第百四話 「小競り合い」
戦支度を整えた一行は、西の国境へ向けて馬を走らせていた。先頭を行くのは煬王ゼンベエ、その後ろには風林火山、そしてバゲン達が続く。
「わっはっは! やっぱり戦は良いな!」
ゼンベエはやたら機嫌が良い。まるで遠足に向かう子供である。
その隣ではハヤテも笑って何か喋っている。(会話は省略)
「あぁ〜面倒くせ・・・」
一方でカエンは相変わらず面倒くさそうにしている。馬上で頬杖をつきながら、ぶつぶつ文句を言っている。
「も〜〜! 何でなんですか!?」
その後ろでは、コシトキが馬上で駄々をこねている。
「何で戦なんですか!? 僕達はあの立派な大館で平和に過ごしたかったのに!」
「うるせぇな」
ウンケイが笑う。
さらに後方では、シカの乗る馬には大きな影が落ちている。その理由は隣。山のブジと、その巨大が騎乗する巨大な雄牛。牛そのものが小屋のような大きさである。しかしブジは相変わらず無言だった。そして相変わらずブンブクをジッと見ている。その様子にシカが警戒する。しかし、当のブンブクはまるで怯えていない。むしろ不思議そうにブジを見ている。二匹は無言のまま見つめ合っていた。
「今度はどこと戦だ? またかと言っていたな?」
バゲンからの問いに、ゼンベエが振り返る。
「“濃羅”だ」
ゼンベエが答える。
「濃羅? 巳将軍の国じゃねぇか。何の為に?」
バゲンが眉を上げる。
「牽制だろうな。本気で甲玄を獲りに来とるわけではない。国境で少し小競り合いを起こして帰っていく。それを定期的に仕掛けてくるんじゃ」
バゲンが眉を顰める。
それを後ろで聞いていたスイメイも同じ顔だった。
「・・・勢力分散が目的では?」
全員が振り返る。スイメイだった。
「本隊は別から攻めてくる。そういう類の策にも聞こえます」
「そんなのとっくに調べたよ」
欠伸交じりの声。隣のカエンだった。
「ふあぁ・・・だが、何処からも攻めてくる様子はねぇ」
「・・・なるほど」
スイメイは顎へ手を当て、何かを考えている。
カエンは横目でスイメイを見てニヤリと笑う。
「頭いいねぇ、兄ちゃん」
スイメイは答えない。
さらに馬を走らせ、やがて一行は国境へ到着する。見晴らしの良い崖の上。そこから下を見下ろす。
「おォ・・・!」
しゃらくが声を漏らす。国境の向こう、濃羅側の平野に若竹色の旗が並び、陣が築かれている。
「向こうは五百くらいか」
バゲンが呟く。
「フン。小癪なマムシめ」
ゼンベエが笑う。
するとスイメイが前へ出て、下を覗く。
「しかし、こちらは五十人もいないようですが?」
甲玄陣営を見ても兵は僅か。数の上では圧倒的に不利だった。するとゼンベエが笑顔で振り返る。
「わっはっは! わしらだけで充分だ」
しゃらく達が目を丸くした。
崖を下りたゼンベエと風林火山は、そのまま甲玄の陣へ向かう。
「えぇぇ!?」
甲玄兵達が一斉にどよめく。
「お館様!? それに皆様まで!? どうされたのです!?」
「向こうの配置は?」
カエンが卓上に広げられた地図を見る。そしてゼンベエは大将席へ腰を下ろす。
「カエン。わしも使ってくれ。孫に良いとこ見せたいんじゃ」
「はは。分かりましたよ。一人くらい倒してきてくださいよ?」
「わっはっは! 任せておけ!」
ゼンベエが豪快に笑う。
一方、リン斎は既に甲冑姿で、正座して敵軍を見つめている。
その隣では、ブジも巨体に合わせた甲冑を着て、片手に巨体におそぐわぬ大槌を持ち、戦場を睨んでいる。しかし、その額から汗が滝のように流れている。ハヤテがそれを笑う。
「なんだブジさん。また緊張してんの? 一体いつになったら戦場に慣れるのさ? ははは」
そんなハヤテ自身も忍装束へ着替えていた。そしてすぐに横にいた甲玄兵に延々話し掛けている。兵は白目を剥いている。
「ってか待てよ」
カエンが地図から顔を上げる。
「リンさんにハヤテにブジ。それにお館様も出るんだろ? 策なんて必要ねぇじゃん。俺の出番なくね?」
するとゼンベエが笑う。
「わっはっは! 頼りにしておるぞカエン?」
その様子を崖の上からしゃらく達が眺めている。
「あの煬王ゼンベエと風林火山の戦いが、こんな特等席から見られるなんて! 楽しみですね!」
コシトキが興奮する。するとウンケイがしゃらくを小突く。
「おい、お前の爺ちゃんの戦いが見られるぞ?」
しゃらくは下を見る。赤備えの甲冑姿のゼンベエ。その姿が妙に格好良かった。
「・・・爺ちゃん」
すると甲玄陣から四つの影が現れる。甲冑姿のゼンベエ、リン斎、ハヤテ、ブジ。
「久しいなぁ! 戦に出るのは!」
その姿を見た瞬間、濃羅軍に動揺が走る。
「あれ・・・! 寅将軍本人だ! 風林火山もいるぞ!? まずい! 本部へ報告だ!」
慌ただしく兵が走る。同時に前線へ兵が集まり始める。やがて濃羅の陣前に巨大な人の壁が出来上がる。
するとゼンベエが右手を上げる。
ブオォォォォォ!! 甲玄陣から法螺貝が響く。
ハヤテ、ブジ、リン斎の三人が前へ出る。
「参るぞ」
ゼンベエがニヤリと笑う。
完




