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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
感情ノード編

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第75話 感情ノード編07 おっさん、泣いたあとの面倒まで見ることになる ――返しただけじゃ終わらない。残ったやつを抱えて進むんだ――

 感情ノードを回収した。

 でも、泣けるようになったから終わり、なんて都合のいい話じゃない。

 返ってきた感情のぶんだけ、これから面倒も増える。

 地下倉庫の空気は、少しだけ軽くなっていた。


 泣き声が、ちゃんと泣き声になっている。

 さっきまで音もなく崩れていた子供たちが、今は肩を震わせ、鼻をすすり、顔をぐしゃぐしゃにしていた。


「……すごいッスね」


 ナツが小さく呟く。


「何がだよ」


「泣くのって、うるさいッス」


 そう言った自分も、少し目が赤い。

 ノエルは子供を背に庇ったまま、へたり込んでいた。


「安心すると、逆に力が抜けるんですね……」


「それは普通だ」


 俺が言うと、ノエルは情けない顔で笑った。


 その横で、ステラが一人ずつ子供の前にしゃがみ込んでいた。

 胸元に溶けたNODE02の光が、まだ淡く残っている。


「だいじょうぶ」


 小さな声だった。

 でも、不思議とその声を聞いた子から呼吸が整っていく。泣き方が少しだけ落ち着く。暴れるみたいに流れていた感情が、ちゃんと“その子の中”に戻っていく。


 ルースがそれを見て、ぽつりと言う。


「共鳴安定化。出力精度、上昇」


「簡単に言え」


「ステラが、泣きすぎる感情をなだめている」


 ステラは振り向かないまま、むっとした。


「なだめるっていうか、いっしょにいるだけ」


「ほぼ同義」


「ちがう」


 いつものやり取りだ。

 けれど、今の「ちがう」は昨日までより少し柔らかかった。


挿絵(By みてみん)


―――


 壁際で、セキが立ち尽くしていた。


 泣いている子供たちを見ても、顔が動かない。いや、動かし方を忘れている顔だった。

 俺は新しく開いたHUDを半分だけ睨む。


《感情感知:微弱起動》

《対象感情の歪みを検知可能》


 意識すると、セキの輪郭の奥が見えた。

 空っぽじゃない。乾ききってもいない。押し潰した grief が、底の方でまだ熱を持っている。


「……お前、泣き方忘れてるだけだろ」


 俺が言うと、セキの喉が小さく動いた。


「忘れた方が、楽だった」


「楽になれてない顔してるぞ」


 返事はない。

 代わりに、近くで子供の一人がしゃくり上げた。セキはその音に、びくりと肩を揺らした。


「どうすればいい」


 初めて、セキが俺に聞いた。


 俺は少しだけ考えてから、肩をすくめた。


「知らん。俺も上手くない」


「おい」


「でも、出てきたもん(感情)をまた押し込むな。今はそれでいい」


 セキはしばらく黙っていた。

 それから、ぎこちなく子供たちの方へ歩いていく。


 抱き上げるでも、なぐさめるでもない。

 ただ、泣いている子の隣に座った。


 それだけだった。

 でも、その子は少しして、セキの袖をつかんだ。


 セキは何も言わず、視線だけを落とした。

 その横顔から、ツーと、一筋だけ涙が落ちた―。


「……あー」


 ナツが小さく笑う。


「ハハ、ちゃんと、泣けるじゃないッスか」


―――


 倉庫の出口で、ガロが立ち止まった。


 手にしていたのは、小さな木札だった。傷だらけで、紐も擦り切れている。子供用の首札みたいな、安い護符みたいな、そんな半端な品だ。


 ガロはそれを、空になった棚の上へ静かに置いた。


 俺はまた、勝手に《感情感知》が触れるのを感じた。

 乾いた荒野。小さな手。連れていかれた背中。追いつけなかった足音。

 全部一瞬で消える。


「……勝手に見るな」


 ガロが言った。振り向きもせずに。


「見えたのかよ」


「顔に出とる」


 そう言ってから、ガロは小さく鼻を鳴らした。


「それでよい。忘れんためのもんじゃ」


「その子のか」


「儂のじゃない」


 短い答えだった。

 でも、それ以上聞くのは野暮だと分かった。


「また来るんだろ」


「来る。今度は、遅れんようにな」


 それだけ言って、ガロは先に階段を上がっていった。


―――


 地上へ戻ると、夕方の砂漠は冷え始めていた。


 《ルステラ・キャリア》の横で、カケルが機関部を開けて覗き込んでいる。――もちろんいつも通り、酔っぱらってはいるが。


「おいおいおい、きたきたきた、来たぞこれ……!ウイッ」


「何がだよ」


「ノード連動だよ、パーパ殿」


 パーパ殿はやめろ。

 カケルは興奮した顔で車体を叩いた。


「感情ノード側の航行断片、キャリアに噛んだ。荒地対応が一段上がる。砂流の予測、短距離加速、揺れの吸収……来たな、第二段階」


 車体の下で、薄い光が走る。

 補助輪みたいに格納されていた機構が少しせり出し、砂を噛む形に変わった。


 ナツが目を輝かせる。


「ってことは、揺れマシになるッスか!?」


「なる。たぶん」


「たぶんかよ!」


 タニシが半泣きで叫ぶ。


 ルースが端末代わりの板を見ながら報告した。


「燃費微増。砂地走破性向上。振動吸収、改善。内部環境の情動ノイズも低下」


「最後だけ分からん」


「車内で感情暴走しにくくなる」


「それは大事ッス」


 ナツが真顔で頷いた。

 確かに大事だ。特に子供二人がいる今は。


 ステラはキャリアの外壁に手を当てて、嬉しそうに目を細める。


「……ちょっと、やさしくなった」


 機械に対する感想としてはだいぶ曖昧だが、たぶん本当なんだろう。

 感情ノードの影響は、ステラ側に濃く出ている。


 ルースは逆に、少しだけ黙る時間が増えた。

 解析は速いままだ。だが、その合間に“考えていない沈黙”が混ざるようになっている。


「……ルース?」


「問題ない」


「今の間は何だよ」


「保留だ」


 即答のようで、少し遅い。

 ステラがにやっと笑った。


「ルース、前よりちょっとだけ人っぽい」


「不本意」


「でも、ちょっとだけうれしいでしょ」


「……保留」


 今度は全員が笑った。


―――


 夜。キャリアの中で、ルースが残滓ログをまとめていた。


「次座標、抽出完了」


「早いな」


「アスモデウス系分体の蓄積ログに、上位管理の補正履歴が混ざっていた。倫理補正コード。行き先は一つ」


 ルースが表示した簡易図に、白い都市圏が浮かぶ。


「NODE03〈倫理〉」


 カナエが嫌そうな顔をした。


「うわ。いちばん面倒な匂いがする」


「倫理って、もっとこう、平和な響きじゃないのかよ……」


「神権側の“倫理”ッスよ?」


 ナツの一言で、だいたい察した。


 ステラが毛布にくるまりながら、眠そうに言う。


「つぎ、やな感じ」


「それは全員思ってる」


 俺は背もたれに頭を預けた。

 感情ノードは回収した。子供たちは少し戻った。キャリアは強くなった。ステラも、ルースも、前より確実に変わった。


 でも、終わった感じはしない。

 むしろ、ここからだ。


 薄いHUDが視界の隅で点る。


《取得スキル》

《感情感知》

《依存切断》


 レベルは上がらない。

 なのに、抱えるものだけは増えていく。


「……ほんと、そういう成長の仕方かよ」


 ぼやくと、車体のどこかで小さく機関音が鳴った。


 《ルステラ・キャリア》は、前より少しだけ静かに揺れていた。


 次は、NODE03 倫理を取りに行く。


 続く。


挿絵(By みてみん)

■ゲーマーおっさん解説!


ボスや難所を越えたあとに、ちゃんと世界が広がるゲームは満足感が強いですよね。『ドラゴンクエスト』で新しい町へ行けるようになる時もそうだし、『ゼルダ』で拠点や移動手段が増える時もそう。勝った結果が数字だけで終わらず、行ける場所、守れる範囲、できることに返ってくると「前に進んだ感」が出るんです。成長RPGのご褒美って、経験値そのものより、その後の生活が変わるところにある気がします。


■今回の登場人物


◆マスター

《感情感知》を初めて実戦外で使い、セキとガロの奥にあるものへ少しだけ触れました。レベルは上がらないのに、背負うものだけ増えていくタイプの成長です。


◆ステラ

NODE02の影響で、共感と安定化が一段強まりました。感情を“受ける”だけでなく、“寄り添って戻す”側へ寄っています。感情ノードはステラ優位の成長テーマです。


◆ルース

解析能力そのものは維持しつつ、初めて“保留”が増えた回です。感情を否定しきれなくなった揺らぎが、次の倫理ノードへの伏線になります。


◆セキ

「感情を切れば楽になる」側の決着回。全部は戻っていませんが、泣くことを完全には拒否しなくなりました。


◆ガロ

何かを置いていった男。語らないぶんだけ、持っている過去が重いです。75話時点では、まだ核心の手前に留めています。


◆ノエル

普通に怖がり、普通に安心する側。こういう“普通”がいることで、世界の異常さがちゃんと戻ってきます。


◆カケル

キャリア強化担当。ノード回収によって乗り物が段階解放されていく構造を、今回ようやく実感として見せられました。


■今回の話のポイント

今回は感情ノード編の余韻回として、


・セキへの決着

・ガロが置いていくもの

・《感情感知》の初使用

・ステラ優位の成長反映

・ルースの小さな変化

・《ルステラ・キャリア》の第二段階に近い荒地対応強化

・次ノード〈倫理〉への導線


をまとめて動かしています。75話の役割として想定されていた「後始末・ガロ・感情感知・次ノード導線」はここで回収しています。


■主人公の現在ステータス(簡易)

名前:NO NAME(通称:マスター)

状態:生存

等級:白磁相当

新規スキル:

・《感情感知》

・《依存切断》

主な変化:NODE02〈感情〉回収完了/神権管理下の下位分体・ロストチルドレンへの解放適性を獲得。


■ルース&ステラの現在変化(簡易)

ルース:解析・制御はそのまま、感情への“保留”が発生

ステラ:共感・安定化・保護寄り能力が強化

※感情ノードはステラ優位の成長回です。


■ルステラ・キャリアの現在変化(簡易)

Node01時点の燃費・速度・ステルスに加え、

Node02回収により

・砂地走破性向上

・短距離加速補助

・振動吸収改善

・車内の情動ノイズ低減

が追加されました。今後もノードを回収するたびにルステラ・キャリアは強化されていきます。


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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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