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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
倫理ノード編

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第84話 倫理ノード編06 おっさん、正しさの鍵を剥がす ――守るための街?そんなの知らねぇ。ぶっ壊す――

 やさしい声の施設ほど、一番ろくでもありません。

 今回は、倫理都市の保護区画からの脱出戦!!

 さらにちゃんと死にます。しかも何度も――

 警報音が、やけに明るかった。


 ぴろろろろん――♪

 という、子供向け番組みたいな音が白い回廊(かいろう)に響き渡る。


《第三保護層における不適切接触を確認しました》

《よい子のみなさんは、その場で静かに待ちましょう》

《走ると、危ないです》


「いや、言い方ァァァァ!」

 俺が叫んだのと同時に、天井の噴出口から白い泡が吹き出した。


 ふわふわしている。見た目だけなら、完全にお子様安全仕様だ。

 だがそれが肌に触れた瞬間――


「ぐあっ!?」


 全身の力が抜けた。膝が笑う。呼吸が一拍遅れる。

 ナツが槍を構えたまま泡を払った。


「これ、麻痺(まひ)毒っす!しかも見た目だけ無害寄りで腹立つッス!」

「倫理都市らしいでござるな……! やさしい顔した殺意でござる!」

「この街、説明だけはいっちょ前に()()なのよ」


 ミーナの言葉に、言い返す余裕がない。


 その奥で、ロキがにこにこしながら拍手していた。


「◇はいはい注目〜◇

 保護区画における“勝手な感動再会イベント”は規約違反でーす♪

 よって皆さんには、やさしく、()()()()()()()()()退()()いただきまーす◇」


 マスター「その“やさしく”が信用できないってえの!」

 カケルが怒鳴る。

「おいマスター!この街の優しさは高利貸しみたいなもんだぞ!」

「最悪の例えっすけど、めっちゃ分かるっす!」


 左右の壁が音もなく開き、白い管理端末(たんまつ)がせり出してきた。

 人型ですらない。滑らかな支柱に、丸い“笑顔マーク”みたいな表示板がついているだけだ。なのに先端から伸びた光の()は、明らかに人を拘束(こうそく)するための形をしていた。


《落ち着いてください》

《抵抗は、あなたの不利益となります》


「それは脅しだろ!」


 俺が前へ出た瞬間、足元の床が抜けた。


「は?」


 白い穴。

 その下はもっと白い。

 落ちる、と思った一拍あとに、全身へ冷たい光が突き刺さる。


《危険行動を確認》

《即時修正を実行します》


 どん、と胸の奥がひっくり返った。


 ―――俺は、どうやら死んだ。


―――――


 気づけば、数秒前の位置に戻っていた。


 赤い警報灯。ステラの袖。カイロの(おび)えた顔。

 耳の奥で、まだおぼろげなルステラのノイズ混じりの声が響く。


『小ルー...(ザザー)プ発動。巻き、戻し、最...小..ジジッ』

使用ザー回数増加は(ジー)推奨しま、せん、マスター』


「……今、死んだよな」

「死んだっすね」

 ナツが即答した。

「しかもびっくりするほど雑に」

「軽く言うな!」


 だが、軽く言ってもらえた方が助かった。

 あの死に方を真正面から受け止めると、足が止まる。


 俺は息を吐き、床を(にら)む。


「……穴だな」

「穴っす」

「シンプルに落とし穴でござる」

「“走ると危ない”の模範解答みたいなやつね」


 ロキが、わざわざ片手を口元へ当てて笑った。


「◇一名さま、ご退場〜◇

 次の方どうぞ?◇」


「遊園地のアトラクションみたいに言うな!」


 今度は走らない。

 半歩ずつ、床の継ぎ目を見る。右。止まる。左。止まる。

 光輪が飛ぶ。ナツが叩き落とす。タニシが「ひぃ」と変な声を上げながら転がる。  

 カケルが横から端末にレンチを投げつけた。


「おら、点検の時間だわポンコツ!」


 端末が一体、壁へめり込む。

 だがその奥、白い扉が開き、今度はもっと大きい管理個体が出てきた。


《保護対象への暴力を確認》

《許容損失の範囲内で排除を開始》


 その言葉だけが、妙に重かった。


「ぱーぱ!」

 ステラが叫ぶ。

「それ、いま、カイロも入ってる!」


 視線を向ける。

 保護寝台ごと、区画が封鎖され始めていた。

 扉の内側にカイロがいる。だが管理側の表示には、“保護対象”ではなく“処置対象”の文字が混ざり始めている。


 ここで俺たちを止めるためなら、あいつまで“損失のうち”に入れるつもりだ。


「ふざけんな……!」


 俺が踏み込んだ瞬間、今度は頭上から白い(やり)みたいな光が落ちた。


 避けきれない。


 胸を(つらぬ)かれる。


 熱くも痛くもなく、ただ身体の中身だけが“停止”した感じだった。


 また死んだ。


―――――


「二回目ぇ!?」

 戻った瞬間、思わず叫ぶ。


『小ル、ループ(ザー)、再発動』

ジジジ荷上昇、中。次回以降の使用は(ザー)危険です』


「うるさい! 知ってる!」


 胃がひっくり返る。死んだ感覚だけが残って、生きている実感が追いつかない。

 だが今ので分かった。


「“許容損失”だ」

「なにがっすか」

 ナツが振り向く。

「こいつら、最初から全員守る気がない。守る価値の優先順位で動いてる」

「そりゃそうでしょ」

 ミーナが冷たく言う。

「この街は“みんなを守る”んじゃない。“切り捨てても困らない順”を綺麗に並べてるだけ」

「すごい嫌な整理術でござるな……」

「でもそれが、ここの倫理」


 ルースが静かに続けた。


「補足。NODE03の中核ロジックに近いです。“全体最適のための局所損失許容”」

「嫌な日本語だな」

「でも、これがこの街の正体」


 ステラがカイロを見たまま、唇を噛む。


「この子、ここにいても守られてない」


 その一言で、腹が決まった。


 ジャクラが、その様子を見て嬉しそうに目を細める。


「やっと見えたのね。そう、この街は“みんなを守る”んじゃない。守る価値が高い順に、綺麗に残すだけ」

「だったら」

 俺はジャクラを睨む。

「そんな正しさ、剥がしてやる!」


 ルースの解析窓が一気に展開する。

 ステラがカイロへ共鳴する。

 視界の中央にHUDが浮いた。


『GOD RELEASE AUTHORITY《スキル G.R.A.》』

『対象:倫理管理コード TYPE-NODE03』

『解放権、行使しますか』


 ジャクラの笑みが、ほんの少しだけ深くなる。


「できるなら、やってごらんなさい」

「やる」


 その前に、もう一つ必要だった。


 俺はカイロを見る。


「お前は、ここが正しいから残ったんじゃない」


 カイロの目が揺れる。


「捨てられない場所が欲しかっただけだ。怒られないこと、順番を守ること、黙っていい子にしてること――全部、“ここにいても消されないため”だったんだろ」

「……っ」

「でも、さっき聞こえたぞ。“やだ”って」

 俺は言い切る。

「お前はまだ、終わってない」


 ステラが泣きそうな顔で頷く。


「……この子、帰りたい」

 ルースが淡々と重ねる。

「背景理解、完全到達。対象の受容準備、成立」


 HUDが変わる。


《実行可能》


 白いコードが、カイロの周囲と区画全体を繋いでいるのが見えた。

 保護じゃない。繋留(けいりゅう)だ。見えない(おり)の鍵だ。


「──剥がせ」


 声にした瞬間、世界が一度だけ白く弾けた。


 コードが引き抜かれる。

 俺の胸の中を、冷たい誰かの判断基準が通り抜ける。

 “何人までなら切っていいか”

 “どこまでなら見捨てていいか”

 そういう最悪の合理が、一瞬だけ自分の中を通過していく。


「ぐ……ッ!」


 吐きそうになる。

 だがその先で、カイロを縛っていた白い輪が(くだ)けた。


 ステラが息を吐く。


「……よかった」

 ルースの表示が更新される。


《解放済み》

《新規取得スキル》

《倫理層読み取り》

《許容損失無効》


 その直後、ジャクラの表情が初めて、ほんの(わず)かに崩れた。


「……へえ」


 ロキが口笛を吹く。


「◇うわ、やったねぇ◇

 それ、けっこう反則だよ?◇」


「うるせえ!」


 同時に、天井の封鎖光が止まる。

 “許容損失”の処理系統が、一瞬だけ凍ったのだ。


 俺は即座に《倫理層読み取り》を使う。

 視界の上に、線が見えた。

 この区画が何を優先し、どこを切り捨てるかの“判断の流れ”だ。


 そして分かる。

 いまこの瞬間、カイロは“損失可能”から外れた。

 だが代わりに、俺たち全員が処理対象へ寄る。


「ナツ! 右の扉だ! そこだけ今、優先順位が低い!」

「了解っす!」

「カケル、閉鎖板を吹っ飛ばせ!」

「はいはい、ベット成立だ!」


 カケルの投げた工具が制御盤へ刺さる。

 ナツが蹴り開ける。

 タニシが「いやもう嫌でござる!」と叫びながら、それでもカイロを抱えたステラの前へ出た。


「拙者、こういう時だけ妙に仕事するタイプでござるからな!」

「自己申告で言うな!」


 ミーナが最後尾で短く言う。


「早く。次に整え直されたら終わる」


 俺たちは走る。


 白い廊下の奥で、ジャクラが微笑んでいた。

 怒っていない。悔しがってすらいない。

 ただ、面白そうに見ている。


「今回はこちらの負けでいいわ。でもね」

 その声が、背中へ滑り込む。

「正しさを剥がしたなら、次は“何で守るか”を問われるわよ」


 その直後、壁面に次座標が一瞬だけ走った。


《第四戦域補助育成区画》

《旧戦場接続ログ》


 ルースが読み上げる。


「次の移送先、確定。旧戦場です」

 カケルが舌打ちする。

「最悪だな。倫理の次は戦場かよ」

「順番としては、すごくこの世界らしいっす」

 ナツが苦い顔で言う。


 走りながら、俺は一度だけ振り返った。


 ジャクラはもう追ってこない。

 ただ立っている。

 白い法務官の格好で、まるで劇の幕引きでも見送るみたいに。


 ロキだけが、ひらひら手を振った。


「◇またねぇ、マスター◇

 次はもっと上手に壊れてよぉ~◇」


「二度と会いたくねぇわ!」


 叫び返して、俺たちは第三保護層を抜けた。


 赤い警報灯の向こう。

 腕の中には、まだ震えているカイロ。

 胸の奥には、最悪の合理を通したあとの吐き気。


 でも、それでも一つだけ分かる。


 正しさは、剥がせる。


 なら次は、その先だ。


 旧戦場で。

 “強さは誰のためにあるのか”を、今度は問われる。


挿絵(By みてみん)

■今回の登場キャラクター


・マスター

 鋼鉄(こうてつ)等級のおっさん。ちゃんと二回死んだうえで、倫理ノードの鍵を剥がしました。


・カイロ

 保護されていた子供。今回は“助けられる側”ではなく、“正しさから引き剥がされる側”として前へ出ました。


・ガロ

 探していた相手を前にして、最後まで感情を呑み込んでいたドワーフ。今回は言葉より立ち位置で守る回でした。


・ナツ

 前衛担当。こういう時に迷わず前へ出る体育会系の強さが光ります。


・タニシ

 ビビるのに逃げない弟分。こういう修羅場だけ妙に仕事をする男。


・カケル

 機械と賭け事担当。死地でこそ軽口が冴えるタイプ。


・ミーナ

 “生き残る倫理”を知る側。今回も一番冷静に撤退ラインを見ていました。


・ルース/ステラ

 解析と共鳴の双子。GRA発動の実務担当と感情担当で、完全に噛み合いました。


・ジャクラ

 倫理都市の管理者。負けてもなお楽しそうな最悪の美人。


・ロキ

 煽りと進行のMC。こういう時ほどテンションが高いのが本当に腹立ちます。


■今回の話について


今回は、倫理都市でずっと隠されていた本音が露骨に出た回でした。


この街は“みんなを守る”ための街ではありません。

“切り捨てても困らない順を綺麗に並べる街”です。

だからこそ、カイロも保護対象でありながら、簡単に“許容損失”へ入れられました。


ここでマスターは、背景理解を経た上でGRAを発動し、NODE03〈倫理〉を剥がしました。

今回の獲得スキルは、


・《倫理層読み取り》

・《許容損失無効》


です。


要するに次からは、相手の“切り捨て前提の判断”を一瞬だけ読めるし、止めることもできる。

ただし、そのぶん“何を守るか”を自分で決めなければいけません。

次の旧戦場編は、そこを真正面から問われる章になります。


■ゲーマーおっさん解説!


今回は、おっさん的には『スペランカー』とか、古い死に覚えアクションの嫌さをかなり意識しました。

見た目は大したことなさそうなのに、ちょっとした落とし穴や初見殺しで平然と死ぬ感じ、あれです。

しかも今回は倫理都市なので、トラップの見た目だけやたら優しい。これがまた性格悪い。

あと、何度か死んで最適解を拾い直す感じは、昔のアクションゲームを攻略本なしでやってた時の“うわ、そこ即死かよ!”のノリに近いと思います。楽しいかどうかは別ですが、おっさんはこういう理不尽に妙な既視感があります。


■主人公の現在のステータス


名前:NO NAME

通称:マスター

等級:鋼鉄(こうてつ)

現在地:倫理都市外縁へ脱出中

状態:小ループ連続使用による疲労大/頭痛/吐き気

取得スキル:

・《倫理層読み取り》

・《許容損失無効》


■所持アイテム・装備


・冒険者タグ

・基本戦闘装備一式

・簡易補給物資

・第三保護層通行札(消耗)

・《ルステラ・キャリア》支援装備一式


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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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