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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。  作者: 勇者ヨシ君
ムーニャン&コハク修行編

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幕間 修行編03「ムーニャン、答えを出す(山ごと消えた)」

猫耳族の秘拳、氷牙拳(ひょうがけん)

答えが出た瞬間、山が動いた。

……順番が、少しおかしかった。


 修行三日目の朝も、夜明けより早かった。


 コハクはすでに道場の前に立っていた。

 目を閉じている。静かに息を整えている。


 拳を握った。

 体の内側が、すうっと冷えた。


「……出たでゴザる」


 小さく、確認するように呟いた。

 三日目にして、氷気(ひょうき)呼吸(こきゅう)が安定した。


 その横で、ムーニャンが拳を握っては離していた。

 握る。冷やそうとする。感情が先に出る。離す。

 また握る。


「……出ないにゃ」


 誰にも聞こえない声で呟いた。


 ライガが道場の柱に(もた)れて、静かに見ていた。


「……昔から、焦ると全部崩れる」


 ムーニャンが振り返った。


「ライガに言われたくないにゃ!」


「事実でございます」


「黙れアル!」


 コハクが「でもほんとのことでゴザる」と小声で言った。

 ムーニャンが「お前も黙るにゃ!」と叫んだ。


 そこへ無双が道場から出てきた。

 二人を見て、溜息(ためいき)をひとつついた。


「今日中に答えを出せ。でなければ明日は教えない」


 それだけ言って、踵を返した。


「今日中って何にゃ! 基準が曖昧(あいまい)アル!!」


 無双は振り返らなかった。


 ライガが「……頑張ってください」と言った。

 ムーニャンが「他人事みたいに言うなにゃ!」と返した。

 ライガは静かに目を細めた。


―――   ―――


 午後の稽古に入ったところで、見張りが駆け込んできた。


「外縁に、武装した集団が現れました」


 無双の目が変わった。


 集落の外、霧の中に人影が並んでいる。

 十数名。装備が揃っている。旗はない。


 先頭の男が一歩前へ出た。


「クエストに従い、対象二名を引き渡せ」


 静かな声だった。感情がなかった。


「対象は——ムーニャン。およびコハク」


 ムーニャンの耳がぴんと立った。


「……誰が出したにゃ」


「依頼主は不明。神権経由だ」


 コハクが「神権、でゴザるか」と低く呟いた。


 無双が前へ出た。

 娘とコハクの前に、静かに立った。


「集落の者を下がらせろ」


挿絵(By みてみん)


―――   ―――


 ライガが無言で前線へ出た。

 集落の若い戦士たちが続く。


 無双がムーニャンとコハクを呼んだ。


「下がれ」


「でも——」


「まだ答えが出ていない者に、氷牙(ひょうが)は使わせない」


 ムーニャンが口を開きかけた。

 無双の目が、動かなかった。


「……分かったにゃ」


 二人は後退し、部隊との戦闘が始まった。


 傭兵部隊はとても強かった。

 神権クエスト経由だけあって、連携が洗練(せんれん)されている。

 ライガが奮戦(ふんせん)する。集落の戦士たちも引かないが、数で劣っていた。


 一人、また一人と集落の者たちが倒れていく。

 

 その様子を見ていた ムーニャンの拳が、震えていた。


「……もう限界にゃ!」


 前へ飛び出そうとした。


 腕をつかまれた。


 振り返ると、コハクがいた。

 静かな目だった。


「……答え、出たでゴザるか」


 その一言だった。


 ムーニャンが止まった。


 見える。

 ライガが膝をつきかけている。

 集落の仲間が庇い合っている。

 無双が前線の端で構えている。

 コハクが——隣にいる。


 彼女には、守りたいものが、()()()


 怒っていた。

 でも——気持ちの外が、静かだった。


 ムーニャンが走り出した。


―――   ―――


 傭兵の一人がムーニャンに気づいて向き直った。


 ムーニャンが敵の間合いに踏み込んだ。


 打撃の瞬間——体の内側から、冷気が(にじ)み出た。


 それは、完全な”技”ではなかった。

 でも、確かに――ムーニャンの拳に冷気が、宿った。


「な……内側が——」


 傭兵が崩れ落ちる。


 その様子を、遠くで無双が見ていた。

 目を細めた。

 何も言わなかった。


 それでムーニャンには十分だった。


―――   ―――


 別の傭兵がコハクへ向かってきた。


 コハクが動いた。


 踏み込み。

 重心移動。

 打撃の瞬間——体の内側へ、意識が向いた。


 それを受けた傭兵が崩れた。


 ムーニャンが振り返った。


「……コハク、今のアル」

「……でゴザるな!」


 二人が、お互いをチラとみて、戦闘の最中(さなか)に少し笑った。


 師匠でも弟子でもない。

 ただ、同じ動きをしていた。


挿絵(By みてみん)


―――   ―――


 傭兵部隊が崩れ始めた。


 大半が撤退していく。

 だが数名が、集落の裏手——山の斜面へ逃げ込んだ。


「追うな」


 無双が言った。


「引き際を知れ。奴らはもう戻らない」


 ムーニャンが斜面を見た。


「……また来るにゃ」


「——」


 無双が返す前に、ムーニャンはもう走り出していた。


「ムーニャン殿!」


 コハクが追いかけた。


 無双が二人の背を見た。


「……止まれと言っても聞かない子だ」


 ライガが立ち上がろうとした。


「追いますか」


「……いい」


 無双が静かに言った。


「あの子が自分で決めたことだ」


 ライガが山を見た。

 何も言わなかった。


―――   ―――


 斜面を駆け上がる。


 雪が深い。足が()まる。それでも二人は止まらない。


「なんでついてくるにゃおまえ!」


「放っておけないでゴザる」


「足手(まと)いアル!」


「それはムーニャン殿でゴザる」


「にゃ——!」


 口喧嘩をしながら登った。


 斜面の上、岩陰(いわかげ)に傭兵が身を潜めていた。

 三名。こちらを見ている。


 先頭が「……まだ追ってきたか」と呟いた。


 ムーニャンが踏み込んだ。


 一人目。

 二人目。

 氷牙(ひょうが)が宿るたびに、傭兵が崩れた。


 三人目が逃げようとした。


 ムーニャンが最後の一撃を打ち込んだ。


 今度は——完全に決まった。


 体の内側から、冷気が(ほとばし)った。


 今まで出たことのない規模だった。

 覚醒したばかりの氷牙(ひょうが)が、制御の利かない冷気を吐き出した。


 冷気が、雪山全体へ広がった。


 山が、低く(うな)った。


「……ムーニャン殿」


 コハクの声が聞こえた。


「……あ」


 ムーニャンが上を見た。


 斜面の雪が、一斉に動き始めていた。


 雪崩だった。


 山の上から、白い壁が轟音(ごうおん)と共に崩れ落ちてくる。

 木が折れる音がした。岩が砕ける音がした。

 地面が揺れた。


「ムーニャン殿、走——」


 コハクが叫びかけた。


 間に合わなかった。


 雪崩が二人を飲み込んだ。

 白が、全てを覆った。


 最後に見えたのは——コハクがムーニャンの腕をつかむ瞬間だけだった。


―――   ―――


 集落の側から、斜面が見えなくなった。


 雪崩が山の形ごと変えてしまっていた。

 さっきまで傭兵を追って駆け上がった道が、白い雪の塊の下に消えている。

 二人がいた場所も、岩も、何もかも——ない。


 静寂(せいじゃく)だけが残った。


 ライガが山を見ていた。

 動かなかった。


 無双が一歩だけ前へ出た。

 止まった。


 しばらく、誰も何も言わなかった。


 それから無双が、静かに呟いた。


「……生きているな」


 誰への言葉でもなかった。

 ただ、確信があった。


 ライガが山を見たまま言った。


「……はい」


 白い斜面が、風に揺れた。


幕間 修行編 了


つづく


―――――記録開始―――――



  ——Z.E.U.S 観測ログ——


 対象   :MUNIYAN / KOHAKU

 クエスト :回収

 結果   :失敗

 傭兵部隊 :撤退

 対象現在位置:観測(かんそく)圏外

 最終確認 :消失

 消息   :不明


 備考:

 戦闘終了直前、対象より未登録の演算(えんざん)パターンを検出(けんしゅつ)

 環境への干渉(かんしょう)を確認。分類不能。

 続報待ち。


―――――記録終了―――――

ここまでお読みいただきありがとうございます。


今回の登場キャラクターをご紹介します。


■ムーニャン(無念)

猫耳族の一人娘。三日目にしてようやく答えを出した。出し方が山を動かすものだったのは、誰も予想していなかった。本人も含めて。


■コハク

忍者口調の犬獣人。「放っておけないでゴザる」と言いながらついていった。無意識にムーニャンの動きをなぞっていたことには、本人が一番驚いていた。雪崩の中、腕をつかんだまま消えた。


無双ムソウ

猫耳族の長。「生きているな」と呟いた。理由は言わなかった。父親というのは、たいていそういうものだ。


■ライガ

若い戦士。最後まで山を見ていた。何も言わなかった。それが彼の答えだった。


修行編、これにて一段落です。

二人がどこへ流れ着いたのか——それは、また別の話で。



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