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第七十二話 「壁伝いの計」

 騒然(そうぜん)とする広場で、その中心にいるのは、人質となっていた町人達を背中合わせで囲む、しゃらく、ウンケイ、シカの三人。その周囲を大勢の兵達が取り囲んでいる。

 「ほう固まったか。だが劣勢(れっせい)に変わりはない。ここからどうする気か。その覚悟見せて貰おう」

 その様子を広場の城側の少し離れた壇上(だんじょう)から、椅子に座るアドウがニヤニヤと笑って見ている。その後ろには、アドウ三側近のくも(はち)、ガマ比古(ひこ)、カゲ斗弓(とき)が、同様に座って戦況を観察している。

 「シカ! 来てくれてありがとよ!」

 兵達に囲まれるしゃらくが、目の前の兵達からは目を()らさぬまま、シカに礼を言う。

 「別にお前を助けに来たんじゃない。こっちはいい所だったのに。足引っ張りやがって、迷惑だ」

 シカも目の前の敵を睨んだまま応える。

 「わはは! そりゃごめん! ・・・で、こっからどうするウンケイ?」

 「何がどうするだ。考えなしに突っ込みやがって」

 ウンケイとしゃらくがニッと笑う。

 「ブンブク、甲冑(かっちゅう)は?」

 ウンケイがそう言いながら、チラリと後ろを見る。すると後ろの町人達は、いつの間にか全員が甲冑を着ており、その一人の子どもの(かぶと)の上に乗ったブンブクが、嬉しそうに尻尾を振っている。

 「でかした!」

 ウンケイがニヤリと笑う。同様に後ろを見たしゃらくは、驚いて目を丸くしている。

 「よし、じゃあ壁伝いに移動するぞ! 動きながら攻撃を防げ!」

 一番壁に近いウンケイがそう言うと、壁の方にいる敵兵達に薙刀(なぎなた)を振りかぶる。

 「“三日月(みかづき)”!!」

 ガキィィィン!! ウンケイが猛然と薙刀を振る。兵達は吹き飛び、勢いよく壁に当たって気を失う。

 「今だ! 壁へ行け!」

 ウンケイが叫ぶと、戸惑いながらも町人達が、一斉に壁へ向かって走る。それに合わせて、ウンケイ、しゃらく、シカは、敵兵の攻撃を防ぎながら町人達に付いていく。そして町人達が壁に着くと、右からウンケイ、しゃらく、シカの順で、再び町人達の前に立つ。こうして三人と壁で、町人を囲む形となる。

 「このまま広場の出口を目指す! 俺が道を開ける(すき)に、全員右方向へ進め!」

 ウンケイが、向こうに見える広場の出入り口を指差す。その間も敵兵達の攻撃は止まないが、しゃらく、シカは猛然と攻撃を弾き返していく。

するとウンケイが、頭の上で薙刀をぐるぐると回し出す。その風圧で、周囲の敵兵達が動けなくなる。

 「“風車(かざぐるま)”」

 ブゥオォォン!!! 回転の遠心力を利用し、薙刀を勢いよく振る。敵兵達が勢いよく後方へ吹き飛ばされる。その隙に、しゃらくを先頭に町人達が壁伝いに走る。今度は最後尾となったウンケイが、追って来る敵兵達を追い払う。

 「しゃらく! シカ! 今みたいに先頭を代わりながら進むぞ!」

 その様子を向こうから見ていたアドウは、何故か楽しそうにニヤニヤと笑っている。その隣には、後ろに座っていた(はず)のくも(はち)が、心配そうに立って見ている。

 「カゲ斗弓(とき)よ! 壁上の弓兵達はどうした!?」

 くも八がカゲ斗弓の方を振り返る。それを聞いたカゲ斗弓が城壁の上を見ると、壁の上に配置されていた筈の弓兵達の姿が無い。

 「馬鹿な!?」

 目を見開いたカゲ斗弓が、勢い良く立ち上がる。

 「・・・まずいぞ。これがもし、奴らの仕業(しわざ)だとしたら・・・。ガマ比古(ひこ)! 外の門兵と、解放した女に付かせた兵から、何か報告は!?」

 カゲ斗弓同様、青い顔をしたくも八が、ガマ比古の方を振り返る。しかしガマ比古は、首を横に振っている。

 「万が一、外の兵達もいないとなれば、人質だけでなく奴ら諸共(もろとも)逃げられてしまう!」

 くも八が目を見開く。しかし慌てる側近達に対し、アドウは相変わらずニヤニヤと笑っている。

 「はっはっは! こりゃ一本取られたな、くも八!」

 「笑い事ではありません! 急いで広場の出入り口を固めよ! そして城外に偵察兵(ていさつへい)を送り、状況を(しら)せよ!」

 くも八が付近の兵達に命ずると、兵達は慌てて駆けて行く。

 「これは止むを得ん。ガマ比古とカゲ斗弓! 奴らを仕留めよ!」

 「はっ!」

 ガマ比古とカゲ斗弓が壇上から飛び出す。

 「おっと、バレちまったな」

 慌ただしくなった広場を、城壁の上から眺める男が一人。その背後には、刀で斬られたと思われる弓兵達が、何人も倒れている。城外の門の前も同様に、兵達が血を流して倒れている。

 「さぁ急げよ?」

 壁上でニヤリと笑う男の正体はツバキで、刀に付いた血を振り飛ばし、(さや)に納める。

一方、そんな事とは知らぬ城の最上階では、商人のリコウがそわそわと心配そうに広場を見ている。

 「・・・ガマ比古殿とカゲ斗弓殿が二人共!?」

 慌てるリコウに対し、隣で見ている城主ソンカイは目を(ひそ)め、広場を見下ろしている。

 「“蹴兎(しゅうと)”!!」

 広場に戻り、しゃらくが兵達を蹴り飛ばす。兵達が勢いよく飛んでいく隙に、今度はシカが先頭に走り、一行は出入り口に向かって壁伝いに進んで行く。

 「よォし! いィぞ!」

 最後尾に着いたしゃらくが、鼻息を荒くする。するとウンケイが、チラリと後ろを向き、眉を(しか)める。

 「側近が二人出て来やがった! だがあと少しだ! このまま行くぞ!」

 ウンケイの言葉に、甲冑(かっちゅう)を着た町人達は驚くも、ウンケイの言葉通り懸命に進んで行く。先頭のシカはチラリと後ろを向き、憎きカゲ斗弓の姿を探す。

そんな一行を、後方からガマ比古とカゲ斗弓が、味方である兵達を吹き飛ばしながら、物凄い勢いで追って来ている。

 「あの弓使いは私が戦る!」

 するとシカが刀を両手で持ち、顔の横に構えて腰を低く落とす。その隙に、敵兵達が前方から突っ込んで来る。シカが目を見開く。

 「“落花流水(らっかりゅうすい)”」

 シカが目にも止まらぬ速さで、次々に刀を振るっていく。すると敵兵達は、一行の後方へ勢いよく吹き飛んでいく。しかし兵達は、斬られた訳でも気を失った訳でも無く、訳も分からぬまま後ろへ吹き飛んでいる。吹き飛ばされた兵達は、横や後方の兵達にぶつかり、周囲の兵達が次々に倒れていく。

 「おォすげェ!」

 ほとんどの兵達が一時的に周囲から消え、しゃらくとウンケイ、そして町人達が目を丸くする。

 「・・・相手の力を利用して、後ろへ受け流してるのか。それにしてもこんな人数、すげぇな」

 ウンケイがニヤリと笑う。シカの妙技(みょうぎ)により生まれた大きな隙に、ここぞとばかりに一行が駆け出す。そして出入口があと少しの所まで迫る。しかし出入り口の周囲は、くも八の命により大勢の兵達が固まっている。

 「ハァハァ。そう来るよな」

 先頭を走るウンケイが、薙刀を構える。ガキィィン! 突然の鋭い金属音に後ろを振り返ると、最後尾のシカが刀で矢を弾いている。矢を放ったのはカゲ斗弓で、ガマ比古と共に、すぐ後ろまで迫って来ている。

 「しゃらく! ウンケイ! 私が奴らを食い止める! 後は頼んだぞ!」

 シカはそう叫ぶと、後方のカゲ斗弓とガマ比古の方へ駆け出す。

 「おい! シカ!」

 しゃらくが兵達を倒しながら、後方を振り向く。

 「止まるな! 今は任せるしかねぇ!」

 前方のウンケイが、後ろを振り返る事無く叫ぶ。

 「ブンブク! お前もちっとは手伝え!」

 ウンケイの声を聞き、更には単身で敵の元へ行ったシカの姿を見たブンブクは、町人の子どもの頭の上で、頭を抱えて葛藤(かっとう)している。

 「おいカゲ斗弓。奴が来たぞ?」

 後方のガマ比古が、こちらに向かって来るシカに目を(ひそ)める。

 「あぁ分かってる」

 すると、カゲ斗弓が宙高く跳び上がって弓を引き、一気に三本の矢を放つ。シカが、放たれた矢を防ごうと刀を構える。その瞬間、脇からガマ比古が刀を振りかぶって出て来る。シカが目を見開く。ガキィィィン!!! (にぶ)い金属音が広場に響く。思わずしゃらくとウンケイも後ろを振り返る。するとガマ比古の一太刀(ひとたち)を、盗賊の駄エ門(だえもん)が刀で止めている。止められたガマ比古も目を見開いている。

「久しぶりだな。ガマ比古さんよ」


 完

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