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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
核心ノード編

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第180話 核心ノード編03 神様ニュータウンに酒場を開く ――家庭評価がダメなら、客席で殴ります――

家庭ランクを上げるほど、ルースとステラの標準化が進む。

ならばマスターは、家庭ではなく酒場を開くことにした。

神様ニュータウン初の《るすと支店》、開店準備開始です。

 白紙の看板は、妙に腹が立つほど白かった。


 ゼウスタウンの外れにある空き店舗。白いシャッター、白い壁、白いガラス戸。どこを見ても清潔(せいけつ)で、どこにも人間の手垢(てあか)がない。


 酒場というより、まだ誰の失敗も許していないモデルルームだ。


 俺はその前に立って、もう一度言った。


「神様ニュータウンに、ギルド酒場(るすと)支店を開く」


 ステラが両手を上げる。


「すてら、おみせやさんする!」


 ルースは端末を開き、白い店舗を解析(かいせき)した。


「店舗化によって、家庭評価の判定軸(はんていじく)逸脱(いつだつ)させる作戦ですね」


「言い方は難しいが、だいたいそうだ」


 カケル・テンドーは酒瓶を片手にシャッターを叩いた。もう片方の手には工具。飲んでいるのか整備しているのか、神様でも分類に迷いそうな姿だった。


「まずは開けるぞ。開かなきゃ、神様の顔面だと思ってこじ開ける」


「器物破損は経費で落ちないからね」


 イツキが即座に言う。


「今のところ、この街そのものが不法侵入みたいなもんだろ」


「それはそれ、これはこれ」


 世知辛い。


 カケルが工具を差し込み、シャッターの端を押し上げる。ぎぎ、と金属音が鳴り、白い店舗の中が見えた。


 中も、白い。


 白い床、白い壁、白いカウンター候補、白い椅子、白いメニュー表。酒場どころか、健康食品カフェでも始まりそうな清潔感(せいけつかん)だった。


「酒場にしては、白すぎる」


「汚せばいい」


「発想が雑」


 イツキが顔をしかめる横で、ミツキは店内を見回した。


「でも、少し生活感がないと、帰ってきた感じはしませんね」


 その言葉は、たぶん一番正しい。


 ここは家庭じゃない。だが、帰ってきた誰かが息を吐ける場所にはしなければならない。


 ルースの端末にログが浮かぶ。


【空き店舗:標準商業区画】

【推奨業態:健全家庭向け軽食店】

【禁止項目:過度な夜間営業/酒類提供/不確定客席/未登録児童滞在】


「酒場に必要な要素、だいたい禁止されてるんだが」


 カケルが笑った。


「じゃあ昼は軽食店、夜は酒場。表向きは安全、裏は帰還席だ」

「お前、悪知恵だけはよく回るな」

「褒め言葉として受け取るぜ」


 その時、店の入口に白い町内会役員NPCが現れた。昨日から思っていたが、こいつらは絶対にこちらの都合の悪い瞬間を狙って出てくる。


「新規店舗開業には、町内会承認(しょうにん)衛生検査(えいせいけんさ)、近隣説明、家庭環境への影響審査が必要です」


「来たな、役所系イベント」


【商店街適応クエスト:開業準備】

【必要条件】

【1:営業許可申請】

【2:衛生検査】

【3:近隣説明会】

【4:児童健全性への影響確認】

【5:店舗名登録】


「五項目もあるのかよ」


「分岐型クエストです。複数担当による同時進行が可能です」


 ルースが言うと、みんなが自然に動き出した。


 カケルは壁を叩く。


「俺は改造だ。酒場に必要なのは三つ。カウンター、椅子、そして逃げ道」


「最後だけ物騒だな」


「店ってのはな、帰ってくる場所である前に、逃げ込める場所なんだよ」


 酒瓶片手に言う台詞ではない。だが、妙に説得力だけはあった。


 カケルは壁の白い配線を引き出し、《ルステラ・キャリア》から持ち込まれた帰還席ログの補助線へつなぐ。火花が散り、白い床に薄い円が浮かんだ。


【空き店舗:構造変更】

【標準商業区画 → 未登録多目的区画】

【帰還席補助線:仮接続】


「今の接続は、正式な許可を得ていません」


 ルースが注意すると、カケルは酒瓶を揺らした。


「正式にやったら、神様に止められるだろ」

「まあ、それはそう」


 イツキは申請書の束を受け取り、町内会NPCと向き合っていた。


「業態を選択してください。家庭向け軽食店、健康喫茶、標準児童交流施設、教育支援カフェ」


「ギルド酒場」

「該当項目がありません」

「じゃあ“その他”」

「その他は原則承認されません」

「なら“家庭向け軽食店”にして、備考欄にギルド酒場って書く」

「役所書類の突破法みたいになってきたな」


 イツキはペンを回した。


「書類はね、正面からやりあうんじゃなくて、通る形に(たた)むものなの」

「帳簿係が攻略班みたいな顔するな」

「数字と項目があるなら、攻略できるでしょ?」


 やっぱり彼女は、頼もしいのか、恐ろしいのか分からない。


【営業許可申請:受理】

【業態:家庭向け軽食店】

【備考:ギルド酒場(るすと)支店】

【判定:保留】


「保留でも通れば勝ちだな」

「仮勝利だけどね」


 一方、ミツキは店内に椅子を並べていた。ただの客席ではない。ひとつ、またひとつ、間隔を空けて、白い札を置いていく。


 札には、彼女の字でこう書かれていた。


【まだ名前が分からない子の席】

【帰ってきたら、ここに座っていい】


 ステラが首をかしげる。


「からっぽのイス、いるの?」


「いるよ。誰かが帰ってきた時、席がなかったら寂しいから」


 ミツキは優しく答えた。


 ルステラ断片のログが揺れる。


【RusTella Fragment】

【帰還席補助構造ニ類似】

【推奨:空席保持】


「じゃあ、この席は埋めないでおきます」


 俺は何も言わずに頷いた。

 空席にも意味がある。店なら、それを許せる。

 外では、ヘラクレスが勝手に近隣説明会を始めていた。


「開店前には、基礎体力である!」


 校庭から連れてきたらしい白い住民NPCたちが、店の前で体操の隊形になっている。


「なぜ集客できてるんだ」

「声を出せば人は集まる!」

「昭和の部活理論やめろ」


【近隣説明会:参加者数条件を達成】


「嘘だろ。筋肉で説明会条件を突破した」

「筋肉は言語である!」

「違うが、今回は助かった」


 店内では、ミコが天井の白い照明を睨んでいた。


「あの光、見張ってる」

「変えられるか?」


 ミコは小さく頷き、指先に淡い光を灯す。


【未登録光源:点灯】

【監視光源:部分遮断】

【照明用途:監視 → 帰還誘導】

【標準養育都市モデル:軽微な異常(アノマリー)


 白すぎた店内に、少しだけ温かい色が混じった。

 ステラが顔を上げる。


「あったかい」


「帰る灯り」


 ミコは、短くそう言った。


 最後にレイが図書室から戻ってきた。男装の外套(がいとう)はそのままなのに、頬に落ちる髪を耳にかける仕草が、以前より自然に見えた。彼女は黒い台帳の写しを俺に見せる。


「店舗名登録には、家庭名ではなく屋号(やごう)を使える」

「屋号?」

「この街は家族名を管理する。でも、店の名前は所有ではなく、機能として登録される」


 ルースが反応した。


「つまり、NO NAME家ではなく、《るすと》として登録できる」

「そうだ。家庭への(ひも)づけが弱まる」


 俺は白紙の看板を見た。


「よし。店名は決まりだ」


 町内会NPCが、無表情でペンを構える。


「店舗名を登録してください」


 俺は、少しだけ息を吸った。


「ギルド酒場(るすと)支店」


【店舗名:ギルド酒場るすと支店】

【登録処理中......】

【家庭モデル外施設を検知】

【標準養育都市モデルとの互換性:低】

【しかし、町内商業区画として仮承認】


 白紙の看板に、ゆっくりと文字が浮かぶ。


【ギルド酒場るすと支店】


 ステラが拍手した。


「おみせできた!」


 ルースも、ほんの少しだけ口元を緩める。


「仮開店条件を満たしました」


 だが、すぐに町内MAPが更新された。


【ゼウスタウン町内役職者一覧:更新】

【学校教育主任:APOLLON / ORACLE-LIGHT】

【保護者会代表:VENUS / DESIRE-CORE】

【町内会長:SUSANOO / WEATHER-CORE】

【通学路見守り隊:AMATERASU / DAY-CORE】

【夜間巡回担当:TSUKUYOMI / NIGHT-CORE】

【町内福引・進路相談:JAKURA-MIKOTO】

【図書室特別記録係:HADES】

【町内放送・連絡網:HERMES】


 続けて、別の黒いログが重なった。


【警告】

【町内商業区画に悪魔AI系サブルーチンを検知】

【MAMMON:商店街価格最適化】

【ASMODEUS:保護者会感情誘導】

【BELIAL:掲示板噂拡散】

【BEELZEBUB:衛生検査汚染判定】

【μ:児童ログ削減判定】


「町内会、神様と悪魔の合同運営かよ」


 その瞬間、壁の画面にロキの字幕が踊る。


【♬◇特別解説:第二章ラストステージ、役者は揃ったわよ】


「揃わなくていいんだよ!」


 扉の外で、からん、と小さな音がした。

 誰かが、まだ開いたばかりの店の前に立っている。


 顔はぼやけている。名前もない。子供の形をした、薄いログだった。


【未帰還児童ログ:一件接近】

【名前:未確定】

【状態:帰宅前】

【要求:席】


 ステラが、小さな椅子を引いた。


「ここ、あいてるよ」


 ミツキが、そっと頭を下げる。


「おかえりなさい」


 俺は一瞬、言葉に詰まった。


 まだ救出じゃない。まだ帰還でもない。


 でも、この街のルール外から、最初の客が来た。


 俺は店の奥から、椅子をもう一つ引いた。


「いらっしゃい」


 少し間を置いて、続ける。


「帰ってくる途中なら、ここで休んでけ」


【標準養育都市モデル:未定義行動を検知】

【家庭評価:変動なし】

【店舗評価:未定義】

【帰還席接続:微弱発生】


【警告】

【未帰還児童ログの自律移動を確認】

【ギルド酒場るすと支店:監視対象へ追加】


 神様ニュータウンにできた、小さな酒場。


 その最初の客は、まだ名前を持たない子供だった。


■ 今回のお話について


第180話では、ゼウスタウンの空き店舗を《ギルド酒場るすと支店》として仮開店させました。

家庭ランクを上げるとルースとステラの標準化が進むため、マスターたちは家庭評価ではなく、店舗化によって判定軸をずらそうとしています。


今回のポイントは、酒場の機能が少しずつ生まれたことです。

カケルが帰還席補助線を仮接続し、イツキが営業許可を保留まで持ち込み、ミツキが名前のない子のための空席を用意しました。

さらに、ミコの光によって、監視の照明が“帰るための灯り”へ変わり始めています。


そしてラストでは、神権AIだけでなく、悪魔AI系サブルーチンとμの存在もログで表示されました。

ここからNODE08は、町内会コメディでありながら、神様と悪魔が入り乱れる第二章ラストステージへ進んでいきます。


■ ゲーマーおっさん解説


今回は、生活シミュレーションから店舗経営シミュレーションへジャンルを無理やり変える回です。

普通なら『The Sims』系の家庭管理イベントで、家庭ランクを上げていくのが攻略に見えます。

でも、この街では高評価を取るほど、ルースとステラが標準児童AIに近づいてしまう。


そこでマスターは、ゲームの目的そのものを変えました。

家庭ではなく、酒場。

家族評価ではなく、客席。

正しい子供ではなく、帰ってこられる席。


レトロゲームでも、たまにありますよね。

正攻法で進むとバッドエンドだけど、変な寄り道や一見無駄な施設づくりが真ルートにつながるやつです。

今回の《るすと支店》は、まさにその真ルートの入口です。


■ 登場キャラクター紹介


マスター/NO NAME

ゼウスタウンの家庭評価から逃れるため、《るすと支店》開業を決める。家庭ではなく酒場を作ることで、判定軸をずらそうとしている。


ルース

店舗化作戦を解析。家庭評価から逸脱する可能性を見抜き、仮開店条件を確認する。


ステラ

《るすと支店》のお手伝い役。名前のない最初のお客さんに椅子を引く。


カケル・テンドー

酒瓶片手に店舗改造を担当。危険だが腕は確かで、帰還席補助線の仮接続を行う。


イツキ

営業許可申請を担当。書類を“通る形に畳む”ことで、家庭向け軽食店の備考欄にギルド酒場をねじ込む。


ミツキ

客席を担当。名前のない子のための空席を用意し、帰ってきた子に“おかえり”と言える場所を作る。


ヘラクレス

近隣説明会を筋肉体操で突破。理屈はおかしいが、結果は出す。


ミコ

監視光源を部分遮断し、店内に“帰る灯り”を灯す。アマテラス系断片としての伏線も継続中。


レイ

図書室から屋号登録の穴を見つける。男装は続けているが、以前より女性らしさを隠さなくなっている。


ロキ

壁の画面越しに実況として介入。第二章ラストステージの役者が揃ったことを告げる。


未帰還児童ログ

《るすと支店》最初のお客さん。名前はまだなく、帰宅前の薄いログとして店に現れる。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:翠玉仮昇級/銅査定候補

現在地:NODE08〈核心〉・ゼウスタウン/ギルド酒場るすと支店

状態:保護者役に強制設定中

家庭ランク:E+

店舗状態:仮開店

危険状態:神権AI・悪魔AI・μによる複合監視対象


主要スキル:

・【観測迷彩オブザーブ・カモフラージュ

・【死線上書デッドライン・オーバーライト

・【神権解放権利ゴッド・リリース・オーソリティ

・帰還席接続補助


■ 所持アイテム・装備一覧


・無地の木札

・白い回覧板

・ゼウスタウン町内MAP

・営業許可申請控え

・ギルド酒場るすと支店の仮看板

・帰還席補助線

・名前のない子の空席

・未帰還児童ログ接続情報

・ルステラ断片補助ログ

・店主としての意地


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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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