人の生き様は・・・第6話
ひびきとやりとりがあった後、四人の冒険者はなんとか体調を回復させた後、宿屋へと重い足取りのまま帰ってきた。
戦士に背負わせてる老魔法使いに肩を貸しゆっくり入ってくる弓士の女を見て、主人であるガゼインがテーブル拭きをもったまま駆け寄ってきた。
「今さっき出て行ったばかりだとおもったが、どこのトラブルに見舞われたんだ?爺さんは目が虚ろだし、嬢ちゃんは…言う方が野暮だなこれは。」テーブルに座るよう促し、自身もテーブルに座り、四人を見ている。
「で、何があった?」
老魔法使いを大きめの椅子に腰から座らせ、アルを弓士に手洗い場に向かわせ、一人でガゼインと向き合う戦士風の男。
「俺にもどういったいきさつで、ああなったのかわからねえ。ちょっとさっきの変わった男に突っかかっちまって、なんかちょっとキレ気味に話されてから、二人はあの状態になって、アイツは『魔力を込めた』みたいな事を言ってて、正直よくわからねえ。」
「は!?いきなり突っかかのか?確かめもせずに!?」
素っ頓狂な声をあげるガゼイン。
それを聞いて戦士風の男は両手で違うっと言った感じの手振りをし、
「いい方が悪かった。俺んとこの優等生ちゃんを追いかけた先に、あの優男と座り込んだ優等生ちゃんがいて、優等生ちゃんの顔を覗き込んだら顔を真っ赤にしたまま唇噛み締めて泣いてやがったもんだから、頭がカーッときちまって…掴み掛かったという感じになっちまったんだ。」
鼻からため息をつき戦士風の男を睨み
「お前等、それなりの冒険者ランクだったよな確か。そんな短絡思考でどうすんだ?一人の勝手が『みんな』を危険に合わせるのは冒険者やってる奴としては当たり前の話だろうが!自分を知り、周りをよく見て『最適解』な行動するのが、リーダーじゃねえのか?聞いた分だけで…最悪を免れてるだけで良かったと思え!」
顔を伏せる戦士風の男
「返す言葉がねえ。」
「アイツが帰ってきたら俺からも話しとくから、今日はパーティー活動無理だろ?メンバーは、今日ウチで休ませとけ。そのかわりお前は店の手伝いだ。分かったな?」
戦士風の男は本日一日を掛けて宿代の支払い兼、メンバーの面倒代のため、ひたすら皿洗いに専念する事となった。
日が沈む頃には老魔法使いとアルの体調も戻り、付きっきりで看病していた弓士の女を部屋で休ませながら、残りのメンバー三人で宿の手伝いを続けていた。
宿屋の一階が食事で賑わい始めた頃、お盆に燻製肉と蓋を被せた汁物の食事を女将が厨房から持って現れ、
「アンタ、204にこれを持って行くからちょっとの間厨房を頼んだよ。」
とガゼインに言い、2階に上がって行った。
それをみて何かに気づいたガゼインは
「あ、そういえばアイツはいつ帰ってくるか分かんねえんだったわ。悪いなあ。」頭をポリポリかきながら戦士風の男に話かけた。
皿運びをしていた戦士風の男は
「いや、大丈夫ですよ。明日の朝にでも話しますよ。今はこれで忙しいんで、俺も忘れてたくらいですから。」
慣れない宿屋仕事に汗をかきながら笑顔でそう答える戦士風の男。
「てか、逆に俺からはもう関わらなくてもいいかなって思ってる位だし、今日こんな仕事与えてくれたお陰で、色々頭が整理されたって感じだし、冒険者稼業も見直すいい機会で良かったですよ。」
厨房に入りながらガゼインは振り返り
「…それなら良かったんだが、一応客トラブルだから俺も少しは力になりてえし、今日の夜のまかないが、終ったらお前等の目的の話聞かせてくれよ。」ちょっとバツが悪そうに照れながら、厨房の奥に引っ込んで行ったガゼインに頭を下げながら、三人は宿屋の仕事をこなしていった。
食堂を閉鎖し、各々の宿泊部屋に行った他の客のお陰で食堂は人一人いない静けさをむかえ、そこにガゼインと四人の冒険者がコップに水を持ち大テーブルを囲みそれぞれ腰掛けた。
「アイツはまだ帰ってきてないようだから、お前等の話だけ先に聞いておきたいんだが、大丈夫か?」四人はお互い見合わせ頷いた。
「そもそもなんでそんなに急なランクUP目指そうとしてるのかからでいいか?」
弓士の女が手を挙げ
「私から、説明するよ。リーダー上手く説明出来ないし、爺やに任せてたら朝になっちまうし、アルちゃん感情が先行するから、これも話が長くなるし、それでいいかな?」
男二人は頷くだけで追及なしで、アルは何か言いたげではあったが、パーティーの交渉役兼パーティーの良心の弓士が話す方がスムーズに進む事は分かっていたので、アルも頷いた。
…パーティーを編成して三年位経った頃、パーティーメンバーの老魔法使いの孫娘が、原因不明の病にかかり、病気の原因の究明と、その治療に莫大なお金がかかり、現在のギルド規定のランクだと報酬が足らなくて、治療に見合う教会と治療院に通わせる事が出来ず、ギルド規定の等級報酬を宛に次のランクに上がれば不自由しなくて、治療させる事ができるため、この半年は死に物狂いで依頼をこなしていき、次のステップへの条件にふさわしい依頼が、古代神が祀られていたとされる遺跡の奥のゴーレム討伐と、奥の部屋の解放を引き換えでランクUPになるというものであり、証明されれば報酬も即金で支払われるとの事で、前衛を探していたとのこと。
パーティー条件で最低五人以上で挑む事が条件とされていた為に自分の実力は置いといてでも強い前衛が欲しかったというのが、いきさつらしい。
話を聞いていたガゼインの後ろに女将が立っており「お前さんは分かってると思うけど、アンタ達、その話は依頼云々置いといて普通に『成立』してないの分かってるかい?」
女将にそう言われ顔を見合わせる四人。
それを聞きテーブルに乗り出す神官僧侶のアル、「どういう事ですか?私達じゃ無理って事ですか?」
ガゼインに詰め寄ろうとするも弓士に腕で遮られる。
「女将さん、どういう意味でしょうか?」
ガゼインが後ろの女将に目を配らせ女将がため息こぼし告げる。
「アンタ達、冒険者やってギルドも登録してるのに基本的な仕事が分かってないね。慈善事業じゃないんだよ。『命』がかかってるんだからさ。だから、ランクに応じた依頼しか受けれないようになってるし、緊急依頼、例えばスタンピードとか、竜種が襲ってきたとかじゃない限りは絶対に無理なランクUPの条件なんかの依頼は発生しないんだよ。いくら冒険者は死と隣り合わせとはいえ、稼ぎ頭が減ればギルドだって運営出来ないんだよ。だから、アンタ達の話は『あり得ない』って言ってるんだよ。ギルドの目的として成立しないってのはそう言う事なんだよ。」
それを聞き驚きの表情を浮かべる四人、そして
「後は俺の方から説明しとくわ。お前は先に休んでくれ。」
ガゼインは女将に促し女将もそれに従い部屋の奥へと姿を消した。
「ウチのカミさんの言う事は本当だ。未来を開拓する手伝いをするギルドとしてあるまじき依頼を発行してる事が先ず可怪しいし、そんなあやふやな情報を提示するなんてありえねんだよ。お前等、それ本当にギルドの依頼か?」
四人は更にお互いの顔見合わせる。
その中でも神官僧侶のアルの表情は焦りと悔しさを滲ませていた。
そして自分の腰に掛けているポーチから、一つの紙面をガゼインに差し出してきた。
「これは?」
ガゼインが問う。
「私は普段は教会で働いてますので、冒険がない時は、街の教会にいます。普段は炊き出しを行ったり、孤児達の勉強会をしたり、主へお祈りしてたりとしてるのですが、1ヶ月前位に教会で祈祷中に『ギルドの職員』を名乗る方がいらして、その依頼書を私に授けて下さったんです。」
と、ガゼインに差し出した依頼書を指さすアル。
「依頼書は依頼者以外には見せてはならない決まりがあるのは知ってるはずだが、見てもいいのか?」
ガゼインが聞き返し、四人が頷く。
…そこには依頼内容として街外れにある古えの神を崇拝していた廃墟の奥の調査、そしてその傷害となるものの排除または捕獲、そしてその奥の祭壇に至るまでの扉の解放と言う条件が記されており、危険度レベルの記述もなく、用件と、その達成条件と報酬のみが記載されており、最後にギルド長印が記載されていた。
ガゼインからすれば指名依頼に近い感じの書面であるものの、依頼者の名前もしくは担当部署名、必要ランクも書かれていない点が腑に落ちない所であるもののギルド長の印だけはしっかりある事が胡散臭さを増しており、正しい依頼と思えなかった。
「お前等一回は廃墟に行ったのか?」
その問に弓士が答える。
「四日前位に一度足を踏み入れました。一日掛けて奥の間まで辿りつき、そこで体長10メートル程の薄蒼い色のゴーレムと出くわし交戦したものの、手数が足りず、物理攻撃も効かず、魔法使いの魔法で動きを封じようとなったのですが、前衛一人ではゴーレムを抑え込む事も出来ず、なまじ正面からは行けませんので、引き返してきた次第です。それからギルドへ駆け込み、戦力補強の為に前衛の紹介をお願いしたのですが、私達クラスでは意味がないので上のランクの方の紹介をお願いしたのですが、出払っていて居ないとかで、相手にされなかったのです。そしてかつて冒険者として名を馳せた『斬鉄の英雄ガゼイン』さんの情報をギルドで聞き、こうして訪ねてきたということです。」
弓士が話終えて、四人は沈んだ表情を浮かべ下を向いている。
「薄い蒼色のゴーレムって、多分ミスリルゴーレムじゃないか?俺だってあんなの斬れねえぞ。二つ名が情けない位で、所詮俺は鉄しか斬れねえし、今の体力で抑え込む自信もねえ。そんなん一番上か、二番目くらいの上位ランクじゃなきゃ達成出来ねぇ依頼だぞ。なんで中堅に入ったくらいのお前等に依頼が行くのかさっぱりわからん。なんか騙されてんじゃないのか?依頼書持って受付で一度確認してもらったほうが無難だぞ。」
ガゼインにそう言われ、
「今日はもう遅いので明日の朝一番にギルドに行って確認してみます。」
と弓士が頭を下げ、それに続いて皆も下げる。
ガゼインが席を立ち上がりながら
「明日なら俺もギルドに付き合ってもいい。話が胡散臭すぎるし、俺も気になるからなあ。」
それを聞き口々にお礼の言葉をする四人の冒険者。それを手で制しカウンターの奥へ行くガゼイン。「ちょっと待ってろ。」
二、三分後何かを詰めた革袋を持ってきたガゼインが、戦士風の男を手招きで呼び、その手を掴み革袋を掌に乗せる。
予想していなかった重みに革袋を落としそうになる戦士風の男。
「これは…」
戦士風の男の問いに腕を組みながら答えるガゼイン。
「今日働いた分の全員分の給金だ。受け取れ。」
革袋を持ち直し、袋の中を覗き見る。
一軒家が購入出来る程の金塊がそこには入っていた。
「ちょっと待って下さいよ。俺たち金塊一つ分すらの働きもしてないのに、こんなに貰えないッスよ!」
戦士風の男の発言を聞いて、他の三人も革袋を覗き込む。
特に神官僧侶のアルの反応は凄まじかった。
「これだけ在れば、ちゃんとした治療受けられるし、完治まで行けるよ!!!私の力が足りないから私じゃ治療出来ないけど、大神官様なら、絶対治してくれるよ!」
老魔法使いもウンウンと頷くものの、弓士と戦士風の男は難色を示した表情で、
「ガゼインさん、これはどういう事ですか?俺たちを哀れんでるんですか?」
ガゼインはキッと見据えて
「働くってのはちゃんと見合う物があるから、それに対して対価を払っただけだ。おめえ、この手伝いを『仕事』として楽しんでくれただろ?そしてちゃんと客をもてなす『成果』を店の為に出してくれた。だからその代金だ。正当な報酬だ。カミさんも納得してくれてる話だ。それをどう使うかは俺等の知ったこっちゃないが、あくまで報酬だ。受け取らない理由ねえよな?」
戦士風の男は肩を震わせながら、
「有り難く『報酬』頂戴いたします。」
と頭を下げ、続いて弓士、老魔法使い、アルの順番でガゼインに頭を下げていった。
頭をかきながら
「仕事して給金もらうのは当然なんだから、そこまでかしこまるな。俺が変人に思われるだろが!無償で働かせてたら店の評判にかかわるしな。今回のはお前等四人の正当な報酬だから、気にするな!ただ、他の奴らには内緒にしとけ!ウチに変な噂ついてしまったら破産してまうからな。」
茶目っ気なウインクをして話を終わらすガゼイン。「もう遅いし、明日はギルドだろ?部屋は空いてるから今日はもう寝ろ!」
手をヒラヒラさせながら、ガゼインは広間を後にした。
ガゼインの去っていった部屋の奥からは…
「お前さんが格好付けるのはアタシもわかってるし、今に始まったこっちゃないからいいんだけどね、その分またしっかりと稼ぎなよ!」
「任せとけかーちゃん!」
この話声が聞こえて四人の冒険者は顔を見合わせ少し苦笑した後改めて、ガゼインの去った部屋の方へお辞儀をしていた。




