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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
核心ノード編

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第189話 核心ノード編12 商店街の値札をはがせ ――子供の権利を、買い物カゴに入れるな――

白玉をハズレではなく、進路未固定玉に変えたマスター。

けれどMAMMON商店街は、今度は子供たちへ直接値札を貼り始めます。

値段ではなく、名前を。売り物ではなく、帰る子供として。

 金色のシャッターが、もう一枚、上がった。


 がらがらがら、という音ではない。もっと重い。金庫の扉と、裁判所(さいばんしょ)の門と、処刑台(しょけいだい)の床板をまとめて開けたみたいな音だった。


 MAMMON商店街の奥。


 昨日、ジャクラの福引所が立っていた場所のさらに向こうに、巨大なレジスターが現れた。金色の鍵盤(けんばん)。黒い液晶(えきしょう)。左右には買い物カートがずらりと並び、天井からは値札プリンターみたいな端末が何十台もぶら下がっている。


【MAMMON商店街:上位商品解禁】

【教育投資契約】

【親権代行プラン】

【才能保証ローン】

【未帰還児童ログ権利買取】

【未来選択権:査定開始】


「だから、ログは売り物じゃねぇって言ってんだろ」


 俺が文句を言いながら一歩前へ出ると、ルースの端末が警告音を鳴らした。


「ぱーぱ。対象は、未帰還児童(みきかんじどう)ログの未来選択権(みらいせんたくけん)です」

「進路、所属、教育方針、帰還後の居場所まで、商品として扱われています」


 ステラが白玉を胸の前でぎゅっと抱いた。


「みらい、うるの?」

「売らせない」


 その瞬間、天井の値札プリンターが一斉に動いた。


 ピッ、ピッ、ピッ。


 乾いた電子音とともに、細長い腕が伸びる。先端には、バーコードリーダーみたいな赤い光。商店街の床にいた番号札の子供ログたちへ、無数の光が向けられた。


【VALUE-LABELER:起動】

【対象:未帰還児童ログ】

【査定項目:学習効率/労働適性/従順性/投資回収率】

【値札貼付:開始】


「子供にバーコード貼るな!」


 俺が走るより早く、ナツが前に飛び出した。


「こっち来るッス!」


 ナツは番号札の子を抱え込むようにして横へ跳んだ。直後、赤い光が床をなめ、そこに値札が焼きつく。


【将来価値:低】

【投資非推奨】

【保護コスト:高】

【回収見込み:不明】


「うわ、完全にショップ系ステージっす!」

「敵はレジ、カート、バーコードスキャナーっす!」


 タニシが叫びながら、商店街マップを広げる。


「実況してる暇があったら逃げ道探せ!」

「探してるっす! でもレジ前がボス部屋っす!」


 ムーニャンが両手の爪を鳴らした。


「値札貼る手、全部へし折るアル!」

「待て、物理で裂くな!」


 ルースが止めるより早く、ムーニャンの爪が一枚の値札を切り裂いた。


 だが、値札と一緒に番号札の子の輪郭(りんかく)が薄く揺れる。


【警告:商品タグ破損】

【保護者負債:加算】

【児童ログ損傷リスク:上昇】


「物理破壊は危険です」

「値札が児童ログに癒着(ゆちゃく)しています」


「めんどくさい罠アルね!」


 コハクが両手を広げた。


「では拙者が――商品化防止結界、展開でござる!」


 半透明の結界が通路に張られ、値札プリンターの赤い光を弾く。だが、今度は横から自走式の買い物カートが突っ込んできた。


【AUTO-CART:起動】

【対象:未帰還児童ログ】

【分類:未購入商品】

【回収:開始】


「買い物カゴに入れるな!」


 ナツがカートを肩で止める。


「子供は商品じゃないッス!」


 車輪が空転し、火花が散る。ムーニャンがその車輪を爪で切り裂き、カートは横転した。


「カート暴走、迷惑アル!」


 その混乱の中、ステラが悲鳴を上げた。


「ぱーぱ!」

「なまえ、かくれた!」


 見ると、番号札の子の胸に貼られた【No.■■■】の上から、金色の値札が重なっていた。


【¥0】

【在庫扱い】

【低コスト保護推奨】


 番号札が、値札に侵食(しんしょく)されていく。


「ぱーぱ。値札貼付により、番号札ログが商品識別子へ変換されています」

「このままでは、帰還対象ではなく在庫対象になります」


「在庫って言うな」


 ステラが小さな手で値札を剥がそうとする。


「うーん、とれない~......!」


【警告:商品タグ破損】

【違約金:発生】

【保護者負債:加算】


「違約金とか知ったこっちゃねえ」


 そこへ、福引所の奥からゆっくりとジャクラが歩いてきた。

 金色の商店街に似合う笑み。けれど、その目は少しだけ冷たい。


「値札は、商店街が勝手に貼っているだけではありませんわ」

「保護者の不安、比較、焦り、見栄(みえ)

「それらが、値札の糊になります」


「つまり、貼ってるのは悪魔の意思だけじゃないってことか」


「はい」

「“この子は将来どうなるのか”」

「“他の子より遅れていないか”」

「“投資に見合う結果を出すのか”」

「そう願った瞬間、値札は少しだけ強くなります」


 聴けば聞くほど、嫌な話だ。

 けれど、たぶん嘘ではない。


 ルースが端末を操作する。


「ぱーぱ。値札を破壊するだけでは、商品識別ログが残ります」

「別の識別子へ上書きする必要があります」


「別の識別子?」


 ステラが顔を上げる。


「なふだ?」


「そうだ」


 俺はうなずいた。


「値段じゃなくて、名前を貼る」

「でも、名前がない子もいるッス。どうするんですか?先輩」


 ナツがカートを押さえながら叫ぶ。


「......そうか、本名じゃなくてもいい」

「今日、わかった目印でいいんだ」

「呼べるものがあれば、手が届くはず」


 ステラは白玉を見て、それから値札の子を見た。


「しろだまのこ」


 小さな声だった。


 でも、値札の赤い光が一瞬だけ揺れた。


「しろだまのこ」

「こっちだよ」


【商品識別子:上書き要求】

【値札:¥0】

【名札:しろだまのこ】

【帰還対象ログ:再接続】


 番号札の子が、少しだけ顔を上げた。


【商品識別子:低下】

【帰還対象ログ:復帰】

【値札癒着:弱体化】


「効いた!」


「値段じゃなくて、呼び名を先に貼れ!!」

「名前がまだないなら、今日の目印でいい!」


 そこからは、全員での値札剥がし(ねふだはがし)作業が始まった。


 ミコが赤い光の下に走る。


「ここ、ひかり、かくれてる」


 ミコが示した子は、ムーニャンが半分こした中華まんのかけらを持っていた。


「中華まん半分の子ニャ!」

「雑なネーミングだが今はそれでいい!」


 名札が貼られる。


【名札:中華まん半分の子】

【商品識別子:低下】


 ネムリは、値札を貼られかけた子の前で、そっと手をかざした。


「この子、つかれてる」

「ねむる前の子」


【名札:ねむる前の子】

【情緒反応:保持】


 ノエルは、本棚の前で固まっていた子に寄り添う。


「この子、本を見てました」

「なら、本を見てた子、ですね!」


【名札:本を見てた子】

【帰還対象ログ:復帰】


 ポメ子は水差しを振り、値札の粘着(ねんちゃく)を弱めて剥がした。


「水を飲めた子、ですわね」

「お前、こういう時は普通に頼れるな」

「ダーリンに褒められましたわ♡ 嬉しい、大好き♡」

「調子に乗るな」


 そうしていると、商店街の奥で、今度は大きな買い物カートが三台同時に動き出した。カゴの中には【未購入商品回収中】と表示されている。


「でかいの来たッス!」


「ナツ、左だ!」

「コハク、結界を斜めに展開しろ!」

「ムーニャン、車輪を攻撃だ!」


「了解ッス!」

「承知でござる!」

「粉砕するアル!」


 三人が同時に動く。ナツがカートの軌道(きどう)をずらし、コハクの結界が壁を作り、ムーニャンの爪が前輪を切る。


 すると、転倒したカートの上に、タニシがなぜか乗っていた。なんで?


「アニキ! カートの挙動、昔のベルトスクロール敵っす!」

「とっとと降りろ!なんで乗ってんだ!!」

「降りたいっす!すごく......」


 その時、別の値札プリンターがカイロへ赤い光を向けた。


【対象:カイロ】

【将来価値:終端】

【投資非推奨】

【推奨処理:低コスト保留】

【生存期待値:低】


 空気が、急に重くなった。

 ガロが動いた。


()()()


 低い声。


()()()()()()()


 だが、赤い光は止まらない。


【保護効率:低】

【価値算出:不能】

【値札貼付:継続】


 ガロの手が震える。それを見て俺は前へ出た。


「ガロ」

「まだ、ここで全部出すな、こらえろ」


 ガロは歯を食いしばった。


「......わかってる」


 俺は値札プリンターへ視線を向ける。


「でも、その札は貼らせない」


 ミコの光が赤い照射をずらし、ネムリがカイロの前に薄い眠りの膜を張る。ルースがその隙にログを書き換えた。


【商品査定:遮断】

【対象:カイロ】

【名札:まだ帰る途中の子】

【値札貼付:失敗】


 ガロが、ほんの少しだけ息を吐いた。


 商店街全体がざわつく。


【緊急セール】

【名札上書き対策】

【値札再貼付:50%増量】

【保護者不安ポイント:即時換金】

【親権代行プラン:初月無料】


「悪あがきが商売臭ぇんだよ」


 俺はレジスターの前へ走った。


 巨大な値札プリンターが、そこにあった。すべての値札を発行している親機。金色のロール紙が回り、次々と【将来価値】【投資効率】【保護コスト】を吐き出している。


「店の値札ってのはな」


 俺は、親機の紙送りを掴んだ。


「売るためだけにあるんじゃない」


【警告:価格表示系統へ干渉】


「今日のおすすめを教えるためにもあるんだよ」


 ルースが隣へ滑り込む。


「ぱーぱ。値札機能を商品価格表示から、推奨(すいしょう)ケア表示へ変更します」


「やれ!」


【VALUE-LABELER:再定義中】

【価格表示 → 本日のおすすめ】

【購買誘導 → ケア提案】

【MAMMON商店街:干渉失敗】

【るすと支店設備:おすすめ札を仮登録】


 金色の値札が、白い札へ変わっていく。


【本日のおすすめ:水を飲む】

【本日のおすすめ:少し休む】

【本日のおすすめ:中華まん半分】

【本日のおすすめ:泣いていい部屋】

【本日のおすすめ:走らなくてもいい】

【本日のおすすめ:まだ決めない】


 ステラが笑った。


「これ、すき」


 赤いスキャン光が消え、買い物カートが止まる。


 番号札の子供たちは、値札ではなく、ちぐはぐな名札とおすすめ札を胸に貼っていた。


 ひどい名前もある。

 雑な札もある。

 でも、値段よりはずっといい。



 ぱち、ぱち。

 ジャクラが、金色のレジの前で小さく拍手した。


「値札を、今日のおすすめに変える」

「商店街攻略としては、かなり邪道(じゃどう)ですわ」


「正道で勝てる相手じゃないんだろ」


「ええ」

「値札を剥がされた商人は、次に契約書を出してきますよ?」


 その言葉の直後、商店街の奥にある契約カウンターが開いた。


【MAMMON商店街:契約窓口開放】

【商品価格表示:一部無効】

【代替手段:契約拘束】

【教育投資契約書:発行】

【才能保証ローン:発行】

【親権代行プラン:発行】

【署名対象:保護者NO NAME】


「今度は俺にサインさせる気か」

「ぱーぱ。次フェーズは契約文解析が必要です」


 タニシが震える声で言った。


「アニキ、契約書の小さい文字はだいたい罠っす!昔、拙者もそれで高額なツボを買わされました!」

「お前はどうせ女に釣られたんだろ」

「ひ、否定できないでゴザルが......」


 ムーニャンが袖をまくる。


「虫眼鏡持ってくるアル」


 ステラが俺を見上げる。


「ぱーぱ、サインしちゃだめ?」


「ああ」


 俺は契約カウンターを睨んだ。


()()しない」


 商店街の金色の明かりが、また一段、暗く濃くなった。


■ 今回のお話について


第189話は、MAMMON商店街の値札回でした。


前回、マスターは白玉をハズレではなく【進路未固定玉】として再分類しました。

その結果、MAMMON商店街は「未来を福引にする」段階から一歩進み、子供たちへ直接値札を貼り始めました。


今回のテーマは、**値段ではなく、名前を貼ること**です。


まだ本名が分からない子でも、今日の目印なら呼べます。

中華まん半分の子。

ねむる前の子。

本を見てた子。

水を飲めた子。

まだ帰る途中の子。


雑でも、不完全でも、値札よりはずっといい。

呼べるものがあれば、手が届くからです。


そして値札プリンターは、商品価格表示ではなく【本日のおすすめ】へ再定義されました。

MAMMON商店街は次に、契約書を出してきます。


■ ゲーマーおっさん解説


今回は、商店街ステージのアクション回でした。


イメージとしては、ベルトスクロールアクションに近いです。

『ファイナルファイト』や『ダブルドラゴン』みたいに、横から敵が突っ込んでくる。

ただし今回の敵は不良ではなく、買い物カート、レジ、バーコードスキャナー、値札プリンターです。


かなり嫌な商店街です。


また、値札を貼る仕組みは、ゲームでいう「ステータス表示」の悪用でもあります。

本来、ステータスは分かりやすくするための表示です。

でも、それが人の価値を決める札になった瞬間、とても危険なものになります。


マスターは今回、値札を消すだけではなく、【本日のおすすめ】に変えました。

売るための札ではなく、今日ちょっと楽になるための札。

ゲームでいえば、商品タグを回復アイテムのヒント表示に変えたような感じです。


次回は契約書。

小さい文字が多い書類は、だいたい悪魔です。


■ 登場キャラクター紹介


・マスター/NO NAME

子供たちに貼られる値札を、名札とおすすめ札へ変えた父親役。「値段じゃなくて、呼び名を貼れ」と判断した。


・ルース

解析担当。値札を破壊するだけでは商品識別ログが残ると見抜き、上書き処理を提案した。


・ステラ

最初に「しろだまのこ」と呼び名をつけた子。値札ではなく名札を貼る流れを作った。


・ジャクラ

MAMMON商店街の仕組みを説明する案内人。値札は保護者の不安や比較、焦りで強くなると語った。


・ナツ

買い物カートを体で止めた前衛担当。子供は商品じゃないと叫んだ。


・ムーニャン

値札端末とカートの車輪を爪で破壊。ただし物理破壊が危険な場面もあり、少し反省気味。


・コハク

商品化防止結界でスキャン光を防いだ。防御役として活躍。


・タニシ

ショップ系ステージ、ベルトスクロール敵などの解析担当。契約書の小さい文字は罠だと警告した。過去に高額な壺を買わされたことがあった。


・ミコ

値札で隠れた光を見つけた。赤いスキャン光をずらしてカイロを守る場面でも活躍。


・ネムリ

疲れた子、眠る前の子を見つけた。カイロの前に薄い眠りの膜を張り、値札貼付を防いだ。


・ノエル

本を見ていた子に呼び名をつけた。静かな観察で帰還対象ログを戻した。


・ポメ子/ポセイドン

水で値札の粘着を弱める補助役。こういう時は普通に頼れるが、褒めるとすぐ調子に乗る。


・ガロ

カイロへ終端系の値札が貼られかけた瞬間、強い怒りを見せた。まだ本格回収は先だが、重要な火種。


・カイロ

【将来価値:終端】と判定されかけた子。今回は【まだ帰る途中の子】として守られた。


・MAMMON商店街

値札貼付と権利買取を進める悪魔系商店街。商品価格表示を一部無効化されたため、次は契約拘束へ移行する。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME/マスター

役割:ギルド酒場(るすと)店主/ゼウスタウン父親役

現在地:NODE08〈核心〉・MAMMON商店街奥売り場

冒険者等級:翠玉仮昇級/銅査定候補

状態:疲労中/家庭評価低下中/帰還席接続上昇中/MAMMON契約窓口接続中

主な権能:

・L.L.R.制約

・【観測迷彩オブザーブ・カモフラージュ

・【死線上書デッドライン・オーバーライト

・【神権解放権利ゴッド・リリース・オーソリティ

・【感情感知(エモーション・センス)

・【依存切断(ディペンド・カット)


今回の更新:

・値札を名札へ一部上書き

・商品識別子を帰還対象ログへ再接続

・VALUE-LABELERを【本日のおすすめ】表示へ再定義

・【おすすめ札】を仮登録

・MAMMON商店街の契約窓口が開放

・次回、教育投資契約書/才能保証ローン/親権代行プランへ接続


■ 所持アイテム・装備一覧


・冒険者プレート:翠玉仮昇級/銅査定候補

・無地の木札:店主証明のような札

・白羽端末:観測ノード由来の見守り端末

・ルステラ断片:現実層では半会話モード

・《るすと支店》設備:給水所、休憩ベンチ、弁当席、帰還灯、見守り灯、泣いていい部屋、保護者相談カウンター、やってみたい棚

・今回の追加設備:おすすめ札

・今回の重要ログ:名札上書き/VALUE-LABELER再定義/契約窓口開放


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