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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章 AI神権戦争編

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第204話 神域遠征準備編04 鉄鍋のツグミ、厨房に帰る ――移動する酒場に、料理人が乗らない理由はない――

地図にない場所は、ただの空白ではなかった。

けれど、遠征には道案内だけでは足りない。

酒場が旅をするなら、厨房も旅をしなければならない。

 多層地図卓(たそうちずたく)の上に、青白い光が浮かんでいた。


 ギルド酒場(るすと)の奥。作戦卓として使われている丸テーブルの中央に、地表、空中層(くうちゅうそう)地下層(ちかそう)海域層(かいいきそう)情報層(じょうほうそう)が重なった半透明(はんとうめい)の地図が展開されている。


 ただし、そこに映っているのは、きれいな地図ではない。


 空白。いや、空白に見えるだけの、ざらついたノイズだった。


 遠見(とおみ)のアオイは、フクロウ型の案内外套(あんないがいとう)に半分ほど埋もれるようにして、地図卓の端に立っている。大きなフードの影から(のぞ)く目だけが、静かに光っていた。


「......ここ、空白......じゃ、ないです」

【発言補助:ここは空白ではありません。消されているだけです】


 マスターは腕を組んだまま、苦い顔でその文字を見た。

「消されているだけ、って言われてもな。十分怖いんだが」


 ルースは地図卓に片手を添え、無表情でログを追っている。


【旧補給線ログ:断片検出】

【帰還経路:未照合】

【対象領域:通常地図から削除済み】

【危険度:算出不能】


「過去に経路が存在した形跡があります。ただし、現在の地図から意図的に除去されています」


 ステラは、地図の青白い光を見つめていた。いつもの甘えた表情ではなく、少しだけ不安そうに、自分の袖を握っている。


「ここ、なんか……さみしい。名前、消されちゃった場所みたい」


 その言葉に、地図卓の光が一度だけ揺れた。

 直後、別のログが重なる。


照合(マッチ)補助を開始】

【ルステラ管理権限:起動】

【長期遠征準備を推奨します】


 声は、はっきりしていた。


 もう、ノイズ混じりの断片ではない。

 ルースとステラの後ろ、青白い粒子(りゅうし)の光の中に、完全復活したルステラが静かに立っている。守護AIとしての輪郭(りんかく)は、以前よりもずっと安定していた。


「マスター。現在の《ルステラ・キャリア》設備では、この領域への長期遠征継続率ちょうきえんせいけいぞくりつが不足しています」


「長期遠征って、具体的に何がいるんだ?」


 答えたのは、ルステラではなく、帳簿を抱えたイツキだった。


 派手なネイルの指先で帳簿をぱん、と叩く。

「飯。水。燃料。保存食。酒。あと、マスターの料理禁止令」

「最後のだけ俺への攻撃じゃねぇか」

「事実じゃん」


 イツキの返答は軽い。

 だが、横でミツキまで目を逸らしたあたり、判定はかなり重い。


「いや待て。俺だってカップ麺くらいは作れる」


「ぱーぱ」


 ステラが、おずおずと手を挙げる。

「ぱーぱのごはん、たまに、敵みたいなにおいする」

「実の娘ポジションから言われると心に来るな、それ」


 ルースが追撃するようにログを出した。

【料理技能評価:危険】

【過去事例:焦げた保存肉/溶けた鍋底/名称不明スープ】

【推奨:厨房担当者の確保】


「名称不明スープはやめろ。あれは味噌汁を目指した何かだ」

「目指して到達できなかった時点で、名称不明です」

「ルース、お前も最近ツッコミが鋭くなったな」


 さらに、テーブルの隅で自分の腹を撫でていたタニシが、余計なことを言った。


「アニキの料理、バグ敵より精神攻撃力高いっすからね」

「お前、今日の自転車発電二倍な」

「急に労働刑っすか!?」


 笑いが起きる。


 その笑いを薄く破るように、ミーナがカウンターの奥から顔を上げた。

「……そろそろ帰ってくる頃じゃない?」

「誰が?」


 マスターが聞き返すと、ミーナは厨房(ちゅうぼう)の裏口を見た。


「さっき言ってた。鉄鍋(てつなべ)


 その単語に、イツキが「あー」と嫌そうな顔をした。


「在庫表を増やす女が帰ってくるわけね」

「それ褒めてるのか?」

「事務処理的には悪夢級」


 ミツキだけが、少し嬉しそうに微笑んだ。


「でも、遠征には一番向いている方です」


 その時だった。

 厨房の裏口が、ぎい、と低く鳴った。


 砂塵(さじん)の匂い。

 焦げた香辛料。

 発酵樽(はっこうだる)の酸っぱい香り。

 それから、鉄鍋を長く火にかけた時の、(すす)と油の匂い。


 それら全部をまとって、一人の女が入ってきた。



 灰褐色(はいかっしょく)の肌。

 銀灰色の髪。長めの耳。

 煤けた外套(がいとう)の下には、革の前掛けと旅用の調理道具。腰には包丁、背には大鍋、肩からは香辛料の小瓶と乾燥肉の束がぶら下がっている。


 ギャルではない。

 華やかでもない。

 ()発酵蔵(はっこうぐら)荒野(こうや)を、そのまま女の形にしたような雰囲気だった。


 女は厨房を一目見て、短く言った。


「……ただいま~。厨房、生きとる?」


「ツグミさん!」


 ミツキがぱっと顔を明るくする。

 イツキは帳簿を抱え直し、心底嫌そうに笑った。


「うわ、帰ってきた。冷蔵棚と保存瓶の数を勝手に増やす女」

「増やしたんやない。必要やけん、勝手に生えてきたとよ」

「わけのわからん言い訳するな」


 マスターはそのやり取りを見て、眉を上げた。


「知り合いか?」


 女はこちらを見た。

 鋭い目だが、敵意はない。むしろ最初から厨房の火加減を見ているような、淡々(たんたん)とした観察だった。


「うち、ツグミ。厨房見るわ」

「自己紹介が短いな」

「料理人は、長く喋る前に火を見るんよ」

「かっこいいこと言ってる気がするけど、初対面の情報量としては何も足りないぞ」


 ツグミは気にした様子もなく、《ルステラ・キャリア》の厨房区画へ入っていった。


 そして数分後。

 キャリア内部に、低い声が響く。


「保存庫、甘いわ」


 カケルが工具を持ったまま振り返る。

「おい、そこはまだ仮組みだぞ」


「水も足りん」

「だから今増設予定で――」

「発酵樽、固定が weakや」

「急に英語混ぜるな」


 マスターが思わずツッコんだ。


 ツグミは平然としている。


「weak は weak やけん」

「関西と九州と英語が同じ鍋で煮込まれてるぞ」

「煮込めば、だいたいなんでも旨くなる」

「言語は煮込むなよ!」


 タニシが小声で頷いた。

「アニキ、これ、方言のミックスジュースでござるな」

「お前が言うと急に不快度が上がるから黙ってろ」


 ツグミは棚を開け、保存肉の束をつまみ上げた。


「これ、魔物肉と子供用スープ素材、同じ棚に置いとる?」

「仮置きだって言ったろ」

「仮置きで腹壊したら、()()()()()()

「急に正論!」


 マスターが呟くと、ツグミは今度は廃棄物箱(はいきぶつばこ)を覗いた。


「この廃棄物、燃料に回せる。捨てるの、もったいなか」

「そこは俺も考えてた」


 カケルが少しだけ嬉しそうに胸を張る。

「バイオ燃料系だろ? ごみ由来でキャリアの補助燃料に回す。あと電力はバッテリーと自家発電――」

「でも、油分と水分の分離が rough」

「また英語!」

「rough は rough や」

「もう厨房じゃなくて英会話教室なのか?」


 ツグミは真顔で返す。

「火力、保存、水、発酵、燃料。全部、言葉より正直やけん」

「今のはちょっと良いこと言ったな」


 しかし、ツグミの確認は終わらない。

「水タンク、増設。保存棚、倍。発酵樽、固定。燻製器(くんせいき)、いる。子供用の低刺激スープ鍋、別にする。あと燃料転用箱と、油分離器。包丁は予備三本。鍋は……」


「待て待て待てい!」

 マスターは思わず手を上げた。


「それ、全部やるといくらかかるんだ?」


 空気が止まった。

 イツキが、にこりともせず帳簿を開く。


「は~い、来ました。冒険より怖い話。現実っていうホラー!」

「金の話をホラー扱いするな」

「ホラーでしょ。数字は嘘つかないし、請求書は逃げない、逃がしてくれない。ある意味Z.E.U.S(神様)よりタチ悪い」


 カケルが工具を肩に担いで、少しだけ顔を()らした。

「えーとな、部品代は……まあ、それなりに」

「“それなり”って、だいたい高い時の言い方だよな?」

「七割くらいは現地素材でいける......はず」

「残り三割が怖すぎだろ」

「そこにベットするしかねぇ!!」

「お前のベット、毎回こっちの財布から出てないか?」


 イツキが帳簿の端を指で叩いた。

「一応、言っておくけど。今の《るすと》は金がないわけじゃないからね」

「ならいいじゃねぇか」

「マジ、なんもよくないのよ」


 即答だった。

 イツキは端末を操作し、半透明の会計ログを表示する。


【累積クエスト報酬:保有】

【素材売却益:保有】

【救助・ノード関連特別報酬:一部保留】

【Z.E.U.Sコイン使用:非推奨】


「問題は、ゼウス・コインを使うと観測(かんそく)が上がること」


 ルースが淡々と補足する。


「Z.E.U.S管理通貨は、決済経路、使用地点、使用者、用途が記録されます。大量使用、連続使用、遠征用物資の集中購入は、監査対象になりやすいです」


「つまり、金はあるけど、使うとバレる?」

「はい」


 ステラが小さく首を(かし)げる。

「お金、こっそり使えないの?」


 イツキが苦い顔で笑う。


「ゼウス・コインは無理。神権AIの家計簿に、こっちの買い物がぜんぶ載る感じ」

「最悪の家計簿だな」


 マスターは顔をしかめた。


「じゃあ、どうすんだよ。現金払いとか、地域通貨とかあるだろ確か」

「そうだね、ある」


 イツキは指を三本立てた。

「地域トークン、フリーコイン、物々交換」

「急に闇市感が出たな」

「実際、半分闇市みたいなもんだし」


 ツグミが保存瓶を棚に戻しながら、平然と言う。

「辺境は、味噌より信用の方が腐りやすいけんね」

「また変な名言出た」

「金があっても、使い方間違えたら足跡が残る。足跡が残ったら、神様の犬が()ぎに来る」

「そこは分かりやすいな」


 ルステラが静かに頷いた。


確認(コンファーム)

【Z.E.U.S管理通貨の大量使用は非推奨】

【代替案:地域トークン/フリーコイン/物々交換/現地素材調達】

【推奨:購入記録の分散】


 マスターは腕を組んだ。

「金に困ってるわけじゃない。でも、使える金が限られる。つまり……」


 イツキが帳簿を閉じた。

「予算はあるけど、表のカードが切れない」

「飲食店の設備投資で一番嫌なやつだな」

「だから、現地調達。素材回収。物々交換。あと、ツグミの毒抜きとカケルの無茶改造」


 カケルが親指を立てる。


「七割にベットだ」


 ツグミも頷く。


「残り三割は、飯で黙らせる」

「その三割、誰を黙らせる想定なんだよ」


 タニシが恐る恐る手を挙げた。

「アニキ、拙者、自転車発電で返済労働とかあります?」


 イツキが即答する。


「ある」


「聞かなきゃよかったでござる!」


 マスターは深く息を吐いた。


 金はある。

 だが、使えば見つかる。

 見つかれば、Z.E.U.Sの監査が近づく。


 だから、この遠征は財布の問題ではない。


 どこで買うか。

 何で払うか。

 何を現地で拾い、何を食材にし、何を燃料に回すか。


 生き延びるための会計まで、神域遠征の一部なのだ。


「……冒険って、もっと剣と魔法の話じゃなかったか?」


 マスターがぼやくと、イツキが肩をすくめた。


「現実の冒険は、だいたい予算と在庫と領収書だよ」

「急に社長の胃が痛くなること言うな」


 ツグミは、空の保存棚を見上げて笑った。

「なら、ちょうどよか。金を使わず、味を増やす。料理人の腕の見せどころやね」

「最後だけかっこいいな」

「厨房は、low cost high flavor が基本やけん」

「また英語混ぜた!」

「低予算高火力、や」

「訳したら急に居酒屋経営みたいになったな!」


 場に笑いが戻る。

 だが、地図卓の空白は消えない。


 金があるだけでは、そこへは行けない。

 金を使うだけでは、そこからは帰れない。


 だから《るすと》は、帳簿と鍋と地図を並べて、神域遠征の準備を始めることになった。


 ――その、はずだった。


「……で」


 ツグミが、急に厨房の方を見た。


「みんな、腹、減っとらん?」

「今この流れでか?」


 マスターが思わず聞き返す。

 ツグミは大鍋を床に下ろし、腰の包丁を抜いた。刃物の音が、かちりと静かに響く。


「金の話した。燃料の話した。保存食の話した。地図の話もした」

「したな」

「なら、次は味見や」

「急に料理番組みたいになったぞ」


 ツグミは保存棚から、半端に余った干し肉、硬くなった黒パン、少し酸味の出た野菜、魔物肉の端材、香辛料の小瓶を取り出した。


 イツキが眉をひそめる。

「それ、今日のまかない用の余りじゃない?」

「余りやない。可能性は無限大や」

「食材を自己啓発っぽく言うな」


 ツグミは聞いていない。

 鍋に水を張り、干し肉を刻み、黒パンを砕く。香辛料を指で(はじ)き、魔物肉の端材を軽く(あぶ)ってから落とす。


 火が入ると、厨房に一気に香りが立った。


 肉。

 焦げた脂。

 香草。

 酸味のある野菜。

 少しだけ甘い、発酵した何か。


 それらが鍋の中で混ざり、酒場の空気を変えていく。


「おっしゃ」


 ツグミが、鍋をかき混ぜながら笑った。


「じゃあワイが、うまいもんでも作るわ」

「ワイなんだ」

「今はワイの気分や」

「一人称まで煮込まれてるのか」

「うまけりゃ、ええ」

「言語のルールに謝れマジで」


 マスターが突っ込んだ直後、酒場の扉が開いた。


「ただいまー! 外周走ってきたっすー!」


 汗を(ぬぐ)いながら戻ってきたのは、ナツだった。槍を肩に担ぎ、頬を少し赤くしている。どうやら鍛錬帰りらしい。


 その鼻が、ぴくりと動いた。


「……なにこの匂い。めっちゃうまそうなんスけど」


 続いて、梁の上から黒い影が降ってくる。


「クンクン。魚ではない。でも肉の気配にゃ!?」


 ムーニャンが着地し、尻尾を揺らした。いつの間にか戻ってきていたらしい。いや、もしかすると最初から梁にいたのかもしれない。


「ムーニャン、匂いで帰還したネ」

「お前は猫か」

「猫アル」

「あ、そうだったわ」


 さらに、外からコハクが顔を覗かせる。白い耳がぴんと立ち、鼻先が完全に厨房へ向いていた。


「ご主人様!この匂い、訓練後に吸っていいやつでゴザルか!?」

「匂いに許可制あるのか?」

「あるでござる!お腹が本気になるワン!」


 そして最後に、床が少しだけ揺れた。


「ハッハッハ! 素晴らしい香りだ! これは筋肉に良い匂いだな!」


 ヘラクレスが、なぜか上半身の筋肉を光らせながら入ってきた。訓練帰りなのか、戦闘帰りなのか、ただ筋肉を見せたいだけなのかは分からない。


「匂いで筋肉を判断するな」

「マスター! 飯は筋肉の母だぞ!」

「たぶん違うけど、今はもういい」


 気づけば、厨房の前に人が集まっていた。


 ナツが鍋を覗き込み、ムーニャンが梁からさらに近い棚へ移動する。コハクは尻尾をぶんぶん振り、ヘラクレスは腕を組んで無駄に神々しい顔をしている。


 ステラも、ルースの袖を引いて近づいてきた。


「ルース、いいにおい」

「成分分析上、食欲刺激効果が高いです」

「そういう言い方するとおいしくなさそうだよ?」


 ルースは少しだけ考え、言い直した。

「……おいしそうです」


 ステラが満足そうに笑う。

 ルステラはその光景を、静かに見守っていた。


【厨房区画:稼働】

【食欲反応:複数検知】

【精神負荷:微減】

【帰還席周辺の安定度:上昇】


 ツグミが鍋をかき混ぜながら、マスターへ視線を投げる。


「これが、厨房の仕事や」

「飯を作ることか?」

「違う」


 ツグミは、器を並べる。


「帰ってきたやつを、匂いで捕まえること」


 その言葉に、マスターは少しだけ黙った。


 ナツが「大盛り希望!」と手を挙げる。

 ムーニャンが「猫舌対応頼むネ」と言う。

 コハクが「肉多めだとうれしいでゴザル!」と尻尾を振る。

 ヘラクレスが「私は筋肉プロテイン大盛りで!」と意味不明な注文をする。

 タニシが「拙者、発電前の栄養補給を――」と言いかけ、イツキに「発電後ね」と切られる。


 笑い声が、酒場に戻ってくる。


 地図卓には、まだ消された空白が残っている。

 Z.E.U.Sコインは自由に使えない。

 遠征には金も燃料も保存食も足りない。

 向かう先は、神々の管理領域だ。


 問題は何ひとつ解決していない。

 それでも。それでも――だ。


 鍋から立ち上る湯気が、酒場の天井へゆっくり昇っていく。

 疲れて戻ってきた仲間たちが、匂いにつられて集まる。

 誰かが腹を鳴らし、誰かが笑い、誰かが器を並べる。


 マスターは、その光景を見て、ぽつりと呟いた。


「……酒場って、()()()()()()だよな」


 ルステラが、隣で静かに微笑む。

「はい、マスター。帰る場所には、匂いがあります」


 ツグミが、最初の器にまかないをよそった。

「ほら、食べ。腹が落ち着いたら、遠征の話するで」

「会議の前に飯か」

「腹ペコで会議するから、人は間違えるんや」

「それはちょっと分かる」


 マスターは苦笑しながら、器を受け取った。

 神域遠征は、まだ始まっていない。


 けれど《るすと》には、地図がある。

 鍋がある。

 帰ってくる奴らがいる。


 なら、まだ戦える。


 湯気の向こうで、消された空白が、ほんの少しだけ青く揺れた。


【遠征準備:厨房】

【担当:鉄鍋のツグミ】

【状態:火入れ完了】


 移動する酒場(るすと)に、最初のまかないが出た。


挿絵(By みてみん)

■ 今回のお話について


第204話は、神域遠征に必要な“厨房担当”として、鉄鍋(てつなべ)のツグミが帰還する回でした。


地図を読むアオイに対して、ツグミは“味”と“生存”を見るキャラクターです。

これで神域遠征は、ただ戦いに行くだけではなく、食材、酒、保存食、燃料、そして帰ってきた者を迎える匂いまで含めた旅になっていきます。


■ ゲーマーおっさん解説


今回はRPGでいう「遠征前のアイテム整理回」です。


『トルネコの大冒険』や『風来のシレン』系の不思議のダンジョンでは、強い武器だけでなく、食料管理が命に直結します。

パンやおにぎりを軽視すると、強敵に会う前に空腹で詰みます。


ツグミは、そういう“敵より先に腹で死ぬ問題”を担当するキャラです。


■ 登場キャラクター紹介


鉄鍋(てつなべ)のツグミ

《ルステラ・キャリア》の遠征厨房担当。

毒抜き、魔物肉処理、保存食、発酵、酒、燃料転用に強い料理人。

口調は関西・九州・英語が混ざる独特仕様。本人はかなり真面目。


遠見(とおみ)のアオイ

地図読み、帰還経路案内役。

声が小さく、発言補助ログで会話する。

消された道や旧補給線の残響を読む。


■ ルステラ

NODE08までの回収を経て完全復活した守護AI。

現在は《ルステラ・キャリア》の安全承認や管理ログを担当し、ルースとステラを見守る母性AIとして場に参加している。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:|紅玉/(どう)査定候補

状態:神域遠征準備中/サイバネ補助調整中/料理禁止令発令中

所持品:冒険者タグ、サイバネ補助手袋、各種遠征装備、ルステラ接続権限

装備:サイバネ補助義肢、旅装、簡易防具

同行予定:ルース、ステラ、ルステラ、アオイ、ツグミ、カケルほか

危険度:高

観測度:高

備考:料理技能評価は危険。本人は納得していない。


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