表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/84

第七十一話 「天翔ける」

 「おれが龍神だァァァ!!!」

 アドウ達の前に並ぶ兵達の頭上を越え、しゃらくが天を翔けて来る。突然の登場と驚愕の発言に、アドウ達は目を丸くしている。

 「何言ってんだあいつは」

 薙刀(なぎなた)を振り切ったウンケイが、飛んで行ったしゃらくの言葉に笑う。

そしてアドウ達の前に着地したしゃらくが、アドウとその三側近を前にも怯む事無く、仁王立ちで鼻息を荒くしている。

 「・・・貴様は確か、徴兵(ちょうへい)だったな? 今何と言ったんだ?」

 アドウが椅子に腰掛けたまま、身を乗り出す。後ろでは側近のくも(はち)が、しゃらくの後ろで武器を構える兵達に、手を挙げて待つように指示している。

 「ガルルル! お前が探してる龍神は、おれだって言ったんだ!」

 顔に赤い模様が浮き出た姿のしゃらくが、息を荒くしている。

 「ほう。貴様が?」

 異様な姿のしゃらくを見て、アドウがニヤリと笑う。

するとしゃらくは、すかさず目の前の町人達の縄を鋭い爪で斬っていく。

 「貴様、いい加減にしろ」

 カゲ斗弓(とき)が立ち上がり、弓をしゃらくに向ける。すると、(おもむろ)にアドウが立ち上がる。

 「はっはっは! 小僧、その勇気は称えよう! だが貴様は龍神ではない!」

 アドウが笑いながらそう言うと、再び椅子に腰を掛ける。

するとくも(はち)が、挙げていた手を下ろす。それを合図に、後ろの兵達が一斉にしゃらくを襲う。しゃらくは解放した町人達を背に隠し、向かって来る兵達に牙を()く。

 「“虎枯(こが)らし”!!」

 ガガガァァ!! しゃらくが兵達に鋭爪(えいそう)を振りかざし、兵達の甲冑(かっちゅう)を斬り裂く。

しゃらくの一撃に吹き飛ぶ兵達の後ろでも、同様に兵達が吹き飛んでいる。見るとそこでは、ウンケイが薙刀を振り回し、兵達を次々に()ぎ倒している。それに気付いたアドウが更に笑う。

 「ほう。奴等(やつら)、相当やるようですな。これは思わぬ火事、早々に消火せねば」

 くも(はち)が、大暴れする二人を見て目を(ひそ)める。

 「はっはっは! 結構だ! 龍神が来るまでの暇潰しにはなる」

 アドウが、(かたわ)らに置いてあった瓢箪(ひょうたん)から酒を飲む。

 「(はち)さん、俺が出ようか?」

 側近のガマ比古(ひこ)が、隣のくも(はち)に尋ねる。

 「いや、待て。こんな所で下手にお前達を出して、龍神に後手(ごて)を踏む訳にはいかん」

 「分かった」

 椅子から腰を上げかけたガマ比古(ひこ)が、再び深く腰掛ける。一方のカゲ斗弓(とき)は、依然弓をしゃらくに向けている。

 「矢ならいいですよね? 一撃で仕留めてみせます」

 カゲ斗弓もくも八に尋ねる。

 「無論だ」

 くも八の言葉を聞き、カゲ斗弓が弓を力強く引く。矢の先に見えるしゃらくは、カゲ斗弓に気づかず、町人達を(かば)いながら兵達を薙ぎ倒している。

 「・・・」

 ヒュッ! 狙いを定めたカゲ斗弓が、しゃらくに向けて矢を放つ。刹那(せつな)、ガキン! 放たれた矢がしゃらくに届く前に、横から来た何かに当たって弾き飛ぶ。

 「何!?」

 驚いたカゲ斗弓が、咄嗟(とっさ)に何かが飛んできた方を見ると、そこには弓を片手に持ったシカが立っている。

 「チッ。・・・(ねずみ)が一匹増えたな」

 カゲ斗弓がシカを睨みながら、背中の矢に手を伸ばす。

 「カゲ斗弓! あの日から、貴様の憎らしい顔を忘れた事は無い!」

 シカの言葉にカゲ斗弓が動きを止める。

 「・・・何者だ?」

 カゲ斗弓が眉を(しか)める。

 「私はスイコ村のシカ! 貴様が焼き尽くした村の出身だ! 忘れたとは言わせぬ!」

 シカが背中の矢を取り、カゲ斗弓に向けて構える。その目は少し涙ぐんでいる。

 「スイコ村・・・? あぁ、あの小さな水車村か。・・・そうだったのか。それは気の毒だったな」

 カゲ斗弓がニヤリと笑う。

 「くっ! 貴様!!」

 シカが弓を引き、カゲ斗弓に狙いを定める。

 「はっはっは! 何だカゲ斗弓? 随分恨まれているようだな」

 様子を見ていたアドウが笑う。

 「ではカゲ斗弓よ。お前の因縁はお前に任せるぞ」

 くも八がカゲ斗弓に目をやる。

 「はい。すぐに片付けて参ります」

 カゲ斗弓はそう言うと、シカの方へ歩いて行く。

 「気の毒だとは思うが、仕方が無い事だ」

 「村の人間を皆殺しにする事が仕方ないだと!? ふざけるな! お前は必ず私の手で殺す!」

 シカが涙を流しながら、カゲ斗弓に矢を向ける。しかしカゲ斗弓は(おく)さず、そのままシカに近付いていく。

 「こんな面倒が起きぬよう、全員殺したつもりだったんだがな。生き残りがいたとは」

 カゲ斗弓がニヤリと笑う。すかさずシカが、構えていた矢を放つ。しかし放たれた矢は、カゲ斗弓がいとも容易(たやす)く、弓で弾き飛ばす。

 「ここまで生き残り、復讐(ふくしゅう)の機会を得たまでは良かったが、相手が悪かったようだ。戦国十弓(せんごくじっきゅう)に数えられるこの俺に、弓で挑むとは(おろ)かだな」

 カゲ斗弓がニヤリと笑う。シカの(ひたい)をたらりと汗が流れる。



一方城内の最上階では、城主ソンカイと商人のリコウが、混乱する広場を眺めている。

 「あれはしゃらくにウンケイ、それにシカまで・・・」

 窓から身を乗り出したリコウが、目を丸くしている。

 「知り合いか?」

 ソンカイがリコウに尋ねる。

 「え、ええ。・・・昨日町で知り合いまして、昨夜(ゆうべ)は我が屋敷に招き、楽しく飲み明かした仲で御座います」

 リコウが慌ててソンカイに頭を下げる。

 「そうか。・・・まさかお前の指金(さしがね)ではなかろうな?」

 「いえ! 決してそのような事は! ・・・自分でもこの目を疑っております。三人とも好青年でしたので、まさかこんな暴挙(ぼうきょ)に出ようとは」

 リコウが頭を下げたまま弁明する。

 「フフ。お前も人付き合いは程々にせねばな」

 「返す言葉も御座いません」

 笑うソンカイと顔を上げたリコウが、再び外の広場を見つめる。



 「兄者(あにじゃ)ぁ! なんか面白ぇことになってるぜ!?」

 混乱する広場の端で、様子を伺っていた盗賊のリキ丸が、向こうで暴れるしゃらくとウンケイを楽しそうに見ている。

 「やはりあのガキは神通力(じんつうりき)使いだったか。クックック。面白ぇ」

 盗賊の駄エ門が笑う。



 「くそ! ハァハァ! 流石に多いな!」

 駄エ門らの視線の先、薙刀を振り回すウンケイの息が上がる。ウンケイがチラリとしゃらくの方を見るが、町人達を(かば)いながらのしゃらくの方は、兵達の攻撃を防ぐので精一杯になっている。

 「ハァハァ! あっちはまずいな! どうする!」

 向かって来る兵を薙ぎ倒しながら、ウンケイが顔を(しか)める。

 「ブンブク!」

 ウンケイが薙刀を振りながら叫ぶ。それはしゃらくの耳にも届く。

 「ハァハァ! ブンブク!?」

 すると何処(どこ)に隠れていたのか、ブンブクがしゃらくの後ろから顔を出す。

 「お!? お前いつの間に!?」

 驚くしゃらくだが、次々に来る兵達の攻撃に意識を戻される。

 「シカ! 手伝ってくれ!」

 再びウンケイが叫ぶ。向こうでカゲ斗弓と対峙(たいじ)していたシカは、ウンケイの方をチラリと向き、またカゲ斗弓の方を向き直る。

 「くっ・・・!」

 シカが奥歯を噛み締めると、(きびす)を返し、広場の方へ駆け出す。カゲ斗弓はそれを追わず、シカに向けて弓を構える。しかし、シカはすぐに兵達の中に入って行った為、見失ってしまう。

 「ハァハァ! シカ!?」

 考える間もなく、しゃらくが攻撃を防ぐ。すると突如、しゃらくの上空を大きな影が(おお)う。しゃらくが目を見開く。

 「“雷電(らいでん)”」

 ドガァァァン!!! しゃらくの前で、飛んで来たウンケイが薙刀を振り下ろす。しゃらくを襲っていた兵達が、勢いよく吹き飛んで行く。するとその傍から、刀を抜いたシカも駆けて来る。そして町人とブンブクを中心に、しゃらく、ウンケイ、シカの三人が背中合わせで囲む。 


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ