表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/84

第三十七話 「八百八狸」

 奥仙(おうせん)へと辿(たど)り着いたしゃらく一行は、そこで出会った子狸の後に続いて、森の中を進んでいる。

 「へェ。“八百八狸(やおやだぬき)”ってのは、そんなにすげェのか」

 「そうさ! そして、その八百八狸(やおやだぬき)を率いる頭領と三幹部達はもっとすごいんだ! いつかおいらもあんな風になるんだ!」

 先頭を歩く“ポン()”と名乗る小狸は、人間同様に二足歩行の後ろ向きで歩きながら、鼻息を荒くしている。そのすぐ後ろを四足で歩くブンブクは、ポン太の話は理解できるようで、目を輝かせて話を聞いている。

 「八百八狸(やおやだぬき)か。聞いた事はあるが、童話の世界だと思ってたぜ。まさか実在するとはな」

 「童話?」

 ウンケイの話に、しゃらくが首を(かし)げる。

 「ああ。“八百八狸(やおやだぬき)”と“千尾狐(せんびぎつね)”の化かし合いの話だ。ガキの頃よく聞かされたぜ。聞いた事ねぇか?」

 ウンケイが懐かしそうに微笑(ほほえ)む。

 「知らねェ」

 「だろうな」

 「どっちが勝つんだ?」

 「おいら達だ!」

 しゃらくとウンケイの会話にポン太が割り込む。

 「千尾狐(せんびぎつね)なんかに八百八狸(やおやだぬき)が負けるか! あいつらズルくてイジワルなんだ!」

 ポン太が更に鼻息を荒くしている。

 「って事は千尾狐(せんびぎつね)も実在するのか?」

 「うん。どっかにね」

 「・・・俺達が聞いてきた話じゃ、化かし合いは引き分け。両者は仲直りして、一緒に暮らしていくって顛末(てんまつ)だが、どうもそんなに穏やかじゃないらしいな」

 「さあね」

 ポン太が首を傾げる。ブンブクはポン太をジッと見つめる。

 「ほら着いたよ」

 ポン太がそう言うと、目の前の鬱蒼(うっそう)とした木々が開けて来るのが見える。

 「ここがおいら達八百八狸(やおやだぬき)の総本山、“しょうじょう(じょう)”だよ!」

 鬱蒼(うっそう)とした森の中、ぽっかりと穴が空いたように木々が開け、空が吹き抜けた巨大な空間が目の前に現れる。そこには人間の家屋と同じ様な建物が並び、その奥には巨大な古城が(そび)え立っている。その城下では狸達が人間のように二足で立ち、まるで人間の城下町のように、商売をしたり立ち話をしたりと振る舞っている。

 「すげェ!! まさに狸の町だぜ!!」

 「・・・ここがかの有名な八百八狸(やおやだぬき)の総本山。本当にあるとはな」

 「わんわん!!」

 しゃらく一行が景色に目を奪われていると、ポン太はツカツカと先へ行ってしまう。

 「ちょっとそこで待ってて!」

 ポン太は振り返りそう言うと、四足になり城の方へ駆けて行く。しゃらく達はポン太の姿を目で追っていると、周囲から刺す様な視線を感じる。見ると、城下の狸達が一斉にしゃらく達を睨んでいる。ブンブクは慌ててウンケイの肩に飛び乗る。

 「・・・そりゃあそうだよな。こんな所にいきなり人間が来たら驚く(はず)だ。ってか何でお前がビビってんだよ。仲間だろ」

 ウンケイが肩に乗ったブンブクを睨む。ブンブクは震えながら首をブンブンと横に振り、尻尾はだらりと下がっている。

 「ったく。こいつら人間の言葉が分かるんだよな? おいしゃらく、釈明(しゃくめい)しろよ。俺達は怪しいもんじゃねぇって」

 するとしゃらくは、狸達のいる城下町へツカツカと近づいて行く。狸達はしゃらくに警戒し、四つん()いになって威嚇(いかく)し出す者までいる。

 「よォ化け狸ども! おれはしゃらく! よろしく〜!」

 しゃらくの言葉を聞き、狸達は更に警戒し始める。

 「おい! 警戒される様なこと言うんじゃねぇ!」

 ゴツ〜ン!! ウンケイの拳骨(げんこつ)炸裂(さくれつ)する。しゃらくの頭にはたんこぶが(ふく)らむ。

 「いでェェ!!」

 「ったくてめぇは。いや俺が馬鹿だった。人間の言葉が通じるなら、最初から俺が言えば良かったんだ」

 「そうだお前が馬鹿だ!」

 ゴッチン! しゃらくの頭のたんこぶが二つになる。

 「お〜〜い!!」

 すると城の方からポン太が戻って来る。しかしその後ろには、ポン太と同じ背丈で木の杖をついた老狸(ろうり)が、ゆっくりと付いて来ている。

 「何だァ?」

 「狸の長老か・・・?」

 ポン太と老狸がしゃらくの目の前にやって来ると、老狸がゆっくりとしゃらく達に近づき、三人の顔をじっと見つめる。

 「・・・ようこそおいで下さいましたな。私は太一郎(たいちろう)。ポン太を助けてくれたそうで。ありがとうございました」

 老狸がゆっくりと頭を下げる。

 「いやいや。助けたというか、殺されかけたというか・・・」

 ウンケイがポン太を見る。ポン太はニコニコと笑っている。

 「なァ(じい)さん。こいつの身内がここにいねェかなァ?」

 しゃらくが、しゃがんで老狸の顔を覗き込みながら、ブンブクを指差し(たず)ねる。すると老狸は顔を上げ、ブンブクをじっと見る。ブンブクは照れてか、ウンケイの肩の上で固まっている。

 「おれ達はこいつの家族を探してここへ来たんだ。こいつもあんたらみたいに化けられるぜ? 人間の言葉は分からねぇけどな」

 ウンケイの話を聞いてか聞かずでか、老狸はただ黙ってブンブクを見つめる。ブンブクはどうにも恥ずかしく、尻尾で顔を隠している。

 「・・・はて。申し訳ない。私ではお役に立てそうもありませんな」

 「そうかァ〜」

 しゃらくとウンケイが肩を落とす。ブンブクの尻尾もだらりと落ちる。

 「まぁまぁ。皆さんを客人として持て成したいので、城へご案内させて頂きたい。良いですかな?」

 「ほんとか!? 腹減ってたんだよ!」

 しゃらくが城へ向かって歩き出す。その後を老狸とポン太が付いて行く。

 「・・・何であいつが先を歩いてんだ」

 ブンブクを肩に乗せたウンケイも、呆れながら後を付いて行く。城下町の狸達はしゃらく達の道を開け、不思議そうに見ている。

 

    *


 日が沈み、森の中の狸達の古城を夕焼けが照らす。中では賑やかな声と(つづみ)の様な音が響き渡る。

 「わっはっはァ!」

 古城の大広間では、豪華な食事を前に座るウンケイとブンブク、太一郎と名乗る老狸も傍に座っている。そしてしゃらくは、ポン太や他の狸達と一緒に腹鼓(はらつづみ)を打って踊っている。

 「ほっほっほ。愉快(ゆかい)な人じゃ」

 「悪ぃな。折角(せっかく)持て成して貰ってんのに」

 「いえ。楽しんでいただければ結構です」

 ウンケイが苦笑し謝るが、太一郎狸はニコニコと微笑んでいる。一方のブンブクは、腹鼓を打つしゃらく達を見て笑っている。

 「・・・」

 太一郎狸はニコニコと笑いながら、腹鼓に夢中になっているブンブクを見つめる。

 「わはは。おもしろかったぜェ」

 しゃらくが自分の席に座る。ポン太もしゃらくの傍に座る。

 「そう言えば、お前あんな所で牛に化けて何してたんだ?」

 ウンケイがポン太に尋ねる。

 「あ!! そうだ!!」

 突然ポン太が大声を出したかと思うと、立ち上がって太一郎狸の前で正座し両手を着く。

 「太一郎様! 南山(みなみやま)(とりで)に化け物が出ました!! おいらはそれに追っかけられて、逃げてた所でしゃらく達に会ったんです!」

 ポン太の話を聞き、太一郎狸が眉を(ひそ)める。

 「化け物? 砦の者は無事か?」

 「分かりません。おいら砦に飯を届けて、その帰りに追っかけられたから・・・」

 ポン太の話に、ブンブクと他の狸達は怯えている。ウンケイは黙って話を聞き、しゃらくは飯をもぐもぐと食べている。

 「そうか。・・・今は丁度、お(かしら)達が出掛けておるからな。その化け物が此処(ここ)へ来たらまずいのう」

 すると、太一郎狸の話を聞いたしゃらくが立ち上がる。

 「よっしゃ! じゃアその化け物、おれ達が退治してやるよ!」

 しゃらくがニカっと笑う。ポン太と狸達は、目を輝かせてしゃらくに群がる。そんな中、太一郎狸は目を(ひそ)めている。


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ