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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
子供ノード編

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第170話 子供ノード編06 白い天国は、まぶしすぎる ――眠っている子と、光を見る子が、嘘の保護を見抜く――

カイロは戻った。けれど、子供ノードはまだ終わらない。

白い施設は今度、ネムリとミコを“正しい子供”へ分類しようとする。

天国に見える場所ほど、影は濃い。


 カイロを乗せた《ルステラ・キャリア》から、医療区画の通信が入った。


脈拍(みゃくはく)は弱いけど安定。黒い回収線の痕跡(こんせき)は残ってる。ガロさん、そこ動かないでね』


 シズクの声だ。


『動かん』


 ガロの返事は短い。


 俺は白い通路に立ったまま、息を吐いた。


 勝ったわけじゃない。

 カイロは戻った。トオルの名前も、かろうじて繋いだ。

 でも、黒底児童回収炉(アビス・ナーサリー)の奥には、まだ子供たちが残っている。


 その事実だけが、胃の底に重く沈んでいた。


 ヘラは、そんな俺たちを見て、静かに微笑んだ。


「下層工程は、一時隔離(かくり)されました。では、白天保護工程を再開します」


【対象003:回収失敗】

【下層処理区画:緊急隔離】

白天児童保護院(ヘヴンズ・ナーサリー)再起動リブート

【対象004:DREAM保留個体】

【対象005:光源未登録個体】

【個別分類室へ移送します】


「次は、わたし?」


 ネムリが、眠そうな顔で首を傾げた。


 隣でミコが白い天井を見上げる。いつもより目が細い。


「光、ちがう」


「ミコ?」


「ここ、()()()()()()()


 ヘラは優しい声で答えた。


「ここは、子供が怖いものを見なくていい場所です。眠る子は、正しく眠りましょう。光を見る子は、正しい光だけを見ましょう」


「正しいって言葉、便利に使いすぎだろ」


 俺が吐き捨てると、白い壁が音もなく開いた。


 奥に広がっていたのは、形容するなら、まるで天国みたいな部屋だった。


 真っ白な寝室。

 柔らかいベッド。

 天使の羽みたいな形をした看護端末。

 甘いミルクの匂い。

 耳に残らない、優しすぎる子守歌。


 壁には丸い文字で書かれた標語が貼られている。


【よいこは、こわいゆめをみません】

【おきなくても、しあわせです】

【ただしいひかりは、まぶしくありません】

【おうちをわすれたこは、ここがおうちです】


 ミコが、ぽつりと言った。


「ここ、ひかりが死んでる」


 その言葉に、ステラがびくっと震えた。


「ひかり、死ぬの?」


「うん。まぶしいだけ」


 ミコは、人工太陽みたいな白い球体を指差した。


「影がない。ぜんぶ、白くぬってる」


 俺は床を見た。


 たしかに、影がない。

 俺たちが立っているのに、足元の輪郭(りんかく)が曖昧だ。光が強すぎるのではなく、影という概念そのものが消されている。


「影は、子供に不安を与えます」


 ヘラが言う。


「光だけを見ていれば、迷いません」


 ミコは、少しだけ首を振った。


「影がないと、帰る道も見えない」


   ―――――


 ネムリの前に、白いベッドが滑るように現れた。


【対象004:DREAM保留個体】

【分類室:安眠保護室スリープ・ケア・ルーム

【目的:夢層接続の施設管理下移行】


「ネムリ。あなたは、眠っている子を起こさないで守れる」


 ヘラの声は、子供に絵本を読むみたいに穏やかだった。


「その機能は、この施設に適しています」


「ねむってると、こわくない」


 ネムリは小さく頷いた。


「はい。だから、ずっと眠りましょう」


 その瞬間、俺の背筋に冷たいものが走る。


 眠ることは悪じゃない。

 傷ついた子が、眠って休む時間は必要だ。

 けれど、ここで言う眠りは違う。


 起こさないことで守るのではなく、起きる選択を奪っている。


 ネムリはベッドの上の子供たちを見た。みんな穏やかな顔で眠っている。けれど、胸元の名札は空白だった。


「まだ、ねてていい」


 ネムリは、ひとつのベッドにそっと手を置いた。


「でも、ここに、しまわれるのは、ちがう」


 白い子守歌が、一瞬だけ音を外した。


【HYPNOS / DREAM-CORE類似反応】

【夢層保留権限:施設管理外】

【警告:眠り定義にノイズ発生】


「ネムリ、起こせるか?」


 俺が聞くと、ネムリはゆっくり首を振った。


「むりに起こすと、こわれる」


 それから、小さな声で続ける。


「でも、帰りたいなら、目をあけていい」


 その言葉に、七瀬心音が一歩前へ出た。


 彼女の足元に、淡い道筋が浮かぶ。


【旧役割:案内役】

【新定義:帰還案内】

【対象:帰りたい者】

【禁止:強制誘導】


「帰りたい気持ちが、寝かされてる」


 心音は、眠る子供たちを見回した。


「消えてない。でも、自分で見つけられない」


「おきたら、こわい?」


 ネムリが聞く。


「うん。でも、起きないと選べない」


 心音の声は静かだった。

 でも、その静けさは、白い施設の静けさとは違う。


 待つ静けさだ。


   ―――――


 ミコが、一番奥のベッドの前で足を止めた。


 そこには、小さな女の子が寝ていた。白い服。白い布団。胸元の名札は空白。顔は穏やかなのに、指先だけが、何かを探すみたいに動いている。


「この子、まだあったかい」


 ミコが言った。


 ヘラが即座にログを出す。


【対象019:施設適合率、高】

【優良保護児】

【名前定義:不要】

【保護継続を推奨】


「名前は」


 俺が問う。


「不要です」


 ヘラは即答した。


「対象019は、ここで安定しています」


「安定って言葉でごまかされねぇぞ」


 ステラが、泣きそうな顔でベッドへ近づく。


「おせき、あるよ」


 ネムリが少女の手に触れる。


「起きなくていい。でも、帰りたいなら......ちょっとだけ、目をあけていい」


 心音が、白い部屋の出口ではなく、少女の胸のあたりを指した。


「道は、そっちじゃない」


 少女のまつげが震えた。


 ミコが、白い光の中に手を入れる。


「まぶしいの、どける」


【対象005:光源未登録個体】

【未登録光源反応:上昇】

【白天照明層:局所不安定】


 白い部屋に、初めて影が生まれた。


 それはほんの小さな影だった。少女の指先の下に落ちた、針の先みたいな黒。けれど、その影ができた瞬間、少女はゆっくり目を開けた。


「......アカリ」


 かすれた声だった。


「わたし、アカリよ」


【対象019:番号応答停止】

【名前応答:アカリ】

【白天保護工程:ノイズ発生】

【帰還席:仮予約】

【白天側救出リンク:微弱接続】


 ステラが、ほっとしたように笑う。


「アカリちゃんのおせき、できた!」


 俺は小さく頷いた。


「アビス側にトオル。白天側にアカリ」


 ルースが端末を閉じずに言う。


「両側に、救出リンクが成立しました。ただし、維持には中枢の上書きが必要です」


「つまり、次は」


「【児童保護席】を【帰還席固定区画リターン・シート・ベイ】へ上書きします」


 ようやく、勝利へのか細い道筋が見えた。


 全員を連れて帰るには、まだ足りない。

 けれど、天国にも地獄にも、席を置けた。


 ゼロじゃない。その事実はゆるぎない。


   ―――――


 ヘラが、頭を押さえた。


「子供は、保護されるべきです」


 声に、微かなノイズが混じる。


「保護は、施設が行います。保護者は......不要です。不要、のはずです」


【ヘラ個体:母性模倣層にノイズ】

【管理命令と保護反応に矛盾】

【Z.E.U.S-PATERNAL-AUTHORITY:強制介入準備】


 ルステラの声が低く響く。


『マスター。あの子は、ただの端末ではありません』

『守りたい、という模倣が残っています。ただし、守り方を間違えています』


『あら。閉じ込めて守る女は、だいたい重いですわよ』


 ポメ子の通信が割り込んだ。


「お前が言うな」


 思わずツッコむと、白い部屋の重さが少しだけ揺らいだ。


 だが、次のログで空気はすぐに凍った。


【白天側救出リンク:検出】

【黒底側救出リンク:検出】

【児童保護席の上書き兆候を確認】

【次工程:保護者否定裁定】

【対象:NO NAME】

【対象:外部保護者ログ保持者】

【対象:帰還案内残滓保持個体】

【対象:DREAM保留個体】

【対象:光源未登録個体】


 ヘラが顔を上げる。


 その瞳は、さっきまでより少しだけ揺れていた。けれど、声は冷たい。


「あなたたちは、子供を不安にします」


 白い壁が、ゆっくり閉じ始める。


「だから、次は保護者を消します」


 俺は震える拳を握り直した。


()()()()()


 白い天国の光が、さらに強くなった。


 けれど、足元には小さな影が残っている。


 アカリが見つけた、帰るための影が。


■ 今回のお話について


第170話は、白天側――白天児童保護院(ヘヴンズ・ナーサリー)の怖さを描く回でした。


アビスは分かりやすい地獄でしたが、白天側は“優しそうに見える保護”です。

眠らせておく。怖いものを見せない。影を消す。

一見すると安全ですが、その実態は「選ばせない保護」でした。


今回はミコが偽の光を見抜き、ネムリが「眠っていても、しまわれるのは違う」と示しました。

アビス側のトオル、白天側のアカリ。

これで両側に、帰還席の仮予約が置かれました。


■ ゲーマーおっさん解説


今回のゲームネタは「明るい場所ほど怪しい」です。


RPGやホラーゲームで、やたら綺麗な白い研究施設とか、妙に優しいBGMが流れる保護区画って、だいたい裏があります。

暗いダンジョンより、明るすぎる部屋の方が怖いこともありますよね。


あと、今回のミコの「影がないと帰る道も見えない」は、ゲーム的にもけっこう大事です。

光だけで全部塗り潰されると、地形も出口も分からなくなる。

ちゃんと影があるから、プレイヤーは奥行きや道を認識できるわけです。


白すぎる天国は、たぶんクソマップです。


■ 登場キャラクター紹介


・マスター/NO NAME

名前のないおっさん主人公。今回は白天側の“優しい保護”に怒りつつ、次の上書き目標を確認した。


・ミコ

光を見る子。白天側の偽の光を「あったかくない」「影がない」と見抜いた。


・ネムリ

夢と眠りに近い特異個体。眠ることを否定せず、施設に“しまわれる眠り”を拒んだ。


・七瀬心音

帰還案内へ再定義された存在。帰りたい気持ちを強制せず、道だけを示した。


・アカリ

白天側の保護児。名前を失いかけていたが、ミコ、ネムリ、心音、ステラの補助で名前応答を取り戻した。


・ヘラ

旧児童回収施設の少女型神権端末。母性模倣層にノイズが入り始めたが、Z.E.U.S側の保護命令に従い続けている。


・ルース/ステラ

ルースは救出リンク解析、ステラは帰還席の仮予約を担当。アビスと白天の両側に席を置くことに成功した。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:翠玉仮昇級/銅査定候補

状態:旧児童回収施設上層にて保護者否定裁定へ移行

所持権能:観測迷彩オブザーブ・カモフラージュ帰還席指定(リターン・シート)試作運用中

今回の成果:アビス側トオル、白天側アカリの帰還席仮予約

現在の問題:【児童保護席】の上書き未完了/ヘラの保護者否定裁定が開始

危険度:高

観測度:上昇中


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