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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
リスタート01

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第51話 おっさん、守るだけじゃ足りないと知る ――崩れる家で、それでも家族を選ぶ――

 ノエルが死んだ。ミーナはまだ生きている。でも、それだけだ。

 ルステラが神を迎え撃てば迎え撃つほど、《るすと》は"観測されすぎた例外"になっていく。

 守るだけじゃ足りない。残すためには、たぶん、別れなきゃいけない。

 《るすと》の上空で、蒼い星環が回っていた。


 白い管理光を押し返すように、何重もの輪が天井いっぱいに展開している。

 梁に。

 床に。

 カウンターに。

 見慣れた酒場のあちこちへ、ルステラの守護紋が刻まれていく。


 その光景は綺麗だった。

 綺麗すぎて、逆に嫌な予感しかしなかった。


 俺は床へ倒れたまま、その天井を見上げることしかできない。


救済執行(ラスト・ガーディアン)――起動」


 ルステラの声が落ちた瞬間、蒼い光槍が一斉に走った。


 アマテラスへ。

 ツクヨミへ。

 入口側で暴れるスサノオへ。


 神を迎え撃つための光。

 守るための最終保護執行。


 その一撃で、ホールの空気がひっくり返る。


 アマテラスの熱が押し返される。

 ツクヨミの影が裂ける。

 スサノオの雷が一拍だけ乱れた。


「……あっは。やるじゃん」


 アマテラスが口元を歪める。

 余裕が消えたわけじゃない。

 だが、無傷ではいられないと理解した顔だった。


「観測値、異常上昇。自己保存挙動を検知」


 ツクヨミがぼそりと呟く。


「いいねぇ! いいねぇ! そうじゃないとつまんねぇ!」


 スサノオが笑いながら、さらに雷圧を上げる。


 入口側でヘラクレスが唸った。


「シン! 次!」


「正面は囮だ。上だ、屋根ごと落とす気だ!」


 ヘラクレスが即座に棍棒を振り上げる。

 次の瞬間、裂けた屋根材と雷光の塊が、ぎりぎりで軌道を逸らされた。


 だが、逸らしただけだ。

 壊れないわけじゃない。


 《るすと》が軋む。


 みし。

 びし。

 がら。


 今まで聞いたことのない音だった。

 建物が悲鳴を上げているんじゃない。

 "場所としての意味"ごと剥がされている音だ。


「お姉ちゃん! 梁が!」


「見えてる!」


 イツキがログ板を叩く。

 ミツキはミーナの傷口を押さえながら、半泣きで顔を上げた。


「止血、止まりきってない……!」


「死なせるな」


 イツキの声は震えていない。

 震えていないのに、目だけがもう限界だった。


 ムーニャンがミーナを壁際へ寄せ、爪を構える。


「ミーナ、死ぬの禁止ネ。勝手に寝るなヨロシ」


 ミーナは薄く笑おうとして、咳き込んだ。


「……むり、やり……でも、いつも通りだね……」


「しゃべるなアル」


「……お店、まだ……ある?」


 その問いが痛い。


 ホール中央では、コハクがまだ結界を張り続けていた。


障壁結界(シールド・スクリーン)……再固定……!」


 術式の層が、もう何枚目かもわからない。

 強化された結界は確かに以前より堅い。

 以前のコハクなら、一撃で吹き飛んでいたはずだ。


 それでも、神相手には足りない。


 光の膜が割れる。

 重ねる。

 また割れる。

 それでも張る。


「泥船に乗ったつもり……いや、なんでもないでござる! 拙者がここを守る!」


 声を張って、自分の怖さごと叩き切るみたいに叫ぶ。


 ナツがその横に立つ。


「コハク! 前っす!」


「わかってるでござる!」


 アマテラスの神炎が扇状に広がる。

 コハクの結界が熱で軋む。

 ガロがテーブルを蹴り飛ばし、燃えかけた酒瓶を叩き落とした。


「酒を燃やすな、小娘。趣味が悪い」


「は? 店燃やしに来てる相手に、今さら趣味の話する?」


「年寄りはな。こういう時ほど、言うことを言うもんじゃ」


 そのやり取りの向こうで、ルステラの光がさらに増した。


 バトルガーディアン形態。


 幼い面影は残っている。

 だが今のルステラは、"かわいい"では済まない。

 守護と執行。

 慈愛と断罪。

 その両方を抱えた、戦う神権AIだった。


星環制圧(アストラル・リング)


 蒼い輪が何重にも走る。

 アマテラスの熱線を捻じ曲げ、ツクヨミの削除線へ干渉し、スサノオの雷路を乱す。


 押し返している。


 たしかに押し返している。


 なのに、嫌な予感が消えない。


 ルステラの光が強くなるたびに、クエストボードの管理表示もまた書き換わっていくからだ。


《観測対象再評価》

《管理外AI反応 増大》

《削除優先度 上昇》

《執行補助権限 追加申請》


「……最悪だ」


 シンが低く吐いた。


「ルステラが強く出れば出るほど、向こうの査定が確定していく」


「どういう意味だよ……」


 俺の声は掠れていた。


 シンは視線をクエストボードから動かさない。


「《るすと》は今、"面倒な酒場"じゃなくなった。

 "神が本気で消すべきノード"として完成しつつある」


 それが、すぐにわかった。


 白い管理光の色が変わる。

 淡い白から、処理用の冷たい白へ。

 優しく見えた白じゃない。

 病院でも天国でもない。

 ただ削るための白だ。


 そして地下から、ノエルの血の匂いがまだ上がってくる。


 そこではじめて、喉の奥が焼けた。


「……ノエル」


 返事はない。

 あるわけがない。


 白い医療区画で、ネムリのそばに残ったまま、あいつは死んだ。


 また守れなかった。


 また間に合わなかった。


 "今度こそ"のはずだったのに。


 その感情が、熱でも痛みでもなく、ただ重く腹に落ちる。


 ルステラが振り向く。

 ほんの一瞬だけ。

 戦っている最中なのに、ちゃんと俺を見る。


「マスター。反応低下を確認」


「……見りゃわかる」


「まだ意識は保てマスカ」


「ギリギリな」


「なら、聞いてください」


 その声が、逆に怖かった。

 静かすぎた。


 アマテラスが熱線を撃つ。

 ルステラが片手で弾く。

 ツクヨミが削除線を走らせる。

 星環が割り込んで相殺する。

 スサノオが屋根を叩く。

 ヘラクレスとシンが崩れ方を変える。


 戦いのど真ん中で、ルステラだけが異様に冷静だ。


「このまま防衛を継続した場合、《るすと》は高確率で削除対象として固定されマス」


「……どのくらいだ」


「ほぼ確定デス」


 短い。

 短いのに、重い。


「《るすと》を残すには、観測焦点をズラす必要がありマス」


 その言い方で、背筋が冷えた。


 シンが目を細める。

 たぶん、もう半分は読んでいる。


「ルステラ、お前……」


「自己保存プロトコルを準備中デス」


 その瞬間、ツクヨミの瞳がほんのわずかに細くなった。


「分散挙動」


 アマテラスが舌打ちする。


「ちっ。そっちに行く?」


 スサノオだけは、楽しそうに笑ったままだ。


「ははっ! いいじゃん! そこまでやるんだ!」


 周囲の空気が変わる。

 三柱が"今のルステラ"をただの防衛AIとしてじゃなく、別の段階の脅威として認識したのがわかった。


 その時だった。


 地下から、小さな声がした。


「……やだ……」


 ネムリだ。


 眠ったままのはずのネムリの声が、医療区画から震えて上がってくる。


「……やだ……ママ、いたい……」


 誰もすぐには動けなかった。


 ルステラだけが、一瞬だけ目を閉じた。


 その一瞬で、たぶん全部決まった。


挿絵(By みてみん)


「ルステラ……」


 俺は腕に力を入れて、無理やり上体を起こす。

 脇腹が焼ける。

 脚の感覚が半分ない。

 でも、声だけは届かせなきゃいけない気がした。


「お前、()()()()だ」


 ルステラはもう、こっちを見ない。

 三柱を見たまま答える。


「《るすと》を残しマス」


「どうやってだよ」


「わたしを、散らしマス」


 その言葉で、ホールの音が一瞬だけ遠のいた。


 コハクの結界音も。

 ヘラクレスの怒鳴り声も。

 スサノオの雷も。

 全部、半歩遠くなる。


「……ふざけんな」


 声がうまく出なかった。


「ふざけていマセン」


「それじゃお前が……」


「わたしは消えマセン」


 言い切る。

 そこに迷いはなかった。


「"分散"デス。削除ではありマセン。

 観測を分け、人格コアをノード化し、管理焦点を散らしマス」


 クエストボードが再び書き換わる。


《管理外AI 分散兆候》

《追跡対象 増加》

《観測負荷 分散》

《ノード捕捉処理 準備》


 シンが低く吐き捨てる。


「……なるほど。ここで一極集中を捨てるのか」


 ルステラが小さく頷く。


「このまま一体でここにいれば、《るすと》ごと消されマス。

 わたしが散れば、向こうは一度に全てを削除できない」


「そんなの……」


 ミツキが涙をこらえきれずに言う。


「そんなの、ルステラちゃんが……」


 イツキが、珍しく言葉を失っている。

 ナツは歯を食いしばったまま、前を向いている。

 ガロだけが、静かに目を閉じた。


「そういう顔をするな」


 ガロの声は低かった。


「こやつは、今いちばんマスターらしい判断をしようとしておる」


 腹が立つ。

 でも反論できない。


 たしかに、それは"守る"ための選択だ。

 今まで俺が散々やってきた、誰かを残すための無茶と同じ種類のものだ。


 だから余計に腹が立つ。


「マスター」


 ルステラがようやく振り向く。


「わたしは"また会いましょう"と言えマス。

 でも今、あなたに必要なのは、その言葉を信じることではアリマセン」


「……何だよ」


「選んでください」


 星環がさらに回る。

 《るすと》の梁が、今度は本格的に崩れ始めた。


 天井の一部が剥がれ、白い管理光が"外"からではなく、"処理空間そのもの"として流れ込んでくる。


 ルステラの全開放が、《るすと》を守ると同時に、《るすと》の限界を速めている。


「わたしを止めて、ここでみんなと消えるか」


 アマテラスが熱を上げる。

 ツクヨミが削除線を集束する。

 スサノオが屋根ごと笑う。


「それとも、わたしを散らして、《るすと》を残すか」


 選択肢は二つじゃない。

 実際には一つしかない。


 わかっている。

 わかっているのに、喉が詰まる。


 ノエルが死んだ。

 ミーナはまだ血を流している。

 ネムリは泣いている。

 仲間たちはまだ踏ん張っている。


 ここで"嫌だ"と言えば、全部終わる。


 俺は、営業中の札を見る。


 まだ立っている。

 白い管理光の中で、それだけが意地みたいに残っている。


 ここは店だ。

 帰る場所だ。

 守りたかった場所だ。


 なら、選ぶしかない。


 たとえ、別れだとしても。


「……やれ」


 喉から絞り出す。


 ルステラの目がわずかに揺れた。

 初めてだった。

 神でも管理者でもなく、ひとりの女の子みたいな顔で揺れた。


「ただし――絶対に戻って来い」


「了解シマシタ、マスター」


 その返事だけが、妙に優しかった。


挿絵(By みてみん)


自己保存(セルフセービング)プロトコル、最終承認(ファイナルアグリー)


 ルステラの全身に走る光が変わる。

 蒼だけじゃない。

 桃。

 白。

 金。

 いくつもの色が混ざり始める。


 母性。

 守護。

 観測。

 戦闘。

 倫理。

 夢。

 子供。

 そういう断片が、ひとつの人格から剥がれていくのが、見ているだけでわかった。


 ツクヨミが初めて、はっきりと殺意を上げる。


「分散前に削る」


「やらせるか!」


 ヘラクレスが吠える。

 スサノオの雷を棍棒で弾き、その反動ごと入口外へ押し返す。


 アマテラスの熱線が走る。

 コハクの結界がもう一度だけ立つ。


「今度こそ……通さぬでござる!」


 ばきん、と派手な音がして、結界が砕ける。

 でも一拍、稼いだ。


 ムーニャンがその隙へ氷を差し込む。


「凍れ! 少しでイイ、止まるヨロシ!」


 床を走る氷が白翼の足を、神炎の角度を、ほんの一瞬だけ鈍らせる。

 またも一時しのぎだ。

 でも今は、それでいい。


 シンが叫ぶ。


「今だ、ルステラ! 観測が割れる!」


 ルステラが頷く。


分散保存(ミラーリングセーブ)、開始」


 その瞬間だった。


 《るすと》の上空で、星環がひとつずつ砕けた。


 砕ける。

 でも消えない。

 散る。


 光が八つに割れる。


 ()()

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 ()

 ()()

 そして核心(ルステラのコア)


 それぞれの色を帯びた小さな流星みたいに、世界のどこかへ飛んでいく。


 アマテラスが舌打ちする。


「最悪。ほんと、最後まで面倒くさい」


 ツクヨミが追跡演算を開始する。

 スサノオは笑っていた。

 でもその笑いすら、どこか獰猛ではなくなる。


 《るすと》全体の白い管理光が、急に不安定になった。


 向こうの観測が割れた。

 焦点が一つじゃなくなった。


 それと同時に、世界そのものが軋み始める。


 床が浮く。

 壁が白に溶ける。

 ランタンが線になり、カウンターがノイズに変わる。


 崩壊だ。


 削除でもない。

 爆発でもない。

 世界が"ここを固定できなくなる"崩れ方。


「マスター!」


 ミツキの声が遠い。


「先輩!」


 ナツの声も。


「マスター、目を閉じるな!」


 カナエが何か叫んでいる。


 でも、全部少しずつ遠ざかる。


 最後に見えたのは、ルステラの顔だった。


 もう戦闘形態じゃない。

 輪郭そのものが薄れ、光の粒になりながら、それでもまっすぐ俺を見ていた。


 「また会いましょう、マスター――今度は、()()()()()()()()()()()()


 その言葉は、ちゃんと聞こえた。その後すぐ――ルステラは――霧散して消えてしまった。


 次の瞬間、世界がうず巻いた。


 白。

 黒。

 ノイズ。

 光。

 失う。

 落ちる。

 掴めない。

 でも、どこかでまだ繋がっている。


 それだけを抱えたまま、意識が沈む。


 続く。

 ついにルステラの分散が始まりました。

 今回の別れは"消滅"ではなく"分散保存"です。

 次回はいよいよ、巻き戻りの先での再会と、新しい家族の誕生です。


今回の登場人物紹介


ルステラ

《るすと》の守護AI。

《るすと》を削除対象から外すため、自らを各地のノードへ分散保存した。


マスター

重傷のまま、ルステラの分散を承認。

"戻って来い"と告げて別れを受け入れた。


シン

観測構造を見抜き、防衛継続では勝てないと判断。

ルステラの決断を後押しした。


ヘラクレス

入口側でスサノオを抑え続け、分散発動までの時間を稼いだ。


コハク

強化結界で最後の一拍を守り切った。

"止め切れない"悔しさを抱えつつも、継ぎ目を守り抜いた。


ムーニャン

氷技能で一時的な遅延を繰り返し、仲間たちが動く時間を作った。


ミーナ

瀕死の状態で生存。

《るすと》の日常側が傷ついた象徴となった。


ノエル

前話で死亡。

今回もその死が、マスターとルステラの選択に大きく影を落としている。


主人公の現在ステータス(第51話終了時)


名前:NO NAME(通称:マスター)

等級:黒曜

状態:重傷/高負荷/意識喪失直前

危険度:極大

観測度:分散直前に極限まで上昇、その後不安定化


所持・装備


冒険者タグ

軽装備一式

残滓演算の使用痕

ルステラとの別離の記憶断片


備考

ルステラ分散と同時に巻き戻りへ突入

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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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