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第19話 王子、立つ

「直ちに魔王討伐団に帰還命令を出せ。伝書鳥誘導のマーキングは残させているのだろう? すぐに飛ばせ!」


 レハラント王城謁見の間ではイーバル国王が唾を飛ばしながら興奮している。


「しかし陛下、それでは魔王討伐が…。」


「今は魔王より魔族どもから国を守るのが優先だ!

 魔王ならこちらから討伐に向かわなくても、最終的には向こうから攻めて来るだろうが! その時に相手をすればいい。大体にして、魔王の最初の餌食にされるのは位置的にダグザールだ。我が国との戦争どころでは無くなるだろう! レルシェンにしても討伐団は背後の脅威になる!

 エリス、おまえの狙いはこれだったのだな?」


「その通りですわ。これで長年我が国にちょっかいを掛けてきていた身の程知らずのダグザールとの関係に決着が着きます。」


「おお! さすがの慧眼でございますな! では早速、帰還命令を出しましょう!」


 宰相の“ゴマスリ貴族”コービンスが大袈裟なガッツポーズを取りながら同意する。

 そして、その様子をシェーン王子は冷ややかに見守っていた。


 何が慧眼だ。どいつもこいつも、まんまとエリスに乗せられやがって。こいつらには戦略的観点って物が無いのか?

 どんなに強力な英雄でも身体は一つだ、“個”以上にはなれん。既に大局が決定しているのに、呼び戻したところで焼け石に水だろうが。それに戦闘を開始した魔王を迎撃で倒せばいいだと? ちょっと強力な召喚者を呼べたからって慢心が過ぎるだろうが。


 そして父王や大臣たちに笑顔で応えながら、エリス王女は思う。


 あらあら、この方たちは脳ミソが入っているんでしょうか?

 代々、何でこちらから魔王に攻め込むのかと言うと、魔王が戦闘態勢を整える前に潰さなくては手に負えなくなるからですのにね。過去に魔王が完全勝利したケースは討伐が遅れて戦闘態勢を整えさせてしまったからでしょう?

 まあ、魔王なんて私にはどうでもいいんですけど。

 タツヤたちが戻ればここまで進行した戦局を逆転できるなんて本気で思っているのも笑えちゃうわ♪

 “消し去る者”の言葉、『レハラントの敗北は望まない、死なせたくない者がいる』…で、あればこちらが劣勢になるほど彼らが現れる可能性が高まる。“五大災厄”出現の可能性は魔王戦よりこちらの方が断然高くなったわ。

 だったらタツヤはさっさと帰還させて、“五大災厄”と接触した後は二人で逃避行よ♪


 そして二人は同時に思う。


 こいつら馬鹿ばっかり。


 謁見の間から自室に戻ったエリス王女は窓辺に伝書鳥を見つけ、足に付けられた付箋を取る。


『我“猟奇姫”に遭遇せり。』


 エリス王女の顔に歓喜の笑みが浮かぶ。が、それはすぐに落胆へと変わった。


『勇者、帰還の説得に応じず。魔王討伐の意思変わらず。』


「所詮、冒険者など無能の吹き溜まり…そんな者を使った私が愚かでしたわ。」


 魔王討伐団には時間を掛けて行軍してもらい、“五大災厄”が現れる機会を待つ。しかし、折角“五大災厄”が現れても遠征先では自分は接触出来ない。だから脈がある内に手元に呼び戻す、という段取りだった。


 まあいいわ。いずれにせよ国からの帰還命令が出されるのだから、帰りを待ちましょう。


 その頃、シェーン王子は近衛騎士団長のジャスクと廊下を歩く。


 魔王討伐団が帰還したら多数の魔族を掃討した武功で叙勲だと? この戦争の元凶に叙勲? もう、この国は完全に狂っている!


「ジャスク、準備の方は?」


「近衛騎士団、総員準備ヨシです。」


 ジャスクがシェーン王子に目を付けたのは才覚的には全く無能では無い事、そして父母に対して激しい不満を長年抱き続けている事を見抜いたからだ。味方がいる事を示唆し、後は尻を蹴っ飛ばしてやればいい。

 エリス王女は頭は切れるが、謀略に走る傾向が強過ぎる事も分かっていた。彼女は扱い難い、神輿はシェーン王子くらいが丁度いい、と判断したのだ。

 二人は父の執務室へと向かう。部屋の前には当直の近衛騎士が一人いて、シェーン王子とジャスクに目で確認の合図をする。室内には父王、母后、専属執事しかいない、“実行可”の合図である。


「父上、よろしいか?」


「何だ? シェーン。ジャスクも一緒か。城内で剣をぶら下げて歩くなと言っておるだろう! 馬鹿者…おい?」


 シェーンは腰から剣を抜くとイーバル国王へ近付く。ジャスクと部屋へ入って来た当直近衛騎士がジンジャー王妃と執事をすばやく拘束し、口を塞ぐ。


「おまえ達、何をしているのか理解しているのか?」


 シュッ!


 シェーン王子の剣がイーバル国王の左胸を貫いた。


「お、おま…。」


 シェーン王子は剣を引き抜くと続いて喉を掻き切る。そして拘束されているジンジャー王妃と執事の方へと向かう。


「殿下、殿下はその男さえ殺っていただければいいのですよ? 他の者は我々に任せてもらっても結構なのですが。」


「いや、母上は俺がやる。そっちの爺さんはおまえ達でやってくれ。」


「ふがぁ! ふがが!」


 口を猿轡で塞がれ、身体を縛られたジンジャー王妃の見開かれた目からは滝の様に涙が流れ、芋虫の様に身体をくねらせて逃げようとする。その下半身はジョロジョロと音を立てて失禁している。


「さらばです。」


 シェーン王子は剣を振り降ろし、ジンジャー王妃の首を刎ね落した。

 振り向くとジャスクが執事を斬った剣を拭いている。シェーン王子は父王の躯へ向かうと、その首も刎ね落とす。

 終わった時、執務室の床は血の海と化していた。





 バァン!


 エリス王女の私室のドアが荒々しく開けられ、近衛騎士数名が雪崩れ込んで来た。


「ノックもせずに何事ですか!」


 エリス王女は激昂して立ち上がった。


「エリス王女殿下、魔王討伐団ルート策定責任者として、あなたに対する逮捕拘束命令がシェーン王子殿下より下されました。我々と御同行願いたい!」


 は?


「な、何を言っているんですか? あなた達は。お兄様にそんな権限など…。」


「イーバル国王陛下は先程、天誅により亡くなられましたよ。現在、我が国の最高権限を持っておられるのはシェーン王子殿下です。」


 なっ!? クッ、クーデター? やられた! 先手を取られた! でも、まさか、あの口先だけのお兄様が?


「さあ! おとなしく我々と来るんだ!」


 近衛騎士の一人がエリス王女の腕を掴むとグイッと乱暴に引っ張った。


「きゃっ!」


 よろけるエリス王女の視界に入ったのは、不敵な笑みを浮かべるジャスクであった。


 ジャスク! そうか、お兄様に空気を入れたのはてめえかぁ!

 まずい、まずい、まずい! タツヤたちへの教育とレルシェンルート策定者としての戦争責任を問われたら死刑は確定的だ!

 嫌だ、嫌だ、嫌だ! 死にたくない! 私は不老不死を手に入れるんだから!


「離して! 離してよ! 誰か助けて! 嫌だ!」


 エリス王女は必死に抵抗した。靴は脱げ、手足は擦り傷だらけになる。連行する近衛兵たちはそれでも容赦無く近衛兵舎まで彼女を引き摺って行くと営倉に放り込んだ。





『今を遡る二百年前、ダンスタット賢王陛下の懸命なる努力によって我がレハラントはレルシェンと不戦の誓いを立てる事に成功した。しかしイーバル国王はダンスタット賢王陛下の努力を無視した。これはレハラントの名誉に唾吐く蛮行であり、王家と臣民に対する背信である。相手が魔族だからといって許される行為では無い。人類として持つべき誇りの問題である。

 以上の罪によりイーバル国王およびジンジャー妃を死罪とし、執行したものとする。


 なお空位となりし期間はシェーン・デスト・シャムブラド王子が王権を代行する。』


 この札と共に半目開きで舌を出したイーバル国王とジンジャー王妃の生首が中央広場に晒されたのは翌朝である。





「くそ! 近衛騎士団め!」


 軍務大臣は軍務省の執務室で机を叩いた。


 イーバル国王は死んだ。いくら喚いたところで、それは変わらない。しかし玉座には暗愚な兄では無く聡明な妹が座るべきだ!


 彼はシェーン王子による暴挙の報を昨夕に聞き、ローザ恩赦の件以来、親交を深めたエリス王女支持派の軍関係者と貴族に連絡を取った。

 結果、陸軍と貴族私兵のエリス王女支持派の軍勢三〇〇余りが前線を密かに抜け、王都郊外に集結している。全軍でこれだけとは少ないと思うかもしれないが、レハラントは現在有事の真っ最中なのだ。いくらエリス王女支持でも、おいそれと戦場を放り出せる訳が無い。むしろ、短時間でよくこれだけ集まったと言える。


 それにしてもムートン家め。王女殿下には恩があるというのに誰一人協力せんとは! 『次の王位が確定するまでは中立』だと? 要するに日和見ではないか!


「卿…これを…。」


 魔法省内の協力者を得て、昨夜から続けた王城への<生体探知>で動きのない者は一体。これが監禁されているエリス王女殿下でほぼ間違いない。

 軍を舐めるなよ、近衛騎士団。


 営倉に監禁されたエリス王女にとって救いだったのは、近衛騎士団のボスが“規律の鬼”ジャスクだった為、下層兵士の慰み者にされるという凌辱劇に遭わずに済んだ事である。

 しかし、彼女が生まれて初めて味わう絶望感は、いきなり自分の命が掛かったものというヘルモードになった。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ…。あのローザとかいう女の時みたいに“五大災厄”は助けに来てくれないの? お願い、お願い、お願い、お願い…。」


 エリス王女は気付いていない。背後に猟奇的な笑みを浮かべて自分を観察している全裸の幼女がいる事に。


 このクソ虫は盛り上げてくれるから助けてやってもいいんだが、このまま処刑されるのを見物するのも一興、ちょっと迷うな。


 ジアッラは考える。


 <生体探知>城壁付近に多くの新たな反応を確認。<魔素濃度測定>充填者を感知。<魔法術式感知>攻性魔法反応および付与行為確認。<探知魔法感知>反応。


 ジアッラが常時展開していた警戒魔法がアラートを発した。<探知魔法逆探知>、探知者に対して対探知魔法<欺瞞情報:隠蔽>展開。

 ジアッラは空間操作と時間操作が取り沙汰される事が多いが、それ以外の魔法の種類・精度・威力も魔法術式研究開発者だけあって尋常では無い。その中でも特に探知・警戒系は大のお気に入り分野なのだが、これだけの数の警戒魔法を同時に常時展開というのは高位魔法士が強化補助アイテムを使っても普通は考えられないものである。


 フフン、どうやら忠臣が救出に来たか。


 そのままジアッラは壁に出来た闇の霧の中に消えた。


 ドォン! ドォン!


 激しい地鳴りと轟音が二度鳴り響き、土煙が城壁付近を覆う。至近距離からの魔法付与バリスタと火系魔法弾による連続攻撃により王城の城壁が2-1/2セルベ程の幅で完全崩壊した。

 そこから私服で王都に入り込んでいたエリス王女支持派の陸軍騎兵たちが雪崩れ込む。エリス王女が監禁されている近衛騎士団の営倉目掛けて一直線に進む。


「くそ! 襲撃だ! 早く通達を!」


「宿舎側の出入口を押さえろ!」


「こいつらの狙いは王女だ! 営倉前まで行かせるな!」


「突き破れ!」


 剣と槍の応酬の中、救出部隊の先鋒は詰所側に突入。営倉まで辿り着き、営倉守衛を斬り倒す。


「王女殿下! お助けに参りました!」


「! ここ! 私はここです、早く!」


 夢ではないだろうか、などと呆ける間も無くエリス王女は脊髄反射的に助けを求める。突入兵はエリス王女が収監されている牢を見つけると、守衛から奪った鍵の鍵番号を合わせて開錠、牢扉を開けるとエリス王女は勢い良く飛び出してきた。


「殿下、お足にこれを! 我々が誘導しますから、付いて来てください!」


 エリス王女が渡されたのは粗末な草履だが、裸足よりはマシとそれを履いて兵に付いて走る。すぐにエリス王女の目に崩れ落ちている城壁が目に入った。


「あそこね!」


「殿下の道を作れ!」


 救出隊は号令と共にエリス王女と崩れ落ちた城壁部分の進路上にいる近衛騎士の排除に集中する。崩壊部分からは弓兵と投石兵が援護を行う。近衛騎士団に対して軍の絶対的な強みは、兵科と兵装の充実ぶりである。

 宿舎から大急ぎで碌に装備も身に付けずに駆け付けようと走って来た近衛騎士は、弓兵、投石兵、魔法兵の格好の餌食となり、斬り合いの現場に辿り着く事すら儘ならない。


「王女殿下! こちらへ!」


 軍馬に跨った兵の一人が城壁から出たエリス王女に手を差し出したので、それに掴まり馬に乗る。


「王女殿下を確保! 総員城内から脱出せよ!」


 エリス王女を馬に乗せた兵は指示を出すと猛スピードで市街地を駆け抜けて、王都外郭の城門衛兵の制止も何のその、速度を緩めず強行突破を敢行して振り切り、郊外までやって来た。


「助けていただき感謝します。でも、あなた方は一体…?」


「軍務大臣の呼び掛けに応じ、王女殿下救出の為に参じた陸軍臨時編成部隊であります、殿下!」


「陸軍の?」


「軍には王女殿下を支持する者が大勢おります! どうか気を強くお持ちください。」


 いける! 一度は絶望したエリス王女だったが、今、光明が見えた。


「そう…。ええ! 心強いわ!」


 やがて救出作戦に参加して生き残った兵たちも集まり始め、約二〇〇名となった集団は急ぎ、その場から離れるのであった。


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