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第16話 ジアッラ・テレーザ・シャマル

「う~ん…魔素嵐で魔素濃度が高いな…。ペイス先生、念の為に酔い止め貰えるかい?」


 ペイス医師がジルバートの求めに応じて薬を渡す。


「出そうか?」


 デグリネが不安そうにジルバートに問い掛けた。


「この濃度の上がり方だとヤバイね。」


「出るって何が? ゲロ?」


 ドゲザーが訊くが、それがアホな質問である事は他の召喚メンバーには分かる。何故なら召喚メンバーは王城の講義で、こういう場合は何が出るのか習っており、大方の予想がついていたからだ。ドゲザーも教わっているはずなのだが、こいつはアホだから仕方が無い。


「何言ってるんですか。王城で教わっているんじゃないんですか?」


 頼むから俺たちをそいつと一緒にしないでくれ、と他の召喚メンバーは全員思った。


「魔素嵐で魔素濃度が限界まで達すると発生する…“空間天穴”ですよ。」


「まあ、必ず災害魔獣が飛び出して来る訳じゃない。仮に災害魔獣が出たとしても、こっちは対魔王勇者様御一行だし、災害魔獣退治なら“本業”の俺もいる。」


 グレンが任せろと胸を叩いた。

 グレンは十年に一度召喚される十年勇者の一人である。十年勇者の召喚を行えるのはレハラントの“特別な召喚水晶”のみであり、召喚目的は魔族対策もあるが、第一の目的は災害魔獣への備えである。グレンが『本業』と言った理由はそれだ。

 なお、召喚水晶は魔族側の各種族も一つずつ、自分たちと同種族を異世界線から召喚出来る物を所有しているが、彼らの水晶は魔王出現の年にしか稼働しない。そして、十年勇者を召喚出来る神器を持つ事こそが、単一種族国家であるレハラントが「我らのみが神に選ばれし正義」と主張する根拠となっている。

 もし竜也たちがこの事を教えられていれば、竜也はエリス王女に惑わされなかったかも知れないし、弥生はもっと早く答えに辿り着けるのだろうが…。

 ちなみにだが、異世界召喚転移は召喚者と同種族しか転移させられないが、異世界記憶保持転生は前世と同種族に生まれ変わるとは限らない。


「問題はここが未開領域だという事だ。」


 そうだ、この世界にはここの様に、まだ人類からも、魔族からも手を入れられていなくて、帰属先も決まっていない未開領域が沢山あると言うけれど…自然現象の空間天穴の発生は人類や魔族の領域ばかりとは限らないよね。人類や魔族の領域に出現した災害魔獣はそれぞれが当たるとして、未開領域に出現した場合は誰が対応に当たるの? 一番近い国? 弥生は疑問に思う。


「もし災害魔獣が出現してきた場合、奴らも来るかも知れん。」


「『奴ら』って?」


「“五大災厄”です。」


「え? 何で?」


「我々も本当のところは知りませんけどね、おそらく自分たちの生活を守りたいからじゃないかという説が有力です。未開領域に災害魔獣が現れたら、あいつらの誰かが来て片付けちまう事があるんですよ。未開領域の奥深くになればなる程、来る確率が高まる傾向があります。」


「ここはどうなんだ?」


「微妙、というところですね。位置的にレルシェンの緊急展開部隊もすっ飛んで来るかも知れませんし。」


 竜也とゲックレンがやり取りをしていると、デグリネが一行の進行方向の左を指差した。


「いずれにせよ空間天穴の発生は決定だ。」


 デグリネの指差す先の地平線の僅か上方に、黒い点が発生している。その点は横に扁平した球状に広がって行く。その下端が地面に接触しても膨張は止まらない。


「あれが“空間天穴”…。」


 竜也たちは呆然と見つめる。


 バシュンッ!


 突然、球体が音を立てて霧散した。破裂するのではなく、まるで蒸気が空中で消えるかの様に。

 そして、そこにいたのは体長一〇セルベ(二〇メートル)、鋭い鉤爪を持つ四肢、背に無数の触手が蠢き、頭部に巨大なヤツメウナギの様な口を持つ異形生物。


「キンモー!」


「魔獣っつーより怪獣じゃねえか!」


「くそ! あれはオニュドクという奴です!」


「まじい! 俺ら十年勇者七、八人プラス陸軍大隊規模が必要になる相手だ!」


「狩っちまおう! いい腕試しになる!」


 竜也が刀を抜くが、ゲックレンが止める。


「止めておきましょう! あれはあれできっとレルシェンから討伐隊が来ますよ!」


「ならそのレルシェンの魔族どもも全殺しにしてしまえばいい。」


 まずいぞ、今のままの彼らでは、せいぜいヤヨイ様のゴーレムが時間稼ぎ出来るくらいだ。


 ゲックレンがそう思った時だった。


「ウフフ! 随分とやる気満々な事だな。」


 聞き覚えの無い女性の声がした。いや、弥生だけは聞き覚えがある。ザックレイ砦で補給休憩中、馬車の中で…。

 全員の視線が声のした方へと向く。


 そこに居たのは小さな少女だった。いや、幼女、と言うべきか。

 全裸の幼女である。無着衣文化者の幼女だ。

 だが、無着衣文化者とはいえ、何も身に付けていない訳では無い。首輪、乳首とクリトリスにピアス、見た目の年齢にそぐわず生えた陰毛には花飾り付のヘアピン、オーバーニーソックスにブーツ。だがまあ、全裸で正しい。

 なお、竜也たちは知らないが、首輪はオーク族にとって、クリトリスのピアスは無着衣文化者にとって婚姻者である事を示す。ただし首輪の方はもう廃れつつある古い慣習だが。

 その容姿は身長7/10セルベ(140センチメートル)、漆黒のパッツン姫ショートカット、丸みのある童顔だが、目つきは凛々しく、鮮やかな黄色い瞳。目力が強いが、全体に絶世の美少女、いや、美幼女といって過言ではないだろう。

 膨らみ始めのまだ僅かな隆起の胸のお子様体型。だが股間は幼女では無い気がする。


 竜也にロリコン趣味は無い。だが、これだけ可愛らしいと話は別だと言いたくなる。こいつは魔族か? だとしたらそれでも構わん! モノにしたくなる。


「さて、おまえ達がここであの災害魔獣にブチ殺されて全滅、魔王戦まで到達出来なくてもルール上の問題は一切無いんだが…。」


「ぎょおぉぉぉぉ!!」


 オニュドクの咆哮が辺りに響き渡る。凄まじい声量である。


「うるさいな、アレ。

 災害魔獣の処理なんて、あいつらの尻拭いはお願いされただけだから、叶えてやるもやらぬもこっちの勝手なんだがな、まったく。まあ、災害魔獣の出現はあいつらにも予測不能だから故意的にここに出した訳では無いんだろうが…。」


 露出ロリは鬱陶しいと言いたげな表情でブツブツと文句を言いながらオニュドクを睨み付ける。

 オニュドクは見る見る弱っていく様子で、その場に崩れ落ちた。


「ああ、おまえ達、アレと一戦交えるつもりだったんだっけ? いや、すまない。殺ってしまったよ。だって、やかまし過ぎるんだもん。」


 一体…何が起きた? この露出ロリっ子は何をやった?


「おまえは魔族か?」


「…うん、そうだな。わたしはネイブラス族。おまえ達が召喚された国、レハラントではハーフリング族と呼ばれているから魔族だな。」


「じゃあレルシェンからの追手か?」


 竜也は刀を構えるが、殺すつもりはない。


 魔族でロリ、だがこれだけの美幼女だ。俺のハーレムで飼ってやる。


「おお、勇ましいな。さすがは対魔王勇者だ。普通はそいつらの様になるんだがな。」


 露出ロリ魔族が指差す方向では対魔王召喚メンバー以外の面子が腰を抜かし、恐怖の表情に固まり、ガタガタと震えている。


「何を…した?」


「別にそいつらに直接は何もしていない。アレ(災害魔獣)に魔法を放った時に、ほんのちょっと殺気が漏れてしまっただけ。」


 気圧されたのか。

 それにしても…ハーフリング族は魔族領通過中にも見たが、身体は子供の様に小さいがメスの身体はもっと、こう、身長の割に胸は大人並みにボインってなっていたはずだよな…。こいつはハーフリング族の中でもまだ子供とか?


「何だ? ジロジロと。スケベ勇者め、わたしの可憐さに惚れたか? だが残念、わたしは旦那様一筋の人妻だぞ。」


 露出ロリ魔族はエッヘンと(無い)胸を張った。


 マジで? ああ、そうか…人間も大人でヒンヌーの子はいるもんな…こいつは、つまり、そうなんだ。だが! それもまたいい!


「あ、あの…。」


 弥生が露出ロリ魔族に思い切って声を掛けた。


「あなたは“五大災厄”の“猟奇姫”ではありませんか?」


「フフフ、キミか。その通り。わたしの名は


 ジアッラ・テレーザ・シャマル。


 世間の虫ケラどもは“猟奇姫”などという渾名で呼んでいるな。」


 ───“猟奇姫”!

 この露出ロリが? 決して刺激してはならないと教えられたバケモノの中のバケモノ? それを聞いて竜也も腰が引ける。


「あなたにお尋ねしたい事があります!」


「キミの訊きたい事は予想がつくけど…それは自力で調べるべきだな。

 アドバイスをするなら、キミはこの世界に来てからまだ日が浅い。急ぐな、焦るな、そして常にアンテナを張れ、だ。」


「た、確かに…そうですね。」


 でも、魔王討伐は時間的制約だ…。成功すれば、わたしは元の世界に戻る気は無いからそれでもいい。でも失敗したら…考えない様にしてたけど、命を落とすかも知れない。

 怖い…そんなの嫌だ!


「でも一つだけ…。」


「え?」


「これはほぼ正解に辿り着いているから、答え合わせの意味で教えてあげよう。

 キミの人類と魔族に対する見解は正しい。」


「あ、もしかして魔族も人間じゃね? ってやつ?」


「何の話だ?」


 麗華の発言に竜也は怪訝そうに訊き返した。


「あ、そういえばキミも同じ事に気付いてたな。偉いぞ!」


「えへへ~、それ程でも~♪」


 全裸の幼女に褒められて喜ぶエロ衣装女子高生の図。シュールだ。


「それに比べてタツヤと言ったか…召喚された時は見所ありそうかとも思ったんだがな。」


「は?」


 竜也は何かカチンときた。


「いいか? 人類は九〇〇年前にこの世界へ様々な世界線から転移して登場した。教わっただろう?」


「ああ。」


「それがミレシア族…ん、レハラント以外ではおまえ達の種族はそう呼ばれているからな? ミレシア族だけだったと思うか?」


「様々な世界線から様々な動植物も転移してきたと聞いている。」


「動植物の話では無い。“人類”の話だ。まだ分からないか? おまえ達ミレシア族が亜人だ、獣人だ、異形だ、と言って“魔族”と総称している種族。彼らはそれぞれ元の世界では“唯一無二の人類”だったんだよ。」


「!」


「世界線は無限だ。人類が必ずしもミレシア族と同じ形態になるとは限らない。おまえ達を召喚した国の思考を他の種族にそのまま当て嵌めれば、自分たちこそが真の人間でおまえ達の方が亜人や異形だ。

 この世界線の人類の始まりは『ミレシア族五〇〇人』では無く、『各種族五〇〇人ずつ』が真実だ。」


「じゃあ何で俺たちの種族だけ勇者召喚が出来るんだよ? 優秀な種族だからだろ?

 所詮おまえは魔族だ。魔族の言う事など信用できるか!」


「そうよ! 相馬さんの言う通りだわ!」


 舞美が竜也に同意の声を上げるのを見て、弥生と麗華は悲しい顔をする。


「やれやれ、すっかりあの国に毒されたな。

 タツヤ、あの王女の身体はそんなに気持ち良かったか? たった一夜の交尾でそこまでになるんだから、よほど美味しかったと見える。」


「なっ! 何を!?」


「フヒ! しっかり見ていたぞ? おまえの租チンもな。フヒヒ!」


 “猟奇姫”ことジアッラは下卑な笑みを浮かべた。


「ふっ、ふっ、ふざけるな!」


「ま、ミレシア族にしては絶倫だったのは認めてやる。

 それはともかくだ、魔王討伐勇者の異世界召喚は何もミレシア族だけの特権では無いぞ? 魔王討伐は“人類共通”の目標だ。他の種族も行って魔王討伐に挑戦している。」


「ええ!?」


 竜也たち対魔王召喚者は全員、驚きの声を上げる。


「こんな事はこの世界の常識だ。誰だって知っている。ミレシア族絶対至上主義が浸透しているレハラントの民ですらな。そいつらだって知っている、そうだろう?」


 ジアッラはクイッと顎でゲックレンたちを指して発言を促す。


「本当か!? ザーバー!」


「あ、いや、それは…。」


「ほ、本当です。」


 ペイス医師が答えた。しかし、ゲックレンは悔し気に反論する。


「だ、だが、十年勇者は人類の特権だ…、それが出来るのはレハラントだけだぞ?」


「キャハハハ! だから神に選ばれし種族、真の人類だと、こいつらは言ってるんだぞ? 面白いだろう? 見ていて飽きないぞ、おまえら!」


 ジアッラは大笑いした。


「そ、それともう一つ。」


「よすんだ、先生! これ以上は!」


「そうだ、そこまでだ。」


 ジアッラがペイス医師にその鋭い視線を浴びせると、ペイス医師の口は止まった。


「わたしが許可した以上の発言をするんじゃない、ゴミカス。」


 そして再び達也の方を向いて続ける。


「しかし、それが分かったところでおまえ達の使命は変わらないだろう?

 おまえ達が魔族と呼んでいる種族は皆、共生していて互いの欠点をカバーし合う混成パーティーを組んでいる。個の力ではおまえ達が上でもトータルでは相当強力だ。

 連中に先を越されない様に魔王討伐、頑張れ、頑張れ、ウヒヒヒヒ…。」


 ジアッラの足元に黒い霧の様な闇が発生すると、彼女はその中に沈んで消えていった。


「さて、どういう事か説明してもらおうか?」


 竜也はやっと腰が立ったゲックレンを問い詰めた。


「こ、これはタツヤ殿たち対魔王召喚勇者教育カリキュラムに基づいているんです。

 魔族どもも魔王討伐に動いていると知れば、そいつらに依存してしまうかも知れない、と。だが、魔王討伐は我々人類の手で行わなければならない、もし魔族どもがまかり間違って魔王を倒したりしたら、奴らは調子に乗る。」


 ゲックレンはバツが悪そうに答える。


「相馬さん、ザーバーさんたちの言う事はもっともです! 魔王討伐という栄誉を魔族ごときに奪われるわけにはいかない、当然です!」


 舞美が竜也に力説する。弥生と麗華は呆れ顔でそれを見ているが、竜也は確かにそれは分からなくも無いと思った。


「それにあいつは魔族ですよ! あんな与太話、信じられるもんですか!」


 与太話…か。


「ペイス先生は何を言おうとした? ゲックレン、あんたは何か察しがついている様子だったが?」


 ペイスが言おうとしていたのはおそらくレハラントとレルシェンの不戦の誓いの事だろう。奴はそれを気にしていたからな。

 だがそれを教えたら、自分たちが原因でレハラントとレルシェンが戦争になるのは必定と考えたタツヤ殿がどう動くか分からん。何か別の話題でここは凌いで、ペイスには後で釘を刺すか…。


「た、多分、魔族の寿命の事ではないか、と…。」


「魔族が長寿ってやつか?」


「はい。実はそれは虚偽情報です。魔族の寿命は我々と大差ありません。」


「な?」


「で、でもそれじゃあ“五大災厄”はどうして百年周期の魔王出現に…。」


「ヤヨイ様、どうして“五大災厄”の機嫌を損ねてはいけないと言われているか、理由は御存知ですか?」


「それは桁外れの力を持っていて怒らせたら怖いからと…。」


「確かにその理由は大きいです。何しろ歴史書では単騎で一国を滅亡させた記録もあるくらいですから。

 でも…ですね、偉い人たちにはもう一つ理由があるんですよ。それは彼らが持つ“秘法”の恩恵に与りたいからです。」


「“秘法”?」


「賢者の石…“不老不死”ですよ。」


 ! 何だ、それは! 無敵過ぎるだろうが!


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