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第206話 神権工廠編01 低熱層の帰還線 ――炉の底には、まだ帰ろうとした誰かの跡が残っていた――

《ルステラ・キャリア》は、最初の神域(しんいき)へ向けて動き出した。

目指すは神権工廠地下炉しんけんこうしょうちかろ、その第一仮アンカー。

そこには、帰ろうとして失敗した誰かの跡が残っていた。

 《ルステラ・キャリア》が地下(ちか)(もぐ)るにつれて、車内の空気はじわじわと重くなっていった。


 窓の外に見えるのは、岩盤(がんばん)と、古い金属管と、赤黒く脈打(みゃくう)つ熱の筋だ。地上の荒野(こうや)とは違う。ここは空がない。風もない。かわりに、どこか遠くで巨大な炉が息をしているような低い音だけが、床下から腹に響いてくる。


 ごうん。ごうん。ごうん。

 まるで、世界の奥で巨大な心臓(しんぞう)が動いているみたいだった。


「......いや、普通に音も気配も怖いなこれ」


 俺は車椅子の肘掛(ひじか)けを握り、右腕神経補助義肢みぎうでしんけいほじょぎしの重さを確かめた。昨日よりは動く。だが、まだ反応(はんのう)が遅い。力を入れすぎれば壊しそうだし、入れなければ動かない。


 紅玉(こうぎょく)正式。


 肩書きだけなら、だいぶ強そうになった。

 だが中身は、まだ病み上がりのおっさん店主である。


【警告:連続戦闘行動を禁止】

【警告:右腕神経補助義肢:同期率不安定】

【警告:無理なツッコミを禁止】


「最後の警告、地下までついてくるのかよ」


 俺がぼやくと、横のルースが淡々(たんたん)と答えた。

「医療制限は環境を選びません」

「嫌な名言みたく言うな」


 その時、後部発電席の方から、()()()()という情けない呼吸音が聞こえてきた。


「アニキ......自分、遠征に同行してるのに、見える景色がペダルと発電計だけっす......これ、冒険というより業務委託案件っす......バイト代でないし......」


 TANISHI-01。


 キャリア後部に設置された、古いゲームセンターの筐体(きょうたい)とエアロバイクを悪魔合体させたような発電席で、タニシが必死にペダルを漕いでいた。


【後部発電席:TANISHI-01 接続中】

【低観測電力:冷却系へ配分】

【帰還アンカー維持補助:有効】

【本人の不満:極高】


「不満までログに出すなっす!心のプライバシーどこ行ってるんすか!」


「おい、出力落ちてるぞ、TANISHI-01」


 カケルが工具箱を抱えたまま、後部へ声を飛ばす。


「コードネームやめて!名前で呼んでほしいっす! 設備名呼びは尊厳(そんげん)が削れる案件っす!」


 そうタニシが言った直後、車内の冷却音が少し弱まった。


【冷却出力:低下】

【原因:TANISHI-01回転数不足】

【車内温度:上昇傾向】


「あ、暑いでござるワン!」


 キャリア待機席のコハクが、白い耳をぴんと立てた。忍犬魔法使い見習いのくせに、こういう時だけ完全に犬っぽく舌が出る。


「はっ、はっ......これは本気で暑いやつでござる......! 結界(けっかい)より先に、コハクの舌が出てしまうワン!」


 ポメ子は水槽席の中で、両手を広げてぐったりしていた。


「ちょっと! このままだとポメ子、蒸発(じょうはつ)してしまうわ! ダーリンの前で干物になる予定はないのだけれど!?」


「ダーリン呼びは冷却対象外です」


 キャリア全体に薄く広がったルステラの光が、静かに返す。


「正妻AI冷たいわ! でも空調は冷たくない!」


 ヘラクレスはなぜか腕を組み、汗を光らせながら堂々としていた。


「ハッハッハ! 脂肪(しぼう)燃焼(ねんしょう)させるのは気合と筋肉だ!」


「筋肉で冷房は動かないアル!」


 (はり)のような補助フレームに座っていたムーニャンが、しっぽを揺らしながらツッコむ。


「いや、今回はタニシの筋肉で動いてるんだぞ?」


 俺がぼそりと言うと、キャリア内の視線が一斉に後部発電席へ集まった。


「もっと漕げ、タニシ!」

「暑いでござるワン! 忍犬、溶けるでござる!」

「漕ぎなさい! ポメ子がスープになる前に!」


「自分、扱いが完全に空調設備っすううううう!てかこれ、イジメでは!?!?」


 タニシは泣きそうな声を出しながら、必死にペダルを踏む。だが、疲労(ひろう)のせいか回転は鈍い。


【TANISHI-01:出力不足】

【冷却補助:低下】

【車内温度:さらに上昇】


 暑さに耐えかねたコハクが、首元の留め具を少しだけ(ゆる)めた。


 戦闘服の襟が開き、汗ばんだ胸元に風を入れる。白い耳は熱でぴくぴく動き、頬は赤い。本人はただ暑さを逃がしているだけなのだろうが、忍犬としては少々、いやかなり無防備だった。


「うう......すまぬでござる、ちょっとだけ......暑くて......」


 その瞬間。


【TANISHI-01:回転数急上昇】

【低観測電力:増加】

【冷却補助:急速回復】

【車内温度:低下開始】


「急に出力が上がりました」


 ルースが真顔で言った。俺は顔を手で覆った。

「理由は聞くな......」


 俺は即座に言った。

 だが、通信越しにイツキの声が入る。


『最低だけど、今回は許す。冷却落ちたら全員焼けるから』


 続いて、ミーナの声も入った。

『タニシ、あとで説教。今はとにかく漕げ』


「全然許されてないっす! 猶予(ゆうよ)されただけっす!」


 コハクは慌てて襟元を押さえた。


「ひっ!?タニシ殿!? こっち見ないで漕ぐでござるワン!」

「見てないっす! 自分、心の目で冷却してるだけっす!」

「それが最低だって言われてるんだよ!」

 俺のツッコミと同時に、キャリア内の冷却音が一気に強まった。


【冷却補助:安定】

【ステラ・ステルス補助:維持】

【帰還アンカー維持:継続】


 ルステラが静かに告げる。


「TANISHI-01、出力良好です」

「この褒められ方、人生で一番うれしくないっす!」


 ポメ子は水槽席で涼しげに息を吐いた。

「ふう......命拾いしたわ。タニシ、最低だけど役に立ったわね」

「ポメ子殿まで最低って言うの、マジ無理っす!」


 ヘラクレスが大きく笑う。

「ハッハッハ! 煩悩(ぼんのう)もまた燃料! 脂肪を燃やせ、タニシ!」


「そのまとめ方、絶対よくないっす!」


 コハクは赤くなった顔を両手で隠しながら、尻尾だけは暑さでへにゃりと垂れていた。


「うう......忍犬として、不覚でござるワン......」


 ムーニャンが半目で言う。

「犬、今度は空調兵器になったネ」

「なってないでござるワン!」


 俺は頭を抱えた。

「神域遠征の冷却システムが、こんな最低な燃料で動いてていいのか......?」


 ルースが真顔で答える。

「でも、観測度上昇はありません」

「確かに。そこが一番腹立つけど、な」


 笑いは起きた。

 だが、その笑いはすぐに薄れていった。


 アオイが、地図卓の細い線に視線を落としていたからだ。


「......第一アンカー、近い......です」


【発言補助:第一仮アンカー、低熱層に接近しています】


 窓の外の岩盤(がんばん)が途切れ、黒い空洞が見えた。


 そこは、自然にできた洞窟ではなかった。


 壁に埋め込まれた冷却管。

 床を走る焦げたレール。

 天井から垂れ下がった修復アームの残骸(ざんがい)

 ところどころ、金属板に古いログのようなものが焼き付いている。


【冷却不足】

【修復待機】

【部品照合中】

【帰還処理:保留】


 その文字列が、()がれた皮膚のように壁へ残っていた。


 《ルステラ・キャリア》が、低い音を立てて停止する。


【第一仮アンカー:低熱層】

【接続:仮成立】

【外気温:高】

【金属粉塵:検出】

【自動修復系:断続起動】


「低熱層、到着です」


 ルステラの声は落ち着いていた。

 だが、キャリア全体に広がる光は、いつもよりわずかに強い。彼女は俺の隣だけではなく、キャリアの冷却、ステラのステルス補助、帰還アンカーの維持に演算(えんざん)を分けている。


「ルステラ、無理すんなよ」

「それは私の台詞です、マスター」

「言うと思った」


 ステラは薄い光の膜に包まれ、キャリア待機席から不安そうにこちらを見ていた。


「ぱーぱ、いってらっしゃい」

「ああ。ちゃんと戻るからね」


 俺は炉内突入組へ視線を向ける。


 ルース。

 アオイ。

 カケル。

 ツグミ。

 ナツ。

 ムーニャン。


 俺を含めて七人。

 キャリアの扉が開くと、鉄と焦げ油の匂いが一気に流れ込んできた。


 思わず鼻の奥が痛くなる。熱いだけではない。古い機械油が腐ったような、焼けた髪にも似た、嫌な匂いが混じっている。


「鍛冶場というより、工場の残骸、死体といってもいいな」


 俺が言うと、カケルは壁の修復アームを見上げて、低く答えた。


「死んでるならまだいい。問題は、これがまだ動いてることだ」


 ルースが周囲を解析する。


【旧神権工廠:低熱層】

【稼働率:2.7%】

【冷却管:一部生存】

【自動修復系:断続起動】

【警告:炉心側から不明ログ流入】


 ツグミが空気を嗅ぎ、顔をしかめた。


「鉄、焦げ油、古い水。食材持ち込むには bad air(バッド・エア) やね」

「また英語」

「悪い空気より、bad air(バッド・エア) の方が短いやろ」

「だから短ければいいわけじゃないって昨日から言ってるよね」


 その時だった。

 俺の右腕が、勝手に震えた。


 ぎし、と義肢の関節がわずかに鳴る。

 指が、俺の意思より半拍早く曲がった。


【右腕神経補助義肢:外部修復波形を検出】

【同期率:一時低下】

【警告:自動修復信号との干渉】


「うわ、今、勝手に動きかけたぞ、この義手」


 ナツがすぐに俺の前へ出る。


「マスター、下がってくださいッス!」


「頼む。今の俺、盾にするにはちょっと修理費が高くつくぜ」

「先輩、軽口言えるなら大丈夫そうッスね!」

「軽口も医療制限対象らしくてな......」


 カケルが俺の右腕に近づき、外装の細い隙間を(のぞ)き込む。


「ここ、義肢部品と相性が悪いな。いや、悪いっていうか......向こうが直そうとしてくる」


「頼んでない修理とか怖すぎだな?」


 ルースがログを重ねる。


「工廠側の自動修復信号が、マスターの右腕を“未完了修復対象”として誤認(ごにん)した可能性があります」


「俺もこの炉から見たら、壊れた部品扱いか」


 冗談のつもりで言った。

 だが、誰も笑わなかった。


 アオイが、壁際で足を止める。


「......ここ、誰か......戻ろうとした」


【発言補助:ここで誰かが帰還経路を起動しようとしています】


 彼女の小さな指が、壁に焼き付いた古いビーコン(こん)を示した。


 焦げた円。

 ひび割れた符号(ふごう)

 その中央に、薄いログが残っている。


【帰還申請:失敗】

【冷却不足】

【対象:修復待機】

【帰還優先度:却下】

【再分類:部品候補】


「帰還優先度、却下......?」


 俺の声が、自分でも少し低くなったのが分かった。


 アオイは、フクロウ外套の奥で小さく震えた。


「......帰るより、直す方を......優先された」


【発言補助:帰還よりも修復処理が優先されています】


 ツグミが、珍しく黙った。


 それから、ぽつりと言う。


「食べる人を見ん料理と同じや。形だけ整えても、戻る場所がなきゃただの加工や」


 カケルが奥の通路を見る。


「ここ、鍛冶場じゃねぇ。修理工場でもねぇ」


「じゃあ何だ」


「壊れたものを“帰す前に直す”場所だ。たぶん、直し方が狂ってる」


 その瞬間、奥から金属音がした。


 かしゃ。

 かしゃかしゃ。

 こり、こり、こり。


 小さな音が、いくつも重なる。

 暗がりの中から、何かが()い出してきた。

 最初は、虫、それも蜘蛛のように見えた。


 だが、違うようだ。


 脚は六本ではなく、八本でもない。折れた工具、細い注射針、錆びたピンセット、焼けたドリルの先端が、節足動物の脚のようにつぎはぎされている。背中には小さな炉のような赤い腹部があり、その腹の中で細かい歯車がぬらぬらと回っていた。


 頭に見える部分には、目がない。

 代わりに、丸い照合孔(しょうごうこう)がいくつもあり、そこから白い検査光(けんさこう)がちかちかと漏れている。


 そして、気持ち悪いのはそこからだった。


 それは床に落ちていた小さな金属片を拾うと、腹部の隙間に押し込み、ぎゅり、と噛み砕いた。次に、壁の焦げたビーコン痕へ近づき、まるで傷口を舐める虫のように、焼けたログの縁を削り始めた。


 削る。

 集める。

 照合する。

 足りない部分を、ほかから持ってくる。


 それは修理というより、死体から使える骨を拾う動きに近かった。


「......うっわ」


 ナツが本気で嫌そうな声を出した。


 ムーニャンが配管の上に飛び乗る。


「虫なのに工具持ってるアル! 絵面がサイテーすぎて嫌ニャ!」


 ルースがログを出す。


【小型自動修復機:接近】

【仮称:修復虫(リペアバグ)

【敵性判定:未確定】

【警告:義肢部品への接触を回避してください】


 修復虫(リペアバグ)の照合孔が、こちらを向いた。


 ちか。

 ちかちか。ぱっぱっ。


 白い光が、俺の右腕に当たる。


【照合中】

【未完了修復対象:検出】

【素材不足:補填候補あり】


「素材不足って何だよ」


 修復虫の腹部が開いた。


 中から出てきたのは、細いワイヤーと、小さな丸鋸(まるのこ)と、骨を削るような歯の列だった。


 それが、俺の右腕へ向かって飛びかかってくる。


「マスター!」


 挿絵(By みてみん)


ナツの槍が、横から修復虫を素早く弾いた。


 金属の脚が床に散り、赤い腹部が一瞬ひしゃげる。だが、潰れたはずの脚が、周囲の破片を拾ってその場で組み直されていく。


「こいつ、気持ち悪い虫っすね! 壊したそばから自分を直してますよ!」


 ナツが叫ぶ。


 修復虫は、折れた脚の代わりに床の釘を拾い、自分の関節へ差し込んだ。左右で長さの違う脚になり、びくびくと不規則に跳ねながら、それでもこちらへ近づいてくる。


 かしゃ。

 こり。

 ぎちぎち。


 生き物ではない。

 だが、生き物より嫌な動きをする。


「壊すな! 一体は捕まえたい!あとで解析する!!」


 カケルが叫んだ。


「また言ったな! お前すぐ拾う癖やめろよ!!」

「サンプルだ! こういうのは構造を見ねぇと対策できねぇ!」


 ツグミが包丁ではなく、携帯用の長い金串を構えた。


「食えんよ、それ」

「いやいや、なんでも食う発想をするな!」

「確認は大事やけんが――」


 ムーニャンが上から飛び降り、修復虫の背中に布をかぶせた。


「捕獲するなら、包むヨロシ!」


 しかし、布の中で修復虫が暴れる。

 中から、じゃりじゃりと嫌な音がした。


「こいつぅ、布、食ってるネ!」


 布が内側から細かく削られていく。

 修復虫は布の繊維まで部品候補として取り込もうとしていた。


「布まで修理材料扱いかよ!」


 俺が右腕を動かそうとした瞬間、義肢がまた勝手に反応する。


【右腕神経補助義肢:同期率低下】

【警告:戦闘行動を制限してください】

【外部修復信号:接近】


「くそっ」


 ナツが俺の前へもう一歩出た。


「マスター、今回は私が前ッスよ」

「頼む。今の俺、敵より先に医療ログに負けてるわ」

「じゃあ、ログに怒られない位置にいてくださいッス!」


 ナツが槍を回し、修復虫を壁際へ弾く。

 ムーニャンが上から落とした金属網が、修復虫の脚を絡め取った。


 カケルがすぐに駆け寄り、工具で腹部の赤い炉を押さえる。


「よし、サンプル確保だ!」

 カケルはとても嬉しそうな顔をする。


「お前、宝箱開けたみたいな顔するなよ」


 修復虫は網の中でまだ動いていた。


 こり。

 こりこり。

 こり、こり、こり。


 壊れても、削れても、組み直そうとする。

 その必死さだけは、生き物に似ている。


 だが、そこに意思があるようには見えない。

 “直せ”という命令だけが、腐ったまま残っている。

 そんな感じだった。


 俺たちは修復虫の群れを避けながら、低熱層の奥へ進んだ。

 やがて、開けた区画に出る。

 そこには、台が並んでいた。


 人間が横になれる大きさの、古い修復待機台だ。

 誰も寝ていない。

 だが、空ではなかった。


 焦げた冒険者タグ。

 欠けた義肢片。

 子供用サイズの金属補助具。

 焼けて読めなくなった名前札。

 半分だけ溶けた靴の金具。


 帰る前に、ここで止められた誰かの痕跡(こんせき)が、静かに残っていた。


 ルースのログが、低く表示される。


【修復待機台:旧式】

【対象分類:人間/義肢/労働端末/不明】

【帰還処理ログ:欠落】

【部品化処理ログ:一部残存】


 カケルが、言葉を失ったように立ち尽くした。


「ここ......修理する場所じゃねぇ。帰れなかったやつを、次に使う部品に変えてたのかもしれねぇぞ......」


 アオイが震える。


「......帰り道、ここで......切れてます」

【発言補助:帰還経路の一部が、この区画で切断されています】


 胸の奥が、急速にしん、と冷えていった――。

 熱い場所のはずなのに、とても寒い。


 俺は右腕を握った。

 義肢が、ぎし、と遅れて鳴る。


「修復と保護は似てる。でも、同じじゃない」


 ルステラが前に言った言葉が、頭の中で響いた。


 その時、奥の壁に古いログが点灯した。


【修復命令:継続】

【帰還不能対象:再分類】

【人間ログ:部品化禁止項目......破損】

【FORGE-CORE:部分起動】

【未完了修復対象:検出】


 次の瞬間、俺の右腕が強く震えた。


【未完了修復対象:NO NAME】

【右腕神経補助義肢:照合】

【修復炉への誘導を開始】


「......俺を、修理対象にしたのか?」


 低熱層の奥で、巨大な炉の音が一度だけ鳴る。


 ごうん。


 アオイが、顔を青くして呟いた。


「......奥から、呼んでます」

【発言補助:炉心側から、マスターを呼んでいます】


 神権工廠地下炉しんけんこうしょうちかろは、俺たちを敵としてではなく、“壊れた部品”として認識し始めていた。

■ 今回のお話について


第206話は、神権工廠地下炉の第一地点、低熱層に到着する回でした。


今回はいきなりボス戦ではなく、この神域のルールを見せる回です。

神権工廠は、壊れたものを直す場所です。

けれど、その“直す”が、本人の意思や帰る場所を無視したものなら、それは保護ではなく部品化に近いものになります。


TANISHI-01は本店ではなく、《ルステラ・キャリア》後部発電席に搭乗しています。

低観測電力で冷却と帰還アンカーを支える重要設備です。

本人の尊厳は、まあ、だいぶ削れています。


■ ゲーマーおっさん解説


今回は、ダンジョン到着直後の“チュートリアル敵”回です。


いきなりボスではなく、小型敵や環境ギミックで、そのダンジョンのルールを覚えさせる構造。

『ロックマン』や『メトロイド』で、最初のエリアにそのステージ特有のギミックが出る感じです。


修復虫(リペアバグ)は、倒す敵というより「この場所が何をする施設なのか」を読者に見せるための敵です。

攻撃してくるのではなく、修理しようとして削ってくる。

そこが気持ち悪いポイントです。


■ 登場キャラクター紹介


■ ナツ

炉内突入組の前衛。

マスターがまだ無理できないため、今回は前に立つ役割が強い。

修復虫(リペアバグ)からマスターを守る。


■ ムーニャン

高所移動と偵察担当。

低熱層の配管や梁を使って、修復虫を上から牽制する。

猫舌対応食も必要な猫枠。


■ カケル

修復虫をサンプルとして回収する技術担当。

工廠の異常に気づき、「修理」と「部品化」の違いに反応する。


■ コハク

キャリア待機組。

暑さに弱く、忍犬らしく舌が出る。

今回はTANISHI-01の出力向上に、よくも悪くも貢献した。


■ タニシ

《ルステラ・キャリア》後部発電席でTANISHI-01を漕ぐ。

本店残留ではなく、キャリア搭乗の後方支援。

低観測電力で冷却と帰還アンカー維持に貢献している。


■ ルステラ

キャリア冷却とステラのステルス補助を継続。

マスターとの接続は維持しているが、直接随伴出力は一時低下中。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:紅玉(こうぎょく)正式

状態:神権工廠地下炉・低熱層到着/右腕義肢干渉あり

所持品:冒険者タグ、サイバネ補助手袋、各種遠征装備、ルステラ接続権限

装備:右腕神経補助義肢、心肺補助コア、旅装、簡易防具

同行中:ルース、アオイ、カケル、ツグミ、ナツ、ムーニャン

支援中:ルステラ、ステラ、コハク、タニシ、ヘラクレス、ポメ子

危険度:高

観測度:抑制中

備考:神権工廠側から“未完了修復対象”として認識され始めている。


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