第八十六話 「新たな仲間」
月明かりに照らされた賑やかな町の中、町人達は櫓の周りを囲み、櫓の上で叩かれる軽快な太鼓の音色に合わせ、楽しそうに踊りながら周っている。更にその周囲を囲むように、長椅子が等間隔で置かれており、その一つにシカが座っている。シカの膝の上には、丸くなったブンブクが気持ち良さそうに眠っている。
するとリコウの屋敷の方から、ウンケイが歩いてくる。
「よお。飲んでるか?」
ウンケイが、手に持った酒瓢箪をくいっと持ち上げ、ニコリと笑う。
「あぁ」
ウンケイを見たシカも微笑む。そしてシカは、膝の上のブンブクに視線を移し、ブンブクの背を優しく撫でる。
「なんだ寝てんのか」
ブンブクを見たウンケイが笑いながら、シカの隣に座る。
「疲れたんだろう。ブンブクちゃんも頑張ってくれた」
「はは。甘やかすな」
ウンケイが笑う。
「・・・この子はなぜ、お前達と旅をしているんだ?」
シカが尋ねる。
「こいつはな、まあ話すと長くなるが、こいつが迷子になってるところを俺達が拾ったんだ。そして一度故郷へ送り届けたんだが、俺達との旅が気に入ったらしくてな。呑気なもんだ、こいつは旅の目的なんか知らねぇと思うぜ? わはは」
ウンケイが笑いながら、瓢箪の酒を飲む。
「・・・そうか。・・・ではお前はなぜ、あの男と共にいるんだ?」
シカが、町人達と共に陽気に踊っているしゃらくを見て呟く。
「さあ何故だろうな? ・・・正直言って俺は、別にあの馬鹿の思いに共感して一緒にいる訳じゃねぇ。それまで俺は、一人で訳もなく放浪してた。そこであの野郎と出会って、まあ面白そうって思ったんだろうな。・・・今となっちゃあ何故あいつと一緒にいるかなんて、もう考えもしねぇな」
ウンケイが、前で楽しそうに踊るしゃらくを見る。
「・・・」
シカは、そのウンケイの横顔を見つめている。
「・・・お前はどうすんだ?」
ウンケイがシカに向き直る。シカは再び、膝の上のブンブクに視線を下ろす。
「・・・何も決めていない。・・・私は、スイコ村の皆の仇を討つ為だけに生きてきた。だが、現にあの男を討ったところで、・・・何も満たされないし、・・・生きる意味もなくなった」
ポツポツと呟くシカの目から、涙が溢れる。
「・・・少なくとも俺達は、お前に何度も救われた。それに、お前が仇を討つ為に鍛えた技は、これからも何人もの命を救う筈だ。・・・それに生きる意味なんてのは、自分で考える事じゃねぇ。お前を生かしてくれた人達の分まで、お前は生きなきゃならねぇだろ?」
ウンケイが前を向いたまま呟く。
「おっと悪ぃ。説教なんてしちまった。許してくれ、俺は元坊主なんだ。わっはっは」
ウンケイが明るく笑う。それを聞いたシカも、涙ぐみながら笑う。
ソンカイの悪政から解放された町では、賑やかな笑い声が夜通し響き続けた。
*
夜が明け、眩い朝陽が町に降り注ぐ。そんな町の外れには、ウンケイとブンブク、そして眠い目を擦るしゃらくが、旅の荷を背負い立っている。
「なァウンケイ。なにもこんなに朝早くなくてもさァ。ふあァ〜」
しゃらくが大欠伸をする。
「こういうのは、誰にも迷惑かけずにひっそり出て行くもんだ」
ウンケイが笑う。
「ふ〜ん」
しゃらくが再び大欠伸をする。
「・・・で、おれ達は何を待ってンだ?」
しゃらくが、鼻をほじりながらウンケイに尋ねる。
「三人を待ってる」
「三人?」
「ツバキにシカ、そしてリコウだ。昨夜俺はあいつらを、仲間に誘ったんだ。もし一緒に来てくれるんなら、明朝この場所に来てくれってな」
「えェ!!? そうだったのか!?」
しゃらくが驚く。
「お前に相談しといた方が良かったか?」
「いらねェよそんなの! あいつらなら大歓迎だぜ! しっしっし!」
「だよな」
しゃらくとウンケイは笑いながら、町の方に目をやる。すると、町の奥から一人、こちらへ向かって来る者がいる。三人は目を凝らして見ると、それは笠を被り道中合羽を身に付けた、ツバキである。
「おォ! ツバキィ!!」
「やあ」
ツバキが頭に被った笠を、クイっと持ち上げる。
「来てくれたか」
ウンケイが微笑む。その横のしゃらくは大喜びで、跳び回っている。ブンブクも知ってか知らずでか、尻尾を振って嬉しそうにしている。
「いや、違うんだ。俺は、君達にお別れを言いたくて来たんだ。紛らわしい真似をしてすまない」
ツバキが笠を脱いで微笑む。それを聞いたしゃらくとウンケイは、口をあんぐりと開け、呆然としている。
「君達との旅、絶対楽しいだろうけど、俺も旅をしている訳があってね。残念だけど、今は一緒に行けない。折角誘ってくれたのに、すまない」
ツバキが頭を下げる。
「そっか」
しゃらくがニコリと笑う。隣のウンケイも同様である。
「でも誘ってくれて嬉しかった。・・・またどこかで会おう」
顔を上げたツバキがニコリと笑う。
「あったりめェだろ! もうお前は友達だぜ!」
しゃらくがツバキの手をガシッと掴む。
「また酒でも飲もう」
ウンケイも手を差し出し、ツバキと握手する。
「友達か。・・・あぁ、そうだな」
ツバキがニコリと笑う。
しゃらく一行の三人は、去っていくツバキの背を見送る。
すると、町に背を向けた三人の背後から、また誰かが向かって来ている。三人が振り返ると、そこには旅支度をしたリコウの姿がある。
「・・・どっちだ!?」
「いや、この格好って事は・・・?」
しゃらくとウンケイの表情が明るくなる。
「・・・君達の天下取りの旅、私にも手伝わせてくれ」
リコウがニコリと笑う。
「よっしゃァァァァ!!!」
しゃらくが飛び上がる。
「わはは。良かった! ありがとな」
ウンケイもニコリと笑い、リコウと固く握手する。ブンブクも嬉しそうに尻尾を振り、しゃらくと共にクルクルと回っている。
「喜んでくれているところ悪いが、君達に隠していた事があるんだ。リコウという名だが、実は偽名なんだ。私の本当の名は、“スイメイ“。改めて宜しく」
リコウ改め、スイメイが頭を下げる。
「えェ!!? リコウじゃねェのか!」
しゃらくが目をまん丸くし、開いた口が塞がらない。
「・・・そうだったのか。わっはっは。どこまでも策士だぜ。こちらこそ宜しくなスイメイ」
ウンケイが笑う。
「はは。騙してすまなかった。・・・おや? どうやらもう一人いるみたいだ」
スイメイがしゃらく達の背後を見る。三人が振り返ると、家屋の壁に寄りかかり腕を組んでいるシカが、こちらに視線を合わせずに佇んでいる。
「あ! シカァ!!」
しゃらくが、再び飛び上がって喜ぶ。ブンブクはシカの元へ駆けていき、シカに抱き締められる。
「・・・勘違いするな。・・・私はこの子を守るために、付いていくだけだ」
シカは照れ臭そうにそう言うと、ブンブクの腹にそっと顔を埋める。その様子にウンケイとスイメイも笑っている。
「よォし! これでおれ達は五人になった! 一気に駆け上がってやるぜ! 待ってろォ! 十二支将軍!!」
しゃらくが拳を空に突き上げる。
完




