第153話 夢ノード編12 購買部経営シム・タニシ無双 ――在庫管理で世界を救うな――
夢層ゲーム攻略の最初の鍵は、まさかの購買部だった。
感染商品、売れ残り牛乳、謎の大量ゴミ在庫。
タニシは在庫管理で、全領域への補給ラインを開こうとする。
購買部のシャッターが、がらがらと開いた。
その向こうに待っていたのは、夢も希望もない現実だった。
【購買部経営シム:開始】
【初期資金:0】
【在庫:過多】
【感染商品:混入】
【客NPC:好感度飢餓状態】
【補給ライン:未開通】
「初期資金ゼロで在庫過多って、倒産寸前でござる!!」
タニシはカウンターの内側で叫んだ。
目の前には、行列。
制服姿の生徒NPCたちが、無表情で並んでいる。
「青春パンください」
「青春パンを全員分」
「好きになれるパンください」
「先生と同じ夢を見られるパンください」
『購買部で出ていい注文じゃない!』
通信越しにマスターのツッコミが飛んだ。
タニシは泣きそうな顔でレジを見ている。レジの画面には、黒板みたいな表示が出ていた。
【目的:売上ではなく補給網の安定】
【注意:好感度を上げすぎると感染度が上昇します】
【注意:感染度を抑えすぎると客NPCが暴徒化します】
「売っても地獄、売らなくても地獄でござる!」
『落ち着け。お前は海底都市で、床掃除して黒曜候補になった男だろ?』
「その励まし、効いてるようで効いてないでござるよ!」
『俺も言っててよく分からんくなってきた』
タニシは棚を確認した。商品は多い。
......多いのだが、まともな商品が少なすぎた。
【青春パン:好感度+10/感染度+8】
【安全おにぎり:回復小/感染度上昇なし】
【売れ残り牛乳:状態異常回復/腹痛リスク】
【黒板消しスモーク:視線遮断】
【チョーク爆弾:軽度スタン】
【保健室パス:緊急退避】
【予約席チケット:名簿固定回避】
【防水札:水泳部ホラー補助】
【耳栓:放送部音ゲー補助】
【校則改定印:風紀委員デスゲーム補助】
【栞:図書館推理ADV補助】
「多い! 売るものが多すぎるでござる! コンビニ店長でも泣くでござる!」
さらに、棚の下段を開けた瞬間、タニシは固まった。
「ヒィッ!!まだあるではないですか!!」
【割れた呼び鈴】
【古い毛布】
【空の弁当箱】
【名前の薄い名札】
【錆びた鍵】
【片方だけの上履き】
【乾いた雑巾】
【折れた三角定規】
【穴の空いた体操着袋】
【鳴らない笛】
【校長の銅像ミニチュア】
【誰かの交換日記・上巻だけ】
【無限に増える割り箸】
【乾電池一本】
【謎のネジ】
【押すなと書かれた謎のボタン】
「半分以上ゴミにしか見えないでござる!!」
『夢の購買部って、もっと便利アイテム置く場所じゃないのか!?』
マスターが叫ぶ。
その時、別の通信が割り込んだ。
『タニシ、棚の右下。割れた呼び鈴と古い毛布を残せ』
低く、落ち着いた女性の声。
タニシが顔を上げた。
「リコーラー殿!? こんなゴミをでござるか!?」
通信の主は、カナエ――通称タマモだった。
『ゴミじゃない。夢から戻る子は、最初に“音”か“匂い”か“手触り”に反応することがある』
『さすが救出専門職』
マスターの声に、タマモは短く返す。
『褒めるのは後。青春パンは奥に下げろ。あれは救出用品じゃない。依存誘導だ』
「依存誘導……」
タニシは、青春パンの棚を見た。
客NPCたちが、ガラスに顔を寄せている。
「青春パンください」
「好きになりたい」
「好きって言いたい」
「同じ夢に行きたい」
タニシの背筋に、嫌な汗が流れた。
『タニシ。売れるものだけ見てると、飲まれるぞ』
タマモの声が続く。
『帰還に必要なのは、強い武器だけじゃない。戻る理由になるものだ』
「戻る理由……」
『古い毛布、割れた呼び鈴、空の弁当箱。売れないものほど、誰かを帰す目印になることがある』
タニシは、棚の奥にあった古い毛布をそっと取り出した。
ほこりっぽい。
けれど、少しだけ温かい気がした。
―――――
タニシのレジ前では、青春パンを求める客NPCの列が伸び続けていた。
「青春パンください」
「青春をください」
「好きになれるものをください」
タニシは汗を拭った。
「アニキィ! 完全に売らないと暴徒化しそうでござる!」
『青春パンは大量販売禁止だ。代替商品を作れ』
『なら、安全おにぎりに、青春パンの包装ログだけかぶせる』
カケルの通信が入る。
『中身は安全、見た目は青春。食品偽装じゃねぇ、夢層偽装だ』
『言い方が悪いが、今は採用』
ルステラも補足する。
『安全おにぎりベースなら、感染度上昇は最小限に抑制可能デス』
タニシは震える手で、安全おにぎりを青春パンの包み紙に包んだ。
【安全おにぎり+青春包装】
【好感度+6】
【感染度+1】
【新商品:青春風おにぎり】
「できたでござる!」
客NPCに差し出す。
「青春パン……?」
「これは……おにぎり……?」
「でも、少し好きになれそう……」
客NPCが、もぐもぐと食べる。
【好感度:微上昇】
【感染度:微上昇】
【暴徒化:一時停止】
「売れたでござる! 倫理的にギリギリの商品が売れたでござる!」
『言い方!』
だが、安心する暇はなかった。
冷蔵ケースが、がたがたと震え始めた。
「今度は何でござる!?」
扉を開けると、牛乳瓶が増えていた。
一本。二本。四本。八本。
【売れ残り牛乳:在庫増殖】
【賞味期限:昨日】
【状態異常回復:中】
【腹痛リスク:高】
「牛乳が増える! 助けてアニキ!」
『牛乳は増えるものじゃない!』
イツキの通信が冷静に入る。
『状態異常回復効果は使える。腹痛リスクを消せれば補給品になるね』
カケルが続ける。
『店の氷ログと消毒ログを混ぜる。低温殺菌扱いで通せるか試す』
【売れ残り牛乳:再処理】
【腹痛リスク:高 → 低】
【名称変更:ギリギリ牛乳】
『いやいや、名前をどうにかしろ!』
「では、冒険者応援ミルクでござる!」
【冒険者応援ミルク:状態異常回復/感染度+0/まれに腹鳴り】
『まれに腹鳴りは残るのかよ』
「そこは仕様でござる!」
―――――
購買部の通信板が、次々と光った。
『図書館領域に栞を要求します。誤名選択リスクが高いです』
ルース。
『防水札をお願いしますわ。写真を拾うたびに沈み直しますの』
ポメ子。
『校則改定印が必要だ』
カイロ。
『保健室パス、ほしい。ネムリちゃんが不安定になった時に戻れる道がいる』
ミコ。
『耳栓くださーい。音ゲーなのに耳栓って矛盾してますけどー』
ヘルメス。
タニシは頭を抱えた。
「注文が多すぎるでござる! 拙者、ひとりブラック物流センターでござる!」
『優先順位をつけろ。全部同時に送らなきゃいい』
マスターが言う。
イツキが即座に続ける。
『まず栞、校則改定印、保健室パス。攻略進行と生存に直結する』
カケルが端末を叩く音がした。
『防水札と耳栓は次便。物流ラインを二本作れ』
タニシは棚の前に走り、床にチョークで線を引いた。
「補給便A! 図書館、風紀、保健室!」
次に、別の棚へ走る。
「補給便B! 水泳部、放送部!」
【補給便A:準備】
【栞/校則改定印/保健室パス】
【補給便B:準備】
【防水札/耳栓】
「拙者、戦闘は苦手でござる」
タニシは、棚の上から落ちかけた無限割り箸を押さえながら呟いた。
「走っても遅いでござる」
『知ってるよ』
「謝る速度だけは誰よりも速いでござる」
『それも知ってる』
「でも、売れ残りの使い道を探すのは、少し得意でござる」
通信の向こうで、マスターが少しだけ黙った。
それから言った。
『お前、それは普通に才能だ』
タニシの目に涙が浮かぶ。
「アニキ……」
『まだ泣くな。レジ処理が詰まるだろうが』
「感動の処理が雑でござる!」
―――――
レジの黒板画面に、ノイズが走った。
黒いセーラー服。
赤い片目。
ナイトメア・メアリが、画面の中からにこにこ笑っていた。
『せっかくなら、青春パン売ればいいのにさぁ~』
タニシの手が止まる。
『みんな好きって言ってくれるよ?』
『アンタ、必要とされるの、うれしいでしょ?』
その言葉は、妙に深く刺さった。
必要とされる。
役に立つ。
自分でも、何かができる。
タニシは、青春パンの棚へ手を伸ばしかけた。
「必要とされる……」
『タニシ』
マスターの声がした。
静かだった。
「はいでござる」
『必要とされるために、危ないものを売るな』
タニシの手が止まる。
『必要とされるやつは、安全なものを届けるやつだ』
タニシは、青春パンを見た。
次に、安全おにぎりを見た。
そして、棚の下に置いた古い毛布と割れた呼び鈴を見た。
売れるものだけが商品ではない。
売れ残りにも、帰る理由を作る役目がある。
「……拙者」
タニシは青春パンの棚に【販売制限】の札を貼った。
「床属性でも、補給係でござる」
黒板レジに表示が出る。
【青春パン:大量販売停止】
【感染度上昇:抑制】
「危ないものは、売らないでござる」
メアリの笑顔が、少しだけ冷えた。
『ちぇ~、つまんないのっ!』
その瞬間、客NPCたちが一斉にざわめいた。
「青春をください」
「好きになりたい」
「売って」
「売って」
「売って」
【客NPC:好感度飢餓】
【暴徒化:開始】
「うわああああ! やっぱり来たでござる!」
『落ち着け! 黒板消しスモーク!』
タニシは黒板消しスモークを床へ叩きつけた。
白い粉煙が購買部に広がり、客NPCたちの視線が一瞬だけ切れる。
【黒板消しスモーク:視線遮断】
タニシはその隙に、青春風おにぎりをカウンターへ並べた。
「今すぐ全部好きにならなくてもいいでござる!」
客NPCたちの動きが止まる。
「今すぐ青春しなくても、席はあるでござる!」
タニシは予約席チケットを配った。
「食べる席! 戻る席! 待つ席! 全部あるでござる!」
【予約席チケット:大量配布】
【客NPC:好感度過負荷停止】
【感染度上昇:抑制】
客NPCたちは、ゆっくりチケットを見た。
「席……」
「待っていい……?」
「今じゃなくても……?」
「そうでござる!」
タニシはカウンターの上に立ち、震える声で叫んだ。
「購買部は、今すぐ全部決める場所じゃないでござる!」
一拍。
「迷った時に、何か持って帰る場所でござる!」
黒板レジが、明るく光った。
【購買部方針:再定義】
【売上優先 → 帰還補給優先】
【購買部物流網:開通】
―――――
通信板に、パッ、パッ、と次々と受領ログが出る。
【図書館領域:栞を受領】
【風紀領域:校則改定印を受領】
【保健室領域:保健室パスを受領】
【水泳部領域:防水札を受領】
【放送部領域:耳栓を受領】
【保健室領域:古い毛布を受領】
【保健室領域:割れた呼び鈴を受領】
【図書館領域:名前の薄い名札を受領】
【外部支援:謎のネジを受領】
カケルの声が入る。
『おい、このネジ……夢層帰還路の固定に使えるぞ』
「ゴミじゃなかったでござる!?」
『マジかよ。購買部、奥が深すぎるだろ』
タマモの通信が静かに続く。
『よく仕分けた、タニシ』
「リコーラー殿……」
『覚えておけ。救出に使う物は、見た目だけじゃ分からない。特にダイブ中はな』
「はいでござる」
タニシは、少しだけ背筋を伸ばした。
【購買部経営シム:第一目標達成】
【担当:タニシ】
【評価:補給ハブ確保】
【全領域補給ライン:開通】
【帰還目印アイテム:登録】
マスターの通信が、いつもより少し柔らかく聞こえた。
『よくやった、タニシ』
タニシは、レジの前で固まった。
「アニキ……拙者、売れ残りじゃなかったでござるか?」
『売れ残りじゃない』
マスターは即答した。
『立派な在庫管理者だ』
「それ、褒めてるでござる?」
『今はめちゃくちゃ褒めてる』
タニシは涙を拭いた。
「じゃあ、在庫管理者タニシ、引き続き物流を守るでござる!」
その瞬間、無限に増える割り箸が棚からあふれた。
「まずはこの割り箸をどうにかするでござるううう!!」
『そこは自分で頑張れ』
「最後だけ突き放されたでござる!」
―――――
補給ラインが開いたことで、教室の黒板に次の攻略対象が表示された。
【次攻略対象:図書館推理ADV】
【担当:ルース】
【目的:七瀬こころの本名候補を復元してください】
こころの通信が、小さく震えた。
『私の名前……』
ステラが、黒板の名札ログに向かって言った。
「だいじょうぶ。いっしょに探すよ」
俺は指導棒を握り直した。
『よし。次は名前探しだ』
夢層学園のどこかで、ページをめくる音がした。
図書館の扉が、静かに開く。
■ 今回のお話について
第153話は、まさかのタニシ主役・購買部経営シム回でした。
青春パンを売れば好感度は上がる。
でも感染度も上がる。
売らなければ暴徒化する。
そんな地獄の購買部で、タニシは安全おにぎりに青春パンの包装ログをかぶせた“青春風おにぎり”を売り、感染度を抑えながら客NPCを落ち着かせました。
そして今回は、カナエ/タマモも通信で活躍しています。
リコーラーである彼女は、強い武器ではなく、音・匂い・手触りといった“帰還の目印”に注目しました。
割れた呼び鈴、古い毛布、空の弁当箱。
一見ゴミに見えるものが、夢から戻る子にとっては大切な目印になる。
この考え方は、夢ノード編のテーマにもつながります。
売れるものだけが商品ではない。
売れ残りにも、誰かを帰す役目がある。
タニシもまた、自分が“売れ残り”ではなく“在庫管理者”として役に立てることを証明しました。
■ ゲーマーおっさん解説
今回のゲームネタは、経営シムとアイテム管理です。
ゲームでは、派手な戦闘よりも、補給・在庫・物流が重要になることがあります。
特にシミュレーションRPGやサバイバル系では、回復アイテムや補助アイテムの管理をミスると、戦闘前に詰みます。
今回のタニシは、まさに補給担当。
『トルネコの大冒険』や『不思議のダンジョン』のように、何が役に立つか分からないアイテムを見極める回でもあります。
一見ゴミに見えるアイテムが、後で重要になる。
これ、ゲームあるあるですね。
あと、売れ残り牛乳を再処理して冒険者応援ミルクにする流れは、経営ゲームでありがちな「不良在庫を別商品として再利用する」感じです。
現実でやると大問題ですが、夢層なのでギリギリセーフです。たぶん。
■ 登場キャラクター紹介
● マスター/NO NAME
通信でタニシを支援。
「必要とされるために危ないものを売るな」と助言し、タニシが踏みとどまるきっかけを作った。
● タニシ
購買部経営シム担当。
青春風おにぎり、冒険者応援ミルク、予約席チケット配布により購買部物流網を開通。
補給ハブとして全領域を支える重要役になった。
● カナエ/タマモ
リコーラーとして通信参加。
割れた呼び鈴や古い毛布など、一見ゴミに見える在庫を“帰還の目印”として選別した。
今後、保健室看護ADVでも重要な役割を担う予定。
● ルステラ
感染商品である青春パンの大量販売を非推奨と判断。
タニシの代替商品作成を補助した。
● イツキ
外部支援側から在庫と補給優先順位を整理。
栞、校則改定印、保健室パスを優先配送する判断をした。
● カケル
外部支援側で在庫ログ改造を担当。
安全おにぎりの包装偽装や牛乳の再処理、謎のネジの活用に関与。
● ルース
図書館領域から栞を要求。
次回、七瀬こころの本名候補を探す主担当。
● ポメ子/ポセイドン
水泳部ホラー領域から防水札を要求。
沈んだ卒業写真の回収準備を進めている。
● カイロ
風紀委員デスゲーム領域から校則改定印を要求。
終端校則を変えるための準備が整った。
● ミコ/ネムリ
保健室看護ADV側で、保健室パスと古い毛布、割れた呼び鈴を受領。
ネムリの精神安定に関わる重要アイテムとなる。
● ヘルメス
放送部音ゲー領域から耳栓を要求。
音ゲーなのに耳栓が必要という謎仕様に巻き込まれている。
● ナイトメア・メアリ
タニシの「必要とされたい」という気持ちを突き、青春パンを売らせようとした。
今回はタニシに踏みとどまられ、購買部領域の第一妨害に失敗。
■ 主人公の現在のステータス
名前:NO NAME
通称:マスター
等級:翠玉相当以上/紅玉査定候補
現在役職:夢層学園・生活指導担当/仮保護者
状態:夢層ゲーム攻略フェーズ中/購買部補給ライン開通
獲得済み主権:NODE05〈観測〉第一権能【観測迷彩】
所持品:冒険者タグ、白羽端末、空席札、夢層学園の生活指導腕章、購買部アイテム残りわずか
危険度:高
観測度:低優先度化中
感染度:上昇抑制中
次イベント:図書館推理ADV/七瀬こころの本名候補探索
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




