表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/84

第五十八話 「丑将軍」

 「は!!?」

 しゃらくとウンケイが目を真ん丸くし、開いた口が(ふさ)がらない。正面のギョウブはニヤリと笑っているが、その(そば)に座る団二郎(だんじろう)芝三郎(しばさぶろう)は刀を手に持ち、(けわ)しい表情を浮かべている。(はし)に座る竹伐(たけき)り兄弟は、しゃらく達の目的に驚いている。一方でギョウブの隣に座る太一郎(たいちろう)は、相変わらず穏やかな表情のままである。

 「やい、しゃらく。おめぇらの事は好きだが、本当にそれが目的なら、俺はおめぇらを(たた)()るぜ」

 団二郎が鋭い視線を向ける。その言葉に、ウンケイも傍の薙刀(なぎなた)に手をかける。

 「・・・あんたが十二支(えと)将軍ってのは、どういう事だ?」

 ウンケイがギョウブに視線を移す。

 「まあ正確には、俺が人間に化けた姿だがな」

 ボン! 突如ギョウブが煙に(おお)われ、人間の姿に変化する。それはまさに鬼のような大男で、髪を後ろで()い、沢山の(ひげ)(たくわ)えている。

 「しゃらくよ。共に戦ってくれた事には感謝してる。だから今のは、聞かなかった事にしても良いと思ってる。だがそれでも()るってんなら、わざわざこんな所まで来てくれたんだ、相手してやるぜ?」

 ギョウブの言葉に、広間に緊張が走る。

 「・・・」

 しかし、しゃらくは臆さずに、黙ったままギョウブの目を見つめている。ブンブクは緊張に耐えられず、そそくさとウンケイの背中に隠れる。

 「・・・そっか!」

 しゃらくがニカッと笑う。

 「え?」

 ギョウブをはじめ、傍に座る狸達が唖然(あぜん)とする。

 「ほっほっほ」

 太一郎だけが笑う。

 「・・・!?」

 ウンケイとブンブクも思わずしゃらくを見る。

 「いやァ、俺が天下を獲りてェのは、誰も泣かねェ国にしてェからだ。その為に十二支(えと)将軍を倒すんだ」

 しゃらくがニッと笑いながら話し出す。ギョウブらは黙って話を聞いている。

 「だからあんたらとは戦わねェよ」

 しゃらくが再びニカッと笑う。再び太一郎以外の全員が驚く。

 「・・・どういう事だ?」

 ギョウブが首を(かし)げて(たず)ねる。

 「ん? だって、あんたらは(わり)ィ事しねェだろ? じゃア戦う必要ねェじゃん」

 しゃらくも首を傾げて答える。広間に静寂(せいじゃく)が流れる。

 「だぁっはっは! そうか! 確かに利害が一致してりゃあ戦う理由がねぇわなぁ!」

 ギョウブが大笑いする。隣の太一郎も笑っている。すると再びギョウブが煙に包まれ、元の姿に戻る。他の狸達とウンケイ、ブンブクは呆気に取られ、一気に体の力が抜ける。

 「はっはっは。ますます気に入ったぜ。俺達は元々、天下獲りには興味がねぇんだ。それならしゃらくよ、こういうのはどうだ? お前の一味には、俺達の家族であるブンブクがいる。それに俺達には(きずな)がある。だからよ、より良い世の為に互いに協力しようじゃねぇか。 “不戦(たたかわず)(ちぎ)り”を結ぼう」

 ギョウブがニコッと笑う。話を聞いたしゃらくは、ウンケイの方をチラッと見る。

 「・・・はは。そういう事ならいいんじゃねぇか? 俺達としても、十二支(えと)将軍が味方ってのは心強いしな」

 ウンケイがそう言いながら、ブンブクの頭にポンと手を乗せる。

 「だな!」

 しゃらくがニコリと笑う。

 「よぉし! 誰か(さかずき)を持って来てくれ! 契りの盃を交わす!」

 

 

 同じ大広間で、ギョウブとしゃらくが盃を交わす。周囲のウンケイや幹部の狸達も微笑んでいる。

 「これで俺達は兄弟。何かありゃあ、いつでも言ってこい」

 「あァ、ありがとよ。おれ達も、また何かありゃア飛んで来るからよ」

 しゃらくとギョウブが互いに笑い合い、そしてガシッと手を掴み合う。すると後ろの幹部の狸達が歓声を上げ、手を叩く。微笑むウンケイの横に座っていたブンブクも、嬉しそうに尻尾を振っている。

 「・・・ところで、狐達とはもう折り合い着いたのか?」

 ウンケイが思い出したように尋ねる。

 「ええ。あの後、お(かしら)白尚坊(はくしょうぼう)様とで話し合い、(さいわ)い互いに死傷者は出ませんでしたので、何とか和解する事が出来ました」

 芝三郎が答える。

 「どうやら、他の十二支(えと)将軍が狐共をけしかけたらしい。潰し合わせて、疲弊(ひへい)した所を叩こうって魂胆(こんたん)だったんだろう」

 ギョウブの隣に座る団二郎が、酒をカッと飲み干す。

 「白尚坊様は好戦的な(じい)さんだからな。けしかけられりゃあ、黙っちゃいねぇ」

 竹伐り兄弟の竹蔵がニッと笑う。横の竹次は黙って(うなず)いている。

 「十二支(えと)将軍が? そんな姑息(こそく)な事をするのか?」

 ウンケイが目を丸くしている。

 「わっはっは! 普通はそう思うよなぁ? だがあの野郎ならやるだろうぜ」

 ギョウブが豪快に笑いながら、酒瓢箪(さけびょうたん)の酒をぐびぐびと飲む。

 「お頭と同じ十二支(えと)将軍の一人、“()将軍 空鼠(そらねずみ)のチュウビ”」

 芝三郎が説明を続ける。

 「彼が治める国では金が採掘出来るようで、南蛮(なんばん)の国との貿易(ぼうえき)(さか)んに行なっているそうです。今回は千尾狐(せんびぎつね)に南蛮の武器を支援し、我々と奥仙(おうせん)も取り込もうと(たくら)んでいたようです」

 話を聞いたウンケイが、盃の酒をクッと飲み干す。

 「なんだそりゃア! (おとこ)なら正々堂々と戦いやがれ!」

 話に激昂(げきこう)したしゃらくが(つば)を飛ばす。

 「自分達の手を(わずら)わせず、敵の戦力を削る。まあ賢い戦い方ではあるな」

 ウンケイが(あご)に蓄えた(ひげ)()でる。

 「そんなの、おれは気にいらねェなァ! 漢じゃねェ!」

 「だろうな。だが天下を目指すには、頭も使わなきゃならねぇって事だ」

 ウンケイがしゃらくを(さと)す。

 「けッ! おれはそんなの分かンねェから、そうゆうのはお前に任せるぜ」

 「馬鹿言え。俺だって頭は硬ぇんだ。・・・俺達にも策士(さくし)が必要かもな」

 ウンケイが太一郎と芝三郎を見る。

 「おめぇら、この後はどうすんだ?」

 竹蔵が尋ねる。

 「そうだなァ。そのずりィ(ねずみ)を退治しに行くか」

 「実際に会って見極めて来りゃあいい。意外と良い奴かもしれねぇぜ? わっはっは」

 ギョウブが笑う。

 「それなら、この奥仙(おうせん)を南下して下さい。そうすれば、()将軍の治める国もありますし、他の十二支(えと)将軍にも会えるでしょう」

 芝三郎が、奥仙(おうせん)の古い地図を広げて説明する。ウンケイがその地図を(のぞ)き込む。

 「奥仙(おうせん)を抜けるにも、かなり距離があるな」

 「ここに我々の(とりで)があるので、ここを拠点(きょてん)に使って下さい。この地図は差し上げます」

 「助かるぜ。ありがとう」

 芝三郎が地図を丸めてウンケイに手渡す。

 

    *

 

 じりじりと日が照る中、しょうじょう(じょう)の前に大荷物を背負ったしゃらく、ウンケイ、ブンブク、その前にギョウブと幹部達、そしてポン太が立っている。

 「じゃア行って来るぜ! また来るからよ」

 「わっはっは。いつでも来い。お前も達者でな」

 ギョウブがブンブクの頭をゴシゴシ撫でる。ブンブクは嬉しそうに尻尾を振っている。

 「じゃあなブンブク! また遊ぼうぜ」

 ポン太がブンブクに手を差し出す。すると、ブンブクがポン太に勢いよく抱きつき、そのまま二人とも倒れる。

 「達者(たっしゃ)での。君達なら、()したい事がきっと()せるじゃろう」

 太一郎がニコリと笑う。

 「ありがとよ。爺さんも元気でな」

 ウンケイが微笑む。

 「じゃアなァ!」

 しゃらく一行が、八百八狸(やおやだぬき)達に見送られながら、しょうじょう(じょう)を後にする。


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ