 ハクは目を閉じて、

 深く息を吐いた。


「三百年も……

 なかなか、重いものを

 背負わされてしまったね。」


 透子は俯いた。

 しかしすぐに顔を上げた。


「私は、

 黄泉守様の心を助けたい!

 でも……

 何をどうすれば良いのか、

 分からないのです。」


 透子は胸元から木箱を取り出した。


 そっと指先で撫でる。


「雅さんが、

 黄泉守様がかつて想っておられた方が、

 私なら救えると、

 私をずっと待っていたと

 言ってくれました。」


「黄泉守様の心は

 いまだに泣いて、

 助けを呼んでいます。」


 透子はその情景を思い出して、

 胸がまた痛くなった。


 ハクはしばらく何も言わなかった。


 やがて。


「透子さん。」


 穏やかな声だった。


 透子は顔を上げる。


「俺はね。

 雅って子が少し羨ましかったんだ。」


 ハクは窓の外へ

 顔を向けた。


「主が、

 あの少女にだけ、

 見せる顔があったんだ。

 心を許していたんだろうね。」


 ハクは透子に視線を戻した。


「三百年前の主を知る者は

 もうここには、

 ほとんど残っていないんだ。」


 ハクは苦笑していた。


「そんな主を俺は知ってる。

 だから今、

 透子さんが主を大切に思ってくれていて、

 主も少しづつ変わって来ているのが嬉しいんだ……」


 このまま二人が

 恋人に……なんて

 軽く思っていた。

 それをはたで見守るのが

 俺の役目だと思っていた。


 だがどうやら

 そういうわけにもいかないらしい……


 笑みを薄めて、

 真剣な表情を浮かべたハクは、

 透子を見据えた。


「今の話。

 俺は信じるよ。」


「はい。」


「主は、

 本当に大切なものを失っている。」


「はい。

 ……でもどうすれば良いのでしょう。」


 不安げに透子の瞳が揺れる。


「それなんだけど。

 失われた心は、

 今もどこかに存在していると思うんだ。」


 透子は確信しているように言うハクに、

 すぐ聞き返した。


「それはどこに……?」


「確かな場所は分からない。

 だが、

 俺はその白い糸が気になる。

 昔、聞いたことがある。」


 透子は固唾を呑んだ。


「黄泉の奥深くに、

 縁の糸に関係する何かがあるって。」

 

「あの人の心も

 そこにあるのかも……」


 透子は胸元の木箱を

 強く握りしめた。


 ハクはしばし考えた後、

 正直に答えた。


「分からない。」


 ただ真っ直ぐに透子を

 見つめる。


 真剣な表情だった。


「でも、

 透子さんのは夢の中で、

 見たんだよね。

 主の心を。」


「はい。

 確かに、いました。」


 はっきりと答えた透子に

 ハクは頷く。


「ならきっと、

 主の失った心が

 消えたわけじゃないはずだ。」


 透子は息を呑んだ。


「探す価値はある。」


 やっと希望が見えてきた矢先。


 ハクは唸りながら頭をかいた。


「問題は、どこを探すか……」


「……黄泉守様は、

 きっと忘れていますよね。」


「うーん。

 そうだねぇ。

 主から縁の糸を切ったなんて、

 聞いたことがないし……


 雅さんの記憶と共に、

 縁の糸も同じように忘れていると思う。」


「そう、ですよね……」


 静寂が部屋を包む。

 二人は頭を悩ませた。 

 

「……蔵へ、行きませんか?」


「蔵に?」


「はい。

 雅さんのことも、

 蔵にありましたし。

 もしかしたら、何か

 分かるかもと……」

 

 考えてはみたものの、

 思いつくのは

 蔵だけだった。


「そうだね。

 手当たり次第、探してみよう!」


 ハクは膝を手で叩いて、

 勢い良く立ち上がった。


 透子も続いて立ち上がる。


「善は急げだ。

 行こう。」


「はい!」

 

 

 二人は部屋を出た。


 透子の足取りは軽くなっていた。


 確かに不安はある。


 でも、


 何もしないより、


 ずっと気分が良かった。


「透子さん。

 なんだか元気になったね。」


「そうですか?」


 前を歩くハクは

 振り返って、

 微笑んでいた。


「さっきまで

 この世の終わりみたいな

 すごい顔だったよ。」


 透子は苦笑した。


「ご心配をおかけしました。」


「いや、いいんだ。

 それだけ、主のことで

 真剣に悩んでくれたって

 分かるから。」


 ハクは立ち止まると、

 透子に向き直った。


「ありがとう。」


 心からの感謝の言葉に、

 透子は胸が熱くなった。


「その言葉は、

 もっと後に取っておいてください。

 まだ、助けられていませんから。」


 透子は力強く、

 そう言った。


「ははっ。

 それもそうだね。

 だけど、ありがとう。

 さっ、手がかりを見つけよう。」

 

 そう言ってハクは、

 蔵の方へ目を向けた。


 二人は並んで歩き出した。




 蔵の前までやってきた二人は、

 門の前で息をついた。


「……開けるよ。」


「はい。」


 ギィ……


 重く軋むその扉が

 開かれた。


「さて、

 今度はどんなものが出てくるかな。」


 透子は胸元の木箱をひと撫でして、

 蔵の中へ足を踏み入れた。


 雅さん。


 どうか、力を貸して……


 そう願いながら。

 

 二話 相談 [完]


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