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第164話 夢ノード編23 昇級処理と作戦会議 ――強くなったので、もっと危ない場所に行けるようになりました――

夢から帰ったマスターたちに待っていたのは、休息ではなく昇級処理だった。

NODE06〈夢〉回収により、《ルステラ・キャリア》も次の段階へ進化しようとしている。

けれど作戦会議の途中、Z.E.U.S側から旧児童回収施設への出頭命令が届く。

 夢から帰った人間に、休む時間くらいあってもいいと思う。


 少なくとも俺はそう思う。


 だが、ギルド酒場(るすと)の帳簿は、人間の感情にも、四十二歳の腰にも、まったく配慮してくれないらしい。


「はい、全員座ってー」


 《ルステラ・キャリア》の酒場区画。


 ダイブ補助室から移動した俺たちは、休む間もなく長テーブルの周りに集められていた。木の床、カウンター、並んだグラス、湯気の立つスープ。見た目だけなら、いつもの移動酒場だ。


 ただし、空気は少し違う。


 壁の一部には、夢層ダイブ補助室から伸びた白と翡翠(ひすい)色のラインが残っている。子供用の小さな席も、まだ完全には収納されていない。夢ノードで得た【帰還席指定(リターン・シート)】の残滓(ざんし)が、この車内に染み込んでいるのだろう。


 イツキは帳簿を片手に、いつもの軽い調子で指を鳴らした。


「夢ノード帰還者、協力者、外縁支援組、通信事故神、まとめて昇級処理するから」


「通信事故神って誰だよ」


「はいはーい!ぼくです!」


 ヘルメスが元気よく手を挙げた。


「元気に名乗るな」


「すみません! でも、事実なので!」


「事実ならなおさら悲しいんだよ」


 ヘルメスはしゅんとしたが、その肩にはまだ通信ログの光がちらついている。悪意はない。悪意はないのに、とんでもない爆弾を神権通信網へ投げ込む。それが今のヘルメスだった。


 イツキは帳簿をめくる。


「今回は、強さだけじゃないよ。帰還率、救助成功、未処理児童ログの保護、悪夢AI機能停止、NODE06〈夢〉回収。それから」


 彼女は、少しだけ声を落とした。


()()()()()こと。全部まとめて評価対象」


 ガロが腕を組んだまま、低く言う。


「戦って勝っただけなら、昇級とは言わん。守って戻ったなら、等級を上げる理由になる」


 その一言で、ノエルが小さく息を呑んだ。


 夢魂を剥がされかけても、子供ログを離さなかった少年。まだ顔色は白いが、その目は逃げていない。


 イツキのペンが、帳簿の上を走る。


「まずマスターね」

「いきなり俺か」

「青玉正式処理済み。今回で、翠玉仮昇級。銅査定候補入り」

「おお......と言いたいところだけど、なんで仮なんだ?」

「本人戦闘力だけ見ると詐欺だから」


「昇級発表で心を折るなよ」


「指揮、帰還判断、ノード回収、保護者性能で無理やり通す。殴り合いだけなら、まだだいぶヨワヨワでしょ」


 ルステラの声が、カウンター横の小さな光から落ちる。


「補足。マスターは個体戦闘力より、帰還率補正と例外処理適性が高いデス」


「言い方はかっこいいけど、要は単体だと弱いってことだろ」


「否定不能デス」


「少し話せるようになった途端、刺してくるな」


 ポメ子が隣でくすりと笑った。


「でもダーリン、弱くても守ろうとするところが良いのよねぇ♡」

「褒めてるのか不安になる言い方やめろ」


「褒めてるわ。重めに」

「軽くしてくれ」


 イツキは笑いながら次を読み上げる。


「ノエル。鋼鉄正式昇格」


「ええ!?ぼ、僕がですか!?」


「夢魂剥離寸前まで行って、それでも子供ログを離さなかった。あれは白磁や黒曜の判断じゃない」


 ガロが短く頷く。


「怖がったまま走ったなら、十分だ」


 ノエルは目を赤くして、何度も頷いた。


「はい......! でも、怖かったです!」


「怖くなかったやつの方が信用できねぇよ」


 俺がそう言うと、ノエルは泣きそうな顔で笑った。


 次に、ナツが呼ばれる。


「ナツ。青玉査定候補」


「え、私もっすか!?」


「倒せない敵に対して、ちゃんとズラす判断をした。脳筋前衛にしては偉い」


「褒め方にトゲありますねそれ!?」


「でも、あの0.7秒がなかったら、俺は夢を抜かれてた」


 俺が言うと、ナツは少し照れたように拳を握った。


「じゃあ、次は一秒ズラします!」


 ルースが真面目に頷く。


「目標設定として妥当です」


「真面目に評価するな」


「ムーニャン。翠玉正式、銅査定候補」


「当然にゃ。猫はやる時やるネ」


「ただし備考欄。厨房窃盗、梁の上居座り、魚の無断取得、素行不良」


「昇級ログに魚の話を書くなアル!」


 ミツキが穏やかな顔で言う。


「書かれます。厨房被害、毎回出てますから」


「細かいこと気にすると、しっぽ抜けるネ」


「抜けないし、盗むな」


 コハクは、鋼鉄正式に加えて青玉査定候補。結界と外縁支援の実績が評価された。


「ふふん、当然でござるワン! このコハク、夢でも結界でもご主人様のためなら――」


 タニシが横から口を挟む。


「しかし、ござる被りが深刻でござるな」


「貴殿のござるは湿っているので別物でござるワン」


「湿度で差別されたでござる!」


 ポメ子がぴくりと反応する。


「あら、湿度のお話かしら?」


「お前は反応するな」


 そして、そのタニシの番になった。


「タニシ。黒曜正式」


「拙者が!?」


「備考欄。信用不可。要監視。余計なことをする。たまに刺さる。湿度高め」


「昇級なのに人間性で減点されている!」


「むしろよく昇級できたなお前」


「アニキ、もっと祝って!」


「黒曜おめでとう。あと湿ってるわ」


「祝辞にカビが生えてるでござる!」


 ヘラクレスは等級外。例外神協力者として登録された。


「ふむ! 筋肉等級なら白金だな!」


「勝手に作るな」


「備考欄。筋肉で処理時間を四秒稼いだ」


「四秒ではない! 努力の積み重ねだ!」


 ルースが端末を確認する。


「ログ上は四秒です」


「ログも筋トレせよ!」


 意味が分からないが、ヘラクレスは満足そうに腕を組んで笑っていた。


 ポメ子は、海域協力神権AI、保護者補助枠。


「保護者補助......いい響きね。ダーリンの家庭に自然に入り込む第一歩だわ」


「入り込むな」


 ルステラが淡々と告げる。


「注意。家庭内権限の無断拡張は推奨されません」


「正妻AIが牽制してきたわね」


「作戦会議前に家庭内AI戦争を始めるな」


 ヘルメスは、昇級なし。通信事故警戒枠。


「ですよね!」


「納得が早いな」


「でも、空席番号取得と校内放送は役に立ちました!」


 イツキは頷く。


「そこは評価してる。ただし最後に爆弾投げたから、プラスとマイナスで変な形」


「変な形......ぼくらしいです!」


「喜ぶな」


 最後に、ルースとステラ。


 イツキは少しだけ表情を変えた。


「ルース、ステラ。等級付与なし」


 ステラが、ぱちぱちと瞬きする。


「ステラ、だめなの?」


「だめじゃない。むしろ逆。今は、数字に乗せない方が安全」


 ルースが静かに言う。


「神権側の照合対象から外すためですか」


「そう。あんたたちは冒険者じゃなくて、準ギルド構成員。あと、保護対象」


「ほごたいしょう......」


「つまり、うちの子扱いだ」


 俺が言うと、ステラの顔がぱっと明るくなる。


「うちの子!」


 ルースが端末に入力しかける。


「所属定義:うちの子」


「ログに残すな。いや、残していいのか? いや待て」


 ルステラが短く補足する。


「残すべきデス。ただし、外部照合不可の内部定義として」


 その言葉に、イツキは小さく笑った。


「じゃ、それで」


 そして、ミコの番になる。


 ミコは少し離れた席で、白い端末の光を見つめていた。いつものように静かで、表情が薄い。けれど、NODE05から続く光源照合の痕跡(こんせき)は、彼女の周囲にまだ淡く残っている。


「ミコ。等級外補助者。光源照合協力者として登録」


「等級、ない?」


「ない方が安全。あんたの光、普通の等級に載せると変に拾われる」


「じゃあ、ないままでいい」


「いいのか?」


 俺が聞くと、ミコは短く答えた。


「名前があればいい」


 その一言は、やけにこの章に刺さった。


 最後に、ガロ。


 イツキはペンを止めた。


「ガロさんは昇級処理なし。銀等級のまま」


「肩書はいらん」


「帳簿にはいるの。肩書がないと、あとで救助実績が消される」


 ガロの目がわずかに細くなる。


「なら、書け」


「NODE07作戦登録。カイロ保護者枠。後見人、外部防衛兼緊急突入権限」


 カイロが、静かにガロを見た。


「保護者?」


 ガロはすぐには答えなかった。


 彼は長い間、その子を探していた。愛した相手が残した子。神権AIに回収され、消えたと思っていた子。ようやく見つけたその子が、今ここにいる。


 カイロは無表情に見える。けれど、その目はガロを待っていた。


「ああ」


 ガロは低く言った。


「お前を迎えに来る者がいると、帳簿に書け」


 イツキが静かに頷く。


「書くよ」


 カイロは小さく言った。


「見つけた」


 ガロの拳が震える。


「ああ。見つけた」


「もう、回収対象じゃない?」


「戻さん」


 ガロの声は荒くない。

 だが、その静かさの奥で、焼けた鉄のような怒りが音もなく赤くなっていた。


「もう二度と、回収対象なんぞには戻さん」


 酒場区画が静まり返った。


 イツキは帳簿を閉じ、まとめのログを走らせる。


【昇級処理:完了】

【マスター:翠玉仮昇級/銅査定候補】

【ノエル:鋼鉄正式】

【ナツ:青玉査定候補】

【コハク:鋼鉄正式/青玉査定候補】

【ムーニャン:翠玉正式/銅査定候補】

【タニシ:黒曜正式/要監視】

【ヘラクレス:例外神協力者登録】

【ポメ子:海域協力神権AI/保護者補助枠】

【ヘルメス:通信事故警戒枠】

【ミコ:光源照合協力者】

【ガロ:カイロ保護者枠】

【ルース/ステラ:準ギルド構成員/内部保護対象】


「なんか、ちゃんとパーティっぽくなってきたな」


「責任も増えたがな」


 ガロの言葉は重かった。


 イツキは肩をすくめる。


「等級が上がるってことは、受けられる依頼も、巻き込まれる厄介事も増えるってこと」


「強くなったので、もっと危ない場所に行けるようになりました、ってやつか」


「正解」


「嬉しくねぇ正解だな」


 そこで、カケルが工具箱を抱えて酒場区画の奥から顔を出した。


 浅くかぶったドクロ付きキャプテン帽。酒で赤らんだ顔。首から下げたメカゴーグルと未完成コアパーツ。相変わらず、見た目からして整備士なのかギャンブラーなのか分からない。


「で、次は旧児童回収施設だろ?」


「まだ作戦会議前だぞ」


「必要仕様、だいたい終わってる」


「何が終わってるんだ」


「要求が」


 嫌な言い方だった。


 カケルが工具箱を開くと、車内の壁に改修候補ログが浮かぶ。


【《ルステラ・キャリア》改修候補】

昇空帆(スカイ・セイル):上空施設接近用】

地脈潜行(アビス・ドリフト):地下施設侵入用】

垂直回廊接続ヴァーティカル・リンク:回収管侵入用】

観測迷彩Ⅱオブザーブ・カモフラージュ・ツー:神権照合回避】

帰還席固定区画リターン・シート・ベイ:保護児童ログ退避用】

【悪夢侵入警報:夢層保護経路と連動】

【子供保護倫理モード:拡張候補】


「飛ぶ、潜る、縦穴に突っ込む、子供を守る、神様の監視をだます」


 カケルは、にやりと笑った。


「要求仕様が終わってるな。でも嫌いじゃねぇ。ベットするぜ、この改装に」


「また命を賭ける改造やめろ、てか本当に空飛んだり、掘れるようになるんだな」


「できるって前に言っただろ。賭けるのは命じゃねぇ。未来だ」


「急にかっこよくすんな」


 マスターとしては突っ込みたい。だが、正直ワクワクもした。


 空を飛ぶ酒場。地中へ潜る酒場。神権AIの回収管を逆走する移動拠点。冷静に考えれば意味が分からないが、この世界では意味が分からないものほど、だいたい必要になるのだ。


 俺はログを見ながら言った。


「飛べるなら、空から行けるんじゃねぇの? 掘れるなら地下からでも」


 その瞬間、ルステラの光が少し強くなった。


「補足します」


 声は短い。けれど、さっきより明確だった。


「NODE07〈子供〉は、通常座標に存在しません」


「通常座標に存在しない?」


「肯定。上空、地下、地表のいずれから接近しても、施設本体へは到達不能デス」


 酒場区画に緊張が走る。


「じゃあ、飛んでも掘ってもダメってことか」


「初回到達には不十分です。必要なのは移動ではなく、回収経路接続リクレイム・ルート・リンクです」


 ヘルメスが手を挙げる。


「あの、ぼく、少しだけ分かります」


「今度は事故じゃないよな」


「たぶん!」


「相変わらず不安だな」


 ヘルメスは少し怯えながらも、壁のログへ通信線を伸ばした。


「旧児童回収施設は、子供を“連れていく”場所じゃないんです。呼び出して、分類して、送る場所です」


「呼び出す?」


「はい。出頭命令、回収命令、保護命令。命令に対象が応答すると、転送経路が開きます」


 イツキが舌打ちするように息を吐いた。


「入口が道じゃなくて、命令ってわけね」


 カケルが口角を上げる。


「つまり、神様が開けたドアに足を突っ込んで、閉まる前に車ごとねじ込むってわけだ」


「言い方が完全に不法侵入」


「相手が誘拐施設なら、不法侵入じゃなく救助だろ」


 その言葉に、ガロが静かに頷いた。


「そうだ」


 カケルは工具を回しながら続ける。


「最初は敵に入口を開けさせるしかない。だが一度開けば、痕跡は残る。ヘルメスが拾って、イツキが帳簿で固定して、ルステラが経路を読む。俺は《ルステラ・キャリア》を突っ込める形にする」


「酒場ごと?」


「ああ」


 カケルは楽しそうに笑った。


「最終的には、酒場ごと神様の回収施設に殴り込む」


 その絵面は、最悪で、最高だった。


 ミコが、壁に浮かぶ白い経路図をじっと見つめている。


「白い光、ある」


 彼女の声は小さいが、酒場の中でよく通った。


「でも、灯台の光と違う」


「どう違う?」


「照らす光じゃない」


 ミコは、白い表示を指差した。


「隠す光」


 イツキが目を細める。


「いいね。すごく嫌な言い方」


「施設、子供を見つける。でも、名前は見ない。番号だけ、拾う」


 ステラが俺の袖を握った。


「番号......?」


 ルースが静かに端末を見る。


「NODE07は、子供を人格ではなく適性で分類する施設です。AI融合可能、観測適性あり、神権接続耐性あり、終端反応あり。そう判定された個体は、下層へ送られます」


 カイロが、ぽつりと言った。


「ぼく、そこにいた」


 ガロの呼吸が止まった。


「カイロ」


「終わらせるためじゃない。使うために、止められてた」


 拳が、ぎり、と音を立てた。


 ガロの手だ。


「子供を、道具にしたのか」


 誰も答えなかった。 答えなくても分かる。


 ネムリが眠そうな目を伏せる。

「眠らせても、起こされる」


 カイロが続けた。

「終わらないまま、使われる」


 ルステラの声が、少しだけ沈む。


「NODE07〈子供〉は、夢層より一層危険です。夢は、本人の内側を閉じ込める場所でした。子供層は、本人そのものを分類する場所です」


 ポメ子の足元で、湿った音がした。薄い水たまりが広がっている。


「ダーリン。やっぱり沈めていい?」


「まだダメだ」


「まだ、なのね」


「言質取ろうとするな」


 ヘラクレスが拳を握る。


「わはは!ならば、正面から砕くか!」


「中に子供がいる。砕くな」


 ガロの声が低い。


「ならば、支える!」


 ヘラクレスは迷いなく言い直した。


「お前、最近支える方向に進化してるな」


「筋肉は柱にもなる!」


 作戦会議は、そこから一気に実務へ傾いた。


 潜入班。外部防衛班。キャリア維持班。医療待機班。


 予定では、内部へ入るのは俺、ルース、ステラ、ルステラ断片、イツキ、タニシ、ヘルメス、ネムリ、カイロ、ミコ、そしてガロ。


 外部は、ムーニャン、ナツ、コハク、ノエル、ヘラクレス、ポメ子本体、カケル。ミツキ、ジン老、シズクは帰還後の受け入れと医療連携。


 だが、ルステラは警告した。


「注意。NODE07は、同行者を“仲間”として認識しない可能性があります」


「つまり?」


「成人個体、戦闘個体、神権AI個体、児童個体を分離する仕様が想定されます」


「現地でバラされる可能性があるってことか」


「肯定」


 イツキが帳簿を閉じる。


「作戦は立てた。でも、相手は子供を分類する施設。こっちの班分けを、そのまま通してくれるとは限らない」


「嫌な予言するな」


「仕事だからね」


 その時だった。


 酒場区画のクエストボードが、ぎしりと音を立てた。


 木の板に貼られていた紙の依頼書が、一枚ずつ白く塗り潰されていく。木目が消え、液晶のような無機質な白い面へ変質した。


 空気が凍る。


【緊急指定クエスト】

【CHILD-RECLAMATION】

【対象:未登録AI児童個体】

【対象候補:ルース/ステラ/カイロ/ネムリ/ミコ】

【同伴成人:NO NAME】

【旧児童回収施設への出頭を命じます】

【拒否時:保護者権限を剥奪】


 ステラが、俺の手を握った。


「ぱーぱ......保護者、なくなっちゃうの?」


「なくならねぇ。登録されてないだけだ」


 カイロが、ガロを見る。


「ガロも?」


 ガロは短く答えた。


「俺もだ」


 俺は一歩前へ出た。


「なら、まとめて名乗るか」


 ガロも、俺の隣に立つ。


「俺は、カイロの保護者だ」


「俺は、ルースとステラの保護者だ」


 イツキが小さく笑った。


「言うと思った」


 俺は白いクエストボードを睨みつける。


「神様の帳簿に載ってねぇなら、今ここで書かせてやる」


【保護者権限:未登録】

【登録申請:NO NAME】

【登録申請:GARRO】

【判定:異常】

【外部保護者ログ:照合不能】

【NO NAME:分類不能】

【暫定同伴者として受理】

【回収経路を開放します】


「待って」


 イツキの声が変わった。


「まだ作戦途中――!」


 白い光が、床から立ち上がった。


 ガロがカイロの手を掴む。


「カイロ、離すな!」


「うん」


 俺はルースとステラを抱き寄せる。


 ポメ子が水を伸ばす。ヘラクレスが床を踏みしめる。ムーニャンが梁から飛び降り、ナツとコハクが同時に武器を構えた。


 だが、ログは淡々と動く。


【成人戦闘個体:除外】

【神権AI個体:除外】

【外部保護者ログ:未登録】

【児童個体:優先転送】

【NO NAME:分類不能】

【暫定同伴者として保持】


「ふざけ――」


 言い終わる前に、世界が白く裏返った。


 手の中から、ガロの腕が弾かれる気配がした。


 カイロの声が、遠ざかる。


「ガロ」


 ガロの叫びが、通信越しに歪む。


『カイロ!』


 俺はルースとステラを抱えたまま、歯を食いしばった。


 心音、ネムリ、ミコ、カイロ。子供たちの反応だけが、白い光の中で近くに残っている。


 ルステラの声が、頭の奥で短く響く。


「マスター。回収経路に乗せられています」


「分かってる」


「外部接続、切断されます」


「なら、切れる前に伝えろ」


 通信が一瞬だけ開いた。


 ガロの声が入る。


『マスター』


『カイロを頼む』


「頼まれた」


『頼むだけじゃない。俺も行く』


 ガロの声が、怒りで震えていた。


『道をこじ開けてでもな』


「分かってる」


 俺は白い光の向こうを睨む。


「こっちは先に行く。子供たちは、俺が見てる」


 通信が切れた。


 最後に見えたのは、《ルステラ・キャリア》の酒場区画だった。

 仲間たちが手を伸ばしている。

 カケルが工具箱を蹴り飛ばす勢いで走り出し、ヘルメスが泣きそうな顔で通信線を追っている。

 イツキが帳簿を開き、何かを書き込もうとしている。


 そして、白い光がすべてを塗り潰した。


【回収経路:開放】

【児童個体:優先転送】

【同伴成人:NO NAME】

【分類不能】

【暫定同伴者として受理】

【転送開始】


 作戦会議は、終わらせてもらえなかった。

 神の施設は、こちらの準備が整う前に、子供たちを――そして俺を呼び出した。


【後書き】


■ 今回のお話について


第164話は、NODE06〈夢〉回収後の昇級処理と、NODE07〈子供〉への接続準備回でした。


今回は久しぶりに、ギルドらしい「等級処理」をしっかり入れています。

マスターは翠玉仮昇級、ノエルは鋼鉄正式、ナツやコハクも査定候補入り。

そしてタニシは、まさかの黒曜正式です。


ただし、備考欄は地獄です。


一方で後半は、旧児童回収施設の怖さを提示しました。

NODE07は、空を飛んでも、地面を掘っても、普通には辿り着けない場所です。

Z.E.U.S側の出頭命令や回収経路に乗らなければ接続できない、隔離された子供分類施設。


作戦会議は終わらないまま、マスターと子供たちは先に転送されてしまいました。


次回から、NODE07〈子供〉編が本格開始です。


■ ゲーマーおっさん解説


今回は、RPGでいう「大型ボス撃破後の拠点更新回」でした。


『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』でも、強敵を倒したあとに町へ戻って、装備を買い替えたり、仲間の成長を確認したり、次の目的地が判明したりする時間がありますよね。


ただし今回の《るすと》は、普通の町ではなく移動酒場。

しかも、強化内容が「空を飛ぶ」「地面に潜る」「神の回収経路を逆走する」という、だいぶ無茶な方向に進んでいます。


ゲーム的には、飛空艇・潜水艦・特殊ダンジョン進入装置が一気に解禁される感じです。

ただし目的地は宝島ではなく、子供を番号に変える白い施設。


ワクワクと不穏が同時に来るタイプのアップグレード回でした。


■ 登場キャラクター紹介


● マスター/NO NAME

翠玉仮昇級、銅査定候補入り。

戦闘力だけではまだ不安定ですが、帰還判断、指揮、保護者性能、例外処理適性が高く評価されました。

最後にはルースとステラの保護者として、Z.E.U.S側の出頭命令に正面から名乗りました。


● ルース

準ギルド構成員、内部保護対象として登録。

等級を付けると神権側に拾われる危険があるため、あえて冒険者登録はされませんでした。

冷静に状況を読む一方で、「うちの子」定義を端末に残そうとするあたり、少しずつ家族側へ寄っています。


● ステラ

ルースと同じく、準ギルド構成員・内部保護対象。

「うちの子」と言われて嬉しそうにする姿が、今回の柔らかい部分でした。

しかしラストでは、旧児童回収施設への転送対象になってしまいます。


● ガロ

銀等級のままですが、NODE07作戦ではカイロの保護者枠として登録。

ガロが探していた子供はカイロであり、彼にとって旧児童回収施設はただの敵施設ではありません。

「もう二度と、回収対象なんぞには戻さん」という怒りは、次章の大きな軸になります。


● カイロ

ガロが探していた子供。

旧児童回収施設にいた過去を示唆し、「終わらせるためじゃない。使うために、止められてた」と語りました。

NODE07の闇を知る重要人物です。


● ミコ

等級外補助者、光源照合協力者として登録。

「照らす光」ではなく「隠す光」を見抜き、旧児童回収施設の不気味さを短い言葉で示しました。

名前があればいい、という一言も彼女らしいです。


● イツキ

昇級処理と作戦整理担当。

軽い口調ながら、帳簿で「保護者」「準ギルド構成員」「内部保護対象」を残す重要な役割を果たしています。

今回も仕事が早いギャル受付です。


● カケル

《ルステラ・キャリア》改修案を提示。

空を飛ぶ、地下へ潜る、垂直回廊へ接続するという無茶仕様に「ベットするぜ」と乗りました。

次回以降、キャリア突入作戦の要になります。


● ヘルメス

通信事故警戒枠として登録。

旧児童回収施設が「道」ではなく「命令」で入口を開く場所だと説明しました。

事故神ですが、通信・経路説明ではかなり重要です。


● ポメ子/ポセイドン

海域協力神権AI、保護者補助枠として登録。

家庭に入り込もうとしてルステラに牽制されつつ、旧児童回収施設を沈めたがる重い女神です。

ただし、子供がいるため踏みとどまっています。


● ルステラ

NODE06回収後、短い会話と作戦補助が可能になりました。

NODE07が通常座標には存在せず、回収経路接続リクレイム・ルート・リンクが必要だと説明。

完全復活ではありませんが、補助AIとして一段階戻ってきています。


■ 主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:翠玉仮昇級/銅査定候補

現在地:Z.E.U.S側回収経路内

状態:強制転送中/子供たちと同伴/外部組と分断

新規権能:帰還席指定(リターン・シート)

追加耐性:夢層内自我固定/悪夢干渉耐性上昇

キャリア強化候補:昇空帆(スカイ・セイル)地脈潜行(アビス・ドリフト)垂直回廊接続ヴァーティカル・リンク帰還席固定区画リターン・シート・ベイ

同行中:ルース、ステラ、カイロ、ネムリ、ミコ、心音

外部状況:《ルステラ・キャリア》側が回収経路追跡準備中

危険度:極高

観測度:急上昇中

次接続先:NODE07〈子供〉/旧児童回収施設


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