第九十話 「麟東の都」
「えェェェ!!!?」
スイメイの言葉を聞き、しゃらく、ウンケイ、シカの三人が声を荒げる。
「しぃ! 静かにしろ!」
スイメイが慌てて三人を制する。
「どうした? そんなデカい声を出して」
前を歩くバゲンが振り向く。
「いえ! 何でもありません! ははは」
スイメイが慌てて、その場を取り繕う。
「そうか? なら良い」
バゲンはそう言って前を向き直る。そのバゲンを、後ろの三人がジッと見つめる。
「・・・本当か!? あいつが十二支将軍って!?」
ウンケイがスイメイに詰め寄る。
「あぁ、間違いない。あのバゲンと仲良く話している男、あれはこの麟東の奉行頭だ。彼と親交があるなら、間違いなく本物だろう」
スイメイが前のコシトキも指差しながら、説明する。
「・・・では何故こんな所で、しかもたった二人だけでいるんだ?」
シカが眉を顰める。
「それが謎なんだが・・・、まあきっと、そういう男なんだろう」
スイメイが苦笑いする。
「どうするしゃらく? あいつもぶっ飛ばすか?」
ウンケイが笑いながら、しゃらくに尋ねる。
「ん〜。でも、あいついい奴だしなァ〜」
しゃらくが首を傾げ、難しい顔をしている。
「・・・まあとりあえず、今は仲間だ。様子を見るしかない」
四人は、前で笑うバゲンをジッと見つめる。ブンブクは、四人の顔を不思議そうに見上げている。
*
やがて日が暮れ、一行はとある屋敷へ招かれる。その屋敷の広間で、一行が膝を突き合わせて食事をしている。
「バゲン殿! さぁさぁ! 飲んだください!」
麟東の奉行頭、コシトキがバゲンに酒を注ぐ。
「おう! お前らも飲め!」
バゲンはコシトキに注がれた酒を一気に飲み干すと、今度はコシトキに酒を注ぐ。
「はは。・・・はい」
コシトキは苦笑いを浮かべる。
*
やがて夜は更け、広間では顔を真っ赤にしたバゲンとウンケイ、シカの三人だけが、笑いながら酒を飲んでいる。しゃらく、スイメイ、中太郎、コシトキの四人は酒に潰れたようで、顔を真っ赤にし、いびきをかいて眠っている。ブンブクはシカの後ろで丸くなり、眠っている。
「うぅ・・・。あんた強ぇな。ゲフ」
顔を真っ赤にし目を虚ろにさせたウンケイが、顔を歪めている。
「ガッハッハ! 何だ情けない! 東の男は酒が弱いな! ガッ_ハッハ!」
バゲンが大笑いする。バゲンも顔を真っ赤にしているが、酩酊しておらず、自分の酒をどんどんと飲み進めている。
「ウンケイ、もういい! こいつは私が相手する!」
すると、こちらも顔を真っ赤にしたシカが、酒を片手にバゲンを睨みつける。
「おぉいいね! そう来なくてはな! ガッハッハ!」
バゲンが嬉しそうに笑う。
「ゔぅ・・・。シカすまん。無念だ・・・」
ウンケイはそう言い残すと、そのまま後ろに倒れる。
「しかしいい女だ! シカよ! 俺と共に来んか?」
バゲンがシカを口説く。
「何度も言わせるな! 私はこいつらと旅をしているんだ!」
「ガッハッハ! そうか! すまん!」
バゲンの豪快な笑い声が、寝静まった夜の空に響く。
*
明くる朝、一行は屋敷を後にし、再び馬に乗って歩を進めている。昨夜、一つ屋根の下で過ごした一行は打ち解けたようで、ワイワイと賑やかに進んでいる。
「しかしバゲン殿は、相変わらず酒豪ですねぇ」
「お前は相変わらず下戸だなぁ、コシトキ。ガッハッハ」
「はい。・・・私が早々に潰れた後、相手をしていた皆さんは、辛そうですねぇ」
コシトキが後ろを向く。バゲンも後ろを振り向くと、遠く後ろをシカにウンケイ、スイメイに中太郎が、馬から降り、目を虚ろにしてフラフラと歩いている。その側を、ブンブクが心配そうについて歩いている。
「何だよ情けねェなァ!」
その前を、馬に乗って歩くしゃらくが、調子に乗って騒いでいる。
「お前一番最初に寝たじゃねぇか! しゃらく! ガッハッハ!」
バゲンが笑う。
「さ、見えてきましたよ!」
コシトキの声に、皆が前を向き直ると、自分達の歩いていた道は坂になっており、坂の下の向こうに大きな都が見えてくる。
「あれが我が麟東の都、“倶楽釜“です」
「おぉ! 久しぶりじゃのう!」
そう言うと、コシトキとバゲンが乗った馬が、目の前の少し急な坂を下っていく。
「おォ! 都だ! おいお前ら、都が見えたぞ! わっはっは!」
しゃらくは後ろ面々にそう言うと、笑いながらバゲンらに続いて坂を下っていく。
「・・・うぅ・・・都ぉ? あぁ、本当だ・・・」
自慢の薙刀を杖代わりにして、ヨタヨタと歩くウンケイが、弱々しく呟く。続いてシカとスイメイも、目の前に広がる都を見るが、何の反応も示さず、血色の悪い顔を歪ませている。
「・・・それにしてもあの男、化け物だな。・・・あんなに酒が強い男、初めて見たよ」
スイメイが力無く呟く。
「・・・あぁ。私も、酒の強さ関しては最強を自負していたが、・・・世界は広いと思い知らされた・・・」
シカが悔しそうに目を瞑る。
「おっとまずい。・・・この先は下り坂だ。・・・どうする? 降りられるか?」
ウンケイが下り坂を見下ろす。続いてシカとスイメイも下り坂を見て、更に顔を歪める。
「ん〜。・・・これは難関だな」
「でも何とか下るしかない・・・」
すると、三人の足元でブンブクが飛び跳ねている。
「何だブンブク? どうした?」
ウンケイが尋ねると、ブンブクが身振り手振りで、何か訴えているようである。しかし、しゃらくという通訳がいない為、誰も意味が分からず、三人とも首を傾げてる。するとブンブクが突然立ち上がり、指を結ぶと巨大な馬に変化する。
「おぉ!」
三人がパァッと顔を明るくする。馬に変化したブンブクが、得意気にニヤリと笑う。
「うわあああああああ!!!!」
ドドドドドッッ!!!! 突如後方から悲鳴と轟音が鳴り、しゃらくやバゲンらが驚いて振り返る。するとそこには、巨大な馬にウンケイ、シカ、スイメイが乗っており、その馬はニッコニコの笑顔で、下り坂を物凄い勢いで駆け降りてくる。
「何だありゃあ!?」
三人を乗せた巨馬は、驚くしゃらく達の傍を通り過ぎていく。
場所は変わり、麟東の都、“倶楽釜“の中央に聳え立つ城の最上階で、中から外を眺める一人の若い男がいる。すると、後ろの広間の襖を叩く音がする。
「殿。宜しいでしょうか?」
「ああ。入れ」
すると襖が開き、一人の老人が入ってくる。老人は、しゃらく達と共にいる奉行頭のコシトキに、顔がそっくりである。
「・・・どうかされましたかな?」
外を眺める男の前で膝を付いた老人が、穏やかな笑顔で尋ねる。
「フッフッフ。爺よ。面白い客が来たぞ」
男が外を眺めたまま呟く。この城からしゃらく達がいる場所まではかなりの距離があり、当然しゃらく達の姿は見えないが、男はそう言うとニヤリと笑う。
完




