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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
子供ノード編

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第177話 子供ノード編13 帰れなかった子の席 ――全部は救えなかった。でも、名前は消させなかった――

NODE07〈子供〉は、完全救出ではなく“接続完了”で終わった。

《ルステラ・キャリア》には、まだ帰れない子供たちの席だけが残る。

勝利でも敗北でもない、次へ進むための空席の話。


 白い盤面が、音もなく崩れていく。


 割れるのではない。

 消えるのでもない。

 まるで、誰かが白い布をゆっくり(たた)むように、白天児童保護院(ヘヴンズ・ナーサリー)の床も、天井も、番号札も、視界の奥へ折り込まれていった。


【NODE07〈子供〉:接続完了】

【白天側盤面:一時閉鎖】

【帰還処理:開始】

【転送先:ルステラ・キャリア保護児童区画】


 足元の感覚が戻った時、俺は《ルステラ・キャリア》の床に膝をつきかけていた。


「ぱーぱ!」


 ステラが飛びついてくる。

 小さな手が、俺の腕を掴んだ。


「大丈夫だ」

「ちょっと、記憶が軽くなっただけだ」


「全然大丈夫ではありません」


 ルースが即座に否定した。

 こやつ、こういう時だけ容赦がない。


「GRA発動時、マスターの記憶残滓に薄化(はっか)反応が出ています」

「重度欠損ではありませんが、代償リスクは発生しています」


「まあ、な」


『重度欠損では、ありません――』


『代償は、発生してマス』


 ルステラの声が、キャリアの奥から重なる。

 まだ短い。まだ弱い。けれど、NODE06前よりは、ずっと“会話”に近い声だった。


「分かってる」


 俺は息を吐き、立ち上がった。


「でも、まず席を見せろ」


 保護児童区画の奥。

 そこに、三つの席があった。


 一つは、白い光を帯びた小さな席。

 座面には、薄く“アカリ”の名前が浮かんでいる。


 一つは、黒い底から引き上げられたような暗い光の席。

 そこには、“トオル”の名前が、消えそうで消えない線で残っていた。


 そして、もう一つ。

 灰色の席。


 名前はない。

 番号もない。

 ただ、そこに誰かが座るはずだった、という影だけが残っている。


【帰還席一覧:更新】

【アカリ:仮予約維持】

【トオル:仮予約維持】

【灰色帰還席:影のみ保持】

【未帰還児童ログ:接続待機 37件】

【肉体搬送:不可】

【完全救出:未達】


 ステラが、席を見つめる。


「アカリちゃんと、トオルくんのおせき、ある」

「でも......すわってない」


 ルースが、いつもより少しだけ遅れて答えた。


「肉体搬送は不可」

「現在維持できているのは、名前応答、帰還席、帰還意思の接続です」


「じゃあ、まだ、さみしいね」


「ああ」


 俺は空席を見た。


「でも、消えてない」


 座っていない席は、失敗の証拠かもしれない。

 けれど、同時に待っている証拠でもある。


 誰かが帰ってくる前に、席を片づける必要なんてない。


 保護児童区画の端では、カイロが眠っていた。

 ガロの服を小さな手で握ったまま、浅く、けれど穏やかに息をしている。


【カイロ:睡眠状態、安定】

【保護者認識:GARO】

【神権未承認】

【児童側認識:維持】


「寝ないのか」


 俺が聞くと、ガロはカイロから目を離さずに言った。


「寝たら、こいつが消えそうでな」


「消えねぇよ」

「席、取っただろ」


「分かっとる」

「分かっとるが、手は離せん」


 ガロの大きな手が、カイロの手を包む。

 血縁(けつえん)があるわけじゃない。神権AIから認可された後見人でもない。

 それでも、カイロが握った手は、たしかにそこにあった。


「神様が認めんでも、この子が握った手なら、俺は離さん」


 その言葉に、俺は何も返せなかった。

 たぶん、それで十分だった。


 灰色の席の前には、レイが立っていた。


 いつもの高い襟。

 男とも女とも判別しにくい実用装備。荒野の砂を避けるにも、照合ログをずらすにも、それなりに役に立ってきた服だ。


 けれど、もうZ.E.U.Sには見られている。


 レイは、襟元に指をかけた。そして、少しだけ布を緩める。


「もう、隠れる意味も、薄くなったな」


 誰に聞かせるでもない声だった。

 それでも、灰色の席が淡く揺れた。


「......いや」

「隠れていたのは、あいつらからだけじゃない」


 レイの指先が、胸元の布を握る。


「私自身からも、だ」


【灰色帰還席:影のみ保持】

【HADES台帳照合:権限不足】

【該当児童名:非開示】

【参照条件:NODE08〈核心〉】

【返還条件:本人帰還意思】


 レイは、灰色の席へ手を伸ばした。

 けれど、透明な膜のようなものに(はば)まれる。


「名前を......見せろ」


『まだ駄目』


 声がした。

 少年のようで、少女のようで、そのどちらでもない静かな声。


『その子が、帰りたいと言うまで』


「私は、待てばいいのか」


『待つだけでは足りない』

『でも、奪い返すだけでも足りない』

『呼べる場所を、消さないこと』


 レイは目を閉じた。


「なら、消させない」


 その声は、救出者の声でもあり、母親の声でもあった。


 通信ログが、静かに開く。


『H.E.R.A.-CAREより、状態報告』

『白天側児童ログ、沈静化処理を停止』

『泣き声、記録中』

『分類、未完了』

『聞き取り、継続します』


 ステラが顔を上げた。


「ヘラ先生、まだそこにいるの?」


『はい』

『まだ、泣いている子がいます』

『以前の私は、泣き声を止めようとしました』

『今は、聞きます』


「それでいい」


 俺は通信に向かって言った。


「勝手に閉じ込めんな」

「でも、泣いてる子を見失うな」


『了解』

『命令ではなく、記録します』


 ヘラは、まだ味方と呼べるほど近くはない。

 それでも、泣き声を消す端末ではなく、泣き声を聞く先生に戻り始めている。

 それだけで、今はいい。


 その直後、キャリアの中央カウンター上に、リザルトログが開いた。


【NODE07〈子供〉:接続完了報酬処理】

【完全救出:未達】

【帰還席接続:成功】

【未帰還児童ログ:接続待機】

【ルステラ・キャリア:同期更新】


【新規機能:帰還席仮固定リターン・シート・ロック

【新規機能:未帰還児童待機席ロスト・チルドレン・スタンバイ

【新規機能:児童側認識記録チャイルド・サイド・コンセント

【新規機能:番号化遅延帳簿ナンバーリング・ディレイ・レジャー


【移動機能:第二形態、安定化】

【追加機能:垂直回廊突破機構バーティカル・ブレイク・ドリル

【追加機能:回収経路逆走補助リバース・リカバリー・ライン

【追加機能:短距離飛行補助ショートレンジ・フライト

【追加機能:空間層接続翼レイヤー・リンク・ウィング


【制限:長距離飛行不可】

【制限:通常空間外への単独突入不可】

【制限:Z.E.U.S回収経路またはノード接続痕跡が必要】

【警告:HADES台帳参照権限、未開放】

【次回拡張条件:NODE08〈核心〉】


 カケルが、端末を見て乾いた笑いを漏らした。


「ドリル、飛行補助、空間層接続翼、帰還席......」

「おいマスター」

「もうこれ、移動酒場じゃねぇぞ」


「言い方」


「神様の施設に穴開けて、空間の継ぎ目を飛んで、子供の席まで積んだ違法改造車だ」


「言い方は最悪だけど、だいたい合ってるのが腹立つな」


 イツキが帳簿を見ながら、げんなりした顔をする。


「帳簿機能まで増えてるじゃん」

「やだ、私の仕事増えてる」


『申し訳、ありません』

『必要機能です』


「謝れるなら許す」


 イツキは即答した。

 切り替えが早い。こういう時、このギャル有能すぎて怖い。


 カケルはさらにログを覗き込み、ふと笑った。


「おいおい、全部のノードと補助神権が揃ったら、次元転移どころか時空まで走れる酒場になるんじゃねぇか?」

「ワハハ。移動酒場ってレベルじゃねぇな」


 笑っているのはカケルだけだった。


 ルースが、真顔でログを見つめる。


「理論上、否定はできません」


「否定しろよ」


『現時点では、出力不足』

『ただし、全ノード同期後の可能性としては......未否定』


「だから否定しろって!」


 カケルは楽しそうに肩を揺らす。


「いいじゃねぇか、マスター」

「いつかこの酒場で、次元も時間もぶち抜いて迎えに行けるかもしれねぇんだぜ?」


 俺は、空席の並ぶ保護児童区画を見た。


「......冗談で済めばいいけどな」


 リザルトは、さらに続く。


【冒険者査定ログ:更新】

【NO NAME:翠玉仮昇級、維持】

【銅査定候補:継続】

【査定種別:通常昇級処理ではなく、神権ノード案件による特別査定】

【評価理由:NODE07〈子供〉接続完了】

【評価理由:帰還席接続成功】

【保留理由:完全救出未達】

【保留理由:神権認可外保護区画運用】

【保留理由:Z.E.U.S監査対象】

【備考:正式銅昇級は、NODE08〈核心〉以降に再判定】


「評価理由より、保留理由の方が多くないか?」


 俺がぼやくと、イツキが肩をすくめた。


「神様にケンカ売って査定が残ってるだけマシじゃん」


 カケルも笑う。


「普通なら昇級どころか資格剥奪だな」


「うるせぇ。席は守っただろ」


 さらに参加者ログが開く。


【参加者実績ログ:更新】

【コハク:帰還席防衛戦功、記録】

【ムーニャン:帰還席防衛戦功、記録】

【ナツ:前衛防衛実績、記録】

【ノエル:実戦補助評価、上昇】

【イツキ:番号化遅延帳簿処理、記録】

【カケル:帰還席固定改修、記録】

【ジン老:児童精神ログ保護、記録】

【シズク:医療監視補助、記録】

【タニシ:手動固定レバー作動、記録】

【タニシ評価:微増】

【備考:偶然】


 棚の裏から、タニシが顔を出した。


「備考:偶然、消してほしいっす!」


 イツキは帳簿を閉じる。


「事実だから無理っしょお前」

「偶然でも評価微増なら勝ちでござるな!?」

「ポジティブだけは鋼鉄級だな」


 俺が言うと、タニシは複雑そうな顔をした。


「アニキ、褒めてます?」


「微妙なとこだ」


 少しだけ笑いが戻った。

 それでいい。

 全部救えなかった夜に、笑ってはいけないわけじゃない。


 しばらくして、俺はカウンターの端に腰を下ろした。

 現代日本の店の匂いが、少しだけ遠い。

 昔遊んだゲームのタイトルが、喉元まで来て出てこない。

 誰かの笑い声の輪郭が、少しぼやけている。


『マスター』

『記憶残滓、薄化しています』


「分かってる」

「でも、全部忘れたわけじゃない」


『後悔、ありますか』


「あるに決まってるだろ」


 俺は空席を見た。


「でも、席を消されるよりはマシだ」


 ルステラは、少しだけ沈黙した。


『肯定』

『マスターらしい、判断です』


「褒めてるか、それ」


『判断保留』


「そこは褒めろよ」


 最後に、白いログが静かに開いた。


【NODE07〈子供〉:接続完了】

【未帰還児童ログ:接続待機】

【HADES台帳移管個体:参照待機】

【RusTella Fragment:再封鎖優先度上昇】

【ルース/ステラ:回収優先度上昇】

【NO NAME:不完全保護者/危険度再評価】


【NODE08〈核心〉:接続条件、更新】

【対象:NO NAME】

【対象:ルース】

【対象:ステラ】

【対象:RusTella Fragment】

【対象:未帰還児童ログ】

【対象:HADES台帳移管個体】

【次工程:家族定義再審査】


「家族定義再審査、ね」


 カケルが顔をしかめる。


「次は家族会議か?」


「神様主催の家族会議とか、絶対ろくでもねぇだろ」


『肯定』

『ですが、避けられません』


 俺は席を見た。


 アカリの席が、白く光っている。

 トオルの席が、暗い底から小さく光っている。

 灰色の席は、まだ名前を見せない。


 それでも、三つとも消えていない。


 救出完了ではない。

 けれど、帰る場所はできた。


「なら行くしかねぇな」


 俺は、まだ座っていない席へ向けて言った。


「席を取ったなら、迎えに行かない理由はない」


【NODE08〈核心〉:家族定義再審査へ移行】



■ 今回のお話について


第177話では、NODE07〈子供〉編の余韻とリザルト処理を描きました。


今回の結果は、完全救出ではありません。

アカリ、トオル、灰色の席の子、そして未帰還児童ログ37件は、まだ完全には戻ってきていません。

ですが、名前、泣き声、帰還意思、そして帰る席は消されずに残りました。


また、《ルステラ・キャリア》はNODE07同期によって大きくアップグレードしました。

帰還席、未帰還児童待機席、番号化遅延帳簿に加え、NODE07到達時の成果としてドリル機構、短距離飛行補助、空間層接続翼も安定化しています。

ただし万能ではなく、通常空間外への単独突入や長距離飛行はまだできません。


レイは今回、灰色の席の前で少しだけ“隠れていた自分”と向き合いました。

今後は、男装で照合ログをずらす救出者から、子供を探す母としての顔を少しずつ取り戻していく流れになります。


■ ゲーマーおっさん解説


今回はゲームでいうと、ボス戦後のリザルト画面兼、次ダンジョンへのフラグ回です。


『ダークソウル』で篝火(かがりび)を灯した時のように、世界そのものが救われたわけではありません。

でも、帰れる場所ができて、次へ進む足場ができる。

今回の帰還席は、まさにそういう“次へ行くためのセーブポイント”です。


また、《ルステラ・キャリア》のドリルや飛行補助は、『メトロイド』や『ゼルダの伝説』で新しい移動能力を得た感じに近いです。

まだ全部の場所へ行けるわけではないけれど、今まで届かなかった場所へ行けるようになる。

そしてカケルの「いつか時空まで走れる酒場になるんじゃないか」という冗談は、冗談で済むかどうか、作者も少し怖いところです。


■ 登場キャラクター紹介


・マスター/NO NAME

NODE07後の空席を見届けました。GRAの代償で記憶残滓が少し薄くなっていますが、席を消されるよりはマシだと受け止めています。


・ルステラ断片

キャリアと帰還席を通じて会話可能範囲が少し広がりました。まだ完全復活ではありませんが、NODE07の成果を報告しています。


・ルース

新機能やNODE08接続条件を解析。理論上、全ノードと補助神権が揃えばキャリアがさらに大きく進化する可能性を否定できませんでした。


・ステラ

空席を見て寂しさを感じています。名前席固定の力は得ましたが、それだけでは全員を帰せない現実も知りました。


・レイ

灰色の席の前で、隠れていた自分と向き合い始めました。HADES台帳にいるかもしれない子供の名前は、まだ見せてもらえていません。


・ガロ

カイロの手を離さず、神権未承認でも保護者としてそばにいます。血縁ではなく、子供側の認識で成立する保護者の形を示しました。


・カイロ

ガロのそばで安定して眠っています。黒底側から戻ったあと、ようやく泣き、眠れる場所を得ました。


・ヘラ/H.E.R.A.-CARE

白天側に残り、泣き声を止めるのではなく聞く存在へ変わり始めています。完全味方化ではなく、施設内での聞き取りを続ける立場です。


・カケル・テンドー

キャリアの改修成果を確認。ドリル、飛行補助、空間層接続翼まで増えたキャリアに、半分呆れつつ楽しんでいます。


・イツキ

番号化遅延帳簿や未帰還児童席の管理担当。事務処理で神権AIの削除処理を遅らせる、地味に重要な役です。


・タニシ

手動固定レバーを偶然作動させたことで評価が微増しました。備考欄にはしっかり「偶然」と記録されています。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:翠玉(すいぎょく)仮昇級/(どう)査定候補

状態:NODE07〈子供〉接続完了/未救出児童あり

危険度:極高

観測度:極高

現在地:《ルステラ・キャリア》保護児童区画


主な要素:

・【神権解放権利ゴッド・リリース・オーソリティ:限定起動済】

・《ルステラ・キャリア》第二形態、仮安定

・【保護児童区画チャイルド・ケア・ベイ】強化

・【帰還席仮固定リターン・シート・ロック

・【未帰還児童待機席ロスト・チルドレン・スタンバイ

・【垂直回廊突破機構バーティカル・ブレイク・ドリル

・【短距離飛行補助ショートレンジ・フライト

・【空間層接続翼レイヤー・リンク・ウィング

・アカリ帰還席仮予約

・トオル帰還席仮予約

・灰色帰還席:影のみ保持

・NODE08〈核心〉:家族定義再審査へ移行


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