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第九十六話 「甲玄の町」

 「しかし何故私まで行くのです!?」

 大荷物を背負い、馬に乗ったコシトキが喚(わめ)く。その後ろでは、瀬四(ぜよ)将軍のバゲンと中太郎(ちゅうたろう)、そしてしゃらく一行がそれぞれ一頭ずつの馬に乗って笑っている。ブンブクだけはシカの馬に同乗している。

 一同は麟東(りんどう)を後にし、十二支(えと)将軍四天王の一人、“寅(とら)将軍“が統べる大国“甲玄(かんげん)“を目指して、西へ向かって山道を進んでいる。

 「ガッハッハ! そう言うなコシトキ! 何ならこのまま、瀬四(ぜよ)まで付いて来てもいいんだぜ? ガッハッハ!」

 バゲンが豪快に笑う。

 「よろしくな! コシトキ!」

 後方からしゃらくが手を振る。するとしゃらくに続き、しゃらく一行の皆が手を振る。

 「もぉ〜・・・」

 コシトキは絶望の表情で肩を落としながらも手を振り返す。コシトキを先頭にした一行は、賑(にぎ)やかに歩を進める。


   *


 険しく長い道のりを、和気藹々(わきあいあい)と進むこと三日後、遂に一行は大国“甲玄(かんげん)“の関所門(せきしょもん)へと辿(たど)り着く。小国である麟東(りんどう)とは大違いな巨大で荘厳(そうごん)な門を前に、一行は息を飲む。

 「・・・な、何だこりゃア・・・!?」

 見た事もない巨大な門を前に、しゃらくはあんぐりと口を開け、後ろへ倒れそうな勢いで門を見上げている。他の面々もしゃらくと同様に、巨大な門を前に驚愕しているが、バゲンと中太郎の二人は、慣れているのか飄々(ひょうひょう)としている。

 「相変わらずでけぇもんだ」

 バゲンはニヤリと笑うと、馬を門へ向かって進める。それに中太郎も続いていき、他の面々も慌てて後に続く。



 「頼もう!!」

 門の前で、バゲンが大声を出す。すると、巨大な門の真ん中辺りの戸が開き、一人の屈強な兵が顔を出す。

 「何者だ!?」

 「俺は西の国、瀬四(ぜよ)の将軍バゲンだ! こいつらは俺の従者! おたくらの“ゼンベエ将軍“に会いに来た! 文も出してる!」

 バゲンの話を聞くと、兵は戸を閉める。すると、ゴゴゴゴォォ!!! 巨大な轟音(ごうおん)と共に、目の前の巨門が上がっていく。あまりの迫力に、ブンブクは思わず飛び上がり、シカに慰めてもらう。

 「・・・うちとは大違い・・・」

 思わずコシトキが力無く呟(つぶや)く。

 すると、開いた門の中から屈強な番兵が数人、槍(やり)を手に出てくる。

 「バゲン殿、お待ちしておりました」

 屈強な番兵は一礼すると、中へどうぞと言ったように、脇へ退いて道を開ける。

 「ありがとう!」

 バゲンは笑顔でそう言うと、門の中へと馬を進める。一行はそれに続いていく。通り過ぎ際、コシトキが番兵をチラリと見ると、番兵がギロリと睨んでいる。慌てて視線を前に戻したコシトキは、半泣きでバゲン達に付いていく。

 やがて一行が門を抜けると、再び巨大な轟音と共に巨門が閉まる。



 門を抜けた一行は、甲玄の広大な領内へと足を踏み入れる。すると、先頭を歩く屈強な兵の一人が振り返る。

 「では案内します」

 低く響く声に、一同は思わず背筋を正す。すると、槍を携えた数人の兵達が前後を固めるように並び、一行を先導していく。その姿はまるで大名行列のようであり、しゃらく達は自然と口数が減っていく。ただ一人を除いて。

 「うぅ・・・怖い・・・」

 コシトキだけは今にも泣きそうな顔で喚いている。槍を持った兵達は皆筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)で、まるで岩が歩いているような体格をして、無言で馬を進める兵達に挟まれたコシトキは、生きた心地がしないのである。

 「そう怯えるなコシトキ! ガッハッハ!」

 バゲンが笑う。

 「怯えますよ! 何なんですかこの人達!?」

 コシトキが悲鳴を上げる。その声に、鬱陶(うっとう)しそうに周囲の兵が僅(わず)かに視線を向ける。

 「ひぃっ!」

 コシトキはすぐに口を閉じる。バゲンはそんな様子を見てまた笑う。

 「ガッハッハ! 相変わらず肝が小せぇな!」

 そのやり取りに、一行から笑い声が零れた。


    *


 それから幾日もの時が流れる。

 途中でいくつもの砦や宿場町を通り抜け、大河を越え、広大な平野を進む。国の広さそのものが、麟東(りんどう)とは別格である。どれだけ進んでも、まだ甲玄(かんげん)の領土である。しゃらく達は改めて大国の恐ろしさを実感していた。


   *


 そして更に数日後、一行はとある巨大な城下町へと辿り着く。

 「・・・え?」

 しゃらくの口から間抜けな声が漏(も)れる。他の面々も目を丸くしている。目の前に広がっていたのは、彼らが今まで見た事もない規模の街だった。整備された大通り。ずらりと立ち並ぶ立派な建物。ひっきりなしに往来(おうらい)する人々。商人達の威勢の良い声。立ち上る湯気と香ばしい匂い。まるで祭りのような賑わいが、街全体を包み込んでいた。

 「す、すげぇ・・・」

 しゃらくが呆然(ぼうぜん)と呟く。

 「麟東(りんどう)の都より遥かに大きいな・・・」

 シカも驚きを隠せない。そして誰よりも衝撃を受けていたのはコシトキである。

 「なななななななっ・・・!?」 

 コシトキは馬上で立ち上がりそうになる。

 「何ですかこの町!? 広いし! 綺麗だし! 店がいっぱいあるし! 人もいっぱいだし!」

 目まぐるしく視線を動かすコシトキ。右を見て驚き、左を見て驚き、前を見て驚き、後ろを見て驚いている。

 「毎日毎日、一文(いちもん)二文(にもん)を削って帳簿(ちょうぼ)と睨めっこしてるのが馬鹿らしくなってきました・・・」

 コシトキの呟きに一同が笑う。

 対照的に、バゲンと中太郎は驚く様子もなく馬を進めている。

 「二人は慣れてるんですね・・・」

 スイメイが言う。

 「毎度感動はしてますけどね」

 中太郎が答える。


    *


 町を歩き、やがて一行は城へと辿り着く。目の前に聳(そび)え立つ大な城に、一同は再び言葉を失う。白く輝く城壁。天へ届きそうなほど高い天守。幾重(いくえ)にも張り巡らされた防壁。まるで山そのものが城になったかのような威容(いよう)。

 「すげぇ・・・」

 しゃらくが呟く。

 すると、ゴゴゴゴォォォッ!! 地鳴りのような轟音が響き、巨大な城門がゆっくりと開いていく。

やがて完全に開いた城門の奥には、広大な城内の景色が見える。

 「さぁ。どうぞ中へ」

 先頭の兵がバゲンに頭を下げる。一行は豪華絢爛(ごうかけんらん)な城の中へと足を踏み入れていく。



 その頃、高くそびえる城壁の上、さらにその屋根の端へ腰を下ろし、一行の様子を眺めている男が一人。男は細めた目でしゃらく達を見つめ、ニヤリと笑う。

 「面白い客が来たな」


 完

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