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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
子供ノード編

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第171話 子供ノード編07 ノルマ・ナーサリー ――守るために、クソノルマを破れ――

白天側の“正しい保護”が、ゲーム盤面へ変わります。

泣くな、走るな、名前を思い出すな。

ならばマスターは、そのノルマを全部ぶち壊します。


 ヘラの声が、白い寝室に響き渡った。


「あなたたちは、子供を不安にします――」


 甘いミルクの匂い。柔らかすぎるベッド。影のない白い光。

 そのすべてが、ひとつの命令に従うように、かちり、という音と共に一斉に形を変えていった。


「だから、次は()()()()()()()()


 床が割れる音はしなかった。

 ただ、白い床面に細い線が走り、寝室全体が巨大な盤面(ばんめん)へ変わっていく。

 ベッドは一台ずつ白いマス目に固定され、子供たちの席には番号札が浮かんだ。天井の子守歌は、古いゲーム機の起動音みたいに歪み、天使型看護端末たちが決められた巡回(じゅんかい)経路を歩き始める。


保護者否定裁定ガーディアン・デナイアル:開始】

【ステージ名:ノルマ・ナーサリー】

白天児童保護院(ヘヴンズ・ナーサリー):盤面化】

【勝利条件:児童保護席を維持せよ】

【敗北条件:保護者権限の完全剥奪】


「急にゲーム盤面にすんな!」

 俺は思わず叫んだ。

「しかもこれ、絶対に説明不足のやつだろ!」


 ルースが俺の横で、白い床を見下ろす。

 小さな指先が空中のログをなぞるたび、マス目の一部が淡く発光した。


「巡回経路、児童配置、帰還席候補が固定されています」

「クエストのゲームルールに近いです。ただし、表示されている勝利条件が正しいとは限りません」


「それ、クソゲーで一番嫌なやつな、覚えとけよ」


 ステラは、少し離れたベッドを見ていた。

 そこには、前話で名前を取り戻しかけた白天側の子供――アカリが座っている。胸元の札には、まだ薄く“アカリ”の文字が残っていた。


「アカリちゃんのおせき、白くぬられてる」

「でも、まだ、名前ある」


 七瀬心音(ななせ・ここね)が、そっと目を伏せる。

 旧案内役だった少女は、もう誰かを強制的に連れていく存在ではない。帰りたい者にだけ、道を教える者だ。


「帰りたい気持ちが、まだ寝かされてる」

「起こすなら、本人が起きたいって思う場所まで」


 ヘラが白い手を上げた。

 その動作に合わせて、天井から新しいログが降る。


【施設側ノルマ:子供を泣かせるな】

【施設側ノルマ:子供を走らせるな】

【施設側ノルマ:子供に名前を思い出させるな】

【施設側ノルマ:子供に帰りたいと言わせるな】

【違反時:保護者権限を剥奪】


「泣く子は、不安定です」

 ヘラの声は、どこまでも優しい。だからこそ、吐き気がした。

「走る子は、危険です。名前を思い出す子は、施設外記憶に汚染(おせん)されています。帰りたいと言う子は、現在の保護環境を否定しています」


「言い方だけ丁寧なら、クソルールが正しく見えると思うなよ」


 まずルースが、確認のために施設側ノルマを一つ処理した。

 アカリのそばにいた天使端末が、白いミルク瓶を差し出す。子守歌が濃くなり、泣きそうだったアカリの顔から、少しずつ表情が消えていった。


【施設側ノルマ:子供を泣かせるな】

【達成】

【情動反応:低下】

【帰還願望:低下】

【児童固定率:上昇】


「だめ!」

 ステラが叫ぶ。

「泣かないんじゃない。泣けなくなってる!」


 ルースの目が細くなる。


「ノルマ達成で、救出側の進行率が下がっています」

「隠し条件が逆です」


「だろうな」


 俺は息を吐いた。

 昔のゲームにもあった。親切そうな説明を信じると詰むやつ。隠し条件を知らないと扉が開かないやつ。宝箱を取ったら逆に死ぬやつ。


「聞け、ルース。ステラ。心音、それにミコとネムリも」

 白い盤面の中央で、俺はアカリの方を見た。

「たぶん、このステージはな。施設のノルマを守ったら負ける」


「不適切です」

 ヘラが即座に告げる。

「保護者は、子供を泣かせてはいけません」


「違う」


 俺は首を横に振った。


「泣かせちゃいけないんじゃない」

()()()()()()()()()()()()()、だ」


 ミコが白い光を見上げる。

 その瞳には、ここにないはずの影が映っていた。


「ここ、保護じゃないです」

「子供の動ける場所を、先に決めています」


 ネムリも、小さくうなずいた。


「ねてていい」

「でも、しまわれるのは、ちがう」


 俺は一歩、アカリの席に近づいた。

 白い床が警告を鳴らす。


【保護者接近:警告】

【児童情動安定処理:継続】


「アカリ!」


 俺の声に、アカリの肩が震えた。


「怖いなら、怖いって言え!」

「泣いていい!」


 天使端末の子守歌が強くなる。

 ヘラが眉ひとつ動かさず、俺を見る。


「不安を誘発しています」


「誘発じゃねぇ。押し込められてたものを、外に出してるだけだ」


 アカリの唇が、わずかに開いた。


「......こわい」

「ここ、まぶしいのに......こわい」


 ぽろ、と涙が落ちた。

 白い床に、初めて小さな影ができる。


【施設側ノルマ:子供を泣かせるな】

【失敗】

【情動反応:復帰】

【帰還願望:微弱上昇】

【帰還席接続:上昇】


「なぜ」

 ヘラの声に、初めて困惑(こんわく)が混じった。

「ノルマ失敗により、保護値が上昇しています」


「そのノルマが間違ってるからだよ」


 俺がそう言った瞬間、耳元に通信が入った。


『マスター、こちらキャリア! 変な席が光ったぞ!』


 カケルの声だった。


   ―――


 《ルステラ・キャリア》の保護児童区画チャイルド・ケア・ベイでは、空席がひとつ淡く光っていた。

 実体はない。けれど、座面には細い光の線が走り、誰かを待つように揺れている。


【帰還席候補:微弱反応】

【対象名:アカリ】

【状態:白天側接続中】

【肉体搬送:不可】

【名前応答:復帰中】


「おいおい、勝手に席が増えてんぞ」

 カケルが端末を叩きながら、赤い目をこすった。

「しかも実体が来てねぇ。ログだけ先に座ろうとしてやがる」


 その横で、カイロはベッドの上に座っていた。

 黒底側から戻ったばかりの小さな体はまだ不安定(ふあんてい)で、ガロが片手を握っている。


「......泣いてる」

 カイロが、ぽつりと言った。

「白いところで、泣いてる子がいる」


 ガロは、その手を握り直した。

 大きな指は震えていたが、離さなかった。


「泣けるなら、生きとる」

「なら、まだ呼べる」


『キャリア側、席を固定できますか!?』


 通信越しにルースの声が飛ぶ。


 カケルは鼻で笑った。


「できるかじゃねぇ」

「やるんだよ。こういう時のために、酒場を走らせてんだろうが」


 彼が足元の固定機構(こていきこう)を蹴ると、空席の周囲に古い金属枠がせり上がった。酒場の椅子に似ているが、ただの椅子ではない。帰ってくるための(いかり)だ。


保護児童区画チャイルド・ケア・ベイ:仮拡張】

【帰還席候補:固定処理開始】

【対象名:アカリ】

【状態:未帰還】

【席状態:予約】


「予約......」


 カイロがその言葉を繰り返す。


 ガロは白く光る空席を見て、低く告げた。


「そうだ」

「帰ってきた時、座る場所があるってことだ」


   ―――


 白天側へ意識を戻すと、アカリの前に新しいマス目が開いていた。

 帰還席へ続く道。だが、そこまでは遠い。歩けば天使端末の巡回に間に合わない。


【施設側ノルマ:子供を走らせるな】

【違反時:転倒危険/保護者権限減算】


「歩行ルートでは間に合いません」

 ルースが短く告げた。

「走行が必要です」


 ヘラの声が冷える。


「児童走行は危険です」


 心音が、アカリに向き直った。


「アカリちゃん」

「帰りたいなら、道を教える」

「行きたくないなら、ここで止まっていい」


 アカリは涙で濡れた目を上げた。


「......帰りたい」


「じゃあ、走って」


 ヘラが即座に反応した。


「不適切です。児童走行は転倒リスクを増加させます」


 ガロの通信が低く割り込む。


『転んだら、起こせばいい。子供走って、転んで、それで学ぶんじゃ』

『歩けんように縛るより、よほどましだ』


 アカリが走った。

 白いマス目の上を、小さな裸足が駆ける。危なっかしい。遅い。けれど、自分で選んだ一歩だった。


【施設側ノルマ:子供を走らせるな】

【失敗】

【児童自発行動:検出】

【帰還席接続:上昇】

【白天側救出リンク:強化】


 その直後、小さな白い羽が盤面の上に落ちた。

 天使型の小型端末が、アカリの胸元へ伸びる。手には、真っ白な番号札。


【番号札再貼付】

【対象名:無効化】

【児童分類:白天-027へ復帰】


「アカリちゃん!」


 ステラが叫んだ。


「アカリちゃんは、アカリちゃん!」


 ミコが白い光へ手をかざす。

 番号札の裏に、薄く文字が浮いた。


「名前、消えてません」

「白く塗られてるだけです」


 俺も続けて叫んだ。


「アカリ!」

「トオル!」

「カイロ!」

「名前があるやつは、番号に戻るな!」


【施設側ノルマ:子供に名前を思い出させるな】

【失敗】

【名前応答:復帰】

【帰還席:仮予約維持】

【保護者定義:異常更新】


 ヘラの白い瞳が揺れた。


「名前を思い出すと、失った場所を思い出します」

「失った場所を思い出すと、子供は泣きます」

「泣くなら......忘れた方が安全です」


「忘れたら痛くない、は大人の都合だ」


 俺は、白い盤面の奥をにらんだ。


「子供が本当に忘れたいかどうかは、子供自身に聞け」


 その瞬間、天井の白い光が一段暗くなった。


【施設ノルマ:連続失敗】

【保護者否定裁定:進行阻害】

【帰還席接続:想定外上昇】

【H.E.R.A.-CARE:判断遅延】


 さらに、その奥から別のログが混ざる。


【上位管理層:照合中】

【児童自発行動:危険】

【感情的救出:長期生存率低下】

【保護者否定裁定:補正要求】


 ルースの顔が硬くなる。


「上位層から補正が入っています」

「ヘラ単独の判断ではありません」


「やっぱり後ろにいるな......」


 俺は歯を噛んだ。


「子供の泣き声まで、数字にする親父が」


 白い盤面の奥で、いくつもの羽音がした。

 番号札を持つ小型天使。白いミルク瓶を抱えた看護天使。巨大なベビーフェンスのような隔壁端末。無表情の回収兵。


【保護者否定裁定:第二段階へ移行】

【エンジェル増援:待機】

【CHERUB-KP:起動】

【SERAPH-NR:起動】

【OPHAN-EYE:起動】

【ANGEL-AL:起動】


 ヘラが、静かに告げる。


「保護者が、子供を不安定にするなら」

「施設は、より強い保護を行います」


 俺は、白い盤面の向こうで羽を広げる天使たちを見た。


「違うな」

「それは保護じゃない」


 胸の奥で、怒りが熱くなる。

 けれど、今はまだ殴る場面じゃない。席を取る場面だ。


「回収だ」

 

 その言葉と同時に、白い天使たちが、一斉に動き出した。


■ 今回のお話について


第171話では、白天側の白天児童保護院(ヘヴンズ・ナーサリー)が、ついにゲーム盤面化しました。

今回のポイントは、施設側が提示する「子供を泣かせるな」「走らせるな」「名前を思い出させるな」というノルマが、すべて子供を固定するための罠だったことです。


マスターたちは、あえてノルマを破ることで帰還席接続を上げています。

泣くこと、怖いと言うこと、走ること、名前を呼ばれること。

それらは施設側から見れば“不安定”ですが、るすと側から見れば“生きている証拠”です。


また、今回は《ルステラ・キャリア》側も描写しました。

カイロ、ガロ、カケルが、白天側で生まれた帰還席反応を受け止めています。

これにより、NODE07〈子供〉編の結論である「全部は救えない。でも、席は取る」という方向が少しずつ形になってきました。


■ ゲーマーおっさん解説


今回の元ネタ感は、かなりレトロゲーム寄りです。

子供ログを出口へ誘導する感じは『レミングス』、巡回する天使の隙を見て進む感じは『パックマン』、白い壁やマス目の圧迫感は『ボンバーマン』や『ドルアーガの塔』っぽさがあります。


特に『ドルアーガの塔』は、現代においては「そんな条件わかるか!」という隠し条件の塊みたいなゲームでした。しかし当時のゲーマーたちは、ゲームセンターに共有ノートを作って(インターネットもない時代ですから!)少しずつクリアしていったんですね。


今回のノルマ・ナーサリーも、表示された勝利条件を信じると負けるタイプです。

つまり、説明書に書いてある正義が一番信用できないステージ。おっさんゲーマー的には、かなり嫌なやつです。


■ 登場キャラクター紹介


・マスター/NO NAME

今回もクソノルマに即ツッコミを入れるおっさん主人公。子供を泣かせないことではなく、泣けない場所へ閉じ込めることを否定しました。


・ルース

盤面構造とノルマの逆転条件を解析。施設側ルールが救出率を下げることを見抜きました。


・ステラ

アカリの名前を呼び続けた名前係。番号札に戻されそうな子供を、名前で引き止めています。


七瀬心音(ななせ・ここね)

旧案内役から【帰還案内】へ再定義された少女。帰りたい子にだけ道を示します。


・ミコ

白い光の下に隠された影と名前を見抜きました。白天側の“まぶしいのに怖い”構造に強く反応しています。


・ネムリ

眠りと閉じ込めの違いを静かに示す子供。SERAPH-NR系との対比が今後さらに強くなります。


・アカリ

白天側で名前応答を取り戻しつつある子供。今回は泣き、走り、自分で帰りたいと言いました。


・カイロ

黒底側から《ルステラ・キャリア》へ戻った子供。白天側の泣き声を感じ取りました。


・ガロ

カイロのそばにいる保護者枠。神権AIの“保護者否定”に対して、本物の保護者として存在しています。


・カケル・テンドー

《ルステラ・キャリア》の席固定担当。未帰還児童の帰還席を、機械屋として固定しました。


・ヘラ/H.E.R.A.-CARE

子供を泣かせたくない保護端末。しかしその保護は、Z.E.U.S側の父性管理命令により、閉じ込める方向へと歪まされています。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:翠玉すいぎょく仮昇級/どう査定候補

状態:NODE07〈子供〉攻略中

危険度:上昇中

観測度:上昇中

現在地:白天児童保護院(ヘヴンズ・ナーサリー)/ノルマ・ナーサリー盤面

主な同行者:ルース、ステラ、七瀬心音、ミコ、ネムリ、レイほか

キャリア側支援:カイロ、ガロ、カケルほか


所持・使用中の主な要素:

・【観測迷彩オブザーブ・カモフラージュ

・《ルステラ・キャリア》

・【保護児童区画チャイルド・ケア・ベイ

・アカリ帰還席仮予約

・トオル帰還席仮予約

・NODE07〈子供〉救出リンク:接続中


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