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第22話 召喚勇者タツヤは

 ダグザールの東、レルシェンの遥か北東、未開領域の奥地。その山腹の洞穴が“今回の”魔王出現地点にして拠点である。

 その出現と場所は人類と魔族に“神託”で伝えられる。これはつまり人々が“神”と呼ぶ何らかの上位次元の存在が確かにいる、という事だ。

 だが、魔王の拠点となっている洞穴の入り口に到着した竜也にとって、それが何なのか…などはどうでもいい事である。魔王が何者なのかもどうでもいい。彼の頭にあるのは、魔王をブッ斃す事、この世界での生活基盤を確固たる物にする事、勇者特権で女を侍らせる事。


「ここから先は対魔王召喚勇者しか通過できない結界があって、十年勇者の俺も中には進めません。俺たちに出来るのは、この場所を確保しつつ、皆さんの朗報を待つ事だけです。」


 グレンが説明する。


「ふざけた結界だな。解除を試みた事は?」


「過去に魔王が出現する度に研究されていますよ。でも全く解明されていません。」


「仕方が無いな。じゃあ言って来るぜ。」


「どうか我々に勝利を!」


「おう、任せな! 霧が濃いからおまえらも気を付けろよ。」


 竜也、舞美、ドゲザー、礼二、オッサンの五人は洞穴へと突入した。

 この世界に召喚されたばかりの、まだレハラントに汚染されていない頃の竜也であれば、この世界の住人の誰もが「そういうものだ」として疑問を持たない、この“仕組み”の不自然さに疑問を持っただろう。いや、疑問どころか、この事象一発で“真実”を弾き出したかも知れない。

 だが、今の彼にそれは望むべくも無かった。


 洞穴に入った竜也たちは植物油を沁み込ませた布を巻いた松明で暗がりを進む。内部には動物も魔獣も、生命は一切無く、魔王が最奥で戦闘準備をしているという。魔王の戦闘準備とは体内魔力を蓄積して馴染ませ、また身体の生成を行う事である。魔王の身体は凝縮した魔素で構成されているのだ。言うなれば魔王自体が“空間天穴”の様な存在なのである。


 佐々木の<照明光>があればもっと早く進めるっていうのに! あいつは見つけたらハーレムの序列最下位にしてやる。家畜だ、家畜。いや便器だな。あれ? どっちが下になるんだろうな? まあ、いい。弥生ちゃんもこんな目に合わせてくれたんだ。償いはしてもらうぜ。


 好みのタイプでは無いとはいえ、一生に一度抱けるかどうかというレベルの美女であるエリスにベッドで散々刷り込まれ、レルシェンで魔族を殺害し続けているうちに彼の歯止めは効かなくなっていた。異世界転移で得た能力で自分は特別な存在になったという過剰な自信と慢心、元々潜在的にあった女好きと無双願望の覚醒。

 召喚されたばかりの頃の竜也とはもはや別人である。





「最悪、失敗の可能性を考慮しておけ。」


 洞穴入り口に残るゲックレンが口を開くと、グレンがそれを諫めた。


「おいおい、冗談でもそんな縁起の悪い事を言うなよ。」


「いいや、本気だ。おまえ達、ここまでのタツヤ殿の戦いぶりを見ていてどう思う? あれで魔王に勝てると思うか? あれで勝てるなら陸軍が出動して、魔王がここから出て来るのを待ち伏せしたって楽勝だ。」


「で、でも、伝説では対魔王勇者は魔王と対峙すると、追加で特別な加護を神から受けられるって言われてますよ?」


 セベが反論する。


「伝説は伝説だ。脚色されているかも知れないし、最悪、まるっきり御伽噺の迷信って事も有り得る。

 魔王討伐成功は過去七回、人類の召喚者が討伐した最新が六百年前の魔王出現。六百年だぞ? その間にそういう脚色が加わらなかったと思えるか? それ以外は魔族による討伐だが、奴らがどういう戦い方をしたのかという詳細はレハラントには入って来ない。ほとんど結果のみだ。」


 その時、霧の中に大きな人影が見えた。身長1セルベ(2メートル)はあろうかという牛の頭を持つ怪人。服は着ていない。無着衣文化者だ。


 ま、魔族…牛頭族? 魔族の討伐団と鉢合わせたか?


 ゲックレンたちに緊張が走る。すぐにその横にも子供の人影があった。それはハーフリング族の女性。その姿を忘れるはずも無い。

 “猟奇姫”。


「やはり景色を見ながらの移動はいいな! <亜空間移動>は早いし便利だが、味気無い。」


「また御者が必要な時は、いつでも俺かネフティに御用命ください。快適な空の旅をお届けいたしますよ。」


「それならウチの旦那様とおまえとネフティでダブルデートでもしようか。」


 二人は談笑しながら近付いてくる。“猟奇姫”ジアッラは強力な探知警戒魔法持ちだ。当然、ゲックレンたちの存在にはとっくに気付いているが、全く意に介さない。


「おお、おまえ達。あのバカ勇者どもは中だな。わたし達もここで待たせて貰うとしよう。」


「な、何用でありましょうか?」


「おまえ達なんぞに用は無い。用があるのは魔王の方だ。」


「で、では遠慮せずに中へ入られても結構ですよ? こ、こ、こちらは構いませんから。」


 ゲックレンはジアッラが中に入って場を掻き回せばタツヤたちにもワンチャンあると考えた。それどころか、魔王がジアッラの逆鱗に触れる様な事を仕出かしてくれれば、タツヤたちが負けたとしても、“猟奇姫”相手では魔王もただでは済まないだろう。

 何故ならば、記録によると、かつて魔王が召喚勇者に完全勝利して世界を支配した時、魔王を潰したのは“五大災厄”の“消し去る者”、しかも瞬殺だったという。“五大災厄”は比較的新参の“剛力の一角”のみ格が落ちるが、他の四人は拮抗する実力の持ち主と評価されているのだ。


「勇者と魔王の戦いの邪魔は出来ないよ。魔王と話して確認したい事があるだけだ。まあ、待っていても勇者が勝って出て来る確率はほとんど無いから、頃合いを見計らって入らせて貰おう。」


 ゲックレンたち一同は愕然とする。“猟奇姫”はタツヤたちが敗北すると予想している! と。


「そうだ、イスレロ。運動といえばネフティとの交尾ばかりで、身体が鈍っていないか? こいつら相手に稽古でもつけてみろ。」


「ははは、失礼ながら鍛錬は欠かしておりませんよ? カウハルツくらいなら一発です。こいつら相手では手加減しても殺してしまいますよ。」


「構わんじゃないか。どうせこいつらの待っている相手は戻って来ないんだから。

 おい、羽虫ども、こいつは“剛力の一角”カウハルツくらい一発らしい。わたしの部下のイスレロだ。稽古をつけてもらえ。イヒヒヒ!」





 洞穴の先に青白い光が見える。

 竜也たちは松明の火を落として、歩みを緩めて徐々に近付く。岩陰に身を隠しながら、奥の様子を伺う。

 青白い光を発していたのは身長5セルべ(10メートル)はあろう巨人の男。額からは四本の大角が後方に向かって生え、凶悪を具現化した様な顔で岩の椅子に腰掛けている。


 こいつが“魔王”か!


 強い威圧感を覚えるが、竜也の血が滾る。

 よく見ると一部は骨が露出しており、そこへ黒い靄が吸い寄せられて集まっていっている。肉体を構築しているのだ。


 悪いが、あのロリ魔女に比べると圧が格段に落ちるぜ、魔王さんよ。…とはいえ、先にあのロリ魔女に遭遇して免疫が出来てなかったら、この迫力にやられていたかも知れないな。

 『“五大災厄”を刺激するな、敵に回すな』か、なるほどね。あのロリっ子をハーレムに入れるのは無理だよな、殺される。


 竜也は手で合図してドゲザーと礼二を呼ぶ。


「回り込もうにも身を隠す障害物が無い、丸見えだ。正面からいくしか無いなら上下から同時攻撃、ドゲザーが上、俺が下で行く。礼二、先制で一発デカイのをブチ込め。それを合図に全速力で速攻を仕掛けるぞ。<氷弾>の援護も忘れるな。短期決戦だ、長引かせるな。」


 支持を受けて礼二とドゲザーが頷くと、竜也は指でカウントダウンを開始した。


 5…、4…、3…、2…。


 ボゥンッ!


 礼二の<焔獄>が魔王の身体を包んだ。同時に竜也とドゲザーがダッシュ、速攻を掛ける。


 攻撃前に名乗りを上げる程、お人好しの馬鹿じゃ無いぜ! 食らえ!


 ガキィン!


 魔王の強力な<対物理防殻>が竜也の刀を跳ね返した。


「なっ!?」


 同じ事がドゲザーの方でも発生していた。ドゲザーは反動に耐えられずに剣を離してしまっている。


「ドゲザー! 距離を取れ! 一旦離れろ!」


 だが、竜也のその指示は実行不可能だった。弥生の様な<念動>能力を持っている訳では無いドゲザーに、足場の無い空中で軌道を変える術など無い。


 ブンッ!


 魔王が発した光の玉がドゲザーに命中した。<光熱球>だ。


 え?


 竜也が呆気に取られる。地面に落ちてきたのはただの真っ黒な炭だった。炭がパラパラと落ちて来た。ドゲザーの姿は何処にも見当たらない。この炭がドゲザーなのだ。


 死んだ? 何で? 嘘だよな? ドゲザーは何処に行ったんだ? 隠れてないで討伐に参加しろよ。 え? ちょっと待ってくれよ。


 竜也だけでは無い。全員が止まった。

 魔王が岩の椅子から立ち上がる。完全では無いが、もう動く事は出来るのだ。竜也はそれを見ると、急いで後方の舞美とオッサンの位置まで下がる。


「礼二! 下がれ!」


「はっ、はいっ!」


 礼二も続く。その時、魔王の放った<火球>が竜也に向かって来る。大きくは無いし、なるほど、弾速は遅い。竜也はそれを躱す…が、後方に下がった竜也の背後に隠れていた舞美は<火球>の認識が致命的に遅れた。


「ぎゃあああ! あづい! いだい! いだいー!」


 舞美の半身が一瞬で炎に包まれた。


「だずげで! だづやざん! だずげで! いだい!」


「おい、離せ! 巻き込まれるだろうが! クソが!」


 竜也の足に必死に縋る舞美をガンガンと蹴って離そうとすると、舞美の上に魔王の拳が振り下ろされた。


 ドズウゥゥゥン!


 …魔王が拳を上げると、そこには潰されたミンチ肉があった。ただ、竜也に向かって伸ばされた右手だけが原型を残し、今までそこに助けを求める舞美が確かに居た事を物語っている。


「ひ…は…。」


「あっ! 相馬さん…ぐぎゃあ!」


 竜也は走っていた。気が付いたら走っていた。何処へ? 洞穴の出口へ向かって。礼二が自分の名を呼んだ後、断末魔を上げた。


 だから何だ!


「うわあぁぁぁっ!」


 オッサンの悲鳴が魔王のいた場所の方向からした。


 知った事か!


 走る、走る。


 ふざけんなよ! 俺は勇者だろ? 何だよ、これ! 勇者が勝てないとか、有り得ないだろうが!


 逃げる、逃げる。

 真っ暗な洞穴を躓いて転げ回りながら必死に駆ける。明かりが見える、外だ! 救いの光。その光が照らす世界に生還した竜也が見たものは…脳ミソを吹き飛ばされて倒れているゲックレンやグレンたち待機組6人の死体であった。

 そして、拳を血に染めた牛の頭部をした筋骨隆々の大男。その姿が舞美を潰した魔王の姿とダブり、竜也は腰が砕けそうになる。


「え? 嘘っ! おまえ、まさか魔王に勝ったのか?」


 背後から声がして竜也が振り返ると、洞穴口の上の岩場に、「信じられない」という驚きの表情で竜也を見る全裸の幼女が座っていた。


「いいえ、彼は逃げて来たんですよ。」


 ジアッラの隣に突然白い煙が立ち上がり、狛犬の様な謎生物が出現した。


「は? 『逃げて来た』って? キャハハハハ! おまえ、逃げて来たのか! キャハハハ! ウケる!」


「洞穴口の結界から出た時点で逃亡という結果が確定、彼は駒から外された事をジアッラ様にお伝えします。」


「フッ、フヒッ! ま、まあ、逃げるというのも戦術における立派な選択肢ではあるが…あのやる気は何だったんだ? フヒヒ。

 しかし、だ、駒から外れたのなら、わたしにはおまえをどう扱うかの“縛り”が無くなったという事。クサレ災害魔獣の件の時の様に、わたしに刃先を向けてみろ。今回は御託無しで即時、喧嘩を買ってやる。さあ!」


 竜也の股間を壊れた蛇口の様に漏れ出した小便がみるみる濡らし、足元に水溜まりを作った。


「ひ…あ…うわあああぁぁぁぁぁぁっ!」


 竜也は無我夢中で逃げた。


 死にたくない! もう嫌だ、元の世界に帰りたい! 自分の世界に! こんな所で死ぬのは嫌だ!


 それでも刀を手離さなかったのは剣士としての誇りか? いや、生き残るには武器が必要と言う生存本能しか無い。


「イーヒヒヒヒヒ! く、苦しい! わたしを殺す気か、あいつは。逃げるなら空間魔法を使えばいいだろっての。ふっ、ふっ、ふはぁ~…。」


「威圧に掛かった奥方様相手ならともかく、全く気を出していない冗談にあの反応とは…。」


 イスレロが呆れたように竜也が逃げ去った方向を見る。


「あ~笑った笑った。

 …さて、と。用件を済ませてくるとしよう。ちょっと魔王と話して来るよ。」


「いってらっしゃいませ。」


 イスレロは結界に入れないのでこの場で待機するのだ。魔王を相手にするのにジアッラの身に何かあったら…など微塵も心配していない。そんな心配をする方が失礼だと彼はよく知っている。


「では私めはこれで失礼します。」


 狛犬っぽい生物は再び白い煙に包まれ姿を消した。





 『召喚勇者タツヤは魔王を討伐できるか』?


 で き な か っ た 。



できませんでした。


これにてタイトル回収となりましたが、タツヤの物語はもう少し続きます。

あと、構想段階ではオッサンは元の世界の生活ぶりを描写して、もう少し存在感のあるキャラにする予定だったんですけど…とばしてしまいました。ごめんねオッサン。

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