表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
倫理ノード編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/110

第80話 倫理ノード編02 おっさん、正しい街で入市審査に詰まる――子供を守る街らしいのに、保護者判定がまるで通らない件――

 神様に見つかりかけたので、次の目的地は“正しい街”です。

 ただし、正しい街ほど息苦しいものはありません。

 ――そして今回は、綺麗すぎるエルフが出ます。

 ルステラ・キャリアで到着したそこは――

 

 『白い。』


 街を見た瞬間、最初に頭へ浮かんだ感想は、それだけだった。


 白い壁。

 白い塔。

 白い通路。

 白い衣をまとった人々。


 清潔、というより、漂白された(しろ)。

 汚れがないのではなく、最初から汚れるものが置かれていないみたいな色に感じた。


「……なんか、歯医者みたいな街だな」


 思わず漏れた俺の声に、ナツが「それ、たぶん褒めてないっス。てか歯医者って何スか?」と苦笑する。当然か、この異世界に歯医者なんてあるわきゃない。


 苦笑しているのはナツだけだった。ほかのメンバーは何とも言えない表情でこの都市を見つめている。

 それくらい異常な白さを誇っていた。

 

 ルースは窓の外へ視線を向けたまま、淡々と読み上げる。


外縁(がいえん)隔壁(かくへき)認証光路(にんしょうこうろ)入市判定門(にゅうしはんていもん)を確認。都市機能は安定。外部者審査、正常稼働中です」


「うん。言ってることは分かる。分かるけど、安心する要素が一個もねえ」


「その判断、合理性は高いです」


「そういう感想が出る時、だいたい地獄だろ?――ま、この世界に天国なんてありゃしなさそうだが」


 運転席寄りの席で、ミーナが窓の外も見ずに鼻を鳴らした。


「……こういう街はね、入る前から答えが決まってるの――」


「え?」


「間違ってても、逆らわない方が()()()()()ってこと」


 短い。だが、やけに重かった。


 《ルステラ・キャリア》は、白い門前でゆっくり速度を落としていく。

 荷台側では、今回の旅から同行した女給(メイド)――イツキ、ナツキ、シズク、ミーナたちが、走行中にずれた食器や酒瓶を一斉に手早く押さえていた。


 床は補強済み。折り畳み式の簡易卓。壁際の保冷棚。吊り下げ式ランタン。酒瓶用の固定具。逃げるために増やしたはずの設備が、もう完全に“店”だった。


「逃げるたびに《るすと》が立派になってくの、どういう理屈だよ……」


「店長が逃げ癖あるし、案外移動販売向きなんじゃね?」とイツキ。


「最悪の経営コンサルやめろ」と俺がまた異世界人にはわからないネタを振るが、イツキは 両手を挙げて「何いってんのオッサン」と、知らんぷりだ。


 その時、ステラが俺の袖を、きゅっと握った。


「……ぱーぱ」


「ん?」


「ここ、やさしいよ。……でも、やだ......」


 小さな声だった。


 窓の向こうでは、門前の列が静かに流れている。

 誰も押さない。誰も怒鳴らない。子供も泣かない。


 それが逆に、嫌だった。


「やさしいのに、やだ?」


 俺が聞き返すと、ステラはうまく説明できないみたいに首を振る。


「……わかんない。けど、くるしい」


 ルースが、すぐ隣で無機質に補足する。


「倫理都市は――規則密度が高い環境です。ステラは共感AIなので、不快に感じている可能性があります」


「お前は平気なのか?」


「はい。基準が明示されているので」


「うん、まぁ知ってたわ。だから怖いって話なんだよ」


 正面の認証門が、淡く光る。

 車体前方の薄板端末(たんまつ)に、白い文字列が流れた。


《外部拠点検出》

《簡易営業設備確認》

《同伴幼体反応:2》

《保護者適性審査:追加》


「はい来た。嫌な予感()()()()


 俺が額を押さえると、タニシが勢いよく身を乗り出した。


「でも逆に、こちらを無視できないということでござる! 鋼鉄(こうてつ)等級の移動酒場、堂々入市でござるよ!」


「堂々って顔してると、あとで首輪つけられるやつだよ、それ」

 イツキは笑いながらも、目だけでせわしなくログを追っていた。


「……ふーん。照合項目、多いね」


マスター「そんなにヤバいのか?」


「ヤバい。旅人向けじゃない項目まで出てる」


「例えば?」


「“情緒安定供給能力”“保護対象への安心演出適正”“許容損失理解度”」


「嫌すぎるだろ、その面接項目」


 門上部の結晶灯が一斉に点灯した。

 白い光が車体を舐めるように走った直後、上空に薄いスクリーンが開く。


「はぁい、外来のみなさぁん♬◇」


 甲高く、よく通る声。

 ひらりと大仰に片手を振りながら現れたのは、見覚えがありすぎる男――いや、あのやたら絵面の強い司会者、ロキだった。


 ロキはスラっとした長身の体躯に、スーツやタキシードをビシっと着こなし、見た目もとても良い。ピエロのような赤鼻と、マイクがついたロングステッキを常に持っている。

 奴はZ.E.U.S側神権AIの一柱だ。...だが、敵とも味方とも取れない気持ち悪さのある個体でもある。


「本日も倫理都市(りんりとし)へようこそぉ◇ ここは“みんなが安心できる正しさ”を守る街。外から来た方は、まず審査から。子供連れの方は、保護者適性の照合をお忘れなくねぇ♬」


「グ......忘れられるわけねえだろ......!」


 俺が記憶の残滓にうめくと、ロキはスクリーン越しに肩をすくめる。


「いやぁん、そんな嫌そうな顔しないでよぉ。形式だけよ、形式♬ たいていの人は、ちゃんとしてれば通るんだからぁ◇」


「“たいてい”って言ったぞ今」


 ナツが腕を組んだまま言った。

「こんな信頼感のない言葉ないっスね」

 ――まったくだ。


 そのロキの背後。

 スクリーンの端に、別の影が一瞬だけ差し込んだ。


 長い黒髪。

 赤い唇。

 柔らかな笑み。


 どこか見覚えがある――ジャクラ・ミコトだ。


 ほんの一拍。

 高い場所、もっと上の管理層(かんりそう)から、こちらを見下ろしている。


 笑っているのに、目だけが冷たい。

 いや、冷たいですらない。

 最初から人間に興味がない目だ。


 なのに、その目だけが、俺の嫌そうな顔を見て――少しだけ嬉しそうに細くなった。


「あら」


 聞こえたのか、錯覚かは分からない。

 けれど確かに、女の声がした。


「今回は、ここから始まるのね」


 喉が乾く。


「……イツキ」


「うん。見た。っていうか、見せてきた」


「やっぱりいるんだな、アイツ」


「いるね。しかも上の方」


 ミツキが、不安そうにステラの肩を抱いた。

 その隣で、ルースは白い門をじっと見つめる。


「判定式はあります。突破条件もあるはずです」


「条件があるから優しい、みたいな顔すんな。今それ言うと怖ぇよ」


「合理性の話です」


「その合理性が人を殺すって話してんだよ」


 そのときだった。

 門の脇、光柱の間から、一人の女が歩いてくる。


 白い都市の中で、いちばん綺麗な色をしていた。


 長い銀白の髪。

 雪の糸みたいに細く、光を受けるたびに淡く透ける。整えられているのに堅苦しさはなく、肩から背、腰を越えて、流れるように落ちていた。


 長い耳。

 人間離れした、繊細で整った輪郭。

 青みを帯びた灰色の瞳は、澄んでいるのに温度が低い。見られた側の呼吸を勝手に整えようとしてくるみたいな、不思議な静けさを持っていた。


 法衣めいた衣装は、白と淡い灰青が基調だった。

 露出は少ない。高い襟、長い袖、幾重にも重なった布地。縁には細い銀の意匠と、薄く光る幾何学模様。胸元から肩へかけては記録官の徽章(きしょう)らしき透明な結晶飾り。

 戦うための服ではない。裁きと記録のための制服。そう分かるのに、目が離せない。


 完成しすぎた美しさだった。

 美人、で片づけるには少し足りない。

 絵の中から抜け出してきたみたいに整っていて、整いすぎているからこそ、逆に人間味が薄い。


 だが、近づいてきた瞬間だけ。

 俺は見た。


 その瞳の奥に、ごく微かな疲れと、諦めに似た影が沈んでいるのを。


外来拠点(るすと)のみなさま」


 女は深く一礼した。所作まで綺麗だった。


「私は、記録官補佐レコード・アテンダント、エレシア・ヴァンリーフ。外部入市審査の案内を担当します」


 声は静かだった。

 柔らかいのに抑揚が少ない。

 優しいようにも聞こえるが、安心はできない。薬の説明書みたいな声だ、と俺は思った。


「……エルフか」


 思わず呟くと、エレシアはわずかにこちらへ視線を向けた。


「はい。分類上は、その表現で問題ありません」


「分類上って言い方……」


 ナツがぽかんとしたまま小声になる。


「めっちゃ綺麗な人っスね……」

 

 いつもならエルフ登場でテンションのあがっていそうなのに

「綺麗で済ませるには、ちょっと怖いでござる……」とタニシ。


 イツキはエレシア本人ではなく、その手元の透き通った記録板を見ていた。


「記録官ね。うち、帳簿担当が二人いるんだけど、同業として仲良くできるタイプ?」


「審査が完了するまでは、親しくはなれません」


「はい、融通きかないタイプ確定ェ~」イツキは、やれやれと言った感じで両手のひらを上に向ける。


 エレシアは皮肉を流し、視線を車内へ滑らせる。


 ルース。

 ステラ。


 その二人に触れた瞬間だけ、ごく僅かに、エレシアの呼吸が乱れたように見えた。

 だが、それも一拍で消える。


「同伴幼体反応、二件。外部拠点構造、営業機能保有。保護対象を含む集団入市のため、通常照合に加え、保護者適性審査が必要です」


「ほら来た」


 俺が頭を抱えると、エレシアは淡々と続けた。


「この都市は、子供の保全と情緒安定を最優先する管理区です。外部者が保護対象へ継続的に接触する場合、適性照合は義務となります」


「……ちなみに、落ちるとどうなる?」


「接触制限、営業範囲制限、場合によっては一時隔離です」


「はい最悪」


 ロキが上空から楽しそうに指を鳴らす。


「いやぁ、ちゃんとしてる街って素敵ねぇ♬◇」


「お前だけは楽しそうだな」


「だって楽しいものぉ。こういう“最初から詰んでるかもしれない説明会”って、ワクワクするじゃない?」


 ロキが笑う。

 高い場所から、まだ視線がある。


 ジャクラだ。


 見えなくなっても、分かる。

 あいつは今、俺が嫌そうな顔をするたび、面白がってる。


 エレシアは、決まりきった口調で告げた。


「本入市は可能です。ただし、保護対象との継続接触を希望する場合、明日、正式な適性裁定場へ出頭してください」


「正式って、面接とかじゃなく?」


「裁定です」


「言い換えてねえじゃねえか」


 ロキが、やけに楽しそうに拍手した。


「わぁ、明日は楽しくなりそうねぇ♬◇ 外来保護者さまの“正しさ”を、みぃんなで見せてもらいましょうか☆」


 ステラが、俺の袖をまた握る。


「ぱーぱ」


「ん?」


「……あのひと、きれい」


「エレシアのことか?」


 こくり、と頷く。


「でも、()()()()よ」


 エレシアの表情は変わっていない。

 変わっていないはずなのに、ステラにはそう見えるらしい。


 たぶん、間違っていない。


 門が開いた。


 白い都市の中から、風ひとつ吹かない。

 匂いも、音も、汚れも、全部が削られたみたいな空気だった。


「……入るしかない、か」


 俺がそう言うと、ミーナが低く返す。


「最初からそういう街だよ。入る前に選ばせる顔して、実際は一個しか道がない」


 イツキが肩を竦めた。


「ま、店としては通れたんだからよし。問題は明日だね」


「よし、じゃねえんだよ。明らかに“明日が本番”って空気だろ」


「そうだよ?」


「即答すんな!」


 ナツが槍を持ち直し、苦笑する。


「でも、行くしかないっス。ここで引いたら、それこそ向こうの思うツボっス」


「もう十分思うツボな気もするけどなぁ……」ポリポリと頭をかく。


 エレシアは白い通路の先に立ち、一行を振り返る。


 その背中は細い。

 細いのに、都市そのものに支えられているみたいに真っ直ぐだった。


 歩き出した彼女の髪が、静かな光を帯びて揺れる。

 白い街の中で、そこだけが妙に目に残る。


 美しいものほど、正しいものの看板にされやすい。

 そして、看板にされた側が、いちばん疲れている。


 エレシアは振り返らないまま言った。


外来拠点(るすと)のみなさま。足元にご注意を。ここから先は、倫理層(りんりそう)の管理区になります」


 管理区。


 その言葉が、ひどく冷たく胸へ落ちた。


 俺は白い門をくぐりながら、小さく息を吐く。


「……絶対ろくでもない」


 上空から、ロキの明るい笑い声が降る。


「安心してぇ♬◇ ろくでもない時ほど、物語《スト―リー》は盛り上がるんだからぁ!」


「何目線だよ!!」


 誰かが少しだけ笑った。

 たぶんナツだ。

 でも、その笑いは長く続かなかった。


 白い通路の奥。

 見えないはずの高所から、まだこちらを見ている視線がある。


 ジャクラだ。


 そして明日。

 あの女はたぶん、俺が困る顔を、苦しむ顔を、見に来る。


 そう思った瞬間、背中の汗が一気に冷えた。


 倫理ノード都市。


 やさしくて。

 綺麗で。

 正しくて。


 ――だからこそ、最悪だ。


挿絵(By みてみん)


今回もお読みいただき、ありがとうございました。


ついにNODE03-倫理ノード都市へ突入しました。

今回は“戦闘”というより、**街そのものの空気が敵**なチャプターになります。


白くて、静かで、礼儀正しくて、綺麗。

でも、その綺麗さの裏に「削られたもの」がある――という嫌さを前面に出しました。


■今回の主要人物


■エレシア・ヴァンリーフ

倫理都市の記録官補佐。

長い銀白の髪、長耳、白と灰青の法衣をまとった美しいエルフです。

一見すると冷たく整いすぎた人物ですが、子供に関する反応だけ、ほんの少し揺れます。

この都市の“正しさ”を体現する案内役でありながら、その正しさに疲れている気配も持つ立ち位置です。※何気に本作ではエルフ初登場!!


■ロキ

今回は大会MCではなく、**都市広報兼・審査案内役**みたいな顔で出してきました。

明るくおどけているのに、言ってることは怖い。

今後の裁定シーンでは、もっと露骨に“舞台を回す側”へ寄っていきます。


■ジャクラ・ミコト

まだ本格登場ではありません。

ですが、すでに“見ている側”として顔を出しました。

この人は困っているマスターを助けに来るタイプではなく、**困って、苦しんで、壊れかける顔を見に来る側**です。

優しげに微笑むくせに、目だけが笑っていないのがこの人の怖さです。


■ルースとステラ

ルースは規則密度の高い都市に合理性を見いだし、ステラは逆に息苦しさを感じています。

この双子の反応差が、倫理ノード編の大きな軸になります。


■おっさんゲーム解説!


今回は都市に入る前の**照合・審査・通過判定**の空気を強めに描きました。

こういう“書類や条件を見て、人を通すか止めるかを決める”ゲームとして、真っ先に思い浮かぶ有名作の一つが『Papers, Please』です。公式サイトでは、プレイヤーが入国審査官として、与えられた書類とルールだけを頼りに「入れるか、追い返すか、逮捕するか」を決めていくゲームとして案内されています。([Papers, Please][※1])


一方で、今回の“裁定がショーになる感じ”や、“場を回す進行役がいて、言葉ひとつが重くなる感じ”は、法廷バトルゲームの空気も少し混ぜています。カプコン公式の『逆転裁判』シリーズは、プレイヤーが弁護士となって、無実の罪を着せられた依頼人を救うため法廷で真実を暴いていく作品として紹介されています。([逆転裁判][※2])


この章では、

**審査ゲーの嫌さ**と、

**法廷バトルの見世物感**と、

**管理社会の息苦しさ**を混ぜていくつもりです。


■主人公の現在のステータス(第80話時点)


名前:NO NAME(通称:マスター)

冒険者等級:鋼鉄(こうてつ)

LV:低位固定

状態:生存

観測優先度:上昇中

現在地:倫理ノード都市・外縁管理区


■所持・状況メモ

・《ルステラ・キャリア》移動酒場化進行中

女給(メイド)増員済み

・ルース&ステラ同行中

・次話、保護者適性裁定へ


少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!


[※1]: https://papersplea.se/ "Papers, Please"

[※2]: https://www.ace-attorney.com/ "Ace Attorney|CAPCOM"


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

影森ゆらは今日も死ぬ
異世界最強の節約勇者
異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ