↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/106

第九十九話 「寅の穴」

 「城を持たないって……どういう事だ?」

 しゃらくが思わず声を上げる。それはしゃらくだけではなく、シカもウンケイもスイメイも驚いていた。

 「攻められたら終いじゃねぇのか?」

 ウンケイが腕を組む。

 「・・・いや、やり方次第だ。やり方次第では、巨大な要塞よりも難攻不落だったりする」

 スイメイは静かにそう言うと、後方の土山をちらりと見る。

 「・・・面白いな」

 スイメイが口元を少し歪める。


    *


 やがて一行は寅(とら)将軍の大館の中へ入っていく。すると館は圧巻だった。広大な敷地、幾つもの渡り廊下、手入れの行き届いた庭園、立ち並ぶ蔵。

 「でっけェ……!」

 しゃらくは目を輝かせ、館へ入った瞬間から落ち着きが無い。右を見て驚き、左を見て驚き、天井を見上げて驚いている。

 一方でシカは周囲の警備を観察する。

 「警備兵の配置に無駄が無いな」

 スイメイも頷く。

 「建物そのものが戦を意識している。見事だ」

 ウンケイは巨大な柱を軽く叩く。

 「この柱一本で家が建つぞ」

 「叩くな」

 シカが即座に突っ込む。

 その横ではブンブクが、何を思ってか高そうな壺へ一直線に行こうとする。

 「ダメ! そっちに行っちゃダメだ! そんな壺、割りでもしたら末代まで死刑だぞ!?」

 コシトキの悲鳴が響く。すると先頭を歩いていたハヤテが、ニコリと笑って振り返る。

 「大丈夫大丈夫〜。そんなの割ったって別に怒られないよ〜」

 「私が怒ります!!」

 コシトキだけが必死である。

 対照的にバゲンと中太郎(ちゅうたろう)だけは平然としている。

 「相変わらずすげぇな」

 「ですね」

 二人はまるで近所へ来たような顔だった。



 やがて一行は、奥の大広間へ通される。そしてハヤテはここで待つよう告げると、外へ出ていく。バゲンは最前列に正座し、皆もその後ろへ並んで正座する。

 広間は静まり返っている。しかも、あのバゲンが正座している。

 それだけで空気が変わった。もうコシトキは顔面蒼白である。

 「吐きそうです・・・」

 しゃらくも落ち着かなかった。祖父かもしれない人物に会う。その事ばかり考えている。

 すると突然、バンッ! 襖が勢いよく開く。全員の背筋が伸びる。

 しかし入って来たのはハヤテ。

 「びっくりしました? お館様(やかたさま)は今来ますから、もう少し待っててください」

 一気に力が抜ける。コシトキは本当にへたり込む。

 だがそんなハヤテも家臣席へ正座すると、一言も喋らなくなった。先程までのおしゃべりが嘘のようである。その姿に、しゃらく達は再び緊張する。

 すると、ズシン! ズシン! ズシン! 重い足音が館内に響く。それを聞いたコシトキが生唾を飲み込む。

再び襖が勢いよく開く。中へ入って来たのは三人。最初は長髪の男で、派手な羽織、胸元を大きく開けた着物を着て、欠伸をしながら入ってくる。そして胡座をかき、頬杖をつく。続いて入ってきたのは、髷を結った細身の老人。見た目はただの老人だが、広間へ一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わるのが分かる。老人は無言のまま正座する。そして最後に入ってきたのは見上げるほどの大巨漢。上背は、大男のウンケイの倍以上あり、かつて戦った偽酒呑童子(にせしゅてんどうじ)を思い出すほど巨大である。一見でっぷりと太って見えるが、全身筋肉質であるのが分かる。巨漢は何も言わず胡座をかく。その迫力だけでコシトキは限界だった。

 「ひ、ひぇ・・・」

 バタリ。コシトキが気絶。隣のスイメイが慌てて受け止める。

 三人はハヤテの前に並んで座り、長髪の男は退屈そう。巨漢は前だけを見ている。

 一方で老人だけはこちらを見ており、まずバゲンへ小さく会釈。

 それからしゃらくを見る。そしてハッとしたような顔をして、しゃらくを見つめている。しゃらくは居心地悪そうに目を逸らす。



 すると三度目の襖が開く。そして誰かが広間へ足を踏み入れたその瞬間、ハヤテ、三人、バゲン、中太郎(ちゅうたろう)の全員が一斉に頭を下げる。それを見たしゃらく達も慌てて続く。額を汗が伝う。

 すると快活な声が響く。

 「バゲン! よく来たな! 面を上げろ!」

 前のバゲンが顔を上げるのを見て、しゃらくが顔を上げる。そこにいたのは優しそうな老人だった。赤く派手な羽織に、つるりとした頭、長い髭。想像よりずっと気さくそうだった。

 しゃらくはほっと息を吐く。だが左右を見ると、自分と中太郎(ちゅうたろう)しか頭を上げておらず、ウンケイもシカもスイメイもまだ頭を下げている。ブンブクはシカの背中に隠れ、コシトキは引き続き気絶中である。

 「おい、どうしたんだよ」

 しゃらくが小声で聞く。ウンケイが額に汗を浮かべている。

 「なんて威圧感だよ。・・・お前よく平気だな? 頭上げたくても上がんねぇんだ」

 しゃらくは首を傾げる。自分には威圧感などまるで感じなかったからだ。むしろ前に座る三人の方が恐ろしく感じる。

 すると、バゲンが口を開く。

 「此度はご多用の中、謁見の機会を賜り、誠に有難う存じます」

 しゃらく達は驚愕する。バゲンの口からは聞いたこともない丁寧な口調だった。

 すると老人は眉を顰める。

 「止せ止せ。お前の口からそんな言葉聞きとうないわ。体が痒くなるわい。ダァッハッハ!!」

 豪快な笑い声が響く。するとバゲンもニヤリと笑う。

 「元気そうで安心したぜジジイ! ガッハッハ!」

 バゲンは足を崩し胡座をかく。そして後ろを振り返る。

 「あの人が甲玄(かんげん)将軍、“煬王(ようおう) ゼンベエ”殿だ!」

 「!!?」

 すると、ゼンベエはしゃらくの方をチラリと見る。そして目が合うと、ゼンベエは一瞬だけ目を丸くする。

 しばし間があった後、ゼンベエがニッと笑う。その笑顔を見た瞬間、しゃらくの胸がドクンと大きく鳴る。


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。