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幕間 風来のフー子、帳簿に勝てない ――見てる人と、慣れすぎた人が同じ画面にいた件――

第3話の少しあと、

ギルド酒場るすとの“裏側”で交わされた、静かな会話の記録です。


戦闘もクエストもありません。

あるのは、帳簿と煙と、

「気づいている者同士」の、何気ないやり取りだけ。


この世界では、

異常はたいてい、騒ぎになる前に“見逃された顔”で通り過ぎます。


今回は、

「見ている人」と

「慣れすぎた人」の視点から、

その一端を覗いてもらえたらと思います。


※本編未読でも問題ありませんが、

 第3話まで読んでいると、

 より“嫌な違和感”を楽しめます。

風来のフー子、帳簿に勝てない

――見てる人と、慣れすぎた人が同じ画面にいた件――


ギルド酒場るすとは、今夜もいつも通り騒がしい。


 笑い声。

 グラスの触れ合う音。

 遠くで鳴る、ゲームの効果音。


 その喧騒の裏側で――

 受付カウンターの奥にいるイツキは、分厚い帳簿をぱらぱらとめくっていた。


「はいはい、今日も平常運転〜」


 軽い声でそう言いながら、ペンを走らせる。


「死亡率、いつも通り。回収ログも問題なし……」


 ――と。


 指が、ふと止まった。


「あ、これ」


 ページを指先で、こん、と叩く。


「数字だけ動いてて、中身いないんだけど」


 ほんの少しだけ、口角が上がる。


「やだなー。こういうの、()()()()()()()()()|」


 そのときだった。


 ――ふわり。


 どこからともなく、甘く、重たい煙が流れ込んでくる。


 気づいたときには、カウンター横の席に、小柄な女が腰かけていた。


 外見だけ見れば、酒場にいるのが不自然なくらい幼い。

 だが、その仕草だけは、妙に年季ねんきが入っている。

挿絵(By みてみん)

「フ――……」


 女は、ゆっくりと煙を吐いた。


 イツキは、ちらりとそちらを見る。


「あー」


 特に驚く様子もなく、


「今日は、そっち来る日だっけ?」


 と、気軽に声をかけた。


「気分じゃの」


 女――風来の魔女フー子は、当然のようにそう返す。


「はいはい」


 イツキは、それ以上気にした様子もなく、再び帳簿へ視線を戻す。


「シーシャ屋、暇?」


「暇じゃなかったら、来とらん」


「それはそう」


 帳簿を閉じ、イツキはフー子を見る。


「で?」


 一拍。


「今日は、何が気になったの?」


「臭う」


「数字?」


「数字」


 即答だった。


 イツキは帳簿をくるりと回し、フー子に見せる。


「ここ」


「観測ログが、一瞬だけ抜けてる」


「“誰もいない”判定なのに、

 リソースだけ食われてるんだよね」


 肩をすくめる。


「こういうのさ、

 ()()()()()()()()()()()()()|」


「若いのに、苦労性じゃのぉ」


「職業病」


 即答だった。


 少し離れた席で酒を飲んでいた、無念ウーニャンが、その様子をちらりと見る。


「……?」


 小柄なフー子を見て、首を傾げる。


「アノ人、

 小サイネ」


 少し考えてから、


「デモ、

 空気、ヘン」


 それだけ言って、また酒を飲んだ。


 ――カウンターに戻る。


「最近さ」


 イツキが、何気ない調子で言う。


「出生系ログ、ほぼ動いてない」


「そりゃそうじゃ」


「生まれてない?」


「消えとる」


 その言葉に、イツキのペンが、一瞬だけ止まった。


「あー……」


 だが、すぐにいつもの調子へ戻る。


「それ、

 書いた瞬間に帳簿ごと消えるやつ」


 ペンを置く。


「じゃあ」


 一拍。


「最初から、無かったってことで」


「賢いの」


 そのとき。


 画面の奥で、人の動く気配がした。


 視界の端で、HUDが――

 一瞬だけ、ノイズる。


「……ほれ」


 フー子が、顎で示す。


「ん?」


 イツキも、そちらを見る。


「なるほどね」


「気づいとるか」


「うん」


 帳簿を閉じ、軽く肩をすくめる。


「でも今は、まだ」


 一拍。


「《・》()()()|」


 しばらくして。


「一杯、飲む?」


 イツキが聞く。


「飲む」


「年齢確認、いる?」


「この店に来るようになって、

 七百年は経っとるぞ」


「はいはい」


 イツキはグラスを出しながら、言った。


「じゃあ、常連割ね」

「どんだけ長い間、ワシも常連なのかのぉ。まあ今日も世界を見ながら酔いしれようかえ」


 フー子と会話をしながら、イツキが帳簿をめくる。指先が止まった。

回収(かいしゅう)対象(たいしょう):適合》

処理(しょり)対象(たいしょう):不適合/現地残置》

フー子が笑う。

「回収されるのが幸せか、残されるのが幸せか。難しいのう」

ミツキが小さく言った。

「……どちらも、幸せじゃないです」


 ――数字を記す者。

 ――流れを嗅ぐ者。


 ギルド酒場るすとには今夜も、


 《・》()()()()()()()()()|、


 《・》()()()()()()()()|、


 静かに、席についていた。

■ 風来のフー子について


風来のフー子は、

ギルド酒場るすと併設のシーシャ屋を切り盛りする常連です。


見た目は幼く、小柄。

ですが、年齢も経歴も、表に出ることはほとんどありません。


彼女は「戦う者」でも「管理する者」でもなく、

**世界の流れや歪みを“嗅ぎ取る側”**の存在です。


異常が起きた「あと」ではなく、

起きる前の空気を察する。

そして、それを言葉にするかどうかは――気分次第。


今回の幕間では、

出生ログや観測ログという

この世界の深い部分に触れていますが、

フー子自身はそれを“問題”とは呼びません。


ただ、

「臭う」と言うだけです。


■ イツキについて


イツキは、ギルド受付嬢の双子姉。


軽い口調と派手な外見とは裏腹に、

帳簿・ログ・数値管理においては、

ギルド内でも最上位の能力を持っています。


彼女は「異常」に気づきます。

ただし――

それを騒がない。


理由は単純で、

この世界では「書いた瞬間に消える事実」が

あまりにも多いからです。


だからイツキは、

消えるものは最初から無かったことにする。

帳簿に残らないなら、世界の仕様だと受け入れる。


それは諦めではなく、

生き延びるための適応です。


■ 今回の幕間について


幕間3.5話は、


子供・出生が「珍しい」のではなく

「消されている可能性」


観測ログとリソース消費のズレ


HUDのノイズという、

目に見えない異常の前兆


これらを、

あえて説明せず、

会話と空気感だけで置いています。


理解できなくても問題ありません。

むしろ、

「よく分からないけど、嫌な感じがする」

その感覚こそが、この話の正解です。


主人公マスターの現在のステータス

※幕間のため数値変動なし

名前:NO NAME

通称:マスター

冒険者等級:未登録

レベル:低位固定(L.L.R.制約下)


状態:通常


所持金:最低限


所持アイテム:なし

装備:なし


※本幕間では主人公は直接登場しませんが、

 観測対象として、すでに“帳簿の側”にいます。

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