第55話 おっさん、双子連れて初クエスト(前編) ――子連れ冒険は嫌な予感しかしない――
双子を連れての初クエスト。
準備段階から不穏な空気しかしない。
タニシは留守番です。
《るすと》の朝は、いつもより慌ただしかった。
「これ、本当に子供用っすか?」
ナツがゴツい防護装具を手に取りながら、呆れたように言う。
カケルは工房の隅で腕を組んだまま、鼻を鳴らした。
「子供用だから可愛く作った」
「どこが可愛いんすか、これ」
「機能美だ」
ステラが装具を見て、ぷくっと頬を膨らませた。
「かわいくない!」
カケルは気にせず、双子用の荷物を確認している。
俺の横では、ルースが小さく俺の袖を握っていた。
「……だいじょうぶ?」
「大丈夫だ」
本当は大丈夫じゃない気がするが、そうとしか言えない。
――― ――― ―――
荷物チェックは混沌としていた。
コハクが、また荷物を増やしている。
「前回より減らしたでござる!」
ナツが呆れ顔で指摘する。
「増えてるっす」
「……気のせいでござる」
「札の束、三つから五つに増えてるっす」
「必要な分でござる!」
シンが冷静にツッコむ。
「多い」
「否定できんでござる……」
その横で、ムーニャンがこっそり酒瓶を荷物に忍せようとしていた。
ギルマスが即座に指摘する。
「見えてるぞ」
「これは水筒ネ」
「匂いで分かる」
ステラが横から声を上げる。
「おさけ、だめ!」
ムーニャンが肩を落とす。
「子供に怒られたアル……」
――― ――― ―――
そこへ、タニシが現れた。
「おはようございます! 今日は見送りに来ました!」
爽やかな笑顔で近づいてくる。
だが、双子がぴたりと俺の後ろに隠れた。
タニシは気づかず、屈んで双子に話しかける。
「ステラちゃん、ルースちゃん、可愛いですね~。お兄さんと一緒に……」
その瞬間。
「エッチ!」
「……すけべ」
双子の即答だった。
タニシが固まる。
「え!?」
ミーナが感心したように頷く。
「双子ちゃん、よく分かってるね」
ノエルも肩を震わせながら言う。
「双子見習えよ、タニシ」
コハクが胸を張る。
「拙者も同意でござる」
ナツが笑いをこらえている。
「双子ちゃんの方が大人っすね」
シンが淡々と言う。
「正しい判断だ」
ムーニャンも呆れ顔だ。
「子供に負けてるネ」
ギルマスが腕を組んで頷く。
「お前、双子以下だな」
タニシが必死に弁解する。
「ひどい! 僕、何もしてないのに!」
俺が即答する。
「お前の普段の行いだ」
「理不尽!」
ステラが真似する。
「りふじん!」
ルースも小さく言った。
「……だめなおとな」
タニシは完全に敗北した顔で、その場に崩れ落ちた。
――― ――― ―――
準備が整い、いよいよ出発だ。
ステラは元気いっぱい。
「ぼうけん!」
ルースは緊張している。
「……おなか、いたい」
ミーナが優しく声をかける。
「大丈夫、すぐ近くだから」
ノエルが俺を見て、小さく笑った。
「むしろマスターさんが心配っすね」
「……否定できねぇ」
タニシが最後に言う。
「僕も行きたかったな……」
全員の声が揃った。
「だめ」
「即答!?」
ステラが笑顔で言う。
「タニシ、るすばん!」
ルースも頷く。
「……いらない」
タニシは二重のダメージを受けて、またその場に倒れた。
ギルマスが手を振る。
「行ってこい。昼までには戻れる範囲だ」
「ああ」
俺は双子の手を引いて、《るすと》の外へ出た。
――― ――― ―――
初めての"外の世界"。
双子の反応は、対照的だった。
ステラは目を輝かせる。
「ひろい!」
「そら、おっきい!」
ルースは目を細める。
「……まぶしい」
ナツが笑う。
「るすとの外、初めてっすもんね」
歩き始めて十分。
ステラが疲れた顔で立ち止まった。
「つかれた~」
俺が即座にツッコむ。
「早い」
コハクが胸を張る。
「拙者が背負うでござる!」
ステラがコハクの大荷物を見て、首を振った。
「やだ」
コハクが傷ついた顔になる。
「傷つくでござる……」
――― ――― ―――
道中、小さな魔物と遭遇した。
スライムに似た、ぷるぷるした生き物だ。
ステラが興味を示す。
「ぷにぷに!」
近づこうとする。
ルースが咄嗟に止めた。
「……だめ」
シンが頷く。
「正解だ。毒持ちだ」
ナツが軽く蹴散らす。
ステラが目を輝かせた。
「すごい!」
ナツが少し得意げになる。
「へへ」
さらに十分後。
ルースが小さく言った。
「……のど、かわいた」
俺が水筒を出す。
ステラもすぐに反応する。
「わたしも!」
双子が同時に飲もうとして――
コツン。
頭をぶつけた。
「いたい!」
「……いたい」
俺が溜め息を吐く。
「落ち着け」
――― ――― ―――
旧中継塔跡に到着した。
崩れかけたビーコン施設。
油と鉄の匂い。
古い演算機器の残骸が、あちこちに散らばっている。
ステラの元気が消えた。
「……こわい」
ルースは逆に、一歩前へ出る。
「……いく」
シンが施設を分析する。
「構造は単純。だが古い」
ムーニャンが鼻を鳴らす。
「匂いが油臭いネ」
コハクが結界を張った。
淡い光が双子を包む。
ステラが目を丸くする。
「きれい!」
コハクがドヤ顔になる。
「そうでござろう!」
――― ――― ―――
入口付近で、旧警備端末が起動した。
錆びついた人型の機械が、軋んだ音を立てて動く。
ステラが怯える。
「ロボット……」
ルースが冷静に判断する。
「……てき」
俺が双子を後ろへ下がらせる。
「お前ら下がってろ」
ステラが大きな声で叫んだ。
「ぱーぱ、がんばれ!」
その瞬間、体が軽くなった。
魔力が底上げされた感覚。
「……お、軽い?」
ルースが小さく言う。
「……みぎ」
俺が反射的に右へ動く。
端末の攻撃が、さっきまで俺がいた場所を叩いた。
ナツが驚く。
「双子ちゃん、すごいっす!」
俺もそう思った。
ステラの声で強化された。
ルースの予測で回避できた。
まだ未完成だが、能力の片鱗が見えた。
端末を倒す。
ステラが喜ぶ。
「かった!」
ルースが小さく言った。
「……ぱーぱ、つよい」
俺が頭を撫でる。
「いや、お前らのおかげだ」
シンが頷く。
「能力の片鱗が見えたな」
ノエルも感心している。
「まだ未完成っすけど、すごいっすね」
――― ――― ―――
内部は薄暗かった。
点滅する古い照明。
油の染み込んだ床。
ステラが怯えた声を出す。
「くらい……」
ルースが俺の手を握る。
「……て、にぎる」
ステラも反対の手を握った。
俺は両手が塞がった。
ナツが笑う。
「微笑ましいっすね」
俺が呟く。
「……戦えねぇんだが」
コハクが照明代わりの結界を出す。
「拙者に任せるでござる!」
結界がピカピカ光りすぎた。
シンが目を細める。
「眩しい」
コハクが慌てる。
「加減が難しいでござる……」
ステラは喜んでいる。
「きらきら!」
――― ――― ―――
ムーニャンが認証部品の反応を探る。
「あっちネ」
進むと、床が一部抜けていた。
ナツが先に渡って安全確認する。
「大丈夫っす!」
ステラを抱えて渡る。
ステラが怖がる。
「たかい!」
次はルースの番だ。
ルースが躊躇する。
「……こわい」
俺が手を差し伸べる。
「大丈夫だ」
抱えて渡る。
ルースが小さく言った。
「……ありがと」
――― ――― ―――
認証部品の在り処に到着した。
古い機械に埋め込まれた、小さな金属片。
ステラが指を差す。
「これ?」
シンが頷く。
「ああ。だが……」
ムーニャンが警戒する。
「トラップの匂いがするネ」
ルースが小さく呟いた。
「……やばい」
薄暗い通路の奥。
点滅する古い照明が、不気味に認証部品の在処を照らしている。
ムーニャン「反応、あるネ。でも……」
シン「トラップだ。認証系の」
双子が同時に俺の服を掴む。
ステラは怯えて、小さく震えている。
ルースは警戒して、じっと部品を見つめている。
ノエルが後ろで呟いた。
「やっぱり、子連れ初クエストって嫌な感じっすね……」
ナツが苦笑する。
「カケルさんの予言、当たってるっす」
俺は小さく息を吐いて、前へ一歩踏み出した。
「行くぞ」
その瞬間――
施設全体に、ノイズが響いた。
――ピィィィィィィン――
(前編・続く)
◆登場キャラクター
・マスター:双子を連れての初クエスト。両手が塞がって戦えない父。
・ルース:慎重派。「……だめ」と危険を察知する能力の片鱗。
・ステラ:元気っ子。「ぱーぱ、がんばれ!」でバフ効果発動。
・タニシ:双子に「エッチ!」「すけべ」と即答され、全員に「双子以下」認定される。留守番。
・コハク:荷物がまた増えてる。照明役も買って出るが眩しすぎる。
・ナツ:双子の面倒見が良い。スライムを蹴散らして「すごい!」と言われて得意げ。
・シン:冷静な分析役。「正しい判断だ」と双子を評価。
・ムーニャン:酒を隠して子供に怒られる。
・ノエル:「マスターさんが心配」と的確なツッコミ。
・ミーナ:双子に優しい。「双子ちゃん、よく分かってるね」
・ギルマス:「双子以下だな」とタニシを斬る。
・カケル:「機能美だ」と言い張るゴツい子供用装具を作る。
◆今回の話の解説
双子を連れての初クエスト、前編です。
出発前からタニシが双子に「エッチ!」「すけべ!」と即答され、周囲の大人全員に「双子見習えよ」「双子以下」と言われる地獄を味わいます。双子の健全な判断力が光る場面でした。
旧中継塔跡へ向かう道中では、双子の性格の違いが際立ちます。ステラは元気で怖がり、ルースは慎重で冷静。でも二人とも、ちゃんとマスターを支える力を持っていることが判明。
そして施設内部へ。トラップの気配がする中、双子を守りながらの探索が始まります。
次回、後編へ続きます。
「少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!」




