第56話 おっさん、ルステラ0.03%と再会(後編) ――レトロPC以下でも、ママはママらしい――
トラップ発動。双子を守りながらの戦闘。
そして、俺の中に残っていたルステラの欠片が目覚める。
レトロPC以下の残量でも、ママはママだった。
――ピィィィィィィン――
耳を劈く音波。
旧認証トラップが起動した。
ステラが頭を抱える。
「いたい!」
ルースも苦しそうだ。
「……ステラ」
庇おうとする。
ノエルが咄嗟に双子を抱き上げた。
「っ、後退します!」
コハクが結界を展開する。
「拙者の結界で!」
一時的に音波を防ぐ。
だが、コハクの額に汗が滲む。
「……維持が、厳しいでござる」
シンとムーニャンがトラップ解除に取りかかる。
シン「旧式だが、厄介だ」
ムーニャン「時間かかるネ」
その隙に――
がこん、がこん。
複数の警備端末が起動した。
――― ――― ―――
ナツが舌を打つ。
「うわ、数多いっす!」
コハクが必死に結界を維持している。
「拙者の結界が……」
双子を守るので手一杯だ。
俺は双子を庇いながら戦う。
だが、数が多い。
端末の攻撃が掠める。
腕に痛みが走った。
ステラが心配そうな声を出す。
「ぱーぱ、だいじょうぶ?」
ルースも俺の腕を見つめる。
「……けが、した」
俺が笑って見せる。
「平気だ」
だが、状況は平気じゃない。
端末に囲まれる。
――― ――― ―――
その時。
頭の中に、ノイズが響いた。
『――ききき――カイ――回避――ミギ――』
機械的で途切れ途切れ。
まるで故障したレトロPCの音声合成。
「!?」
俺は反射的に右へ動いた。
端末の攻撃が、空を切る。
「今の声……」
再び、声。
『――ケイカイ――タンマツ――ヒダリ2――』
言われた通りに動く。
敵の配置が読めた。
的確に回避。
反撃。
ナツが驚く。
「マスター、動きが鋭いっす!」
――― ――― ―――
その時。
ステラが突然、泣き止んだ。
目を丸くする。
「……ママ?」
ルースも同じく。
「……ママだ」
双子が同時に俺を見上げる。
俺が呟く。
「ルステラ……お前、まだ……?」
頭の中に、また声。
『――ハイ――セツゾク――フアンテイ――』
すぐに声が途切れる。
でも、確かに「はい」と答えた。
ステラが叫ぶ。
「ママ!」
ルースも小さく言う。
「……いる、ママ」
俺が頷く。
「ああ……いる。でも……」
もう、声は聞こえない。
――― ――― ―――
ルステラの助言で危機を脱出した。
シンがトラップを完全無効化する。
「……よし」
ムーニャンが認証部品を回収する。
「成功ネ」
双子が俺に抱きつく。
ステラが必死に言う。
「ママ! ママ!」
ルースが俺の袖を握る。
「……いる、ママ」
俺が頭を撫でる。
「いるが――でも……」
やはり、もう、声は聞こえない。
――― ――― ―――
帰り道。
双子が疲れてうとうとしはじめた。
ステラが呟く。
「あるけない~ねむいよ~」
ルースも同じく。
「……つかれた」
コハクが胸を張る。
「拙者が背負うでござる!」
今度は双子も頷く。
「おねがい」
コハクが感動する。
「拙者を頼ってくれたでござる!」
大荷物に双子を加えて、コハクが大変なことになる。
「お、おもいでござる……」
ナツが手伝う。
「ステラちゃん、こっちっす」
ステラが喜ぶ。
「ありがと!」
ナツが笑う。
「軽いっすね」
ルースは頑なに俺の手を握っている。
「……ぱーぱと」
俺が微笑む。
「そうか」
――― ――― ―――
《るすと》に帰還した。
ギルマスが出迎える。
「おかえり。初クエスト、合格だ」
タニシも駆け寄ってくる。
「おかえりなさい! どうでしたか!?」
ステラが元気に答える。
「こわかった! でも、がんばった!」
ルースが小さく言う。
「……ママ、いた」
タニシが首を傾げる。
「え? ママ?」
タニシが双子に近づこうとする。
「すごいね~、頑張ったね~」
ステラが即座に叫ぶ。
「ちかづくな!」
ルースも冷静に言う。
「……エッチ」
タニシが絶望する。
「まだ言われる!?」
ナツが笑う。
「双子ちゃん、しっかりしてるっすね」
コハクが頷く。
「拙者、双子を見習うでござる」
タニシが訴える。
「僕、何もしてないのに!」
ミーナが苦笑する。
「存在がアウトなのかもね……」
タニシは再び敗北した。
――― ――― ―――
双子が俺に質問攻めする。
ステラ「ママ、どこ?」
ステラ「また、でる?」
ルース「……こえ、きこえた」
ルース「ママ」
俺は、どう説明すればいいか迷った。
ミーナとノエルも心配そうだ。
ギルマスが口を開く。
「ルステラは分散した。でも完全に消えたわけじゃない」
「お前の中に、欠片が残ってる」
シンが続ける。
「ただし機能はほぼ停止状態。レトロPC以下だ」
ムーニャンが補足する。
「人格も記憶も、ほとんど残ってないネ」
ノエルが優しく言う。
「さっきの声も、自動応答に近いっすよね……」
ステラが泣きそうになる。
「ママ……いない?」
ルースが呟く。
「……こえ、すこし」
「でも、ママ」
俺が答える。
「いなくはない。でも、今のままじゃ……」
ギルマスが厳粛な顔で言う。
「だから世界中に散ったコアを集める」
「ルステラの分散ノードを回収して、人格を再構成する」
「お前らのママを、取り戻せ」
ステラが涙を拭う。
「とりもどす!」
ルースが真っ直ぐ俺を見る。
「……ママ、かえってくる?」
俺が頷く。
「ああ。必ず」
双子が抱きついてくる。
「ぱーぱ!」
――― ――― ―――
カケルの工房へ、認証部品を届ける。
カケルは、朝から酒を飲んでいた。
俺が呆れる。
「まだ飲んでんのか」
カケルが即答する。
「仕事が進むんだよ」
ステラが叫ぶ。
「だめなおとな!」
ルースも頷く。
「……タニシとおなじ」
カケルが眉を顰める。
「タニシと一緒にすんな」
タニシが後ろから訴える。
「僕、何した!?」
カケルが認証部品を確認する。
「上出来だ。これで足は動く」
車両のエンジンが、初めて始動した。
ゴォォォォォ……
力強い音。
ステラが目を輝かせる。
「すごい!」
ルースが尋ねる。
「……のれる?」
カケルが頷く。
「ああ。いつでも出られる」
タニシが手を上げる。
「僕も乗れますか?」
全員の声が揃った。
「だめ」
タニシが叫ぶ。
「ひどい!」
――― ――― ―――
俺が一人になった瞬間。
頭の中に、またノイズ。
『――シュウシュウ――ノコリ――0.03%――』
『――ママ――ヤクワリ――ハタセズ――』
『――ゴメンナサイ――』
ノイズが混じり、すぐ途切れる。
でも、確かに「ごめんなさい」と言った。
俺が呟く。
「……謝るな。お前を取り戻す。必ず」
――― ――― ―――
双子が戻ってくる。
「ぱーぱ!」
「ママ、さがしにいく!」
車両のエンジン音が、力強く響いた。
俺は双子の頭を撫でる。
そして、工房の奥で鈍く光る車体を見た。
ルステラを取り戻す。
世界中に散ったコアを、全部集める。
コハクが横で大荷物を整理している。
ナツが双子の装具を点検している。
ムーニャンが酒瓶を隠そうとして、シンに見つかっている。
タニシが「僕も行きます!」と言って、双子に「だめ!」と即答されている。
いつもの、騒がしい仲間たち。
そして、俺の中に眠る、ルステラの欠片。
長い旅が、始まる。
(後編・完)世界冒険へ続く
◆登場キャラクター
・マスター:ルステラの欠片0.03%と再会。レトロPC以下の機能でも、確かにそこにいた。
・ルステラ(欠片):『――ハイ――』『――ゴメンナサイ――』機械的で途切れ途切れ。でもママ。
・ルース:「……ママだ」と欠片を感知。冷静に状況を分析する能力の片鱗。
・ステラ:「ママ!」と叫ぶ。感情で反応し、マスターを強化する力。
・タニシ:帰還後も双子に「エッチ」と言われ、最後まで「だめ!」と拒否される。存在がアウト。
・シン:トラップ無効化。「レトロPC以下だ」と冷静に状況分析。
・ムーニャン:認証部品回収成功。酒は没収される。
・ノエル:双子を抱えて後退。「自動応答に近い」と補足。
・ナツ:ステラを背負って帰る。「軽いっすね」
・コハク:双子を背負って感動。大荷物+双子で重い。
・ミーナ:「存在がアウト」とタニシに追い打ち。
・ギルマス:ルステラ復活の方法を説明。「お前らのママを、取り戻す」
・カケル:朝から酒。「タニシと一緒にすんな」車両完成。
◆今回の話の解説
初クエスト、後編です。
トラップ発動、警備端末群との戦闘。そして、マスターの中に残っていたルステラの欠片が目覚めます。
『――カイヒ――ミギ――』
『――ハイ――セツゾク――フアンテイ――』
『――ゴメンナサイ――』
機械的で途切れ途切れ、まるで故障したレトロPCの音声合成。残量0.03%。人格も記憶もほとんど残っていない。でも、確かにそこにいました。
双子が「ママだ」と感知する場面は、今後の旅の目的を明確にする重要なシーンです。
そしてタニシは帰還後も双子に拒否され続け、「存在がアウト」という烙印を押されました。合掌。
車両も完成し、いよいよ本格的な旅が始まります。
次回、第二期本格始動です。
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