第2話 42歳、おっさん冒険者デビュー(遅) ――スライム詐欺に遭っただけなのに、財布がHP0になった件――
第2話です。
今回は、外に出て戦うのではなく、ダイブでのクエストを想定しています。
そして、帰還は「帰ってくる」ではなく「戻る」。
――なのに、戻ってきたはずの記録が、抜けている。
42歳おっさん、腰をさすりながら、
スライム詐欺に遭い、世界の《《仕様》》にツッコミを入れます。
笑って読めるように見えて、
笑えないものが、すぐ隣にいるかもしれません。
42歳、おっさん冒険者デビュー(遅)
――スライム詐欺に遭っただけなのに、財布が|H|P|0になった件――
視界が、白くなる。
次の瞬間。
ギルド酒場『るすと』の床板が、俺の足裏を受け止めた。
空気が変わる。木と酒と油、それから、少しだけ鉄臭い“現実の匂い”。
そして――
「……っ、腰!」
反射で声が出た。
ダイブ解除直後に襲ってくるのは、筋肉痛でも疲労でもない。
“重さ”だ。現実の重さ。四十二歳には。
俺は膝に手をつき、顔を上げた。
カウンター。
受付。
常連のざわめき。
ランタンの光。
全部、さっきまでの“クエスト空間”が嘘みたいに平和だ。
……なのに、こっちは平和じゃない。
「おっさんをナメるなぁぁぁぁ!!」
叫んだ。
自分でも意味がわからない。
だが叫ばないと、腰が折れる。いや折れてない。折れてないことにする。
視線が集まる。
常連の視線、受付の視線、厨房の視線――ついでに俺自身の心の視線も集まって、「おい四十二歳、落ち着け」とツッコミを入れていた。
……だが落ち着けるか。
「ヨシ! ヨシおっさん! 出てこい!」
カウンターの奥から、ギルドマスター――ヨシが、のそのそと出てくる。
目の下に疲れが住んでいる。完全に社会人の顔だ。
「なんだよ、復帰一発目から。……腰か?」
第一声が腰なの、どういうギルドだよ。
「腰もだよ! 腰も膝も悲鳴だよ! だけど今はそこじゃない!」
俺は手を振り回しながら、胸を張った。
「スライムだけって聞いてたのに! 全然違うじゃねーかよおっさん!
あれはスライムじゃない! スライムの親戚一同、法事で集まったみたいな数だったぞ!」
ヨシは欠伸を噛み殺しながら肩をすくめる。
「スライムはスライムだろ。増えただけだ」
「増えただけで俺の腰が死ぬんだよ! てかさ!」
俺は今さら思い出したように指をさす。
「白磁とか黒曜とか、等級の説明! まだしてないよね!?
俺、四十二歳なんだけど!? 初見で“白磁”って言われても陶器の話かと思うわ!」
一瞬、周りの空気が止まって――
受付側から、乾いた声。
「しないよねー」
イツキだ。
日焼けした褐色の肌に、ハイトーンの金髪。派手なネイルにピアス。制服は着崩している。
だるそうに頬杖をつき、片目でこっちを見ていた。
「てか、今そこで気づくのウケる。おっさん、後追い理解型じゃん」
隣のミツキが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「す、すみません……。
等級はギルドの評価段階で、下から白磁、黒曜……と上がっていきます」
「評価段階ね。強さのランクじゃなく?」
「はい。強さの保証ではありません。
実力というより、ギルドから見た“総合評価”に近いです」
「総合評価……嫌な言葉だな」
俺がぼやくと、ヨシが雑に笑う。
「社会と同じだ。慣れろ」
「慣れたくねぇよ」
イツキがネイルで端末をトントン叩きながら言う。
「はいはい、漫才終わり。白磁さん、報酬処理するよ。
討伐証明、出してー」
「はいはい。……討伐証明ね」
俺は袋から、ぬるっとした核みたいなものをいくつか取り出した。
机に置いた瞬間、ミツキが「ひっ」と小さく声を漏らす。
「あ、ごめん。見た目が悪いよね」
「い、いえ……っ。大丈夫です。……多分……っ」
多分って言った。
俺はそこも聞かなかったことにした。四十二歳の余裕。
イツキは端末を操作する。
カタカタ、と軽い音。
その指が、やけに迷いなく動くのを見て、俺は思った。
このギャル、仕事が早い。見た目とのギャップで風邪ひく。
「……ふーん」
イツキが小さく声を漏らす。
「なに?」
「別にー」
軽く返しながら、イツキの視線は俺じゃなく、端末の奥――ログの更に奥を見ている。そんな気がした。
ミツキが、端末の表示を確認しながら言う。
「討伐数は……問題ありません。
白磁の依頼としては、少し多いですが……」
「だろ? だから詐欺だって言ってんの」
ヨシが肩をすくめる。
「世界が詐欺みたいなもんだからな」
「それ、ギルドマスターが言っていいセリフじゃないだろ……」
俺が言い返した、そのとき。
イツキの指が止まった。
ほんの一瞬。
画面を見たまま、固まる。
「……イツキ?」
ミツキも気づいたのか、そっと覗き込む。
「お姉ちゃん? どうかしましたか?」
イツキはすぐ笑った。
いつもの、だるそうな笑い。
「んー? なんでもないよ」
でも、その声が、さっきより少しだけ低い。
「ただ、ログがね」
「ログ?」
「うん。ログ」
イツキは端末の画面をネイルでとん、と叩いた。
「このクエスト、途中が――」
一拍。
「……抜けてる」
「は?」
俺の口から、間抜けな声が出た。
「抜けてるって、なに? 俺、戦闘中に昼寝した?
いや、したかもしれないけど……してないわ!」
「してないでしょ」
ミツキが真顔でツッコミを入れた。
この子、優しいのに時々容赦ない。
イツキは笑いながらも、目が笑ってない。
「時間がね。数分間、すとんって落ちてる」
「落ちてる……?」
「記録がない。討伐証明はあるのに、途中の行動ログが……空白」
ヨシが、珍しく黙った。
その沈黙が、妙に重い。
酒場のざわめきが、一段だけ遠くなる。
「……それ、俺のせい?」
俺は冗談っぽく言おうとして、途中で喉に引っかかった。
だってイツキの視線が――完全に“受付”のそれじゃない。
イツキはにこっと笑う。
「さぁ?」
そして、やけに丁寧に言った。
「ねぇ、白磁のおっさんさー。
その数分、どこ行ってたの?」
イツキの問いに、俺は一秒だけ固まった。
「どこ行ってたの?」って。
こっちが聞きたい。
「えー……正直に言うと、俺も知らん」
「知らんで済むなら、ギルドいらないんだよね」
イツキは笑っている。
けれど、笑いの温度が低い。
ミツキが慌てて間に入る。
「お、お姉ちゃん……! 端末側の不具合かもしれませんし……!」
「うん。不具合の可能性はあるよ?」
イツキは言って、ネイルで端末を二回、軽く叩いた。
「でも、不具合なら不具合で――こういう抜け方は、あんまり見ない」
「抜け方に種類があるのかよ……」
俺がぼやくと、ヨシが欠伸まじりに言った。
「ある。……あるっちゃある。疲れる話だ」
「疲れる話ってなんだよ」
「腰と同じだ。説明すると余計疲れる」
「じゃあ説明しろよ!」
即ツッコミ。
俺の反射神経はまだ死んでなかった。腰は死にかけてるけど。
イツキが「はいはい」と手を振る。
「とりあえず報酬処理は通す。討伐証明はあるし。
ただ――」
言いかけて、イツキは酒場側を見た。
「奥に行く前にさ。白磁さん、ちょい休憩」
「休憩? いいの?」
「いいよ。だっておっさん、今このまま詰めても情報出ないでしょ」
「言い方!」
「事実でーす」
ミツキが小さく咳払いした。
「お茶をお出ししますね。……本当に、お疲れさまでした」
その一言で、俺の肩から変な力が抜けた。
酒場側に戻ると、木の匂いと人の気配が、どっと胸に入ってきた。
さっきまでのクエスト空間と違って、ここは息ができる。
「お、帰ってきたか」
低い声。
小柄で、髭の濃い男がジョッキを傾けていた。
俺が誰だか分からず目をやると、ヨシがだるそうに顎で示す。
「ガロ。ドワーフだ。ここじゃ古株」
「古株って言い方!」
ガロが笑ってジョッキを掲げる。
「ガロだ。……腰は無事か?」
「第一声が腰なの、この店の流行り?」
「流行りだ。おっさんに優しい」
「優しいの方向が違う!」
俺がツッコむと、隣の席から「ぷっ」と吹き出す声。
「白磁で腰が砕けるの、新しいっすね」
普通の顔をした若者が、照れたように笑っている。
ミツキがそっと説明した。
「こちらはノエルさんです。白磁の新人で……」
「お、おっす。ノエルっす」
「よろしく。新人同士……いや、年齢的に俺が新人でいいのか分からんが」
「年齢は新人じゃないですよね」
「言うな!」
カウンター寄りの席から、淡々とした声が刺さる。
「……冒険、やめれば」
視線を向けると、腕を組んだ女性がこちらを見ていた。目が笑ってない。
ヨシが雑に紹介する。
「ミーナ。冒険しない生存者。ここで飲むだけ」
「飲むだけで生きてるの強いな」
「外に出る方が危ない」
ミーナはそれだけ言って、杯を口に運んだ。
少し離れた席で、薄く笑う男が手を振る。
「まあまあ。白磁の初ダイブなんて、だいたい洗礼だろ」
ヨシが面倒そうに言う。
「シン。たまに変なこと言う。気にすんな」
「紹介が雑すぎる!」
「雑でいいんだよ。腰に響く」
「何でも腰に繋げるな!」
などと話しているギルドカウンター前。
休憩している間、周囲の冒険者たちが、ちらちらとこちらを見ているのに気づいた。
なぜか遠くの声が鮮明に聞こえる。これが異世界の特殊スキルってやつなんだろうか?
「……なあ」
少し遠くにいた冒険者が、小声で仲間に囁く。
「あいつさ。なんか、ギルマスに似てね?」
「は?」
もう一人が、露骨に俺と奥の執務区画を見比べた。
「……言われてみれば。顔っていうか、雰囲気? 骨格?」
「だよな。目つきは全然違うけどさ」
その視線が、今度は俺の目に向く。
無意識に逸らそうとして、逆に妙な既視感が胸に引っかかった。
――目?
「いや、さすがに別人だろ」
別の冒険者が笑って肩をすくめる。
「ギルマスだぞ? あんなのが酒場でうろついてたら、世界終わってる」
「それもそうか」
軽い笑い声。
その場はそれで流れた、はずだった。
だが。
カウンター越しのイツキが、帳簿から一瞬だけ顔を上げ、俺と奥を交互に見た。
「……似てる、って言われるの。初めて?」
「え?」
「いや。別に深い意味じゃないけどさ」
そう言って、イツキはすぐに視線を落とす。
けれどペン先が、ほんの一拍だけ止まっていたのを、俺は見逃さなかった。
「目……じゃないな」
ぼそっと、ガロが呟く。
「似ているのは“型”じゃ。中身は、まだ違う」
「なにそれ、怖いこと言わないでくださいよ」
ミツキが慌てて笑いで流す。
俺は曖昧に肩をすくめた。
「さあ。俺、自分の顔、あんまり自信ないし」
冗談めかして言ったはずなのに、
胸の奥で、なにかが小さく軋んだ。
――似てる?
――ギルマスに?
理由はわからない。
けれど、その言葉だけが、妙に耳に残り続けていた。
その後も、知り合ったギルドの常連や、子供のころからあこがれていたゲームキャラ達などと
おやじギャグを連発したり、うるさく騒いでいると、イツキが背後から「あは」と笑った。
「うるさ。常連に馴染むの早すぎ。白磁のくせに」
「白磁は“弱い”じゃなく“評価されてない”だけなんだろ? 今聞いた」
「覚えるの早いじゃん」
イツキは軽く言って、俺の隣の席を指で指す。
「座りな。いまログ見直してるから」
「ログ……まだ続くのか」
「続くよ。だって抜けてるんだもん」
その瞬間、テーブルの空気が、ほんの少しだけ固くなった。
ノエルが首をかしげる。
「抜けてるって……何が?」
俺が答える前に、ガロが静かに言った。
「……記録か」
イツキがちらりとガロを見る。
「詳しいね」
「長く生きてりゃ、いろいろ見る」
ミーナが杯を置く。
「やめときな。そういう話は、酒が不味くなる」
シンが薄く笑った。
「でもさ。記録が抜けるって、便利だよな」
俺はその言い方が妙に気になって、シンを見た。
「便利……?」
「うん。残したくないものを、残さなくていい」
ミツキが小さく震える声で言う。
「……“残らない”ものは、怖いです」
ミーナが短く返す。
「怖いのは“残る”方も同じ」
ガロがぽつりと落とした。
「この世界は、残すものを選び始めた」
「……何を?」
俺が聞くと、ガロは答えない。
代わりに、ミーナが短く言った。
「子供《》」
その一言で、周囲の音が少しだけ遠くなった気がした。
ノエルがきょとんとする。
「子供……? この世界、子供ってそんなに珍しいんすか?」
ミツキが、言葉を選びながら頷いた。
「はい……。ほとんど見ません。
それに……出生申請クエスト、というものが……」
「嫌すぎる名前だな、それ!」
俺が反射でツッコミを入れると、ミツキは少しだけ救われた顔をした。
「……嫌です。本当に」
イツキは軽く笑って流そうとしたが、その笑いが途切れた。
「……白磁さん」
「はい」
「さっきのログ欠損の話。今の“子供”って単語――」
言いかけたとき、酒場の隅で「くすり」と笑う気配がした。
誰かがいた気がする。
でも、席には誰も増えていない。
ガロが一瞬だけ、そっちを見た。
ミーナが眉をひそめる。
シンは気づかないふりをした。
イツキは、何も言わずに指を立てた。
「……奥、行こ。ここだと、話が増える」
「増えるのは情報だけにしてくれ。腰は増やすな」
「腰は増えないでしょ」
「痛みは増える!」
奥の小部屋――簡易の確認スペースは、酒場の喧騒から切り離されていた。
壁一面の端末と、紙の帳簿。古いのと新しいのが混ざっている。
ヨシが椅子にどっかり座り、腰をさすりながら呻いた。
「……腰が、痛ぇ」
「急に言うな」
「急に痛くなるんだよ。おっさんは」
悔しいが、分かる。
イツキが端末を操作し、ミツキが隣で控える。
さっきのだるさは消えて、仕事の目だ。
「んー……やっぱり。ここ、真っ白」
「真っ白って?」
「この数分間。ダイブの行動ログが存在しない。
“何もしてない”じゃなくて、“記録がない”」
ヨシが眉を寄せる。
「……そこだけ切れてるのか」
「切れてるっていうか、切られてるっていうか。
証明はあるのに、過程がない」
俺は喉が乾くのを感じた。
「……これ、俺が悪いの?」
イツキは軽く首を振る。
「悪いっていうか、変。白磁の初ダイブで、こういうの出ない」
ミツキが小声で言う。
「“回収”系のアラートでは……?」
その単語で、部屋の空気が一段落ちた。
俺は聞き返した。
「回収?」
ヨシが疲れた声で吐き出す。
「……あんまり口にしたくねぇ言葉だな」
「怖い話やめろよ。俺、今腰が弱ってるんだぞ」
「腰はいつも弱ってるだろ」
「やめろ!事実で殴るな!」
イツキが端末から目を離さず言う。
「断言はできない。
でも、さっき酒場で“子供”って単語が出た時――ログのノイズが増えた」
「増えたのかよ……」
「増えた。だから繋がってる可能性がある」
俺は息を吐いた。
「じゃあ、俺は……何に巻き込まれてる?」
その問いに答えたのは、端末でもイツキでもヨシでもなかった。
ぴ、と。
俺の視界の端に、見慣れない光が走った。
「……ん?」
瞬きしても、光は消えない。
視界の上部に、透明なウィンドウが浮かんでいた。
《接続要求》
《観測補助AI:――――》
文字が一度ぶれる。ノイズが走る。
それから、ゆっくりと確定した。
《観測補助AI:ルステラ》
「……は?」
声が漏れた。
イツキが顔を上げる。
「え。今、何か見えた?」
ヨシが目を細める。
「おい。まさか――」
ミツキが息を呑む。
「それって……」
俺が答える前に、視界が“開いた”。
透明なウィンドウが拡大し、中央に――
少女のようなシルエットが映る。輪郭が定まらない。顔も髪もぼやけているのに、そこに“居る”のだけは分かる。しかししばらく見ているとその姿をはっきりと視認することができた。
そして、声が響いた。耳ではなく、頭の内側に。
「――コチラ、観測補助AI。接続ヲ確認シマシタ」
丁寧なのに、単語の一部がカタカナ混じりで、妙に冷たい。
「ワタシハルステラ。本個体ノ観測補助ヲ担当シマス」
「担当って……いや待て待て待て!」
俺は慌てて両手を振った。
「俺、何も申し込んでない!サブスクなら解約したい!あと腰が――」
「発話内容ヲ確認。冗談ト推定。
回答:解約ハ不可。腰痛ハ観測対象外」
「腰痛は観測しろよ!四十二歳のリアルだぞ!」
イツキが、唖然とした顔で俺を見る。
「……あんた、誰と喋ってんの」
「見えてないの!?そこに!かわいいツインテの女の子が!」
「見えてない」
ヨシが短く言った。
「……見えてないが、“来た”な」
ルステラの声が続く。
「該当ログニ欠損ガ存在シマス。原因ハ推定可能。
欠損ハ、子供《》ノ記録ト干渉シテイマス」
俺の心臓が、一拍遅れて跳ねた。
「……子供?」
「肯定。子供《》ハノイズ。
――訂正。アナタニ反応スル可能性」
「反応って……何が」
ルステラの輪郭が、ほんの少しだけ近づいた気がした。
モザイクの奥で、目が合ったような錯覚。
「アナタは“例外”デス。分類不能。
観測優先度ヲ上昇。
――今後、通知ヲ許可シテクダサイ」
「許可って、選択肢あるのか?」
「形式上ハ、存在シマス」
「形式上って言った!」
俺が叫んだ瞬間、ルステラは何事もなかったみたいに言った。
「説明シマス。ステータス表示ヲ開キマスカ」
「……開くって、なにを」
「アナタノ現在値デス。確認ハ推奨。拒否ハ可能」
「可能なんだな?」
「形式上ハ、可能デス」
「おい!」
次の瞬間。
視界が“割れた”。
透明なウィンドウが幾重にも重なり、現実の景色の上に、もう一つの現実が貼り付く。
《STATUS OPEN》
俺の名前――いや、俺の“識別子”が、まだ確定しないまま表示される。
《STATUS OPEN》
識別名:???(等級|とうきゅう:白磁|はくじ)
LV:2
HP:32 / 32
MP:10 / 10
ST:11 / 11
所持金: 860G
SAN:78 / 100
カルマ:-3(監視補正:+1)
総合評価スコア:D
(安定性:C / 適応性:B / 生存率:B)
状態:
・腰痛:軽度(※自己申告)
・疲労:中
・観測:ON
ログ:
・記録欠損:00:03:12
・観測対象:要注意
「……出た」
思わず呟いた。なろうとかでよく見る例のアレだ。
ミツキが不安そうに俺の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫ですか……?」
「いや、えーと……大丈夫って言いたいんだけどさ」
俺は画面を指差したい衝動を堪える。
「腰痛、自己申告って何。そこ拾うの、優しさの方向おかしいだろ」
「腰痛ハ参考値デス」
「参考値でいいから治してくれ」
ルステラは淡々と、指示を落とす。
「SAN値ハ精神安定度。低下傾向。休息ヲ推奨」
「休みたい! 休みたいけど今それどころじゃ――」
「カルマハ、協調度ト観測ノイズ量ノ複合値デス」
俺は眉をひそめた。
「……協調度?」
「システム規約ニ対スル協調性。
および、観測データニ混入スルノイズ量。
現在、軽度マイナス」
「俺、何も悪いことしてないぞ?」
「悪意ノ有無ハ評価外デス」
即答だった。
「そこ即答!?」
ルステラの声は、丁寧で、冷たくて、ぶれない。
「カルマ低下ハ監視優先度ヲ上昇サセマス。
監視補正、適用中」
視界の片隅で、赤い表示がもう一度点滅した。
――《観測対象:要注意》
俺は乾いた笑いを漏らした。
「……なぁ。これ、俺が“見てる”んじゃなくて」
喉が鳴る。
「俺が見られてる《》ってことだよな?」
返事は、すぐ来た。
「肯定。観測ヲ開始シマス」
その声は、まるで“いつからでも出来た”みたいに、自然だった。
ルステラは淡々と告げる。
「観測ヲ開始シマス。
アナタノ欠損ログハ戻りません。
しかし、続きを記録シマス」
視界の隅で、赤い文字が点灯する。
――《観測対象:要注意》
そのまま、世界は静かに――次のページへ滑り落ちた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第2話では、ギルド酒場『るすと』の「日常」と、
その裏にある「監視」の気配を、同じ画面に置くことを意識しました。
登場人物(ざっくり紹介)
ヨシ:ギルドマスター。疲れてる。腰が痛い。
イツキ:受付の姉。軽い口調でド正論、ログ担当。
ミツキ:受付の妹。丁寧で共感型。異常に先に気づくことがある。
常連:ガロ/ミーナ/ノエル/シン(酒場の空気の基準になる人たち)
等級について(重要)
本作の冒険者等級は10段階です。
下から、
白磁→黒曜→鋼鉄→青玉→翠玉→紅玉→銅→銀→金→白金
となります。
なお、等級は「強さの保証」ではなく、ギルド(=システム)から見た総合評価です。
だからこそ、白磁の“結果”が目立つと、記録が先に歪む。
そして最後に名乗った、ルステラ。
彼女(?)の口調は、カタカナ混じりのAI敬語で固定です。
次話から、日常の中に、もっと普通に入り込んできます。
次回、
「観測」が日常に混ざった酒場で、何が起きるのか。
よければ続きもお付き合いください。
2話時点での主人公のステータス
識別名:???(等級|とうきゅう:白磁|はくじ)
LV:2
HP:32 / 32
MP:10 / 10
ST:11 / 11
所持金: 860G
SAN:78 / 100
カルマ:-3(監視補正:+1)
総合評価スコア:D
(安定性:C / 適応性:B / 生存率:B)
状態:
・腰痛:軽度(※自己申告)
・疲労:中
・観測:ON
ログ:
・記録欠損:00:03:12
・観測対象:要注意




