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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。  作者: 勇者ヨシ君
感情ノード編

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第71話 感情ノード編03 おっさん、廃村で女性と出会う

 廃村に、夜になると煙が出る。

 セキがそう言っていた。近づかない方がいい、という者もいると。

 だから俺たちは昼間に入ることにした。

 キャリアをセキに聞いた廃村の手前で止めた。


 カケルが「入るなら徒歩だ」と言った。「音が(ひび)く」


 砂漠の廃村に、エンジン音は似合わない。それ以上の理由があるような気もしたが、カケルが言うなら間違いないだろう。


 タニシが窓の外を見て(つぶや)いた。


「徒歩でゴザルか……拙者は車の中で待機してたいであります!」


「昨日、黙れたんだから歩けるっす」


 ナツが(すず)しい顔で言う。


「それとこれとは別でゴザル」


 ぶつぶつ言いながら、タニシは降りた。



   ―――  ―――



 村に入ると、最初に気づいたのは風だった。


 砂漠の風は、普通は通り()けるだけだ。何も引っかからず、何も留まらず、ただ砂を運んで消える。


 ここは違った。


 村の中心あたりで、風が少し止まる。何かに当たって、戸惑(とまど)っているみたいに。


「……ここ、誰かがいた」


 ミコが(つぶや)いた。


「いた、か?」


「今も、いる」


 俺は村の中を見回した。


 崩れかけた石の壁。砂に()もれた(とびら)の枠。かつて窓だったらしい(あな)。人が住んでいた痕跡(こんせき)だけが残って、人がいない。


 ただ一つだけ、普通と違うものがあった。


 白い砂だ。


 村の中に、点々と()らばっている。砂漠の砂より色が(うす)く、(つぶ)が細かい。指でつまむと、(わず)かに温かかった。


「……これ、()けてる」


「燃えた砂か?」


 ルースが(しず)かに言った。


「NODE02の残滓(ざんし)反応。この砂、感情の(おり)が燃えた後に近い」


 感情の澱。


 その言葉が、妙に引っかかった。


 ノエルが前を歩きながら「じゃあここで何かが——」と言いかけて、足を止めた。


 地面を見ていた。


 (かが)んで見ると、小さな(くつ)の跡があった。子供のサイズだ。しかも一人分じゃない。何人分かの足跡が、同じ方向に向いて(なら)んでいた。


「……子供が、いたんですね」


 ノエルの声が、少しだけ(ひく)くなった。


「ああ」


 足跡を追った。村の中心に向かっている。



   ―――  ―――



 井戸があった。


 石()みの、古い井戸だ。(ふち)()()って、長く使われてきたのが分かる。


 その縁に、女が座っていた。


挿絵(By みてみん)


 若い。二十代の前半くらいだろうか。砂除けの布を頭から(かぶ)って、こちらを見ている。逃げない。警戒もしない。(おだ)やかに、ただ穏やかに、笑っていた。


「旅人さん? 珍しい」


 声が甘かった。表情がよく動く。感情が豊かで、キャラバンの人間たちとは別の生き物みたいだった。


「ここに住んでいるのか」


「住んでいるというか——いる、という感じかな」


「一人か」


「今は」


 含みのある言い方だった。


 ステラがずっと女を見ていた。ルースが「ステラ?」と呼んでも、すぐには返事しなかった。


 それからゆっくりと、(ささや)くように言った。


「……このひと、すごい」


「何が」


「感情が、いっぱいある」


   ―――  ―――


 女は自分から話し始めた。


 アモという名前だった。


 泣きたい人間がいれば、(かたわ)らに立ってやる。怒りたい人間がいれば、同じようにする。感情を出せない場所で生きてきた人間たちに、感情の居場所(いばしょ)を教えてやる。それが自分の仕事だと言った。


「助けているんだ」


 嘘ではなかった。


 本気でそう思っている声だった。


「代わりに何かもらうのか」


 アモが少し考えた。


「もらっていないと思う」


「思う、か」


「気づいていないだけかもしれない。でも、あげたくてあげているから」


 そのズレが、(みょう)()っかかった。


 ルースがそのやり取りを聞きながら、静かに(なに)かを演算(えんざん)していた。途中で、何かに気づいた顔をした。


 でも、その場では何も言わなかった。


 ステラはずっとアモの顔を見ていた。



   ―――  ―――



「ここに子供が来ることがあるか」


 アモの表情が、(かす)かに変わった。


「……来ることがある」


「どこから来る」


「砂漠の、いろんな場所から。感情を持っているのに、出せない子たちが」


「今も、どこかにいるか」


 アモが少し考えた。


「夜になれば、分かる」


 それだけ言って、井戸の縁に腰を下ろした。話が終わった、という仕草(しぐさ)だった。


 キャリアに戻ろうとした。全員がついてくる。


 ステラだけが少し遅れた。


 振り返ってアモを見た。アモが小さく手を振った。


「またくるねー!」


 ステラが言った。アモが「うん」と答えた。


 俺は何も言わなかった。


 ステラが俺の隣に並んだ。その顔を横目で見て、小さな手で俺の手を握った。


 いつもの顔だ。でも、何かが少し違う気がした。



   ―――  ―――



 キャリアの中。


「ビーコンを飛ばすぞ」


 ルースが「黄塵圏(こうじんけん)外縁まで届くか不明。試みます」と言って作業を始めた。


 雑音(ざつおん)だらけの通信が開いた。


 向こうから、イツキの声が()じって聞こえてくる。


「(ザ――というノイズ)……聞こえてる。何があった」


「子供がいる。ここに来ている。引き取れる準備をしてくれ」


「(ノイズ混じり)人数は」


「まだ分からない。でも、一人じゃない」


 そこで、通信が途切(とぎ)れた。


 ルースが「送信を確認。最後、確実に受信されたかは不明」と言う。


「届いた、とおもうー」


 ステラが(つぶや)いた。


「根拠は」


「……なんとなく」


 それで十分だと思った。



   ―――  ―――



 同じ頃、(とお)く離れた場所で。


 イツキがビーコンの受信記録を台帳に転記(てんき)した。


「ギルマスに上げる」


 立ち上がりながら言う。ミツキが「はい」と頷いた。


 ギルマスが地図を広げた。黄塵圏(こうじんけん)の方角を指が辿(たど)る。


「……子供、か」


 長い沈黙があった。


 (すみ)の席に、ガロがいた。


 酒に口をつけたまま、動かなかった。地図を見ていた。いや、地図の向こうを見ていた。


「……行く」


 誰に言うでもなく、立ち上がった。


「一人でか」とギルマスが聞く。


「誰か行けるなら連れていく」


「理由は」


 ガロが少し間を置いた。


「……(むかし)のことだ」


 それだけだった。


 ギルマスが何も聞かなかった。


 イツキがミツキと目を合わせた。ミツキが小さく頷く。


「キャリアを回せるか確認してみます」


 イツキが台帳を閉じた。


挿絵(By みてみん)


   ―――  ―――



【Z.E.U.S 観測(かんそく)ログ】

記録時刻:——

観測(かんそく)対象:群体(ぐんたい)ID 0044


記録:

主対象(しゅたいしょう)、引き続き追跡(ついせき)不能。

別観測網(べつかんそくもう)より感情(かんじょう)波形(はけい)の急上昇を検出(けんしゅつ)

・NODE02〈感情(かんじょう)〉との共鳴反応(きょうめいはんのう)上昇傾向(じょうしょうけいこう)

感情流通(かんじょうりゅうつう)異常(いじょう)別系統(べつけいとう)確認(かくにん)発生源(はっせいげん)特定(とくてい)作業中(さぎょうちゅう)


所見(しょけん)

 観測(かんそく)空白(くうはく)の中で、NODE02が(うご)いている。

 主対象(しゅたいしょう)との接触(せっしょく)が、()(がね)になった可能性(かのうせい)あり。

 ——注視(ちゅうし)する。


   つづく



■ゲーマーおっさん解説!


ゲームでいちばん性格が出るのって、派手な必殺技より「どっちを捨てるか」みたいな嫌な二択だと思うんですよね。『タクティクスオウガ』みたいな選択の重い作品もそうですし、『女神転生』みたいに合理で切るか情で拾うかを迫られる作品も印象深い。勝つために切るのか、負けるかもしれなくても拾うのか。その選び方に、プレイヤー本人が出る。ゲームって、結局そこが一番怖いし面白いんですよね。


『登場人物紹介』


・マスター

 廃村に踏み込んで、アモと話した。足跡が子供のものだと気づいた。「それで十分だ」と思えるようになってきている男。少しずつ、この旅に慣れてきている。


・アモ

 今話の新登場。井戸の縁に座っていた。感情が豊かで、表情がよく動く。キャラバンとは別の生き物みたいだった。「もらっていないと思う」という言い方に、本人が気づいていないズレがある。


・ステラ

 アモに初めて会った瞬間から釘付けだった。「感情がいっぱいある」という言葉が今話の核心でもある。「またくる」と勝手に約束して去った。いつもの顔だが、何かが違う気がした。


・ルース

 アモのやり取りを聞きながら何かに気づいた。でも言わなかった。この「言わなかった」が後で効いてくる。


・ノエル

 足跡を見つけた。「じゃあここで何かが——」と言いかけて止まった。止まれたのは成長かもしれない。


・ミコ

 「今も、いる」と感知した。それだけで十分だった。


・タニシ

 「徒歩でゴザルか」と言いながら降りた。そういうキャラだ。


・ガロ

 るすとで「行く」と立った。「昔のことだ」しか言わなかった。でも全員が察した。


・ギルマス・イツキ・ミツキ

 るすと側でビーコンを受け取り、動き始めた。


【今回の解説】

 感情ノード編03は、アモとの初接触回です。


 アモは「助けている」と本気で思っている。でもルースは何かに気づいて言わなかった。この非対称が次話以降の核になります。


 ステラがアモに強く引き寄せられた理由は「感情がいっぱいある」から。でも実態はアスモデウスのコードと残滓(ざんし)だけ——その落差が、後のステラへのショックの布石(ふせき)になっています。


 ガロが動きました。「昔のことだ」の一言だけ。ロストチルドレンとの関係は、まだ言わない。


【主人公の現在のステータス】


名前  :NO NAMEマスター

等級  :白磁(非戦闘登録)

状態  :調査中・腰痛(慢性)

現在地 :黄塵圏(こうじんけん)廃村・周辺(しゅうへん)

同行者 :ルース・ステラ・カケル・ナツ・ノエル・シズク・タニシ・ミコ

次の予定:夜の廃村・子供たちとの接触

備考  :ビーコン送信済み・ガロ移動開始


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女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
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