第八十七話 「五人組」
「あァ〜〜腹ァ減ったァ〜〜」
木漏れ日がチラチラと射し込む山中、言葉とは裏腹に腹から声を出すしゃらく。そのしゃらくが殿を務める一行は、新たな仲間を二人加え、一層賑やかな一味となった。地図を片手に先頭を歩くのは、新たに仲間となったスイメイ。その後ろにウンケイ、ブンブクと続き、こちらも新たに仲間となったシカが、ブンブクの後ろに続く。そして少し離れた最後尾を、しゃらくがよたよたと歩いている。
「さっきからうるせぇんだよ! 黙って歩きやがれ!」
二番目を歩くウンケイが後方を振り返り、いつも通りしゃらくに怒鳴る。
「ははは。賑やかだね〜」
先頭を歩くスイメイが、前を向いたまま笑う。
「賑やか? 喧しいだけだろ!」
ウンケイがため息をつく。
「スイメ〜イ! まだ着かねェのォ!?」
最後尾のしゃらくの声が先頭に届く。
「あぁ! まだまだだ!」
スイメイが後方を振り返り、笑顔で手を振る。
「えェ〜〜! ちょっと休憩しな〜い!? もう疲れたぜ〜!」
しゃらくが再び喚く。
「うるさい! 疲れてるのは皆同じだ! 口を閉じて歩け!」
しゃらくの前を歩くシカが振り返り、しゃらくを叱責する。
「おォ! ごめん!」
シカの剣幕に、しゃらくは恐怖で顔を引き攣らせる。
「わっはっは! こりゃあ頼もしい。俺の負担が減りそうだ」
その様子を見ていたウンケイが大笑いする。ウンケイとシカの間を、トコトコと四つ足で歩くブンブクは、仲間が増えた事が嬉しいのか、ニコニコと笑いながら尻尾を振って歩いている。
「とは言え、そろそろ休憩しても良いかもな。たしか、ここをもう少し登ったところに、開けた場所があったと思う。そこで休憩しよう」
スイメイが前に広がる山道を見ながら、最後尾にも聞こえるよう、少し声を張って話す。
「やったァ! 休憩しよう! そうしよう!」
急に活気を取り戻したしゃらくが、大声で叫ぶ。それを聞いたシカは、またも鬱陶しそうにしゃらくを睨む。
*
そこから少し山を登ったところの、木々が開けた木陰で、一行は休憩をしている。大きな岩の上に腰掛けるシカと、その膝でブンブクが寝転び、舌を出して忙しなく息をしている。その岩を背もたれにして、地面に座っているウンケイとスイメイがおり、その前でしゃらくが地面に大の字になっている。しゃらくは長い舌をだらりと出し、力なく倒れている。
「あれェ〜・・・次はどこ行くんだっけ?」
しゃらくが力なく尋ねる。
「おいおい。そんなんで大丈夫か? 次はいよいよ十二支将軍だぞ?」
ウンケイが顔を顰める。
「あァ〜そうだった〜」
しゃらくは目を虚にしている。
「次に目指すは子将軍チュウビの縄張り、“出総美“だ。・・・でも、まだここからはかなり距離があるね。徒歩なら恐らく、あと十日はかかる」
「えェェェ!!? 十日ァ!!? そんなに遠いのかよ!!」
スイメイの話を聞き、元気を取り戻したのか、しゃらくが飛び起きる。
「お! 元気になって良かった」
スイメイがニコリと笑う。ウンケイはその様子に笑っている。
「元気になるかってンだよォ! 十日も歩いてられるか! すスイメイ! 何とかならねぇのかよ!」
しゃらくがスイメイに詰め寄る。
「ん〜。どこかで馬を調達できれば、歩く必要もないし、七日くらいで着くかもね」
「それだ! 馬に乗ろう! どこにいる!?」
「まずこの山を降りて、しばらく進むとたしか、町があったと思うが、・・・それでもそこに行くまでに二日くらいかかる。出総美までの最短の道から逸れるし、行ったところで馬がいる保障もないからな。あまり気乗りしないね」
「そんなァ〜・・・」
スイメイの話を聞き、がっくりと項垂れるしゃらく。
「じゃアどうすんの?」
しゃらくが項垂れたまま尋ねる。
「まあ、とりあえず進んでみるしかないな。行ってみたら、何かいいことがあるかもしれない」
スイメイが笑う。
すると、ブンブクを岩の上に下ろしたシカが、ピョンと岩から跳び降りる。
「少し散歩してくる」
シカはそう言うと、木々が生い茂る森の中へ入っていく。三人はシカの後ろ姿を見送る。
「・・・なあしゃらく。そう言えばお前、シカにはいつもみてぇな発作が起きねぇんだな?」
ウンケイがしゃらくに尋ねる。
「え? 発作? なんだそらァ?」
「お前の惚れ症だよ。いや前から気になってたんだが、シカに対しては平気なんだな。シカだってかなり美人だと思うぜ?」
「馬鹿野郎! おれはいつだって真剣に恋に落ちてんだ! シカはたしかに美人だけど、美人だから惚れるわけじゃねェ! 当たりめェだろ何言ってんだ! シカは友達だ!」
しゃらくが鼻息を荒くする。
「へぇ、そうだったのか。俺はてっきり、女なら誰でも惚れんのかと思ってたぜ」
ウンケイが笑う。しゃらくはそっぽを向く。
「では、シカが戻ったら先に進もうか」
スイメイがニコリと笑う。
*
なんやかんやと大騒ぎしながらも一行は山を降り、長閑な田舎道を進む。道の両脇には田畑が広がっており、道の先に町らしきものは一切見えない。
やがて進んでいくと、道端に一軒の小ぢんまりとした茶屋が見える。最後尾のしゃらくは、それを見つけるや否や、前を歩く仲間を追い越し、茶屋へ向かって走る。
「おい! 茶屋だ! ここで休憩しよう! そうしよう!」
茶屋の前で、しゃらくが大騒ぎする。
「おぉ、こんなところに。こりゃありがてぇ」
一行の疲労した身体は、突然の甘い誘惑を前に素通りなどできず、ウンケイも思わず微笑む。
一行が狭い店内へ入ると、そこには既に男が二人座っている。
「じゃあ外にするか」
そう言うと一行は、外に置いてある長椅子に腰掛ける。
「ん?」
しゃらくが何かに気がつき、店の裏へ周る。するとそこには三頭の馬が繋がれており、桶に入れられた水を飲んでいる。
「おいみんな! 馬がいるぜ! 三頭!」
しゃらくが皆を呼ぶ。
「だが店の馬か、中にいた客の馬だろ? こんな何処の馬の骨かも分からん奴らに、譲ってくれる訳がねぇ」
ウンケイが笑う。その隣でスイメイが、馬をまじまじと観察している。
「・・・これは中の客人の馬だろうね。毛並みといい肉付きといい、相当良い所の馬だ。・・・あの二人、何者だろうね?」
スイメイがニヤリと笑う。
「おい、お前らどっから来た? 誰の馬だ?」
しゃらくが徐に馬に話しかける。その様子に、スイメイとシカは驚き、しゃらくに対し軽蔑と哀れみに満ちた眼差しを向ける。すると、馬が三頭とも顔を上げ、しゃらくの目を見てヒンヒンと鳴き出す。その様子に二人が更に驚く。
「こいつの神通力は、獣と話せるんだ」
隣のウンケイが、スイメイとシカに説明する。二人は納得し、少しだけ尊敬の眼差しをしゃらくに向ける。
「へぇ。獣と話をねぇ」
すると、突然一行の背後から声がする。咄嗟に振り返ると、そこには店にいた男が二人立っている。二人はかなり大柄で、特に二人の内前に立っている男は、ウンケイほどではないにしても、引けを取らない大きさである。そして身なりがかなり綺麗で、この辺りには似つかわしくない出立ちである。
「それは俺達の馬だ。そいつはなんて言ってる?」
男がニッと笑う。
完




