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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
るすと移動酒場準備編

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第76話 おっさん、車にカウンターを生やされる ――感情ノードを拾っただけなのに、補給車両がだんだん店になってきた件――

 感情ノードを回収して、ひと息つける――と思っていた。

 けれど《るすと》に帰ったら、今度は旅の車両が店になり始めた。

 中身42歳おっさん、補給回のはずなのに、なぜか移動酒場のマスターにされます。

 《るすと》の扉が開いた瞬間、鼻をついたのは、懐かしい暴力と強い食べ物や飲み物の匂いだった。


 酒。(あぶ)り肉。甘い煙。木の壁に染みついた油の(にお)い。

 その全部の奥に、いつもの鉄っぽい生臭さまで混ざっている。


「……ただいま!ようやく戻ってこれた」


 思わず漏れた本音に、カウンターの向こうでイツキが鼻で笑った。


「何その顔。オッサン、実家帰省した時に寄ってくる犬みたいじゃん」


「実家が酒と血の匂いするの、嫌すぎるだろ……」


「でも顔はゆるんでるよ~?」


 それを聞いた横のミツキが柔らかく笑う。

 その横を、ステラがぱたぱたと走り抜けた。


「ぱーぱ! ここ、すき!」


「おまえ、現金なやつだな」


「本店の空気は、情動安定値が高いだけです」


「おまえはおまえで、もうちょいリラックスしろ」


 ルースがいつもの平坦な声で言う。

 だが、その言い方のわりに、こいつもさっきまでより明らかに処理落ちが減っていた。


 やっぱりここは、帰ってくる場所なんだろう。

 旅用の車両はあっても、《るすと》は《るすと》だ。


挿絵(By みてみん)


 その時、奥からギルマスがひょいと顔を出した。


「ようこそ帰還した冒険者たちよ! 感動の再会のところ悪いが、その前に軽い補給クエストがある!」


「帰還一発目で感動を踏みつぶすなよ」


「軽いぞ? 本当に軽い。今回は死なん」


「その前置きがある時点で信用できねえんだよな……」


 ギルマスがクエスト札をひらりと振る。HUDにも同時に文字が浮かぶ。


《簡易補給クエスト》

《帰還車両から“使える物”を五点回収せよ》

《報酬:150ZC.+補給ポイント》

《備考:地味だが後で効く》


 俺は思わず札を二度見した。


「……うわ。地味」


「でしょ?」とイツキが頷く。「でもこういうの拾えるやつが生き残るんだよ」


「完全に序盤の倉庫漁りサブクエじゃねぇか……倉庫番を思い出すな――」


 カケルが肩を揺らして笑う。


「好きだろ、こういうの」


「好きだけど悔しい!」


 ハイ!とナツが元気よく手を挙げた。


「もち行くッス! こういう地味クエ、だいたい後半で“取っといてよかったー!”ってなるやつッス!」


「うわ、分かってるリアクションやめろ。刺さる」


 タニシまで胸を張る。


「拙者もこういう“見た目ハズレだが内部的には当たりイベント”は得意でござる!」


「お前の場合、倉庫の隅で変な本探し始めそうだから信用できん」


「アニキ、偏見よくないでゴザル!」


 とはいえ、始まれば早かった。

 《ルステラ・キャリア》の荷台や収納から、使えそうな物を引っ張り出していく。


 折り畳み式の金属板。

 まだ冷気の残る保冷魔導片。

 壊れたテーブル脚。

 小型フック。

 飲料箱に転用できそうな木箱。


 拾う物がいちいち地味だ。地味すぎる。

 でも、こういうイベントで取ったアイテムが、後で拠点強化や隠し要素に化けるのを、俺はゲームで何度も見てきた。


「くっそ……分かる。分かるから悔しい……」


「何一人で負けてるんですか、先輩」


「ゲームおじさんの古傷が開いてるんだよ……!」


 五点目の木箱をカケルへ渡した、その時だった。


「……ん?」


 カケルが車両の側面パネルを覗き込み、眉を上げた。


「どうした?」


「いや、足回りじゃねえ。中なんだがな――」


「中?」


 ルースがすぐに車両へ手を触れ、半透明のログを展開する。

 ステラも、とことこと寄ってきて、壁にぺたっと手を当てた。


「くるま、もっとひろがれる!」


「……は?」


 次の瞬間、《ルステラ・キャリア》の内壁に淡い光が走った。


《酒場拡張権限:一部解放》

《感情ノード由来の器拡張を確認》

《推奨設備:冷蔵区画/簡易カウンター/折畳卓/飲料保存》


 全員が、一拍遅れて固まる。


「なんでだよ!?」


 真っ先に口を開いたのは俺だった。


「なんで戦闘強化じゃなくて先に冷蔵庫なんだよ!」


NODE02(感情)の特性上、妥当です」


 ルースが真顔で答える。


「記録と補助のNODE01に対し、感情安定・交流・居場所づくり寄りの拡張が優先されました」


「説明がちゃんとしてるのが逆に腹立つわぁ!」


 ステラは嬉しそうに両手を上げた。


「おみせ、いる!」

「ぱーぱと、お店やるの!」


「いるッス!」とナツまで乗る。


「いるでござる!」とタニシも乗る。


「お前は黙れオタク」とイツキ。


 そこから始まったのは、補給会議という名の、ほぼ移動酒場会議だった。


「冷蔵庫は要るだろ?」とカケル。

「折り畳みテーブルも要りますよ」とミツキ。

ぱーぱの立つとこ(カウンター)いる!」とステラ。

「陰キャ壁際席が必要でござる!」とタニシ。

「は?死ね。いらない」とイツキ。

「即答!?」


「子供たちが休めるベンチは欲しいです」とミツキ。

「立ち飲みにすればもっと詰められるッス!」とナツ。

「人を詰め込む場所じゃないです……」とミツキ。

「飲料保存棚は最低でも二列。俺用のマイボトルにBETするぜ」とカケル。


「ぱーぱ、ここ!」とステラが車内の一角を指差す。

「そこは作業導線が悪いです」とルース。

「でも、ここ!」

「なんで俺の立ち位置だけもう決まってんだよ」


 笑いが起きる。

 けれど、その笑いの中で、イツキだけが腕を組んだ。


「で、受付とかどうすんの」


「あ」


 場が少し止まる。


 本店を完全に空にするわけにはいかない。だが、試験運用の移動酒場に受付視点が要るのも事実だった。


 しばらく考えた末、イツキが短く息を吐く。


「……短期だけ。試験運用の間だけなら、あたしも行く」


「お姉ちゃん?」


「数字見るやつがいないと、どうせ全員ノリで赤字にするでしょ」


「否定できない……」


 ミツキも小さく頷いた。


「じゃあ、私も行きます。ちゃんと休める場所になるか、見たいです」


 その言葉に、車内の空気が少しだけ変わった。

 旅の車両が、ただの移動手段じゃなくなる。そういう感じが、確かにあった。


―――――


 改装は、その日のうちに始まった。


 車内壁面が低い唸りとともに展開し、収納部がずれる。

 金属板がはまり、簡易カウンターがせり出す。

 保冷魔導片を組み込んだ区画が青く灯る。

 木箱は棚へ、テーブル脚は支柱へ、フックは吊り具へ変わっていった。


 旅の補給車両だったはずの内部に、少しずつ《るすと》の縮小版みたいな骨組みが生まれていく。


「……反則だろ、これ」


 思わず呟くと、カケルがにやりとした。


「いいだろ。旅する酒場だ」


 俺は、組み上がり始めたカウンターの内側へ立ってみた。

 本店のそれよりずっと狭い。ぎしぎしするし、まだ木の匂いも新しい。

 でも、妙にしっくりきた。


「ぱーぱ! そこ!」


「だから何なんだよ、その確信は……」


 笑い声が起きる。

 その笑いの中で、ふと、イツキだけが眉を寄せた。


「……ねぇ」


「ん?」


「今日、監視ログ、薄くない?」


 空気が一瞬だけ止まる。


 ルースは少し遅れて答えた。


「見つかっていない、ではありません」


「じゃあ?」


「観測の、優先度を落としています」


「誰が?」と俺。


 ルースは、自分と隣のステラを見た。


「……わたしたちが」


 ステラは少し眠そうな顔で、俺の袖をきゅっと掴んだ。


「みんな、こっち見ないようにしてるのー!」


 かわいい言い方のくせに、内容が全然かわいくない。


「それ、済む話か?」


「済まないやつだね」とイツキ。「遠隔からの観測が滑ってる。帳簿にも妙な空白がある」


 ルースが静かに補足する。


「遠隔観測なら、誤認させられます。補給車両、低優先拠点、一般休憩所。そういう“どうでもいいもの”に見せられる」


「でも、近くに来たら?」とミツキ。


 ルースは少しだけ黙った。


「……現地確認へ移行します」


「うわ、来ない方じゃなくて来る方の言い方だな、それ」


 俺がぼやくと、ステラがさらに強く袖を握った。


「ぱーぱ、いっしょ」


「はい、来ています」とルース。


 夜の《るすと》は賑やかなはずなのに、その時だけ少し静けさを感じた。

 ここには――笑い声も、皿の音も、煙の匂いも、全部ある。

 あるのに、その向こうで、何か別の視線がこちらを見失っている気配だけがあった。


 俺は、旅の準備をしていただけだ。

 なぜかだが――移動店舗を作って、居場所をひとつ持ち歩けるようにしたかっただけだ。


 なのに今度は――見に来る側が動き出しているらしい。


 マジに、ろくでもない予感しかしなかった。おおこわ。


挿絵(By みてみん)


【今回の登場キャラクター】


◆マスター

四十二歳のおっさん主人公。帰ってきた《るすと》の匂いに、思った以上に安心してしまう。旅の補給車両が“店”になる流れに、ツッコミつつも少し嬉しい。


◆ルース

解析・記録担当。今回、酒場拡張権限の理屈を最初に読み解いた。さらに、遠隔観測の優先度を落とす側の処理も担当している。


◆ステラ

感情共鳴・保護寄り。NODE02回収後の影響で、“人を居させる場所”への反応が強い。今回も子供らしく、素直に「ここが好き」「ここがいる」と言える側。


◆イツキ

帳簿・数字・ログ異常担当。移動酒場の赤字化を最も警戒しているが、監視ログの薄さにも最初に気づいた。


◆ミツキ

接客・居心地・共感側。移動酒場を“休める場所”にしたい意志が強く、短期出張同行にも前向き。


◆カケル・テンドー

整備・改造担当。《ルステラ・キャリア》の内部拡張に真っ先に気づき、ほぼノリノリで改装を始めた。


【今回の話の解説】


今回は、NODE02〈感情〉回収後の副次効果として、《ルステラ・キャリア》に酒場拡張権限が解放される回でした。


 本店るすとはあくまで本店のまま残しつつ、旅先ではキャリアを“出張支店”として育てていく方針です。


 戦うだけじゃなく、飲む・休む・話すための器が増えることで、第2期の旅編にも“酒場らしさ”を戻していきます。


【ゲーマーおっさん解説!】


 今回の「帰還ついでの地味な補給クエ」は、昔ながらの倉庫整理・荷物移動パズルをちょっと意識しています。たとえば『倉庫番』は、公式サイトでも「倉庫の中の荷物を格納場所まで運ぶ」パズルとして案内されていて、権利表記では1982年から続く作品として扱われています。


 シンプルなのに、“押したら戻せない”“置く順番を間違えると詰む”みたいな地味な判断がめちゃくちゃ大事なんですよね。


 派手なボス戦より、こういう整理系の地味クエが後で効くの、ゲーム好きにはたまらないやつです。

(※出典:https://www.sokoban.jp/rule.html)


【主人公の現在のステータス】


識別名:NO NAME

等級:白磁はくじ

LV:測定保留

状態:疲労(中)/観測継続中

備考:《ルステラ・キャリア》酒場拡張権限 一部解放


【所持アイテム・装備】

・基本装備一式

・補給用雑貨

・保冷魔導片

・折り畳み金属板

・木箱

・小型フック

・壊れたテーブル脚

※一部は移動酒場改装素材へ転用


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