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追放魔導師、オカンAI重機と温泉掘って快適スローライフ  作者: 伊達ジン


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第4話 対消滅砲で森を更地に。整地が1秒で終わる件

 極大の閃光が放たれた。

 反射的に目を固く閉じ、展開した何重もの魔力防壁に全神経を集中させる。

 だが、予想していた鼓膜を破るような轟音も、内臓を揺らす衝撃波も、いつまで経っても到達しなかった。

 ただ、肌の表面を微かな静電気が撫でていっただけだ。


 恐る恐る目を開け、岩陰から顔を出す。

 そして、眼前に広がる圧倒的な光景を前に、しばし言葉を失った。


 先ほどまで眼下に広がっていたのは、強酸性に汚染された赤茶けた大地と、大小無数に転がる風化した岩山の群れだったはずだ。

 それが今、見渡す限り平坦な大地へと変貌している。

 過剰な熱量による巨大なクレーターができているわけではない。岩盤が高熱で溶け、ガラス化しているわけでもない。ただ、起伏のあった荒野が巨大な定規で均したかのように真っ平らになり、一面に黒褐色のふかふかとした土が敷き詰められていた。


 立ち上がり、警戒を解かないまま斜面を下ってその土に触れる。

 指先から微弱な魔力を流し込み、深層部の成分まで丹念に読み取った。

 強酸性の毒素、有害な重金属、そしてデッドランド特有の淀んだ魔力異常。それらが一切合切、綺麗さっぱり消滅している。物質の分子結合レベルから強制的に分解され、不要な毒素を完全に相殺した上で、大地の基礎となるケイ素やカルシウム、マグネシウムといった無機ミネラルだけが、植物の生育に最適な比率で再構築され、地表に定着していた。


「……規格外だな」


 岩石や汚染された表土を、ただ熱量で吹き飛ばしたのではない。

 環境そのものを、極めて高度な演算のもとに初期化したのだ。それも、一瞬の閃光だけで。


『どう? 綺麗になったでしょ』


 背後から、滑らかな油圧の駆動音とともに巨体が斜面を降りてくる。

 振り返ると、砲塔を元の位置に格納した機体の横で、割烹着姿のアバターがふわりと空中に浮かび上がり、自信ありげに腕を組んでみせた。


「これが、千分の一の出力だと言うのか」

『ええ。これ以上出力を上げると、星の地殻そのものにダメージを与えちゃうからね。テラフォーミングの初期段階、表層のクリアリングとしては完璧な仕事だわ』


 この機体の前では、破壊という概念すら意味を成さない。もしこの力が誤った使われ方をすれば、世界地図の形そのものが一日で変わるだろう。

 だが、目の前の存在は、この神の如き力を「お掃除」と称してのけた。

 その事実が、恐怖よりも先に、技術者としての純粋な知的好奇心を強烈に刺激する。


「この機体は、ただの兵器ではないな」

『あら、汎用重機って最初から名乗ってるじゃない。まあ、自衛のための武装はそれなりに積んでるけど、本職は開拓と建築よ』


 破壊のための力ではなく、創造のための力。

 その事実を確認し、固くなっていた肩の力がふっと抜けた。

 ここには、予算をケチる無能な上官も、見栄ばかりを気にして無意味な装飾を要求する貴族もいない。あるのは、無限の可能性を秘めた白紙の大地と、究極の道具だけだ。


「……土台ができたなら、次は居住空間と水脈の確保だ。手伝ってもらうぞ、マチルダ」

『もちろんよ。でも、無理は禁物だからね。まずは設計図を見せなさい』


 足元の黒褐色の土をブーツで踏み固め、位置を定める。


「水脈はこの地下、約三十メートルの位置にある。そこへ向かって垂直の井戸を掘り、同時に汲み上げ用のポンプと浄水回路を設置する。居住区は水場から少し離したこの辺りだ」

『了解。掘削と基礎工事は私が担当するわ。あなたは細かい回路の構築に専念して』


 機体の前面下部から、二本の太いアタッチメントが展開される。

 先端から、青白いプラズマの刃が音もなく伸びた。

 プラズマ・トーチ。超高温の刃が、硬い岩盤を含む地面をまるで豆腐のように切り裂く。地層の硬度にぶつかっても速度は全く落ちない。「スゥー……」という静かな音とともに、正確な円筒形に土と岩が切り出される。


 切り出された岩石は、すぐさま機体内部のスリットへと吸い込まれて砕かれる。

 そして、別のノズルから射出される銀色の粉末――ナノバインダーと混合され、瞬時に硬化する。


「チリチリチリ……」という微かな結晶化の音が足元で鳴る。


 それは、ただの瓦礫が、王都の城壁を遥かに凌ぐ強度を持つ建材へと再成形される音だった。


 一切の無駄がなく、静かで、圧倒的に美しい作業風景。

 その洗練された工程に目を奪われそうになるのを振り払い、腰のロールケースから調整針と線径十分の一ミリのミスリル線を取り出す。


 三十メートル下から水を汲み上げるためには、ただ管を通すだけでは水圧が足りない。魔力による物理的な引き上げと、不純物を弾く浄化結界を並行して稼働させる必要がある。

 頭の中に描いた立体的な設計図に従い、三本のミスリル線を撚り合わせながら、目に見えない微細な結び目として浄化用の魔導式を精緻に編み込む。


「マチルダ、ポンプのケーシングの直径をあと三ミリ広げてくれ。魔力の還流に余裕を持たせたい」

『三ミリね、了解。……ちょっと、あなた手作業でそんな細かい回路を組んでるの? 顕微鏡も使わずに?』

「これくらいは手癖のようなものだ。王都の暗い地下水路に比べれば、明るくて広い分ずっとやりやすい」

『全く、機械相手にムキになっちゃって。そんな細かい作業ばかりしてたら視力が落ちるわよ。ほら、手元にライトを当てるから』


 機体の一部から柔らかな照明が照射され、ミスリル線の細かな反射がくっきりと浮かび上がる。過保護な口振りに微かに肩を竦めつつも、作業効率が上がったことは素直に認めるしかなかった。


 互いの作業ペースがピタリと噛み合う。

 プラズマトーチが岩を削る音と、ミスリル線を編む微かな摩擦音が、奇妙な和音のように響き渡った。


 二時間後。

 堅牢な石造りの井戸と、地下水脈から絶え間なく清水を汲み上げる魔導ポンプが完成した。

 蛇口となる真鍮色のバルブを捻ると、勢いよく透明な水が噴き出す。

 手に受けて口に含むと、僅かな冷たさと共に、雑味のない純粋な水の味がした。


「完璧だ。出力のロスも、水漏れも一切ない」

『私の加工精度と、あなたの回路設計の賜物ね。じゃあ、次はこの瓦礫を使って居住ユニットを建てるわよ』


 休む間もなく、次の作業へと移行する。

 先ほど切り出した岩石の残りを機体に取り込み、ナノマシンで加工していく。

 基礎となる石材が地面に敷き詰められ、その上に石粉と大気中から合成した特殊樹脂を混合したハイブリッド建材が、まるで生き物のように伸びて組み上がる。


 壁が立ち、柱が組まれ、屋根が覆い被さる。

 防音、断熱に優れたログハウス風の建物が、早送りの映像を見ているかのような速度で形を成す。

 砂から成分を抽出して合成したという、歪み一つない一枚の透明な窓ガラスがはめ込まれ、作業終了の短い電子音が響いた。


 出来上がったのは、無骨な開拓村の掘っ立て小屋などではない。シンプルでありながら洗練されたデザインの、どこか温かみを感じさせる立派な家だった。

 額の汗を拭いながら、その圧倒的な光景をただ無言で見上げる。


「お前の工作能力は、俺の想像を遥かに超えているな」

『ふふん、伊達にテラフォーミング用なんて名乗ってないわ。さあ、本日の作業はここまで。これ以上はあなたの筋繊維と視神経に負荷がかかりすぎるわ』


 機体の側面が開き、マニピュレーターが何かを差し出してくる。

 透明なグラスに入った、淡い琥珀色の液体。水滴が結露しており、よく冷えているのがわかる。


「これは?」

『地下水と、大気中から抽出・合成した微量栄養素をブレンドした果実水よ。疲労回復に効くわ。さっさと飲みなさい』


 受け取り、一気に喉へ流し込む。

 爽やかな酸味と仄かな甘みが、乾いた喉を潤し、熱を持った体に染み渡る。


 空になったグラスをマニピュレーターへと返し、短く息を吐いた。


「明日は、さらに水路を拡張する。家の裏手に水回りを集中させて、浴室も作りたい」

『あら、いいわね。お風呂は人間の精神衛生上、非常に重要よ。でもその前に、今日はしっかり食べて、しっかり寝ること! いいわね!』


「ああ、わかっている」


 短く返し、腰のツールポーチから抜き出した調整針についた汚れを、布切れで丁寧に拭き取り始める。


『ちょっと、早く寝なさいって言ってるでしょ!』という口うるさい小言が頭上から降ってきたが、手元の作業を止める気は起きなかった。

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