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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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第三章 一話 少しの嘘


 目覚めた透子は、

 この先どうするべきか

 考えあぐねていた。


 黄泉守を助けたい。


 そうは思っても、

 さっき見た夢を

 誰にどう話すべきか、

 どうすれば

 黄泉守を救えるのか、

 分からなかった。


「黄泉守様に話す?

 でも……」


 記憶を失っている相手に

 雅の話をしても

 信じてくれるだろうか。


『あなたなら、きっと……』


 雅の声が

 脳裏によみがえる。


「……ハクさんに、

 話してみよう。」


 透子は思い立ったように、

 立ち上がった。


 黄泉守の忘れられた心が、

 今こうしている間にも、

 助けを呼んでいるはず。


 透子は急いで身支度を済ますと、

 部屋を出た。


 ハクの部屋へと急ぐ。


 しかし……


 一人では道が分からなかった。


「はぁ……」


 こんなんじゃ駄目だわ……


 透子は深くため息をついた。


「どうかしたか?」


 透子はドキリとして

 肩が揺れた。


 振り返れば

 そこには不思議そうに見つめる

 黄泉守が立っていた。

 

「黄泉守様……」


 夢の中で見たものが、

 頭から離れない。


 この人は

 忘れてしまっている。


 あの人との日々も。


 あの人への想いも。


 そして


 誰かを愛する心そのものを。


 金色の瞳が

 透子を見つめる。


 胸がちくりと痛んだ。


 透子はたまらず目を逸らす。


「どうした?

 顔色が悪いが……」


 男は透子の額に手を伸ばした。


「熱は、ないようだな。」


「……」


「透子……?」


 心配そうな声。


 透子は何も言えなかった。


 その優しさが、

 今は切なくて苦しい。


「……いえ。

 大丈夫です。」


 透子は微笑んでそう答えた。


 男はじっと透子の顔を

 覗き込んだ。


 どうやら納得していないらしい。


「嘘だな……」


「えっ?」


「お前は嘘が下手だな。」

 

 

 図星だった。


 透子は言葉に詰まる。


「なにがあった?」


 その声は穏やかだった。


 ただ心配している。


 話してしまいたい。


 でも。


「何かあったわけではないのですが……

 少し考え事をしていただけです。」


 まずはハクに相談してからだと、

 透子は少しの嘘を混ぜて

 誤魔化した。


 男はじっと透子を見つめる。


「そうか……」


 その顔は信じてはいなかったが、

 男は無理には聞かなかった。


 透子は少し申し訳ない気分になった。


 黄泉守のためとは言え、

 嘘をついたのだ。


「……すみません。」


 自然と口から出ていた。


「謝ることではない。

 ……話したくなったら、

 その時話せば良い。」


 責めるでもなく、

 優しくそう言う男に

 透子は下げていた視線を向けた。


 優しい人。


 どうしてこの人は、

 いつもこうなのだろうか。


 胸がまた痛んだ。 

 

 そんな透子の様子に、

 男は眉をひそめた。


「透子。

 朝餉がまだだろう。」


「えっ?

 はい。まだです。」


「やはりな。

 さっ、行くぞ。」


 男は手を取って

 透子を座敷へ連れていく。

 

 「あの。

 私、一人でも……」


「迷っていただろ。」


「……」


 反論できなかった。


「この屋敷は広い。

 迷っても仕方なかろう。」


 透子は少しだけ頬を膨らませる。

 まるで迷子の子供のように

 扱われて、

 面白くない。


「子供扱いしてませんか?」


「いや。」


 即答だった。


「……少しだけな。」


「しているではありませんか!」


 透子が抗議の声を上げると、

 男はわずかに口元を上げた。


 今───


 笑った……?


 透子は思わず足を止めそうになった。


 しかし次の瞬間、

 男はまたいつもの顔に戻っていた。


 気のせい、

 だったのかな……


「どうした?」


 男が振り返った。


「いえ……」


 透子はまた誤魔化すように

 微笑んだ。


 透子は繋がれた手を

 見つめた。


 何度も救われた。

 この手に。


 雅も

 この手に救われた。


 次は私が


 この手で


 あなたを救ってみせる。


 そう思いながら、

 男の後を歩いていった。

 

 

 

 座敷は朝から賑わっていた。


「おはようございます!

 主様! 透子様! 」


「おお!

 朝から仲がよろしいですなあ。」


「透子様!

 今呼びに行こうと思ってたんですよ!」


 いちたちが口々に話しかける。


「皆さん、おはようございます。」


 透子は、

 心がわずかに軽くなるのを感じた。


 しかしハクだけは、

 いつもと違う透子に気づいていた。


 朝餉を食べ終えた頃、

 ハクは透子に声をかけた。


「透子さん。

 今日は診察の日だけど、

 この後構わないかい?」


 透子は定期的に

 ハクの診察を受けていた。


「あれ?

 そうでしたか?」


「そうだよ。」


 ハクはいつものように

 穏やかに笑っていた。


「ではこの後、伺いますね。」


 しかしそれが今日だっただろうかと

 疑問に思った透子。


 でもちょうど良かった。

 その時夢の話を聞いてもらおう。


 男はハクと透子をチラリと見た。

 そして静かに茶を啜った。

 

「診察は今日だったか。」

 

「ああ。

 そうだよ。

 最近の透子さんの様子も知りたいしね。」

 

「そうか……」

 

 

 男はやはり納得はしていなかったが、

 それ以上追求はしなかった。

 

「透子。」


「はい。」


「無理はするな。」


 透子は一瞬目を丸くした。


「……はい。」


 透子は小さく返事した。


「主様。

 透子様のこととなると、

 過保護すぎますね。」


 いちは二人の顔を見比べると、

 若干呆れ気味に言った。


「過保護ではない。」


 男は即答した。


「そうだな。

 過保護じゃな。」


「うんうん。

 確かに。」


「だから、過保護ではないと

 言っているだろう。」


「おやおや。」


「そうなのですか?」


 妖たちはにやにやと笑っている。


 男はばつが悪くなり、

 すっと目を逸らした。


「図星だ!」


「図星ですな!」


 座敷が笑いに包まれた。


 透子もくすくすと

 一緒に笑っていた。


 そんな楽しげな様子を

 ハクはわずかに目を細めて

 眺めていた。

 

 透子さん。


 君はいったい


 何を見たんだい……?

 

 三章 一話 少しの嘘 [完]


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