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第12話 デビュー戦

 それはレルシェン侵入の翌日の事だった。


「前方、二五〇、魔族一体、種族不明。」


 ジルバートの警報で一号車内に緊張が走る。

 魔族は全般的に魔獣より生命力が弱い。その為、どうしても<生体探知>での発見は魔獣より遅れがちになってしまうのだが、それでも先行して発見するのはアドバンテージになる。戦いは先に敵を見つけ出した方が圧倒的に優位なのだ。


「ザーバー、止めろ。ホーシェンス、向こうに悟られた様子は?」


 ただし、それは相手にも言える事だ。相手もこちらに気付いていては意味が無いし、こちらが先に相手の索敵に引っ掛かっていたら立場は逆転である。


「真っ直ぐこちらへ向かって移動してますが、俺の<生体探知>だけでは量りかねますね。」


「タツヤ殿、もう目視できます。」


 ゲックレンの言葉に竜也は御者台に身を乗り出す。一号車の横には第二パーティーも三号車を降りて駆けつけて来た。

 遠くに人影が見える。人型なのは判別できるが詳細は分からない。


「講義で聞いた通りなら、あれはゴブリンです。武器等の携行は認められません。」


 弥生が<望遠>で確認した。リーダーの指示が無くても今何をすべきか、何を求められているかを自分で判断できる、弥生は部下としても優秀だと竜也はあらためて見直す。


「ゴブリンですか。では皆さん、ここで暫しお待ちを。」


 ゲックレンはそう言うと脇の草叢に分け入って行った。

 やがてゴブリンは一〇〇セルべ程の距離まで近付いてきた。メートルで言えば二〇〇、ここまで来れば竜也にもはっきり分かる。筋肉質だが小さな身体、緑色の皮膚、頭部に二本の小角、さすがにまだ表情までは読み取れない。

 向こうからも竜也たちを視認できているはずだが、戦闘態勢をとる様子も、逃げ出す素振りも見られない。全く同じペースでこちらへ向かってくる。


「そろそろゲックレンさんが出る頃合いです。」


 ジルバードがそう言った瞬間、ゴブリンの斜め後ろの草叢からゲックレンが飛び出した。剣を一閃、ゴブリンの胴体を上半身と下半身に分離させた。更に地面に落ちた上半身の脳天目掛けて振り下ろす。

 ゲックレンは剣を腰に収めると急ぎ足で馬車へ戻って来た。


「おいおい、俺たちのデビュー戦を横取りしてくれるなよ。」


「皆さんは対魔王戦の勇者、その初戦がクソ雑魚ゴブリン一匹では後世に残る英雄譚も格好がつきますまい。英雄には英雄なりのデビューの仕方があるはずです。」


「ハードルを上げてくれるねえ。」


 竜也とゲックレンは笑い合って馬車に乗り込む。第二パーティーの面々も三号車に戻って行った。

 そして一行はゲックレンが仕留めたゴブリンを通り過ぎる。


「う…。」


 どす黒い体液の中に分断され、打ち捨てられた身体。頭部から零れる脳漿、飛び散っている臓腑…。

 さすがの竜也も滅入る光景だ。ドゲザーとオッサンは吐きそうになっている。だが、どの道を選ぼうとも、この光景に慣れなければこの世界では生き残れないのだ。


 相手は魔族だ。いくら人の形をしていようと人間じゃ無いんだ。


 竜也は自分に言い聞かせて飲み込む。そして後続の三号車の事が心配になった。


 俺でさえこれだ。あいつらは大丈夫か?


 三号車では竜也の心配が的中していた。

 オロロロロロロロロロ!

 弥生、礼二、舞美、麗華、四人揃って窓から顔を出して大嘔吐フェスティバル&カーニバル開催の真っ最中である。ついでにデグリネも貰いゲロする地獄絵図。

 ペイス医師は総合医として、冒険者の治療で凄惨な状態の患者を多く見てきており、さすがにそういう物には慣れていた。


「皆さん、これを飲んで気分を落ち着かせて…。」


 鞄から鎮静剤を取り出して全員に配る。デグリネはただの貰いゲロだが。


「先生、医者なら精神系の魔法一発で何とかならんのかい?」


 御者のラフカがあまりの惨状を見かねて言う。


「精神系は専門外なんですよ。せいぜい錠剤の鎮静薬を持っている程度で。」


「あ、あの、この事はどうか竜也さんには…。」


 弥生が焦燥し切った様子で言うと、ペイス医師はにっこりと笑って頷いた。

 そうこうする内に、やがて竜也たち一行は小高い丘の上で停止する。


「魔族どもの集落です。」


 ゲックレンが言うので竜也が馬車を降りると前方、丘を下った先に集落が展望できた。

 この集落の事は出発前に渡された魔族領の地図に記載されていたので存在する事は分かっていたが、如何せん地図が絵地図同然で大雑把。

 レハラント国内の地図は竜也たちの元の世界の地図に負けない程の精度なのだが、魔族領の地図となるとどれもこれもその程度のシロモノしか無かった。


「もっと正確で詳細な地図を…と言いたいところだが無い物ねだりしても仕方が無いか。多少迷子になるのも止むを得ないと覚悟していたが、すんなり見つけられて良かった。」


「達也さん、わたしが斥候してきます。」


「頼むよ、弥生ちゃん。」


 弥生は念動ギフトで<飛行>を発動させて空中高く舞い上がると、そのまま集落へ向けて飛んで行った。


「いいなぁ…<飛行>…せめて魔法で習得できる物なら迷わず習得するんだけどな…。」


 ボヤく礼二に竜也が発破をかける。


「礼二、初撃はおまえに一発デカいのをブッ放してもらう予定だ。派手に頼むぞ。」


「何言ってんスか。攻性魔法の射程距離は知ってるでしょう? 魔法強化の指輪は装備してるけど、それでも前衛に同行しての直掩くらいの距離ッスよ?」


 礼二は元の世界でいう砲兵隊の様な役割を想い描いた。


「大丈夫だ。ちゃんと手は考えてある。」


 それを聞いた途端、礼二の顔から血の気が引いた。


「ちょ! 嫌ッスよ! 絶対! まさか相馬さんの<対象物転送>で射程内まで送るとか?」


 礼二が真っ青な顔で必死に拒否するのには理由がある。

 竜也の<対象物転送>は約五割の確率で対象物が“大変な事”になる。どう大変か一言で言うと“粉砕”される。生物であれば“肉塊”と化す。果たして転送の為に送り込む亜空間で何が起きているのか?

 答えは何も起きていない。原因は再び出現させるゲート側にあり、竜也の能力制御が未熟な為、対象物のサイズに適切な大きさのゲートを開けていないせいであった。

 そのため転送対象物は、あたかもミンチメーカーに圧送される形になってしまうのだった。

 だが同じ原理で自身を転送する<瞬間移動>では発生しない。生存本能が無意識にフル稼働して、適切以上の大きさのゲートを開くからだ。だが無意識なので本人には分からない。

 結局、原因は不明のままになっている。

 ちなみに<亜空間収納>でも<対象物転送>と同じ現象が発生するので、生き物や貴重品は収納しない事にしている。


「そんな事しねーよ。心配すんなって。」


 一方、斥候に出た弥生は上空を移動しながら集落の様子を観察する。随所に畑があり、農作業をしている魔族が見える。集落中央に井戸が見え、そこにも魔族が集まっている。


 ゴブリン、オーク、人型をしていない種族もいるわ…。人間? あ、耳が尖ってる。あれはエルフね。

 でも、どこから見ても間違いなく人間としか思えない者もいるわ。捕まって使役されている人間…でも会話している様子ではそうは見えない。何を話しているのかまでは分からないけど。

 魔族には一見では人間と全く見分けがつかない種族もいると聞いてるわ。わたしじゃ判別できないわね、帰って判断を仰ぎましょう。


 弥生は急いで竜也たちの元へ戻る。


「魔族ですよ。」


 弥生の報告を受けてゲックレンが言い切った。


「魔族が人間を攫って使役しているという話は聞いた事がありません。なあ?」


 ゲックレンが“こっちの世界出身者”たちに同意を求めると全員が首を縦に振った。


「ヤヨイ様の推察通り、それらは人間と同じ外見を持つ魔族です。エルフ系は耳で判別出来ますが、デーモン族は歯を見なければ分からないし、ハーフリング族は人間の子供そのもの、ヘテロ族に至っては最早外見で判別不可能。我々でも会話してみなければ判別出来ないくらいです。」


「それに…全員ただの農民っぽかったですけど…。」


「弥生ちゃん、“魔族”…だよ?」


 竜也の一言に弥生は何かが違う、と感じながらも黙ってしまった。そして竜也は他のメンバーの方へ向き直って続ける。


「よし、それじゃあ襲撃の段取りを説明するぞ。

 まず礼二、さっきも言ったが初撃はおまえだ。」


「でも、どうやって…。」


「飛んで行って貰う。」


「は?」


「だから飛んで行くんだよ、弥生ちゃんの<念動>で。おまえ、弥生ちゃんの<飛行>を羨ましがってたじゃないか。たっぷり堪能しろ。

 <念動>の制御範囲は発動者の視界範囲とイコールだ。弥生ちゃん、出来るだろ?」


「え? あ、はい、視界にいる限りは可能です。」


「うん。そして魔族どもが固まってる所に何か派手なのを一発ブチかませ。

 俺たち第一パーティーは正面から、第二パーティーは右翼から回り込む挟撃だ。集落突入後は自由戦闘になるが、王城で練習したコンビネーションは忘れないように。

 弥生ちゃんは礼二が一発撃ったらすぐに戻してね。」


 弥生はコクコクと頷いた。


「上原さん、マジ頼むよ、ホント。」


 戻されなければ敵の注目を一身に浴びる事になる礼二は涙目で弥生に縋る。


「大丈夫、任せて。」


「さて、近衛騎士団諸君には今回は見物していて貰う。いいかな?」


「分かりました。お手並み拝見と参りましょう。」


「よし、行動開始だ。」


 竜也の合図で第二パーティー(弥生、礼二、舞美、麗華)が集落の右手へ移動を開始、竜也ら第一パーティーも急襲可能な位置まで、集落から見つからない様に注意を払いながら移動を始める。


 多少のミスがあっても当然だ。何しろこんな事をするのは生まれて初めてだからな。

 弥生ちゃんは大丈夫だ。佐々木もアホの子っぽいが間抜けでは無い。あれで意外としっかりしている。迫田さんはあまり戦闘向きではないが、この二人がフォローするだろう。礼二は…まあ、いいか。


 その時、想定外の事が起きた。


「わっ!」


 集落傍まで物陰に隠れながら移動していた竜也たちが木の陰から出て来たオークとバッタリ出くわしたのだ。身長1セルべ(2メートル)、筋骨隆々のオス、腰には斧をぶら下げている。


「びっくりした。誰だい? あんたら。そんな物々しい格好で、どっから来たの?」


 スンッ!


 竜也の近衛騎士団刀剣工廠謹製の日本刀がそのオークの首を胴体から斬り飛ばした。魔法付与が為されている事もあって信じられない切れ味だった。

 鮮血が飛び散り、頭部を失ったオークの胴体が糸の切れたマリオネットの様にその場に崩れ落ちた。

 殺した。自分の手でたった今。返り血の生温い感触がそれを実感させた時、竜也は何かが吹っ切れた。


 それにしても呑気と言うか、警戒心がないオークだ。アホだったのかな? こいつ。


 竜也がそう思っていた時、集落の中央付近と思われる方向から火柱が上がった。


 ボォンッ!


 礼二の面攻撃炎魔法<焔獄>だ。なるほど<火球弾>と違い、それなら火魔法の欠点である弾速の遅さは関係無い。火炎を発生させる位置まで距離を取らなければならず、スキルで魔法を習得した魔法士では魔素消費が激し過ぎて一発撃ったら終了のシロモノだが、ギフトで魔法能力を得ている礼二ならその心配は無い。

 直接焼かれて死んだ魔族は数体だが、熱波と急速燃焼による酸欠で周囲の魔族も倒れた。


「なんだ!? 爆発!?」 「誰か火を消せ!」 「水抽出魔法持ち、早く来い!」 


 集落は大パニックだ。


「よし! 行くぞ!」


 竜也の号令でドゲザーと共に突入を、グレンは弓撃を開始する。オッサンはグレンの観測手だ。オッサンには一応、近接護身用に釘バットを持たせてある。


 前、2匹、人間っぽいメスとゴブリンの性別不明。こちらに背を向けている。


 竜也は一振りで二匹の胴体を分断した。


 左、一匹…と?


 竜也の左手にいたエルフのオスの前にドゲザーが回り込むや、ギフトで得たそのスピードで一瞬にして切り裂く。

 ドゲザーにはあれこれ考えている余裕など無かった。やるしか無い、それで精一杯である。


「誰だ、おまえら!」 「うわぁ!」 「人殺しぃっ!」


「は? 『人殺し』だと? 魔族風情がおこがましい! レハラント魔王討伐団様だよ! てめえら魔族は皆殺しだ!」


「ぎゃあ!」 「逃げろ!」 「ぐぁっ!」


 竜也は次々に魔族を斬っていった。

 右翼方向からは青白い光の玉が放たれているのが見える。麗華の<熱光球>だ。精度は…「行先は光球に聞いてくれ」状態だが。

 そして地鳴りと共に高さ1-1/2セルベ(3メートル)程の土人形が現れ、辺りを薙ぎ払う。弥生のゴーレムだ。という事は弥生からは竜也が見えているという事だが、弥生は<望遠>持ちなので竜也からも見えるとは限らない。だが、術式が稼働しているなら無事でいる証拠だ。

 集落が沈黙するまで時間は掛からなかった。

 辺りに散らばる魔獣の死体に礼二と舞美はまた気持ち悪くなって瓦礫の陰に隠れて膝をついている。他の面々も表情を曇らせている。

 そして集落で動くものが竜也たちだけになると、丘の上で待機していたゲックレンたちがやって来て合流した。


「いやはや、凄まじい破壊力でしたな。小さな集落とはいえ、あっという間にこの有様とは…。」


「いや、集落の裏手から取りこぼした何匹かが逃げて行ったのが見えた。次はもっと上手くやる。」


「では次回は是非我々も参加させてください。」





 竜也たちが集落を襲撃した二日後、ザックレイ砦ではレルシェンからの使者を前にローザが凍り付いていた。


 馬鹿な!


「集落を襲撃した者たちはハッキリとこう言ったそうです。『レハラント魔王討伐団だ!』と。そしてこうも言ったそうです。『魔族は皆殺しだ!』と。」


 全身を毛に覆われ、狼の頭部を持つレルシェンの使者はテーブルの上に肘をつき、両手を結ぶ。ローザは全身から吹き出る汗が止まらない。


「あなた方レハラントが他国民を“魔族”と蔑称している事は十分存じてます。その上でお尋ねしたい。これは一体どういう事なのか、と。」


 あのバカ勇者! 何という事を仕出かしてくれた!


「わ、我々も急な報でありまして…その、事態を把握しかねますので、早急な中央への報告と調査をお約束します。事実関係を確認次第、あらためて相応の謝罪と賠償を…。」


「そちらの中央へは我が国の政府と被害に会った村を治める領主から正式に質問状が送られる事でしょう。今日わたしがここへ参じたのは、この地域の現地の軍務責任者であるあなたのお考えを聞かせていただく為です。」


「もっ! 申し訳ありません! 今はこうして頭を下げる以外出来ない私を許していただきたい! どうか! 今日の所はこれで御容赦の程を!」


「ふむ…どうやらあなたの予想外の事態である事だけは確かな様ですな。」


 レルシェンの使者は立ち上がると上着を着て退室の準備を始めた。


「ムートン殿。最前線にいる者同士、貴殿とは長い付き合いだから言っておこう。

 そちらの中央の返答次第で我が国には宣戦布告の用意があると聞く。貴国は我が国との国境線防備に力を入れていないだろう? 全面戦争になれば、こんな小さな砦はひとたまりも無いぞ。お逃げなさい。」


「わたしはレハラントの軍人だ。死守せよとの命があれば死守するまで。見くびらないでいただきたい。」


「そうですか…残念です。では、失礼する。」


「今…今、この一瞬だけ軍人では無く一人の人間として言わせて貰おう…貴殿の御高配、感謝する…ありがとう。」


 レルシェンの使者は一礼すると、寂しそうに退室していった。そしてローザはこの砦で自分は死ぬ事になると覚悟する。


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