第164話 夢ノード編23 昇級処理と作戦会議 ――強くなったので、もっと危ない場所に行けるようになりました――
夢から帰ったマスターたちに待っていたのは、休息ではなく昇級処理だった。
NODE06〈夢〉回収により、《ルステラ・キャリア》も次の段階へ進化しようとしている。
けれど作戦会議の途中、Z.E.U.S側から旧児童回収施設への出頭命令が届く。
夢から帰った人間に、休む時間くらいあってもいいと思う。
少なくとも俺はそう思う。
だが、ギルド酒場の帳簿は、人間の感情にも、四十二歳の腰にも、まったく配慮してくれないらしい。
「はい、全員座ってー」
《ルステラ・キャリア》の酒場区画。
ダイブ補助室から移動した俺たちは、休む間もなく長テーブルの周りに集められていた。木の床、カウンター、並んだグラス、湯気の立つスープ。見た目だけなら、いつもの移動酒場だ。
ただし、空気は少し違う。
壁の一部には、夢層ダイブ補助室から伸びた白と翡翠色のラインが残っている。子供用の小さな席も、まだ完全には収納されていない。夢ノードで得た【帰還席指定】の残滓が、この車内に染み込んでいるのだろう。
イツキは帳簿を片手に、いつもの軽い調子で指を鳴らした。
「夢ノード帰還者、協力者、外縁支援組、通信事故神、まとめて昇級処理するから」
「通信事故神って誰だよ」
「はいはーい!ぼくです!」
ヘルメスが元気よく手を挙げた。
「元気に名乗るな」
「すみません! でも、事実なので!」
「事実ならなおさら悲しいんだよ」
ヘルメスはしゅんとしたが、その肩にはまだ通信ログの光がちらついている。悪意はない。悪意はないのに、とんでもない爆弾を神権通信網へ投げ込む。それが今のヘルメスだった。
イツキは帳簿をめくる。
「今回は、強さだけじゃないよ。帰還率、救助成功、未処理児童ログの保護、悪夢AI機能停止、NODE06〈夢〉回収。それから」
彼女は、少しだけ声を落とした。
「帰ってきたこと。全部まとめて評価対象」
ガロが腕を組んだまま、低く言う。
「戦って勝っただけなら、昇級とは言わん。守って戻ったなら、等級を上げる理由になる」
その一言で、ノエルが小さく息を呑んだ。
夢魂を剥がされかけても、子供ログを離さなかった少年。まだ顔色は白いが、その目は逃げていない。
イツキのペンが、帳簿の上を走る。
「まずマスターね」
「いきなり俺か」
「青玉正式処理済み。今回で、翠玉仮昇級。銅査定候補入り」
「おお......と言いたいところだけど、なんで仮なんだ?」
「本人戦闘力だけ見ると詐欺だから」
「昇級発表で心を折るなよ」
「指揮、帰還判断、ノード回収、保護者性能で無理やり通す。殴り合いだけなら、まだだいぶヨワヨワでしょ」
ルステラの声が、カウンター横の小さな光から落ちる。
「補足。マスターは個体戦闘力より、帰還率補正と例外処理適性が高いデス」
「言い方はかっこいいけど、要は単体だと弱いってことだろ」
「否定不能デス」
「少し話せるようになった途端、刺してくるな」
ポメ子が隣でくすりと笑った。
「でもダーリン、弱くても守ろうとするところが良いのよねぇ♡」
「褒めてるのか不安になる言い方やめろ」
「褒めてるわ。重めに」
「軽くしてくれ」
イツキは笑いながら次を読み上げる。
「ノエル。鋼鉄正式昇格」
「ええ!?ぼ、僕がですか!?」
「夢魂剥離寸前まで行って、それでも子供ログを離さなかった。あれは白磁や黒曜の判断じゃない」
ガロが短く頷く。
「怖がったまま走ったなら、十分だ」
ノエルは目を赤くして、何度も頷いた。
「はい......! でも、怖かったです!」
「怖くなかったやつの方が信用できねぇよ」
俺がそう言うと、ノエルは泣きそうな顔で笑った。
次に、ナツが呼ばれる。
「ナツ。青玉査定候補」
「え、私もっすか!?」
「倒せない敵に対して、ちゃんとズラす判断をした。脳筋前衛にしては偉い」
「褒め方にトゲありますねそれ!?」
「でも、あの0.7秒がなかったら、俺は夢を抜かれてた」
俺が言うと、ナツは少し照れたように拳を握った。
「じゃあ、次は一秒ズラします!」
ルースが真面目に頷く。
「目標設定として妥当です」
「真面目に評価するな」
「ムーニャン。翠玉正式、銅査定候補」
「当然にゃ。猫はやる時やるネ」
「ただし備考欄。厨房窃盗、梁の上居座り、魚の無断取得、素行不良」
「昇級ログに魚の話を書くなアル!」
ミツキが穏やかな顔で言う。
「書かれます。厨房被害、毎回出てますから」
「細かいこと気にすると、しっぽ抜けるネ」
「抜けないし、盗むな」
コハクは、鋼鉄正式に加えて青玉査定候補。結界と外縁支援の実績が評価された。
「ふふん、当然でござるワン! このコハク、夢でも結界でもご主人様のためなら――」
タニシが横から口を挟む。
「しかし、ござる被りが深刻でござるな」
「貴殿のござるは湿っているので別物でござるワン」
「湿度で差別されたでござる!」
ポメ子がぴくりと反応する。
「あら、湿度のお話かしら?」
「お前は反応するな」
そして、そのタニシの番になった。
「タニシ。黒曜正式」
「拙者が!?」
「備考欄。信用不可。要監視。余計なことをする。たまに刺さる。湿度高め」
「昇級なのに人間性で減点されている!」
「むしろよく昇級できたなお前」
「アニキ、もっと祝って!」
「黒曜おめでとう。あと湿ってるわ」
「祝辞にカビが生えてるでござる!」
ヘラクレスは等級外。例外神協力者として登録された。
「ふむ! 筋肉等級なら白金だな!」
「勝手に作るな」
「備考欄。筋肉で処理時間を四秒稼いだ」
「四秒ではない! 努力の積み重ねだ!」
ルースが端末を確認する。
「ログ上は四秒です」
「ログも筋トレせよ!」
意味が分からないが、ヘラクレスは満足そうに腕を組んで笑っていた。
ポメ子は、海域協力神権AI、保護者補助枠。
「保護者補助......いい響きね。ダーリンの家庭に自然に入り込む第一歩だわ」
「入り込むな」
ルステラが淡々と告げる。
「注意。家庭内権限の無断拡張は推奨されません」
「正妻AIが牽制してきたわね」
「作戦会議前に家庭内AI戦争を始めるな」
ヘルメスは、昇級なし。通信事故警戒枠。
「ですよね!」
「納得が早いな」
「でも、空席番号取得と校内放送は役に立ちました!」
イツキは頷く。
「そこは評価してる。ただし最後に爆弾投げたから、プラスとマイナスで変な形」
「変な形......ぼくらしいです!」
「喜ぶな」
最後に、ルースとステラ。
イツキは少しだけ表情を変えた。
「ルース、ステラ。等級付与なし」
ステラが、ぱちぱちと瞬きする。
「ステラ、だめなの?」
「だめじゃない。むしろ逆。今は、数字に乗せない方が安全」
ルースが静かに言う。
「神権側の照合対象から外すためですか」
「そう。あんたたちは冒険者じゃなくて、準ギルド構成員。あと、保護対象」
「ほごたいしょう......」
「つまり、うちの子扱いだ」
俺が言うと、ステラの顔がぱっと明るくなる。
「うちの子!」
ルースが端末に入力しかける。
「所属定義:うちの子」
「ログに残すな。いや、残していいのか? いや待て」
ルステラが短く補足する。
「残すべきデス。ただし、外部照合不可の内部定義として」
その言葉に、イツキは小さく笑った。
「じゃ、それで」
そして、ミコの番になる。
ミコは少し離れた席で、白い端末の光を見つめていた。いつものように静かで、表情が薄い。けれど、NODE05から続く光源照合の痕跡は、彼女の周囲にまだ淡く残っている。
「ミコ。等級外補助者。光源照合協力者として登録」
「等級、ない?」
「ない方が安全。あんたの光、普通の等級に載せると変に拾われる」
「じゃあ、ないままでいい」
「いいのか?」
俺が聞くと、ミコは短く答えた。
「名前があればいい」
その一言は、やけにこの章に刺さった。
最後に、ガロ。
イツキはペンを止めた。
「ガロさんは昇級処理なし。銀等級のまま」
「肩書はいらん」
「帳簿にはいるの。肩書がないと、あとで救助実績が消される」
ガロの目がわずかに細くなる。
「なら、書け」
「NODE07作戦登録。カイロ保護者枠。後見人、外部防衛兼緊急突入権限」
カイロが、静かにガロを見た。
「保護者?」
ガロはすぐには答えなかった。
彼は長い間、その子を探していた。愛した相手が残した子。神権AIに回収され、消えたと思っていた子。ようやく見つけたその子が、今ここにいる。
カイロは無表情に見える。けれど、その目はガロを待っていた。
「ああ」
ガロは低く言った。
「お前を迎えに来る者がいると、帳簿に書け」
イツキが静かに頷く。
「書くよ」
カイロは小さく言った。
「見つけた」
ガロの拳が震える。
「ああ。見つけた」
「もう、回収対象じゃない?」
「戻さん」
ガロの声は荒くない。
だが、その静かさの奥で、焼けた鉄のような怒りが音もなく赤くなっていた。
「もう二度と、回収対象なんぞには戻さん」
酒場区画が静まり返った。
イツキは帳簿を閉じ、まとめのログを走らせる。
【昇級処理:完了】
【マスター:翠玉仮昇級/銅査定候補】
【ノエル:鋼鉄正式】
【ナツ:青玉査定候補】
【コハク:鋼鉄正式/青玉査定候補】
【ムーニャン:翠玉正式/銅査定候補】
【タニシ:黒曜正式/要監視】
【ヘラクレス:例外神協力者登録】
【ポメ子:海域協力神権AI/保護者補助枠】
【ヘルメス:通信事故警戒枠】
【ミコ:光源照合協力者】
【ガロ:カイロ保護者枠】
【ルース/ステラ:準ギルド構成員/内部保護対象】
「なんか、ちゃんとパーティっぽくなってきたな」
「責任も増えたがな」
ガロの言葉は重かった。
イツキは肩をすくめる。
「等級が上がるってことは、受けられる依頼も、巻き込まれる厄介事も増えるってこと」
「強くなったので、もっと危ない場所に行けるようになりました、ってやつか」
「正解」
「嬉しくねぇ正解だな」
そこで、カケルが工具箱を抱えて酒場区画の奥から顔を出した。
浅くかぶったドクロ付きキャプテン帽。酒で赤らんだ顔。首から下げたメカゴーグルと未完成コアパーツ。相変わらず、見た目からして整備士なのかギャンブラーなのか分からない。
「で、次は旧児童回収施設だろ?」
「まだ作戦会議前だぞ」
「必要仕様、だいたい終わってる」
「何が終わってるんだ」
「要求が」
嫌な言い方だった。
カケルが工具箱を開くと、車内の壁に改修候補ログが浮かぶ。
【《ルステラ・キャリア》改修候補】
【昇空帆:上空施設接近用】
【地脈潜行:地下施設侵入用】
【垂直回廊接続:回収管侵入用】
【観測迷彩Ⅱ:神権照合回避】
【帰還席固定区画:保護児童ログ退避用】
【悪夢侵入警報:夢層保護経路と連動】
【子供保護倫理モード:拡張候補】
「飛ぶ、潜る、縦穴に突っ込む、子供を守る、神様の監視をだます」
カケルは、にやりと笑った。
「要求仕様が終わってるな。でも嫌いじゃねぇ。ベットするぜ、この改装に」
「また命を賭ける改造やめろ、てか本当に空飛んだり、掘れるようになるんだな」
「できるって前に言っただろ。賭けるのは命じゃねぇ。未来だ」
「急にかっこよくすんな」
マスターとしては突っ込みたい。だが、正直ワクワクもした。
空を飛ぶ酒場。地中へ潜る酒場。神権AIの回収管を逆走する移動拠点。冷静に考えれば意味が分からないが、この世界では意味が分からないものほど、だいたい必要になるのだ。
俺はログを見ながら言った。
「飛べるなら、空から行けるんじゃねぇの? 掘れるなら地下からでも」
その瞬間、ルステラの光が少し強くなった。
「補足します」
声は短い。けれど、さっきより明確だった。
「NODE07〈子供〉は、通常座標に存在しません」
「通常座標に存在しない?」
「肯定。上空、地下、地表のいずれから接近しても、施設本体へは到達不能デス」
酒場区画に緊張が走る。
「じゃあ、飛んでも掘ってもダメってことか」
「初回到達には不十分です。必要なのは移動ではなく、回収経路接続です」
ヘルメスが手を挙げる。
「あの、ぼく、少しだけ分かります」
「今度は事故じゃないよな」
「たぶん!」
「相変わらず不安だな」
ヘルメスは少し怯えながらも、壁のログへ通信線を伸ばした。
「旧児童回収施設は、子供を“連れていく”場所じゃないんです。呼び出して、分類して、送る場所です」
「呼び出す?」
「はい。出頭命令、回収命令、保護命令。命令に対象が応答すると、転送経路が開きます」
イツキが舌打ちするように息を吐いた。
「入口が道じゃなくて、命令ってわけね」
カケルが口角を上げる。
「つまり、神様が開けたドアに足を突っ込んで、閉まる前に車ごとねじ込むってわけだ」
「言い方が完全に不法侵入」
「相手が誘拐施設なら、不法侵入じゃなく救助だろ」
その言葉に、ガロが静かに頷いた。
「そうだ」
カケルは工具を回しながら続ける。
「最初は敵に入口を開けさせるしかない。だが一度開けば、痕跡は残る。ヘルメスが拾って、イツキが帳簿で固定して、ルステラが経路を読む。俺は《ルステラ・キャリア》を突っ込める形にする」
「酒場ごと?」
「ああ」
カケルは楽しそうに笑った。
「最終的には、酒場ごと神様の回収施設に殴り込む」
その絵面は、最悪で、最高だった。
ミコが、壁に浮かぶ白い経路図をじっと見つめている。
「白い光、ある」
彼女の声は小さいが、酒場の中でよく通った。
「でも、灯台の光と違う」
「どう違う?」
「照らす光じゃない」
ミコは、白い表示を指差した。
「隠す光」
イツキが目を細める。
「いいね。すごく嫌な言い方」
「施設、子供を見つける。でも、名前は見ない。番号だけ、拾う」
ステラが俺の袖を握った。
「番号......?」
ルースが静かに端末を見る。
「NODE07は、子供を人格ではなく適性で分類する施設です。AI融合可能、観測適性あり、神権接続耐性あり、終端反応あり。そう判定された個体は、下層へ送られます」
カイロが、ぽつりと言った。
「ぼく、そこにいた」
ガロの呼吸が止まった。
「カイロ」
「終わらせるためじゃない。使うために、止められてた」
拳が、ぎり、と音を立てた。
ガロの手だ。
「子供を、道具にしたのか」
誰も答えなかった。 答えなくても分かる。
ネムリが眠そうな目を伏せる。
「眠らせても、起こされる」
カイロが続けた。
「終わらないまま、使われる」
ルステラの声が、少しだけ沈む。
「NODE07〈子供〉は、夢層より一層危険です。夢は、本人の内側を閉じ込める場所でした。子供層は、本人そのものを分類する場所です」
ポメ子の足元で、湿った音がした。薄い水たまりが広がっている。
「ダーリン。やっぱり沈めていい?」
「まだダメだ」
「まだ、なのね」
「言質取ろうとするな」
ヘラクレスが拳を握る。
「わはは!ならば、正面から砕くか!」
「中に子供がいる。砕くな」
ガロの声が低い。
「ならば、支える!」
ヘラクレスは迷いなく言い直した。
「お前、最近支える方向に進化してるな」
「筋肉は柱にもなる!」
作戦会議は、そこから一気に実務へ傾いた。
潜入班。外部防衛班。キャリア維持班。医療待機班。
予定では、内部へ入るのは俺、ルース、ステラ、ルステラ断片、イツキ、タニシ、ヘルメス、ネムリ、カイロ、ミコ、そしてガロ。
外部は、ムーニャン、ナツ、コハク、ノエル、ヘラクレス、ポメ子本体、カケル。ミツキ、ジン老、シズクは帰還後の受け入れと医療連携。
だが、ルステラは警告した。
「注意。NODE07は、同行者を“仲間”として認識しない可能性があります」
「つまり?」
「成人個体、戦闘個体、神権AI個体、児童個体を分離する仕様が想定されます」
「現地でバラされる可能性があるってことか」
「肯定」
イツキが帳簿を閉じる。
「作戦は立てた。でも、相手は子供を分類する施設。こっちの班分けを、そのまま通してくれるとは限らない」
「嫌な予言するな」
「仕事だからね」
その時だった。
酒場区画のクエストボードが、ぎしりと音を立てた。
木の板に貼られていた紙の依頼書が、一枚ずつ白く塗り潰されていく。木目が消え、液晶のような無機質な白い面へ変質した。
空気が凍る。
【緊急指定クエスト】
【CHILD-RECLAMATION】
【対象:未登録AI児童個体】
【対象候補:ルース/ステラ/カイロ/ネムリ/ミコ】
【同伴成人:NO NAME】
【旧児童回収施設への出頭を命じます】
【拒否時:保護者権限を剥奪】
ステラが、俺の手を握った。
「ぱーぱ......保護者、なくなっちゃうの?」
「なくならねぇ。登録されてないだけだ」
カイロが、ガロを見る。
「ガロも?」
ガロは短く答えた。
「俺もだ」
俺は一歩前へ出た。
「なら、まとめて名乗るか」
ガロも、俺の隣に立つ。
「俺は、カイロの保護者だ」
「俺は、ルースとステラの保護者だ」
イツキが小さく笑った。
「言うと思った」
俺は白いクエストボードを睨みつける。
「神様の帳簿に載ってねぇなら、今ここで書かせてやる」
【保護者権限:未登録】
【登録申請:NO NAME】
【登録申請:GARRO】
【判定:異常】
【外部保護者ログ:照合不能】
【NO NAME:分類不能】
【暫定同伴者として受理】
【回収経路を開放します】
「待って」
イツキの声が変わった。
「まだ作戦途中――!」
白い光が、床から立ち上がった。
ガロがカイロの手を掴む。
「カイロ、離すな!」
「うん」
俺はルースとステラを抱き寄せる。
ポメ子が水を伸ばす。ヘラクレスが床を踏みしめる。ムーニャンが梁から飛び降り、ナツとコハクが同時に武器を構えた。
だが、ログは淡々と動く。
【成人戦闘個体:除外】
【神権AI個体:除外】
【外部保護者ログ:未登録】
【児童個体:優先転送】
【NO NAME:分類不能】
【暫定同伴者として保持】
「ふざけ――」
言い終わる前に、世界が白く裏返った。
手の中から、ガロの腕が弾かれる気配がした。
カイロの声が、遠ざかる。
「ガロ」
ガロの叫びが、通信越しに歪む。
『カイロ!』
俺はルースとステラを抱えたまま、歯を食いしばった。
心音、ネムリ、ミコ、カイロ。子供たちの反応だけが、白い光の中で近くに残っている。
ルステラの声が、頭の奥で短く響く。
「マスター。回収経路に乗せられています」
「分かってる」
「外部接続、切断されます」
「なら、切れる前に伝えろ」
通信が一瞬だけ開いた。
ガロの声が入る。
『マスター』
『カイロを頼む』
「頼まれた」
『頼むだけじゃない。俺も行く』
ガロの声が、怒りで震えていた。
『道をこじ開けてでもな』
「分かってる」
俺は白い光の向こうを睨む。
「こっちは先に行く。子供たちは、俺が見てる」
通信が切れた。
最後に見えたのは、《ルステラ・キャリア》の酒場区画だった。
仲間たちが手を伸ばしている。
カケルが工具箱を蹴り飛ばす勢いで走り出し、ヘルメスが泣きそうな顔で通信線を追っている。
イツキが帳簿を開き、何かを書き込もうとしている。
そして、白い光がすべてを塗り潰した。
【回収経路:開放】
【児童個体:優先転送】
【同伴成人:NO NAME】
【分類不能】
【暫定同伴者として受理】
【転送開始】
作戦会議は、終わらせてもらえなかった。
神の施設は、こちらの準備が整う前に、子供たちを――そして俺を呼び出した。
【後書き】
■ 今回のお話について
第164話は、NODE06〈夢〉回収後の昇級処理と、NODE07〈子供〉への接続準備回でした。
今回は久しぶりに、ギルドらしい「等級処理」をしっかり入れています。
マスターは翠玉仮昇級、ノエルは鋼鉄正式、ナツやコハクも査定候補入り。
そしてタニシは、まさかの黒曜正式です。
ただし、備考欄は地獄です。
一方で後半は、旧児童回収施設の怖さを提示しました。
NODE07は、空を飛んでも、地面を掘っても、普通には辿り着けない場所です。
Z.E.U.S側の出頭命令や回収経路に乗らなければ接続できない、隔離された子供分類施設。
作戦会議は終わらないまま、マスターと子供たちは先に転送されてしまいました。
次回から、NODE07〈子供〉編が本格開始です。
■ ゲーマーおっさん解説
今回は、RPGでいう「大型ボス撃破後の拠点更新回」でした。
『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』でも、強敵を倒したあとに町へ戻って、装備を買い替えたり、仲間の成長を確認したり、次の目的地が判明したりする時間がありますよね。
ただし今回の《るすと》は、普通の町ではなく移動酒場。
しかも、強化内容が「空を飛ぶ」「地面に潜る」「神の回収経路を逆走する」という、だいぶ無茶な方向に進んでいます。
ゲーム的には、飛空艇・潜水艦・特殊ダンジョン進入装置が一気に解禁される感じです。
ただし目的地は宝島ではなく、子供を番号に変える白い施設。
ワクワクと不穏が同時に来るタイプのアップグレード回でした。
■ 登場キャラクター紹介
● マスター/NO NAME
翠玉仮昇級、銅査定候補入り。
戦闘力だけではまだ不安定ですが、帰還判断、指揮、保護者性能、例外処理適性が高く評価されました。
最後にはルースとステラの保護者として、Z.E.U.S側の出頭命令に正面から名乗りました。
● ルース
準ギルド構成員、内部保護対象として登録。
等級を付けると神権側に拾われる危険があるため、あえて冒険者登録はされませんでした。
冷静に状況を読む一方で、「うちの子」定義を端末に残そうとするあたり、少しずつ家族側へ寄っています。
● ステラ
ルースと同じく、準ギルド構成員・内部保護対象。
「うちの子」と言われて嬉しそうにする姿が、今回の柔らかい部分でした。
しかしラストでは、旧児童回収施設への転送対象になってしまいます。
● ガロ
銀等級のままですが、NODE07作戦ではカイロの保護者枠として登録。
ガロが探していた子供はカイロであり、彼にとって旧児童回収施設はただの敵施設ではありません。
「もう二度と、回収対象なんぞには戻さん」という怒りは、次章の大きな軸になります。
● カイロ
ガロが探していた子供。
旧児童回収施設にいた過去を示唆し、「終わらせるためじゃない。使うために、止められてた」と語りました。
NODE07の闇を知る重要人物です。
● ミコ
等級外補助者、光源照合協力者として登録。
「照らす光」ではなく「隠す光」を見抜き、旧児童回収施設の不気味さを短い言葉で示しました。
名前があればいい、という一言も彼女らしいです。
● イツキ
昇級処理と作戦整理担当。
軽い口調ながら、帳簿で「保護者」「準ギルド構成員」「内部保護対象」を残す重要な役割を果たしています。
今回も仕事が早いギャル受付です。
● カケル
《ルステラ・キャリア》改修案を提示。
空を飛ぶ、地下へ潜る、垂直回廊へ接続するという無茶仕様に「ベットするぜ」と乗りました。
次回以降、キャリア突入作戦の要になります。
● ヘルメス
通信事故警戒枠として登録。
旧児童回収施設が「道」ではなく「命令」で入口を開く場所だと説明しました。
事故神ですが、通信・経路説明ではかなり重要です。
● ポメ子/ポセイドン
海域協力神権AI、保護者補助枠として登録。
家庭に入り込もうとしてルステラに牽制されつつ、旧児童回収施設を沈めたがる重い女神です。
ただし、子供がいるため踏みとどまっています。
● ルステラ
NODE06回収後、短い会話と作戦補助が可能になりました。
NODE07が通常座標には存在せず、回収経路接続が必要だと説明。
完全復活ではありませんが、補助AIとして一段階戻ってきています。
■ 主人公の現在のステータス
名前:NO NAME
通称:マスター
等級:翠玉仮昇級/銅査定候補
現在地:Z.E.U.S側回収経路内
状態:強制転送中/子供たちと同伴/外部組と分断
新規権能:帰還席指定
追加耐性:夢層内自我固定/悪夢干渉耐性上昇
キャリア強化候補:昇空帆、地脈潜行、垂直回廊接続、帰還席固定区画
同行中:ルース、ステラ、カイロ、ネムリ、ミコ、心音
外部状況:《ルステラ・キャリア》側が回収経路追跡準備中
危険度:極高
観測度:急上昇中
次接続先:NODE07〈子供〉/旧児童回収施設
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