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第62話 記憶ノード編04 おっさん、ダンジョンで妖精と出会う

 前話の続き、記憶迷路(メモリ・ラビリンス)探索の本格開始回です。

 今回は“ゲームみたいに親切で、だからこそ嫌な”迷路の仕様と、小さな案内役との遭遇まで。

 忘れられた側へ沈んだ街のルールを、マスターたちが手探りで解いていきます。

 細い通路を抜けた先で、空気がひやりと変わった。


 さっきまで壁だったはずの場所に、古びた家の窓枠が半分だけ埋まっている。窓の下は石畳なのに、その三歩先からは、また宿の廊下みたいな板張りへ戻っていた。景色が継ぎ接ぎなのではない。順番そのものが、最初から壊れている。


 マスターは足裏に伝わる感触の変化に眉をひそめた。木。石。土。木。踏み出すたびに世界の材質が変わる。まともな迷宮じゃない。人が住んでいた街の記憶を、誰かが無理やり一本の道へ縫い合わせたみたいな、不自然さだった。


「ほんとに、ゲームのマップみてぇだな……しかも性格悪い方の」


「気を抜くな」


 先頭を行くカナエは振り返らずに言う。


「ここから先、見た目が優しいものほど信用するな」


「そういうのは入る前に言っといてほしかったんだが」


 ぼやいた直後だった。


 視界の端に、淡い文字列が浮かぶ。


【SECTOR:MEMORY-LABYRINTH B1】

【SYNC RATE:88】

【HUNGER:76】

【MEMORY SLOT:0/5】

【PHASE:SHALLOW】


 マスターは足を止めた。


「……は?」


 同じ表示を見たらしいカナエが舌打ち混じりに息を吐く。


「ゲーム形式に整形してきたか」


「整形?」


「管理側が理解しやすい形に寄せた。迷った人間にルールを押しつける時のやり口だ」


 同期ラインの向こうで、タニシの声が弾けた。


『出たっ! 来たっす! これ完全にダンマスとかメガテン系の、潜った瞬間に仕様だけ押しつけてくるやつですぞ!』


「うるせぇ」


『いやでも大事っすよマスター! たぶん数字は雰囲気じゃなくてガチ管理値っす! ノリで無視すると死ぬやつ!』


 カケルの呆れた声がかぶる。


『お前、こんな時だけやたら元気だな』


『こういうのはオタクに任せるべきなんすって!』


 マスターは溜息をひとつつき、改めてHUDを見た。同期率はまだ分かる。だが、問題は空腹値と記憶枠だ。


「なぁカナエ。《空腹》ってなんだ。潜って一分も経ってねぇぞ」


「そのままの意味だと思うな」


 カナエは短く答えた。


「腹が減ってるんじゃない。“自分を自分のまま固定する燃料”が減ってる」


「は?」


「この迷路は記憶を食う。昨日の連続性、名前、位置感覚、そういう“繋がり”を削って進行コストにする」


 ミコがマスターの袖を掴んだまま、ぽつりと言う。


「……もう、へってる」


 言われてみれば、妙な違和感があった。腹が鳴るわけじゃない。だが、ついさっき通ったはずの曲がり角の形が曖昧だ。口の中だけが、やけに乾いている。


 シズクの冷静な声が同期ラインへ重なる。


『バイタルは大きく乱れていません。ただ、認識保持に類する負荷が出ています。数値表示どおりだと思ってください』


『要するに!』


 タニシが食い気味に入る。


『ダンマスの食料管理と、メガテンの長期探索の嫌らしさを足して、飯の代わりに記憶を食われる仕様っす! クソっすねこれ!』


「分かりやすいけど、言い方が最悪だな」


『褒め言葉として受け取っとくっす!』


 マスターは軽く頭を掻き、前を向く。


「じゃあ逆に、どうすりゃ減りにくい」


「無駄に確認しない。無駄に振り返らない。拾わなくていいものを拾わない」


 カナエの声は淡々としていた。


「ここは“持ち込みより保持”が重い。覚えようとするほど削られる」


 少し先で、通路が三つに分かれていた。


 左は、子供の笑い声が遠くから響く路地。

 正面は、壁一面に紙片が張りついた細い廊下。

 右は、拍子抜けするほど何もない、まっすぐな板張りの通路。


 ミコが右を見て、小さく首を振る。


「そこ、や」


「何もないのに?」


「ない、から」


 ルースの低い声が同期ラインから続いた。


『右通路、構造簡略化を検知。……正規ではなく、平準化の可能性』


『ノーマライズ通路っす!』


 タニシがすぐに訳す。


『安全そうに見せて、余計な情報だけ削って通しやすくするタイプ! こういう何もない道ほど後で取り返しつかないんすよ!』


「毎回毎回、嫌な例えだけは分かりやすいな」


 ぼやきつつ、マスターは正面を見る。紙の壁。記録の匂い。覚えようとすると逆に削られそうで、いかにもこの迷路らしい。


「正面だな」


「同意だ」


 カナエが一歩踏み出し、ミコもその後ろについた。


 廊下へ入った瞬間、紙片のいくつかが、風もないのにふわりと揺れた。そこに書かれている文字は、読めそうで読めない。名前、時間、今日の予定、誰かへの伝言。どれも生活の断片なのに、途中からにじんで崩れ、最後だけがやけにはっきりしている。


 ――忘れるな。

 ――見たら戻る。

 ――この子は。

 ――昼の前に。


 頭が少しだけ痛んだ。


挿絵(By みてみん)


 そのとき、壁の一枚がぽろりと落ちた。


【MEMORY FRAGMENT DETECTED】

【STORE? Y/N】


 HUDが淡く明滅する。


「うわ、出た」


 マスターがしゃがみ込むと、床に落ちていたのは、子供の描いたらしい食卓の絵だった。皿が三つ。湯気の立つ鍋。誰かの笑った口。けれど中央の一人だけ、クレヨンでぐしゃぐしゃに塗り潰されている。


 ミコがかすかに息を吸う。


「……いた」


「拾えるのか?」


「拾える」


 答えたのはカナエだ。


「ただし、それは荷物じゃない。誰かの昨日だ」


「じゃあ拾わない方がいいか」


「必要なら拾え。必要じゃないなら抱えるな」


 マスターは少し迷った末、絵に指先を伸ばした。


 触れた瞬間、視界の奥に一瞬だけ熱が走る。


 湯気。小さな手。スプーンの音。誰かの「いただきます」。

 それだけが、ほんの一秒だけ流れ込んできた。


 次の瞬間には霧みたいに薄れていたが、胸の奥にだけ重さが残った。


【MEMORY SLOT:1/5】


「重ぇ……」


「そういうことだ」


 カナエが低く言う。


「ここで拾うのは情報じゃない。感情ごと沈んだ欠片だ」


 ノエルの緊張した声が同期ラインに乗る。


『保持枠、ひとつ使用……』


『うわ、ほんとにインベントリ管理だ……』


 タニシの声が少しだけ引きつる。


『しかもアイテムじゃなくて、精神の方に積むタイプの最悪なやつ……』


 そのときだった。


 HUDの端で、位相表示がふっと暗転する。


【PHASE SHIFT】

【PHASE:SINKING】


 次の瞬間、背後にあったはずの曲がり角が消えた。壁だった場所に新しい通路が開き、逆に前方の一部が塞がれる。紙の貼られた壁そのものが、じわりと組み換わったみたいに動いていた。


「おいおい……マップ変わったぞ」


『固定構造ではありません』


 ルースの声は冷静だった。


『感情圧と記録密度で再編。さっき通れた道は、今の正解ではない可能性が高いです』


『フェーズ移行!』


 タニシが半泣き気味に叫ぶ。


『これメガテンの月齢とか、ダンマスの時間経過ギミックみたいなやつっす! 同じ場所でも状態が違う! “さっき行けた”は信用しないでください!』


「よくそんなにすらすら嫌な知識が出てくるな……」


『褒めてないのは分かるっす!』


 カナエが手を上げて二人を制した。


「喋るのは必要最低限にしろ。確認が増えるほど認識を持っていかれる」


 そう言いながら、彼女は視線だけで周囲を測る。


「少し先に休止点っぽい空間がある」


 開けた小部屋だった。中央に小さな卓。水差し。椅子が二つ。いかにも“ここで一息つけ”とでも言いたげな配置だ。


 だが近づいた瞬間、HUDが表示を切り替えた。


【REST POINT】

【PAYMENT:MINOR PERSONAL MEMORY】


 マスターは眉間に皺を寄せた。


「宿屋まで課金制かよ」


「やめろ」


 カナエが即座に言う。


「休ませる代わりに、こっちの記憶を持っていく」


『うわぁ……』


 タニシが素で引いた。


『セーフポイントに見せかけた有料宿屋っす! しかも金じゃなくて自分の思い出で払うタイプ!』


 カケルが低く唸る。


『作ったやつ性格悪ぃな』


『管理思想としては合理的です』


 シズクの声は淡々としていた。


『回復と引き換えに個体差を削る。よくできています』


「褒めてねぇけどな、それ」


 マスターは水差しを覗き込み、すぐに顔をしかめた。水面に映ったのは自分の顔ではなく、どこか見覚えのある店の灯りだった。だが何の記憶か分からない。現代日本のどこか。コンビニか、店のカウンターか。分からないまま、胸の奥だけがざわつく。


 彼は即座に視線を外した。


「……休ませる気はある。だが人間のままじゃ出す気はねぇらしい」


「その認識でいい」


 カナエが短く返す。


 その直後、通路の先に、ぽつり、と灯りが浮かんだ。


 ろうそくの火にも見えた。だが揺れ方が違う。風に煽られているのではない。何かが(まばた)きするたび、同じ周期で明滅しているような、不自然な灯りだった。


 ミコがマスターの袖をぎゅっと掴む。


「……きた」


「白いのか?」


 問うと、ミコは首を横に振った。


「しろいの、じゃない。……ちいさいの」


 灯りは、ふわりとこちらへ近づいてくる。


 近づくにつれ、輪郭が生まれた。最初は火の玉。次に羽。最後に、幼い少女みたいな細い手足。手のひらサイズよりは少し大きい。けれど子猫よりは小さい。頭上に小さな灯火を揺らし、背中には薄いガラス片みたいな半透明の羽を浮かべている。顔立ちは愛らしく、笑ってすらいた。


 ――なのに、床へ影が落ちていない。


挿絵(By みてみん)


 マスターが目を細める。


「……妖精?」


 同期ラインの向こうで、タニシの声が跳ねた。


『マスター、なんか来た! 妖精型の案内端末っぽいっす! でも見た目かわいいのに、言ってることが“置いてけ、軽くなれ”系の匂いしかしないっす!』


「まだ喋ってねぇだろ」


『この手のは喋る前から分かるんですって! オタクの経験値を信じてください!』


「そこ、全然信頼できねぇな……」


 マスターがぼそりと返した、その瞬間。


 小さな妖精が、にこりと笑った。


「だいじょうぶ?」


 声は鈴みたいに澄んでいた。妙に幼く、妙にやさしい。


「おもいでしょう?」


 カナエの目が細くなる。


「返答するな」


「分かってる」


 答えながらも、マスターは無意識に胸元へ手をやっていた。さっき拾った《記憶断片》が、そこにある気がした。気がしただけで、実際にどこへ保持されているのかは分からない。ただ重みだけが胸の奥にある。


 妖精はふわりと一回転した。頭上の灯火が淡い金色に揺れる。


「ひとつなら、なくしても平気だよ」


「…………」


「ひとつだけ。おいていけば、もっと楽になるの」


 かわいらしい笑顔のまま、そんなことを言う。


 マスターは顔をしかめた。


「妖精って見た目してるくせに、中身が全然かわいくねぇな」


 妖精は不思議そうに小首を傾げる。


「かわいくない?」


「言ってることが、な」


 ミコがマスターの後ろから小さく顔を出した。


「……うそ、ついてない」


 その一言で、空気が冷えた。


 カナエが低く問う。


「どういう意味だ」


「これ、だますためじゃない。……ほんとに、かるくしようとしてる」


 マスターは舌打ちしたい気分になった。


 悪意ならまだ殴りやすい。だがこれは違う。目の前の小さな存在は、本気で“助けている”つもりなのだ。


 妖精はまた笑った。


「こっちだよ」


 ふわりと背を向け、少し先の分岐へ飛ぶ。いかにも幼子を安心させるための案内役みたいに。だがその羽の縁が、ほんの一瞬だけノイズみたいにざらついて見えた。


 マスターはその違和感を見逃さなかった。


「案内役か」


 小さく呟く。


「……なら、なおさら質が悪い」


 妖精は三つ目の分岐の前で止まった。


 左は、子供の笑い声が聞こえる路地。

 右は、壁一面に白いメモが貼られた廊下。

 正面は、何もないまっすぐな通路。


 頭上の灯火を揺らしながら、妖精が言う。


「えらんで」


【INTERFACE CONTACT】

【NEGOTIATION AVAILABLE】


『うわっ、交渉イベントっす!』


 タニシの声が一段高くなる。


『マスター、完全にルール側の住人ですってこれ! かわいい顔して“何を捨てるか”聞いてくるやつ!』


 マスターは眉を寄せたまま妖精を見る。


「で。何を選べって?」


「おもいの」


「重いの?」


「もってるでしょう?」


 小さな指先が、マスターの胸元を指した。


「それ、おいていけば、もっと先にいけるよ」


 カナエが即座に切る。


「拒否だ」


「待て。話だけは聞く」


「聞かせるために近づいてる」


「分かってる。でも、こいつは敵って感じでもない」


 マスターは妖精へ視線を戻した。


「ひとつ聞く。お前は何なんだ」


 妖精は少し考えるように目を瞬かせる。


「みちあんない」


「端末か?」


「うん」


「誰の?」


 そこで初めて、妖精は答えに詰まったように見えた。灯火がちらりと揺れる。


「……みんなの」


 カナエが小さく息を吐く。


「個体認識が壊れてる」


 マスターはさらに問う。


「“みんな”を助けるために、記憶を捨てさせてるのか」


「うん」


 あまりにも素直に頷く。


「いっぱいあると、くるしいから」


「なくなっても平気だって?」


「ぜんぶじゃないよ」


 妖精はやさしい声で訂正する。


「ひとつだけ」


「その“ひとつ”が、大事なやつだったらどうする」


 妖精は小首を傾げた。


「だいじなら、いたいでしょう?」


「…………」


「いたいの、へらしたいの」


 外の同期ラインが、妙に静かになっていた。さっきまで騒いでいたタニシすら、今は口を挟まない。


 先に口を開いたのはミコだった。


「それで、きえたひと、いる」


 妖精がミコを見る。


「きえてないよ」


「……いる」


「しずかになっただけ」


 ミコの顔が強張る。


 カナエが一歩前へ出た。


()()()()だ」


「まって」


 妖精が慌てたみたいに両手を振る。


「けんか、だめ。わたし、たすけたいだけ」


「助けるの定義が違う」


 カナエの声は冷たい。


「お前は“歩けるようにする”ために削る。こっちは“削らずに戻す”ために潜ってる」


 妖精はしばらく黙り込み、やがてぽつりと言った。


「……へんなひと」


 マスターは鼻で笑う。


「よく言われる」


『マスター! 今の返し、ちょっと好感度上がるやつっす!』


「黙ってろ」


 だが、実際に妖精の様子は少し変わっていた。警戒でも敵意でもなく、純粋な興味が混じっている。


 妖精はマスターの周りをふわりと一周して、見上げる。


「おもいの、もったままいくの?」


「行く」


「いたいよ?」


「知ってる」


「なくしたくないの?」


「なくしたくないから来たんだよ」


 長い沈黙のあと、妖精はふっと笑った。


「……へん」


 そして頭上の灯火を小さく揺らす。


【INTERFACE STATUS:SHIFT】

【TEMPORARY FOLLOW MODE AVAILABLE】


 マスターが眉をひそめる。


「今度は何だ」


 妖精は胸を張るみたいに浮かび上がった。


「ついてく」


「は?」


「へんなひと、みる」


 外で真っ先にタニシが叫んだ。


『うわーっ! 仲間化イベントっす!』


 カケルの呆れた声が重なる。


『うるせぇな、お前は』


『いやだって来たっすよ! 最初の妖精ポジがそのまま同行するやつ!』


 マスターは額を押さえた。


「勝手に決めんな。俺は許可してねぇ」


「でも、みち、しってるよ」


 妖精は当然みたいに言う。


「それに」


 にこっ、と。

 出会ったときと同じ無邪気な笑顔で、小さな妖精は言った。


「コンゴトモヨロシクね!」


 一瞬、誰も声を出せなかった。


 最初に吹き出したのは、外のタニシだった。


『ぶっ……古っ! いやでも分かるっすそのノリ!』


 マスターは片手で顔を覆う。


「なんでそこだけ妙にゲーム脳なんだよ……」


「なかまになったときのことば」


「誰に仕込まれた」


「いっぱい、ひろった」


 その答えに、マスターは溜息をついた。古い挨拶だ。古いのに、こんな場所で聞くと妙に刺さる。


 カナエが低く確認する。


「連れていくのか」


 マスターは少しだけ迷い、妖精を見る。


 かわいい顔。やさしい声。だが、その奥にあるのは間違いなくこの迷路のルール側だ。それでも――


「……使える案内役を捨てるほど、こっちも余裕ねぇ」


「わーい」


「ただし」


 マスターは指を一本立てた。


「勝手に人の記憶に触るな。勝手に捨てさせるな。変な道に連れてくな」


 妖精はひとつ目、ふたつ目までは素直に頷き、三つ目でほんの少しだけ目を逸らした。


「最後、怪しいな」


「がんばる」


「信用ならねぇ……」


 それでも、小さな妖精はうれしそうにマスターの肩の少し上あたりへ浮かんだ。頭上の灯火が、さっきより少しだけあたたかく見える。


 ミコがぽつりと言う。


「……へんなの、ふえた」


『ミコちゃん正論っす』


「外野は黙ってろ」


 マスターはぼやきながら、次の通路へ視線を向けた。


 継ぎ接ぎの街の奥で、まだ見ぬ“忘れられた側”が静かに口を開けている。先頭を飛ぶ小さな灯りは、案内役にしては危うく、敵にしてはあまりにも愛嬌があった。


 その灯りの先に、壁面一帯を白く照らす冷たいログ光が、かすかに瞬いていた。


【MEMORY FLATTENING】

【STABILITY PRIORITY】


 やっぱり、奥にはもっと質の悪い“やさしさ”が待っている。


 マスターは肩の上の小さな灯りを横目で見て、鼻から息を吐いた。


「行くぞ。案内役」


「うん!」


 やけに元気な返事とともに、小さな灯火(ともしび)が暗い通路の先を照らす。


 その光は頼りなくて――でも、消えそうにない強さがあった。


 続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は、記憶迷路(メモリ・ラビリンス)の「ゲームっぽいのに、やってることは全然やさしくない」仕様が、ようやく姿を見せた回でした。

空腹度、同期率、保持容量――どれもゲーム風の表示ですが、実際に削られているのはHPではなく、「自分が自分であるための連続性」です。


そして新しく現れたのが、妖精型案内端末「ランタン妖精フェアリー」。

見た目はかわいらしいのに、言うことはひたすら「軽くなれ」「置いていけ」。

悪意ではなく、むしろ“助けようとしている”からこそ厄介な存在です。


この《記憶ノード編》では、単に敵を倒すだけでなく、

「忘れることは本当に救いなのか」

「痛みを消せば、人は生きやすくなるのか」

というテーマにも少しずつ踏み込んでいきます。


次回は、そんなランタン妖精ともう少し付き合いながら、迷路のさらに深い部分へ。

“忘れさせる優しさ”の本体が、いよいよ顔を見せます。


■ゲーマーおっさん解説!


廃墟を探索してログや記録を拾うゲームって、敵を倒すより断片を集めるほうが面白かったりします。『メトロイド』や『SILENT HILL』なんかも、全部を説明しないからこそ記憶に残る。壊れた端末、途中で切れた文章、誰かの残した痕跡。そういう断片を拾うたびに、プレイヤーの中で勝手に世界がつながっていくんです。説明されないこと自体がご褒美になる。探索型の名作って、だいたいそこがうまい気がします。


♦今回の登場人物・補足

マスター


本作の主人公。

《記憶迷路》のゲーム風UIに「分かりやすいけど最悪」と毒づきつつも、仕様を理解しながら進む役。

「軽くなるために忘れる」のではなく、「重くても持って帰る」側の人間。


カナエ


ダイブ救出専門職リコーラー

今回も潜入時の現場判断役であり、迷路の危険性を最も理解している存在。

「抱えすぎると沈む」という、この章のルールを最初に現実的な言葉へ翻訳した人物。


ミコ


感知役。

白い管理側の匂いだけでなく、言葉の嘘・本音の温度にも敏感。

ランタン妖精が“騙そうとしている”のではなく、“本気で軽くしようとしている”と見抜いたことで、今回の不気味さが一段増しました。


タニシ


外部モニター班のゲーム翻訳係。

今回の「ダンマス方式」「メガテン方式」的な迷路ルールを、いちばん分かりやすく言語化してくれる騒がしい男。

うるさいけど、こういう局面では妙に役立つ。


ランタン妖精フェアリー


《記憶迷路》で遭遇した妖精型案内端末。

住民や侵入者を“怖がらせない見た目”に整形された、やさしい外見の誘導存在。

ただし、そのやさしさの中身は「記憶を削ってでも進ませる」側の論理に立っている。

敵か味方かで言えば、まだどちらとも言い切れない存在です。


用語補足

記憶迷路(メモリ・ラビリンス)


都市そのものに接続された、記憶の退避・保管・平準化領域。

宿の廊下、家の壁、都市の路地、生活の断片が継ぎ接ぎになっており、通常の迷宮とは違って「空間」より「記憶構造」を歩かされる。


《HUNGER》


ただの空腹ではなく、自分の記憶と人格を固定しておくための燃料に近い数値。

下がりすぎると、空腹そのものより先に「自分の記憶」が削れ始める危険がある。


《MEMORY SLOT》


拾った《記憶断片》を保持しておける枠。

アイテム欄のように見えるが、実際には「誰かの昨日」を抱える容量。

増やしすぎると、保持者側に負荷が返ってくる。


《PHASE》


迷路の位相。

同じ場所でも時間経過や感情圧で構造が変わるため、「さっき通れた」は通用しない。


主人公の現在のステータス


名前:NO NAME(通称:マスター)

状態:軽度認識負荷/空腹進行中

現在地:記憶迷路(メモリ・ラビリンス)浅層〜中層手前

同行者:カナエ、ミコ、ランタン妖精フェアリー

外部支援:レイ、ルース、ステラ、シズク、カケル、ナツ、タニシ、ノエル


現在の所持アイテム・装備

基本携行装備一式

冒険者タグ

外部同期ライン接続

《ルステラ・キャリア》とのモニターリンク

拾得した《記憶断片》×1


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