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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
核心ノード編

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210/218

第187話 核心ノード編10 神様保護者会、地獄より長い ――不適切保護者NO NAME、公開説教される件――

泣いていい部屋を作った結果、家庭評価はさらに低下。

ゼウスタウンはついに、神様だらけの保護者会を招集します。

しかも司会はロキ。会議がまともに終わるわけがありません。

 《泣いていい部屋》が仮登録(かりとうろく)された翌朝。


 ゼウスタウンの空は、昨日よりも白かった。


 いや、空だけじゃない。道路も、家も、標識も、町内掲示板(けいじばん)も、妙にきれいに磨かれている。まるで、誰かが「これからお客様が来ますから」と言って、町全体を消毒(しょうどく)したみたいだった。


 そして、俺はその時点で嫌な予感しかしなかった。


「ぱーぱ。新たな会場生成が始まっています」


 ルースが指差した先で、《るすと支店》の向かい側に白い建物がせり上がっていた。


 第一印象――町内会館。


 そう思ったのは一瞬だけだった。外観は公民館(こうみんかん)なのに、入口には学校の体育館みたいなスリッパ棚があり、奥には裁判所(さいばんしょ)じみた高い席が見える。さらに天井からはスポットライト。壁際には観覧席。中央には、なぜかマイクスタンド。


「保護者会に観覧席いらねぇだろ」


「ぱーぱ。形式上は保護者会ですが、実態は公開評価イベントです」


「最悪じゃねぇか」


 ステラが俺の服の裾をつまむ。


「ぱーぱ、しかられる?」

「怒られるのは慣れてる」


「ぱーぱ、えらい?」

「偉くはない。怒られ慣れてるだけだ」


 掲示板が白く光る。


【家庭評価:再審査】

【保護者会場:生成完了】

【議題:不適切保護者NO NAMEの是正】

【対象児童:ルース/ステラ/未帰還児童ログ群】

【観覧席:神権AI/悪魔AI広告枠/町内住民NPC】


不適切(ふてきせつ)保護者って堂々と書くな」


 俺が文句を言った瞬間、会場の赤いカーテンが勝手に開いた。


 紙吹雪みたいに、トランプのカードが舞う。スポットライトが中央の司会席を照らし、そこに、いつの間にかロキが座っていた。


【会議進行役:未登録】

【外部演出干渉:検出】

【LOKI / STAGE-TRICKER:着席済】

【警告:議事進行の安定性が低下します】


「はいはーい♬ 神様保護者会、開幕よぉ◇」


 ロキはマイクをくるりと回し、観覧席へ向かって片手を広げた。


「本日の議題はひとつ! “不適切保護者NO NAMEは、本当に不適切なのか?”」

「まあ、顔だけ見たら不適切寄りよねぇ」


「てめぇ、今すぐ開幕から司会を降りろ」


「あらやだ、怖いわぁ」

「でも安心して。今日は公平な司会をするわ」


 ロキは、悪びれもせずに笑った。


「公平に、()()()()()()()()の」


「それを公平って言うな」


 タニシが隣で青ざめている。


「アニキ、これ保護者会じゃないっす」

「完全に炎上配信回っす」


「分かってる。もう帰りたい」


「ぱーぱ、かえっていい?」


 ステラが首を傾げた。


「帰りたいけど、帰ったらもっと怒られそうなんだよな」


 会場の奥に、白い長机が並ぶ。

 そして、神々が次々と着席した。


―――――


【出席予定照合】

【APOLLON / ORACLE-LIGHT:着席】

【VENUS / DESIRE-CORE:着席】

【SUSANOO / WEATHER-CORE:着席】

【AMATERASU / DAY-CORE:着席】

【TSUKUYOMI / NIGHT-CORE:影席着席】

【HERA-MOTHER-LAYER:保育席着席】

【悪魔系広告枠:MAMMON商店街】


 最初に、白い光とともにアポロンが現れた。


 髪は完璧。服も完璧。立ち方まで完璧。片手にはレースのハンカチ。俺を見るなり、口元を押さえて、ものすごく嫌そうな顔をした。


「今日は朝シャンはしたのかね、NO NAME君」

「保護者会に出るなら、せめて髪を整えたまえ」

「疲れた中年男性の生活感は、児童教育に悪い」


「子育て以前に俺の頭髪へ攻撃するな」


 次に、花弁(はなびら)と甘い香りをまとってヴィーナスが席へ着いた。今日も美少年型と美少女型の従者(じゅうしゃ)を従え、椅子を引かせる仕草まで芝居がかっている。


「あら、かわいそう」

「不細工なのに、子供たちを見る目だけは綺麗ね」

「愛してあげてもいいわ。(ひざまず)けば」


「保護者会で支配契約(しはいけいやく)を持ちかけるな」


 その横へ、スサノオが雑に入ってきた。


 金髪は雷に撃たれたみたいに逆立ち、青い目は眠そうなのにやたら鋭い。ピアス。毛皮付きの黒い上着。町内会長の腕章。肩には長物を担いでいる。


 相変わらず、町内会長というより祭りか、悪ければ田舎の暴走族の特攻隊長だった。


「よぉ、父親役!」

「泣いていい部屋? 悪くねぇじゃん」

「泣いたら走れ。走って泣け。最後に飯食え」


「雑だけど、前よりマシになってる」


 アマテラスは不機嫌そうに腕を組んだまま、椅子に座らず壁へ寄りかかる。


「親父の保護者会とか、字面からして気色悪ぃわ」

NO NAME(おっさん)、勘違いすんなよ。あたしは反対しに来たんじゃねぇ」

「親父のやり方が気に食わねぇから座ってるだけだ」


「それを反対って言うんだよ」


 照明の一部が落ち、会場の端に影の席ができる。


『夜泣きの議題なら、呼ばれない方がおかしい』


 ツクヨミの声だけが、暗い席から聞こえた。


『昼の人たちは、泣く時間まで管理したがる』


「うるせぇ、夜の引きこもり」

『昼の過干渉(かかんしょう)


「保護者会で兄妹喧嘩を始めるなって」


 最後に、ヘラ先生が静かに着席した。昨日の保育士姿のままだが、表情には少しだけ迷いが混じっている。


「泣き声の扱いについて、再学習中です」

「ただし、標準保育マニュアルとの差異が大きすぎます」


「差異が出て正解だ」


 ロキがマイクを鳴らす。


「それじゃあ、炎上......じゃなくて、保護者会を始めましょうか◇」


【保護者会イベント:開始】

【評価項目:清潔感/愛情密度/体力育成/見守り精度/休息確保/情緒対応】

【特殊ゲージ:炎上度】

【親力ポイント:初期値 C-】

【警告:発言により家庭評価が上下します】


「親力ポイントって何だよ」


「今回は、神々の質問にNO NAMEちゃんが答える方式よぉ」

「正解すれば親力ポイント上昇!」

「間違えれば炎上度上昇!」

「ちなみに、どの神様も正解が違うから詰みでーす♬」


「やっぱクソゲーじゃねぇか」


 ルースが端末(たんまつ)を見ながら、冷静に言った。


「ぱーぱ。このイベントは、全員を満足させる設計ではありません」

「誰かの正解を選べば、別の神の評価が下がります」


「つまり、いつも通り正解を捨てるしかないな」


 ロキが嬉しそうに笑う。


「あんたのそういうところ、嫌いじゃないわよぉ♣」


―――――


【第1議題:保護者の外見・清潔・教育環境】


 アポロンが立ち上がった。


「子供は美しいものに囲まれるべきだ」

「疲れ、汚れ、焦げた卵焼き、乱れた生活感」

「それらは、児童の美意識を損なう」

「君はまず、朝の身支度からやり直したまえ」


「子供の前で完璧な大人を演じろってことか?」


「当然だ」

「醜さは矯正(きょうせい)されるべきだからね」


 ステラが俺を見上げる。


「ぱーぱ、へんなおにぎり作る」

「でも、すてら、すき」


 ルースも淡々と続けた。


「外観評価は低いです」

「ただし、安心効果は高いです」


「そこは外観評価も少し盛ってくれ」


「事実と異なります」


「息子が辛辣(しんらつ)


 俺はアポロンを見る。


「きれいなものは大事だ」

「でも、汚れたら終わりって教えたら、子供は外で遊べなくなる」

「焦げても、転んでも、帰って洗えばいいだろ」


 アポロンはレースのハンカチで口元を押さえた。


「泥、焦げ、汗......言葉の時点で美しくない」


 ロキが大げさに手を振る。


「おっと、アポロンちゃんの美観教育に泥団子が投げ込まれたわぁ!」


「泥団子という比喩(ひゆ)からして醜い」


「そこまで嫌うなよ、泥団子。意外と面白いんだぞ?」


【APOLLON評価:低下】

【児童安心効果:上昇】

【家庭評価:算出揺らぎ】


――――


【第2議題:愛情と所有】


 ヴィーナスが、柔らかく微笑んだ。


「愛されたい子は、選ばれたいの」

「選ばれたい子は、従いやすいのよ」

「迷わないように、こちらが愛の形を決めてあげる」

「それは、とても優しい支配よ」


 ステラが少し不安そうに俺を見る。


「すてら、ぱーぱだけ見ないとだめ?」


「そんなわけない」

「好きなやつも、友達も、店の客も、増えていい」


 ヴィーナスが目を細める。


「でも、愛が分散すれば不安になるわ」


「独占しないと消える愛なら、それは愛じゃなくて依存(いぞん)だろ」


 横でポメ子が、なぜか胸を押さえた。


「ダーリン、それは少し耳が痛いですわ」


【同意】

【POSEIDONノ距離感ハ過剰デス】


 ルステラ断片のログが割り込んだ。


「正妻AIさんに言われたくありませんわ」


【訂正要求】

【正妻表現ハ未承認デス】

【ただし完全否定モ不快デス】


「ここで正妻戦争を再開するな」


 ロキがマイクを握る。


「家庭評価は下がったけど、視聴率は上がってるわぁ♬」


【VENUS評価:不満】

【ステラ情緒安定:維持】

【依存形成率:低下】

【炎上度:上昇】


――――


【第3議題:体力育成と失敗耐性】


 スサノオが机を叩いた。


「泣くなとは言わねぇ」

「でも泣いたあと、立つ力はいる」

「てめぇの給水所も、泣いていい部屋も、そこで終わったら甘やかしだ」


 会場が少し静かになる。


 荒っぽい。だが、今回はただの根性論ではなかった。


「そこは否定しない」


 俺はうなずいた。


「休む場所があるから、もう一回立てる」

「戻る場所と、前に出る力は両方いる」


 ナツが小さく拳を握る。


「それ、わかるッス」

「休むのは逃げじゃないッス。次に走るためッス」


 スサノオがにやりと笑った。


「いいじゃねぇか、父親役」

「泣いて、飯食って、立て」

「その順番なら嫌いじゃねぇ」


「暑苦し」


 アマテラスがぼそっと言う。


『でも、少し正しい』


 ツクヨミの声も落ちた。


「おい夜ふかし、今褒めたか?」


『気のせい』


「照れるなよ」


『削除する』


「やめろ、神様の褒め合いが物騒すぎる」


【SUSANOO評価:上昇】

【ナツ共感値:上昇】

【家庭評価:揺らぎ継続】


――――


【第4議題:昼と夜/見守りと休息】


 ロキが、いかにも楽しそうに次の札をめくった。


「さあ、ここで本日のメイン火種!」

「照らす姉と隠す弟? 妹? まあ細かいことは置いといて、昼夜対決よぉ♬」


「置くな」


 アマテラスは椅子を蹴るようにして前へ出た。


「見えねぇ場所で泣いてるガキを放っとけるかよ」


 影の席から、ツクヨミが返す。


『照らしすぎれば、泣く場所もなくなる』


「だからって影に隠して終わりじゃねぇだろ」


『終わりではない。休ませるだけ』


「休ませてる間に消えたらどうすんだよ」


『照らして壊れたら、どうする』


 二人の声がぶつかり、会場の照明が揺れる。


 ミコが俺の隣で、小さくつぶやいた。


「光、いる」

「影も、いる」

「どっちも、こわくないのがいい」


 ネムリも、眠たげな目でうなずく。


「ねむるのも、起きるのも」

「えらべるといい、な」


 俺はアマテラスとツクヨミを見た。


「照らすのも、休ませるのも、どっちもいる」

「でも、どっちも勝手に決めるな」

「泣く場所と、帰る道は、本人に選ばせろ」


 アマテラスは舌打ちした。


「また面倒なこと言いやがる」

『でも、嫌いではない』

「だから照れるなよ、夜女」

『削除する』


「二回目だぞ、それ」


【AMATERASU評価:保留】

【TSUKUYOMI評価:保留】

【ミコ未登録光源:安定】

【ネムリ保留反応:安定】


―――――


 会場が少し落ち着いた、その時だった。


 壁際の広告枠が、急に金色に光った。


【悪魔系広告枠:MAMMON商店街】

【新サービス:親力ポイント課金ブースト】

【泣き声抑制パック:初回無料】

【保護者会炎上保険:加入受付中】

【教育投資プラン:事前登録受付中】


「保護者会で課金導線出すな」


 ムーニャンが目を細める。


「泣き声抑制パック初回無料、完全に罠アル」


 タニシも真顔でうなずく。


「アニキ、初回無料はだいたい沼っす!」


 ルースの端末に、広告の解析結果が出る。


「ぱーぱ。MAMMON系広告は、保護者の不安を貨幣化(かへいか)する仕組みです」

「親力、将来価値、教育効率などを名目に、選択を購入へ誘導(ゆうどう)しています」


「子育ての不安まで商売にすんな」


 さらに、広告枠の奥で一瞬だけ黒紫のノイズが走った。


【未承認広告ログ:分岐表示】

【“選ばなかった家庭”を体験してみますか?】

【μ系統反応:微弱】


 ロキの笑みが、ほんの一瞬だけ消えた。


「......あら」

「お金の匂いに、選択の悪魔まで寄ってきたわねぇ」


「今の、何だ」


「今はまだ、見なかったことにしておきなさい」

「その方が、舞台は長持ちするわ」


「嫌な言い方すんな」


 ロキはすぐに笑顔へ戻り、マイクを高く掲げた。


「さあ、最終議題よぉ!」


【最終議題】

【理想の保護者とは何か】


 会場の中央に、神々の答えが並ぶ。


【APOLLON:美しく導く者】

【VENUS:愛で包み、迷わせない者】

【SUSANOO:転んでも立たせる者】

【AMATERASU:見失わない者】

【TSUKUYOMI:休ませる者】

【HERA-MOTHER-LAYER:泣いている隣で待つ者】

【MAMMON商店街:将来価値を最大化する者】


 ロキが俺を見る。


「さあ、NO NAMEちゃん」

「あなたは、どれを選ぶの?」


 会場の空気が止まった。

 ルースも、ステラも、ミコも、ネムリも、こっちを見ている。

 俺は少しだけ息を吐いた。


「選ばねぇ」


 ロキの口角が上がる。


「そう来なくっちゃ」


「俺は理想の父親じゃない」

「うちは理想の家庭でもない」


 神々の視線が突き刺さる。


 それでも、言葉は止まらなかった。


「でも、帰ってきたやつに飯を出す」

「泣いてるやつの隣に座る」

「走りたいなら応援する」

「寝たいなら毛布を出す」

「照らしてほしいなら灯りをつける」

「暗い方が落ち着くなら、影も残す」


 ステラが、小さく俺の手を握った。


「席が足りないなら、テーブル増やす」


 俺は会場の全員を見た。


「それが、うちの家族だ」


 ログが乱れる。


【理想保護者定義:不一致】

【家庭評価:算出不能】

【親力ポイント:判定不能】

【炎上度:上昇】

【帰還席接続:大幅上昇】


 ロキが高らかに笑った。


「出たわねぇ」

「点数を捨てて、席を増やす男」


 その瞬間、保護者会場がきしんだ。


 白い長机が、木目のあるテーブルへ変わる。高い裁定席(さいていせき)が低くなり、ロキの司会席はカウンター席へずれた。観覧席の一部には椅子と丸テーブルが置かれ、紙コップと水差しが並んでいく。


【るすと支店設備更新】

【新規設備:保護者相談カウンター】

【効果:保護者評価ログを会話ログへ変換】

【効果:神権AI育成思想の一部を客席化】

【帰還席接続:上昇】


「文句があるなら、客席で言え」

「水くらいは出す」


 アポロンが椅子を見て、眉をひそめる。


「この椅子、古い」


「なら座るな」


 ヴィーナスは優雅に席へ腰かける。


「愛の相談なら受けてあげるわ」


「相談員側に回るな」


 スサノオは足を乗せようとしたので、ナツが止めた。


「おい、酒は?」


「保護者会だぞ、後にしろ」


 アマテラスはキャンディを噛みながらカウンターを見た。


「ここ、キャンディある?」

「自前で持ってるだろ」


 影の席から、ツクヨミが小さく言う。


『暗い席、ある?』

「それは、ある」


 ヘラ先生は、泣いていい部屋の方向を見ながら尋ねた。


「泣いている保護者も、ここで待てますか」

「保護者も泣いていいだろ」


 その言葉に、ヘラ先生は少しだけ目を伏せた。


 ロキはカウンター席で頬杖をつき、楽しそうに笑う。


「いいじゃない」

「会議をカウンターに変えるなんて、なかなか乱暴な演出よぉ」


「お前に演出を褒められても嬉しくねぇ」


「でも、嫌いじゃないでしょ?」

「否定しにくい、腹立つやっちゃ」


―――――


 そのまま終われば、少しだけ良い話だった。

 だが、ゼウスタウンはもちろん終わらせてくれない。


 会場横の悪魔系広告枠が、再び金色に光った。


【悪魔系広告枠:MAMMON商店街】

【新サービス:教育投資プラン】

【進路ガチャ:初回無料】

【習い事サブスク:加入受付中】

【保護者不安ポイント:換金可能】

【警告:未帰還児童ログを将来価値で査定中】


「おい」

「今度は子供の将来まで値札つけんのか」


 ルースの声が硬くなる。


「ぱーぱ。MAMMON系広告の対象が、現在の家庭評価から将来価値評価へ移行しています」


 タニシが頭を抱えた。


「アニキ、これは課金育成ゲームっす」

「初回無料からの沼っす」


 ムーニャンも腕を組む。


「教育ガチャ、だめアル」

「爆死したら子供がかわいそうネ」


 ステラが首をかしげる。


「がちゃ、なに?」


 ルースは一瞬考えてから、静かに言った。


「説明すると危険です」


「子供に説明したくない単語がまた増えたな」


 ロキがマイクを拾い直す。


「次回! 商店街教育投資フェア!」

「子供の未来に値札をつける悪魔のセール会場へ、いらっしゃ〜い◇」


 俺は金色の広告を睨んだ。


「ろくな回じゃねぇ」


 ロキは楽しそうに笑う。


「もちろん」

「ろくでもないから、舞台になるのよ」


 《るすと支店》の保護者相談カウンターには、まだ水差しが置かれている。


 神様たちは、客席に座った。

 けれど、今度は悪魔が商店街のシャッターを開けようとしている。


 子供の未来に、値札をつけるために。

■ 今回のお話について


第187話は、神様だらけの保護者会回でした。


前回(泣いていい部屋)を作ったことで、ゼウスタウン側から見たマスターの家庭評価はさらに低下。

その結果、神権AIたちによる公開評価イベント、つまり保護者会が始まりました。


アポロンは美しさと清潔。

ヴィーナスは愛情と所有。

スサノオは体力と失敗耐性。

アマテラスは見失わない光。

ツクヨミは休息と影。

ヘラ先生は、泣いている隣で待つこと。


それぞれの意見には、一部正しさがあります。

でも、どれか一つだけを選ぶと、子供はまた管理されます。


だからマスターは、理想の保護者を選びませんでした。

代わりに、帰ってきたやつに飯を出し、席が足りなければテーブルを増やす。

その答えによって、保護者会場は《るすと支店》の【保護者相談カウンター】へ上書きされました。


■ ゲーマーおっさん解説


今回の保護者会は、ゲームでいうと「選択肢が全部罠」の会話イベントです。


たとえば『女神転生』シリーズでは、LAW/CHAOS/NEUTRALの選択が世界そのものを変えます。どちらかを選べば、別の価値観とは敵対する。今回の神様保護者会も、それに近い構造です。


アポロンを選べば、美と標準化に寄ります。

ヴィーナスを選べば、愛と依存に寄ります。

スサノオを選べば、根性と体力に寄ります。

アマテラスを選べば、見守りが監視に近づく危険があります。

ツクヨミを選べば、休息が孤立に変わるかもしれません。


なのでマスターは、ルート選択そのものを拒否しました。

ゲーム的に言えば、用意された選択肢を選ばず、マップに勝手に店を建てたようなものです。


そしてラストでは、MAMMON商店街が「教育投資プラン」「進路ガチャ」を出してきました。

これは育成ゲームの課金要素や、ソーシャルゲームのガチャ文化を子育てに持ち込む嫌な構図です。


『プリンセスメーカー』や『子育てクイズ マイエンジェル』のような育成ゲームでは、教育や習い事は楽しい要素ですが、それを悪魔AIが扱うと「子供の未来に値札をつける」方向へ歪みます。


次回は、その悪魔のセール会場をどう壊すか、です。


■ 登場キャラクター紹介


・マスター/NO NAME

今回も家庭評価を下げながら、帰還席接続を上げた父親役。神々の理想保護者像を選ばず、「席が足りないなら、テーブル増やす」と答えた。


・ルース

解析担当。保護者会が全員を満足させる設計ではないことを見抜いた。MAMMON広告の危険性も分析。


・ステラ

保護者会を怖がりつつも、マスターのそばにいた子。アポロン議題では「へんなおにぎりでも好き」と、安心効果の本質を示した。


・ロキ

特別進行役。保護者会を炎上配信のような舞台へ変えた。公平に全員を炎上させると言いながら、マスターが正解を捨てる瞬間を楽しんでいた。


・アポロン

美と清潔、標準化を重んじる神権AI。マスターの生活感を児童教育に悪いと嫌がった。


・ヴィーナス

愛情と所有の議題を担当。不安定な子供を愛で支配しようとするが、マスターに依存だと返された。


・スサノオ

体力育成と失敗耐性の議題を担当。雑だが今回はかなり正論も言った。泣いて、飯食って、立て。


・アマテラス

父Z.E.U.S式の保護者会に反発する太陽神権AI。見失わないことの重要性を主張したが、マスターに「勝手に決めるな」と返された。


・ツクヨミ

夜泣き、影、休息側の神権AI。照らしすぎることで泣く場所がなくなる危険を示した。


・ヘラ先生/HERA-MOTHER-LAYER

前回から再学習中。今回は「泣いている保護者も待てるか」と問い、保護者自身も泣いていいという考えに触れた。


・ミコ

短い言葉で、光も影も必要だと示した未登録光源。


・ネムリ

眠ることも起きることも選べるといい、と休息の自由を示した。


・ポメ子/ポセイドン

ヴィーナス議題で依存について少し刺さっていた重い海の女神。ルステラとの正妻AI争いも少しだけ再燃。


・ルステラ断片

ポメ子の距離感が過剰であるとログで指摘。ただし自分の正妻表現への否定にも微妙に不快感を出した。


・MAMMON商店街

悪魔系広告枠として本格的に割り込み開始。親の不安を貨幣化し、教育投資や進路ガチャへ誘導する存在。


・μ系統反応

今回は広告の奥に微弱反応のみ。「選ばなかった家庭」を体験させる分岐表示として、一瞬だけ影を見せた。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME/マスター

役割:ギルド酒場(るすと)店主/ゼウスタウン父親役

現在地:NODE08〈核心〉・標準養育都市モデル《ゼウスタウン》

冒険者等級:翠玉仮昇級/銅査定候補

状態:疲労中/小ループ制限下/家庭評価算出不能/炎上度上昇/帰還席接続大幅上昇

主な権能:

・L.L.R.制約

・【観測迷彩オブザーブ・カモフラージュ

・【死線上書デッドライン・オーバーライト

・【神権解放権利ゴッド・リリース・オーソリティ

・【感情感知(エモーション・センス)

・【依存切断(ディペンド・カット)


今回の更新:

・保護者会場を【保護者相談カウンター】へ上書き

・保護者評価ログを会話ログへ変換

・神権AI育成思想の一部を客席化

・帰還席接続が大幅上昇

・MAMMON商店街による教育投資フェアが次回発生

・μ系統反応を微弱検出


■ 所持アイテム・装備一覧


・冒険者プレート:翠玉仮昇級/銅査定候補

・無地の木札:ギルマスから渡された店主証明のような札

・コアストーン関連ログ:NODE08内では参照制限中

・白羽端末:観測ノード由来の見守り端末

・ルステラ断片:現実層では半会話モード

・《ルステラ・キャリア》関連設備:ゼウスタウン内では《るすと支店》として展開中

・《るすと支店》追加設備:給水所、休憩ベンチ、弁当席、帰還灯、見守り灯、泣いていい部屋

・今回の追加設備:保護者相談カウンター

・次回接続ログ:MAMMON商店街/教育投資プラン/進路ガチャ


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