表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
66/84

第六十六話 「恐ろしい策士」

 「うわぁぁぁぁ!!!」

 突如洞窟(どうくつ)から流れて来た大量の水は、逃げる兵達に容易(たやす)く追いつき、山の崖下へ押し流していく。兵達の持つ松明(たいまつ)の火も、次々に消えていく。しゃらく一行やツバキら手練れの者はすぐに水の流れを読み、脇道へ避ける。アドウも同じく馬を脇道へ走らせ水から逃れたが、他の兵達のほとんどが急流に流されてしまった。やがて水は勢いを失くし、小川を流れるような水量まで落ち着く。

 「・・・」

 先程まで騒がしかった森は、流れ出る水のせせらぎが聞こえる程の静寂(せいじゃく)に包まれる。

 「・・・奴は天候だけでなく、水流まで操るのか・・・?」

 残った兵達が、いま目の前で起きた信じ難い現象にざわついており、恐怖に震えている者までいる。

 「・・・ギリッ」

 大将のアドウが、周囲に聞こえる程の歯軋(はぎし)りを立てる。

 「おのれ・・・。それで俺に勝ったつもりか?」

 アドウはそう(つぶや)くと、(おもむろ)に腰の刀を抜き、兵達の方を振り返る。

 「いいかお前ら! 今の急流は恐らく、何処(どこ)かに()めていた水を一気に放出したものだ! という事は、この先にそれをした者がいるという事だ! 奴を討つぞ! 俺に続け!!」

 アドウが洞窟に入って行く。その姿を追い、残った兵達がおぉ!と声を上げながらアドウに続く。

 「おれ達も行こうぜ!」

 しゃらくも続いて洞窟に行こうとする。するとウンケイがしゃらくの肩を掴む。

 「待て。俺が思うに、これは完全に負け戦だ」

 ウンケイの言葉にしゃらくが驚く。

 「同感だね」

 後ろでツバキも(うなず)いている。何故かウンケイの肩に乗ったブンブクも頷いている。しゃらくは目を丸くしている。

 「多分だが、この洞窟にもう敵はいねぇ。俺達がここに来るように仕向けて、ここに到着する時を見計らったんだろう。そんな事が出来るような奴は、その後で洞窟に入って来るなんて想定内だろう。きっと洞窟の中にも何か細工してると思うぜ」

 ウンケイが顎髭(あごひげ)()でながら話す。

 「この為に町人を町へ戻してたと考えると、恐ろしい策士だね。恐らくアドウの性格まで完璧に読んでいる」

 ツバキもウンケイの意見に同調する。

 「え、じゃアあのおっさん達にも教えてやらねェと・・・」

 「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 しゃらくが立ち上がった瞬間、洞窟の中から男達の悲鳴が聞こえる。刹那(せつな)、ブワァァァ!! 今度は洞窟の中から炎が噴き出す。

 「うわァァ!!」

 やがて炎はすぐに消え、洞窟からは黒い煙が(ただよ)っている。

 「・・・おいおい、本当に龍なんじゃねェのか?」

 しゃらくが目をパチクリ瞬かせながら呟く。

 「・・・はは。かもな」

 ウンケイもこれには苦笑いを浮かべている。

 「・・・龍だ。やはり奴は龍神(りゅうじん)なんだ!!」

 後方にいた兵達は、暗い夜の中でも分るほど顔を真っ青にして、悲鳴を上げながら転がるように山を下っていく。

 「・・・洞窟の中に油でも()いていたかな? 松明の火がそれに引火(いんか)した」

 ツバキも苦笑いを浮かべながら呟く。すると洞窟の中から、(すす)だらけで真っ黒になったアドウが、フラフラと出てくる。

 「おっさん!」

 しゃらく達が慌てて駆け出す。膝を付いたアドウの元へ来ると、アドウは全身に軽く火傷を負っているが、意識ははっきりとある。

 「・・・畜生。許さぬ。許さんぞ・・・」

 「おっさん! 一旦退()こう! このままじゃア全滅するぜ!?」

 「くっ・・・!!」

 龍神討伐に向け、集められたアドウ率いる討伐軍はこの日、敵の圧倒的な力に()(すべ)無く、完全敗北を(きっ)した。


   *


 城内最上階の大広間にて、アドウが傷だらけの体に、医者から包帯を巻かれながら顔を(しか)めている。周囲には側近と思しき侍三人が正座している。

 「・・・今回失った兵はおよそ百二十。ちと痛かったですな」

 三人の侍の真ん中の男が、顎に生えた長い髭を触っている。その男は“くも(はち)”という名で、アドウの参謀(さんぼう)として長年支えてきた老将である。今回は城の護衛として、討伐軍には参加していなかった。

 「あぁ全くだ。お前を連れて行きゃ良かったぜ」

 アドウが、ばつが悪そうにくも(はち)を見る。

 「わしが行ったとて、何も状況は変わらんでしょう。さて、どうしたものか・・・」

 くも八が再び長い髭を触る。その左隣で、アドウ同様悔しそうに顔を顰めている大男が、“ガマ比古(ひこ)”である。その大きさは、かなり大男のアドウよりも大きく、隣に座る小柄なくも(はち)が赤子のようである。その反対側に座る弓を背負った眼帯の男は、“カゲ斗弓(とき)”という弓使いである。ガマ比古(ひこ)とカゲ斗弓(とき)も、くも(はち)と同じく城の護衛に残っていた。

 「今度は、奴をこちらに呼び込むのはどうでしょう?」

 カゲ斗弓が淡々と提案する。

 「奴をこちらに誘き出せば、こちらは地の利も得られますし、奴が策を講じる事も難しいでしょう」

 包帯を巻き終えられたアドウが、カゲ斗弓の話を聞いて腕を組む。

 「確かにな。奴の危険度は、今回の件で明らかとなった。前回も含めれば、二百近くの兵を失った。まあそんな物はまた補填(ほてん)すればよいが、次で確実に仕留める必要がある」

 そう言うとアドウがくも八を見る。くも八も腕を組んでいる。

 「・・・一理ある。奴をこの城で迎えるのは、万一を考えるとあまりにも危険(ゆえ)、反対しておったが、もはや止むを得んな。だが奴をどうやってこの城へ誘き出す? 簡単に敵地へ来るとは思えんが」

 くも八が尋ねる。反対のガマ比古は、難しい顔で話を聞いているが、妙な所で頷いたりと、あまり理解していないようである。

 「カゲ斗弓よ、何か策はあるのか?」

 アドウも眉を(しか)め、カゲ斗弓に尋ねる。すると、カゲ斗弓が怪しくニヤリと笑う。

 「はい。お任せを」


   *


 翌朝、城内の外広場に、生き残った徴兵達が集められる。しゃらく、ウンケイ、ブンブク、ツバキは勿論(もちろん)、盗賊の駄エ門(だえもん)とリキ(まる)、そして男装した女兵等、三十人程が広場に(つど)う。するとしゃらくは(おもむろ)に、男装した女兵の元へ近づく。女兵はニコニコ近づくしゃらくに警戒し、刀に手を掛けて睨みつける。

 「ま、待てよ! 何もしねェって! おれ達仲間だろ? 仲良くしようと思ってよ・・・」

 しゃらくは両手を上げて苦笑いする。

 「不要だ。俺は()れ合いに来たんじゃない」

 女兵は刀から手を放し、不愛想にそっぽを向く。

 「そんな事言わずによォ。おれはしゃらく。あんた名前は?」

 「あっちへ行け」

 二人の様子を、少し離れた所でウンケイ、ブンブク、ツバキが眺めている。

 「・・・健気(けなげ)だねぇ」

 ツバキが呟く。ウンケイとブンブクは、やれやれと肩を落とす。

 「ってか、あんた女だろ? こんなとこで何してんの?」

 しゃらくが、周囲に聞こえないよう小声で尋ねる。女兵は驚き、向こうのツバキを睨みつける。ツバキは両手を上げて苦笑いする。

 「違ェよ。ツバキから聞いたんじゃなくて、おれは匂いで分かるんだよ。鼻が良いから」

 「え、キモ」

 女兵が、しゃらくに軽蔑(けいべつ)の眼差しを向ける。しゃらくはその場にへたり込みそうなほど落ち込む。

 「・・・私は“シカ”。訳あってここにいる。この事は他言(たごん)するな」

 シカという女兵が呟く。するとしゃらくは、落ち込んでいたのが噓のように、パアッと表情が明るくなる。

 「そっか! あ、でもあそこにいる、仲間のウンケイとブンブクはもう知ってる」

 「・・・何だあれは?・・・狸?」

 シカが目を()らして、向こうのウンケイの肩に乗ったブンブクを見る。すると、それに気づいたブンブクがニコッと笑う。

 「かっ・・・!!」

 突如シカが目を見開き、顔を真っ赤にし、口を両手で(ふさ)ぐ。

 「ん? どうした?」

 その様子に心配したしゃらくが、シカの顔を(のぞ)き込む。するとシカが、物凄(ものすご)い勢いでしゃらくの胸ぐらを掴む。

 「頼む! あの子を!・・・()()り回させてくれ!!」


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ