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第13話 弥生と麗華

 魔族の国ダグザールの北東辺境から更に東の未開地域の洞穴、そこが魔王の拠点である。そこへ挑む四人の姿があった。


「ぬんっ!」


 筋骨隆々のオークの女がハルバートを魔王に振りかざす。

 だが、次の瞬間、魔王の右手から放たれた光球が彼女の上半身を木端微塵にした。ミンチと化した彼女の上半身が他の三人に降り注ぐ。


「くそ!」


 甲殻昆虫を連想させる外見をした(多分)男が魔法を乗せた矢を放つ、が魔王は容易くそれを躱し氷の矢を数本放つ。昆虫男は巧みな体捌きで辛うじてそれを避け切った。


「<体力回復>! <重防殻>! <筋力強化>!」


 岩陰からエルフの女が仲間に補助魔法を重ね掛けする。


「<断熱…。」


 魔王の光の刃が岩ごと彼女の首を切断した。


「アーシア!」


 昆虫男が彼女に気を取られた瞬間、魔王の放った炎が彼を包み込み丸焦げにする。

 最後の一人は体高三メートル、尾を含めると六~七メートルほどのドラゴンだった。


「喰らえ!」


 ドラゴンが至近距離から放ったブレスが直撃…と思いきや魔法の防盾で防がれる。次の瞬間、魔王の鉄拳がドラゴンの腹部を貫通。ドラゴンは絶命した。





 ───魔族による召喚者パーティー第一陣が魔王討伐に失敗。

 その報は密偵からレハラント王城に齎された。


「ふん、所詮奴らの召喚者など偽者よ。最後は我らの勇者たちが決めてくれる。」


 イーバル国王はそう言う。が、近衛騎士団長ジャスクにとって、この報は少々計算外であった。


 歴史書に残されている限り、魔族の繰り出す召喚者たちは皆強力だ。それはそうだろう、ただでさえ素の地力で人類を上回る能力を持つ魔族が、我々人類の召喚者に比べると劣るとはいえ、更にギフトを得ているのが魔族たちの召喚者だ。

 報告では失敗したパーティーにはドラゴン族の召喚者もいたとある。おそらく潜在的力量は現状のタツヤ殿たちよりも上。敗因は練度不足だろうな、バカな連中だ。我が国の正義性を認めさせたくないなどという、くだらない理由で早まりやがって…ま、この国王を見ていると、奴らの気持ちも分からんでもないがな。

 放っておけば魔族たちの召喚者が魔王を討伐してくれると思っていたから、タツヤ殿にはあんな助言をしたが…これは先行きが怪しくなってきたぞ。


「申し上げます。国際魔法士連盟を通じてレルシェンより書簡が届きました。至急との事。」


 レルシェンからの質問状が謁見の間に届けられたのはジャスクがそう考えていた時だった。





 レルシェンの田舎道を進む達也たち一行の前に狼にまたがった男の子が向かって来る。擦れ違い様に一号車からドゲザーが飛び出して男の子を八つ裂きにした。


「これがハーフリング族です。人間の子供に見えますが、これでれっきとした成体です。」


 集まった竜也たちにゲックレンが解説する。


「なあ、魔族ってどうも警戒心が無さ過ぎじゃないか? ここまで遭遇した連中、どいつもこいつも無警戒に近付いてくるし、戦う姿勢を見せやしない。」


 竜也の質問にゲックレンが笑いながら答えた。


「はははっ! 種明かしをしましょう。魔族には我々人類と見分けがつかない種族がいると言いましたよね? それは魔族側にとっても同じなんですよ。」


 なるほど。奴らは俺たちを見ても、その種族だと思ってしまう訳だ。これはいい! まず確実に先手を取れるって事だ。この調子なら狩り放題で魔族領を抜けられそうだし、王女さんにいい土産話になるな。


 その夜、女子三人は三号車にマットを敷き詰めて眠りに就こうとしていたが、弥生は一人考え込んでいた。そして思い切って自分の考えを麗華と舞美に打ち明けてみる事を決意する。


「あ…。」


「あのさぁ~。」


 弥生より一瞬早く麗華が喋り出した。


「今日のゲックレンのオッサンの話を聞いていて思ったんだけどさぁ~、魔族の方にも人間と見分けがつかない魔族って、それってもう人間じゃね?」


 それだ! 弥生は麗華も自分と同じ考えを持っていた事が妙に嬉しかった。


「で、でも相馬さんも健も礼二も角田さんも魔族領にいるんだから魔族だって…。」


「魔族って何? わたしたち、どういう種族がいるのかしか教わってないけど、レハラント以外に人類はいないの?」


「ってゆーかさぁ~、あたしらの種族以外は人類じゃないって考え方が何かおかしくね? 魔族からしたら自分達こそ人類であたしらが魔族かも知んねーじゃん?」


 反論しようとした舞美に弥生と麗華が更に言い返した。そして弥生は麗華がそこまで考えていた事に驚愕した。あんまり考えない人だと思っていた。


「じゃあもう魔王討伐は辞めるって言うの?」


「これはわたしの勘だけど魔王は討伐すべき相手だと思う。でも魔族はちょっと違う気がする。」


「そういやコバヤシ先生も『魔王は魔王、魔族は魔族』って言ってたなぁ~。あの時は訳分かんなかったけど、今は何となく分かる気がするな~。」


「じゃあ何でレハラントは“魔族”なんて呼んでいるのよ! 人類にとって有害な存在だからでしょ?」


「だから言ったじゃん。それは勝手にそう呼んでるだけじゃないのかって…。」


 興奮気味の舞美に麗華が呆れながら言おうとするのを弥生は腕を掴んで首を振り、止めさせた。自説に一片の疑問も持たなくなってしまった人間には何を言っても無駄だからだ。この手の思考に陥ってしまったら、異論の提示には拒絶反応を起こして感情的になるだけである。


「わかったわかった。魔族は人類の敵、そういう事にしとくよ。明日もじゃんじゃんブチ殺そうぜ~。」


 弥生の意図を察した麗華は、溜息を吐きながら納得したフリをして反対方向を向いて寝てしまった。舞美は暫くムスッとした表情をして仁王立ちしていたが、やがて毛布に入って眠りに就いた。

 そして、それを見計らって麗華が弥生の方に向き直り、ヒソヒソ声で話し掛けてきた。


「舞美の奴、あれちょっとヤベえな。」


「うん。」


 竜也さんはどう思っているんだろう?


 翌朝、朝食を済ませて魔王討伐団は出発する。

 三号車内では礼二が舞美と耳打ちしながら、弥生と麗華を交互に睨み付けていた。どうやら舞美が昨夜の事を礼二に話したらしい。


「ちっ! チンコロしやがったな。」


 麗華が恨めしそうに言う。

 予定では今日は地図に記載されている魔族の集落を一つ襲撃する事になっており、弥生は気が重かった。

 昼近くになって討伐団は魔族の集落の位置を確認、今回の集落は少し規模が大きい。一旦停止して竜也が全員を集める。


「御者諸君には旅人を装って門番を始末してもらう。そのまま集落の中央まで浸透してから自由戦闘だ。敵が組織的抵抗を見せ始めた段階でこちらもコンビネーションに移行する。」


「それだけッスか?」


「それだけだ。昨日、ゲックレンが言っていた通り、魔族どもは無警戒だ。こっちの主導権が約束されているのさ。」


 礼二は相変わらず弥生と麗華を睨み続けるが、竜也に伝える気は無い様子だった。礼二はドゲザーの様に竜也に懐いている訳では無い。どちらかと言うと、まだ高校生グループの仲間意識の方が強く残っており、仲間内での問題は仲間内で解決するという考えなのだ。

 さて、この世界ではどの集落も似たり寄ったりで、外周は魔獣と野盗対策の簡素な柵で囲われている。出入口には自警団の門番を置き、冒険者や退役兵士を雇っている場合もあるが、そんなケースは稀だ。地方の村落では大抵、村一番の力自慢とか、ガキ大将とか、そのレベルの者が当たっている。通過審査も素人が真似事をしているだけ、ほぼフリーパスである。

 竜也たちがこれから襲撃しようとしている集落の門番も、くじ引きで当番が当たっただけ、という風体のゴブリンの老人だ。


「やあ、こんにちは。この辺りに来たのは初めてなんですが、のんびりできていい所ですねぇ。ところで村で食材を購入させていただけませんか?」


「旅行者かい? 何か身分を証明できる物は持っとるかね?」


「証明書ですね。ちょっと待ってください、ええと…。」


 馬車を降りたゲックレンがバッグの中の証明書を探すフリをしながら門番に近付き、難無くナイフで門番の喉笛を掻っ切ると鮮血が勢い良く流れ落ち、門番は虚空を見つめ、口をパクパクさせながら倒れた。すぐさまセベとラフカが手際良く死体を草叢に隠す。


「うおー! かっけー!」


 集落に入り、中心に向けて進んで行くと子供たちが集まって来たので、ゲックレンが話し掛ける。


「馬車が珍しいのかい? 坊主。」


「行商の荷馬車は来るけど、こんな立派なのは初めて見たよ!」


「そうかい、良かったな。この世の最後にいいモン見れて。」


 一号車から第一パーティーが飛び出して竜也の刀とドゲザーの短剣が集まっていた子供たちの胴体を真っ二つに切り裂く。悲鳴を上げる間も無く、血飛沫と臓腑を撒き散らして子供たちは絶命した。グレンの矢が広場の魔族たちを射抜いていく。オッサンは釘バットを振り回す。

 三号車からも第二パーティーが降りる。礼二の<氷矢>が魔族たちを仕留めていく。舞美も魔法杖で魔族を殴り倒す。魔法杖は魔法の強化補助アイテムだが、鈍器としての殺傷力もかなりのもので、殴られた魔族はその場で昏倒する。

 鬼気迫る攻撃をする二人を見て竜也は「あの二人、何か吹っ切れたか? いい事だ」と感心した。


「弥生、今は鬼になってやるしかないよ。」


「え…う、うん!」


 普段、おちゃらけている麗華の真剣な表情と口調に弥生は一瞬戸惑うが、すぐに返事をして地面からゴーレムを生成する。

 そして麗華の<熱光球>はやはりパンジャンドラムであった。


「あぶね!」


 麗華の<熱光球>がドゲザーを掠めた。


「あ、ゴメンちゃ…何だ、あんたか。当たれば良かったのに~。」


「おまえ、ふざけんなよ、ホント!」


 あれは何とかしなくちゃならんな、威力はあるんだけどな、と竜也は頭を抱えたくなる。


「我々は出入口を閉めます!」


 ゲックレンたちが馬車で正面と裏手にある柵の出入口へと向かって行った。こうなると後はもう一方的な殺戮劇である。


「欲しい物があるなら差し上げます、どうか…。」


 麗華は命乞いするオークの親子と遭遇する。


「しぃ~っ! あそこのオンボロ小屋は肥料倉庫だろ。そこまで走って行って隠れてな。」


「は、はい…。」


 オークの親子が肥料倉庫に入ると、そこには他にも何人か魔族が隠れていた。

 麗華は他のメンバーと距離を取って戦闘している。麗華が離れているのでは無く、他のメンバーが近付かない、と言うのが正しいのだが。その理由は推して知って欲しい。それをいい事に麗華は見つけた魔族を、討伐団の現地調達補充物資の対象にならない肥料の倉庫に避難誘導していたのだ。

 オークの親子が逃げ込んでからすぐに麗華が倉庫の扉を開けて言った。


「あたしらがこの村を出て行くまで隠れてるんだ。絶対に音を立てるんじゃないよ。いいかい?」


「ありがとうございます、ありがとうございます。」


 それから麗華はこの小屋の傍を離れずに戦闘をしているフリを続け、戦闘が終わると、自分以外がこの倉庫に捜索に入らない様、これ見よがしに倉庫内を捜索するフリをした。


「ここに地下室みたいなのあんだろ~。もし焼き討ちになったら逃げ込めるね~。」


 まさかそこまではしないと思うが念の為、である。そして倉庫内から外を見て、竜也の視界に入るタイミングを見計らって外に出る。


「佐々木さん、その小屋は?」


「肥料の倉庫だったしぃ~。特に何も無いわ~。」


「そうか。じゃあ他の様子を見てくるよ。」


「てら~。」


 ふぅっと溜息を吐いた麗華に弥生がニコニコしながら近付いてきた。


「見てた♪」


 ゲッ! 見られた? あっちゃー、と麗華は気まずく手を合わせて弥生に謝った。


「御免! あんたにあんな事言っときながら、あたしゃ鬼になれんかったわ。」


「いいですよ、実はわたしもやっちゃいました。おあいこです、ふふっ♪」


「しっかし、やってることはタチの悪い野盗と変わんねえな~、コレ。

 …なあ、弥生~、一つ忠告しとくけど、今の相馬さんはあんま頼りにしない方がいいと思うよ。」


「え?」


「王城を出た時から感じてたけど、ありゃ王女サマにヤラれちまってるな。セックスもしてるだろ、多分。」


「は、は?」


「いや、あんた、相馬さんから目を掛けられてるじゃん? 態度で分かるよ、フツー。

 最初の頃の相馬さんってさ、毒があったっつーか…この世界の連中を疑ってかかっててさ、あたしもちょっと頼り甲斐ありげ~とか思ってたけど、今はそれが感じられないつうか~。」


 ! 確かに…。


 ───集落の反対側。奪った物資を荷馬車に積み込みながらゲックレンは考えていた。


 確かに個の破壊力の凄さは認めるが…これで魔王を倒せるなら、普通に全軍出動で攻撃を掛けても倒せるよな? 魔王の拠点には対魔王召喚勇者しか入れない結界があるから、中に籠っている間は無理だが一定時間経てば必ず外に出て来る。その時を待ち構えていればいいんじゃないか?

 それとも本当に伝承通り、魔王と直接対峙した時だけ勇者には特別な神の加護が降りて、それを受けなければ倒せないのだろうか?

 残されている記録では過去に一度、魔王が勇者たちを全滅させて勝利した時には出動した軍も壊滅させられている。逆にその魔王を勇者たちは何度も討伐しているのだから、そういう現象がなければ説明がつかない。

 だがもし、伝承は所詮迷信で、我々のやり方が間違っていて彼らが本来の力を出せていないのだとしたら、人類は二度目の暗黒時代を迎える。


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