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女神たちは今日もエリクサーをあおる。  作者: 猫大。
第1章:神が知らざるもの

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第7話:「危ないですよ。お気をつけて」

今日も変わらず朝が来た。

窓を開けると、春らしい少し湿気た風が入ってくる。

空には重く厚い雲がかかっている。

雨が降るのだろう。


追悼してから数日。

今朝も村人達は教会の前に集まった。教会は今にも倒壊しそうなほど壊されていたが、奇跡的に姉妹神の女神像は無傷だった。

ヒューマン、エルフ、ドワーフ、そして、青白い肌のミスティック。

皆が静かに列を作り、祈りを捧げている。

ミスティックの額の魔石が、祈りの言葉に合わせるように淡く光る。


壊れかけた礼拝堂。

崩れた壁。

それでも、姉妹神の女神像だけは無傷でそこに立っている。


誰もがそれを“奇跡”だと言った。

私も、そう信じたかった。

 

道端に積み重なった夥しい量の魔物の骸は、素材に解体された。

困ったのは大通りに横たわる首の飛んだドラゴンだった。ドラゴンは捨てる所がないと言われているが、巨大過ぎた。通行の邪魔でもある。鱗も硬く、並の道具では刃が欠けるばかりであった。

 

職人たちが困っている所に、子供達がヴラドを連れてやってきた。その手にはゴロウの巨大な肉斬り包丁が握られている。

……ゴロウは見つからなかった。

あの地獄の中、逃げ惑う人々を避難所に誘導していたのが彼を最後に見た姿らしい。

ドラゴン討伐の噂を聞いた子供が、ヴラドなら解体できると思い連れてきたのだった。


“ザン”


力任せに振り下ろした包丁から、空気を裂く音がした。

素人なので切り口は粗い。だが大き過ぎる獲物だ、後の加工でどうにでもなる。刃が欠けているのか、鱗が砕ける音なのか、ガリガリと音を立てて身を裂く。辺りには痛んだ血の匂いが広まる。

「すごい……」

誰かわからないが子供が感嘆の声を上げる。

またたく間に、巨体は解体されていった。

子供達は英雄に向ける眼差しで見ていたが、大人達は少し違った。瞳に少しの恐怖と不安が混じる。

 

「人間業じゃねぇ」「神父様は"何に"なったんだ」「……ありがてぇ、ありがてぇんだがな……」

 

 だが、魔物とドラゴンの素材で村の復興にお釣りが来るかもしれないと喜びの声が増していた。

 歓声を受けて振り返ったヴラドの前には、手を合わせる者、目を逸らす者、感謝を言いながら一歩だけ距離を取る者など、さまざまな姿があった。


ある程度解体が終わり、ヴラドは段差に腰掛け休息していた。子供達がヴラドを囲っている。青白い肌の子も混じる。額に生まれつき埋め込まれた魔石が、曇天を写して鈍く光る。


その一人が、血に濡れた石畳で足を滑らせた。

ヴラドの手が、反射のように伸びる。


小さな身体を支えたまま、彼は一瞬だけ動かなかった。

子供は、腕の中で笑っていた。額の魔石が嬉しそうに点滅している。


風が止んだように感じた。

なぜだか、嫌な気分が一瞬した。

ヴラドはいつもの穏やかな笑みを浮かべ

 

「危ないですよ。お気をつけて」


そう言って、手を離した。

子供はすぐに仲間の輪へと戻っていった。輪は自然に閉じ、笑い声が戻る。

いつもの、何気ない光景のはずなのに、なんでこんなに胸の奥が騒つくのか不思議だった。

  

そんなヴラドの元に鍛冶師のオーレンが話しかける。

ゴロウの包丁を打った本人である。

「……こいは、ゴロウに打ったただのデカい包丁のはずなんじゃがなあ」

「……お返しした方がよろしいでしょうか?」

「なに、よかよ。今ではお前さんしか扱えん。

 龍を斬り殺すとは、やはり加護ば頂いとるんかのう」

 長命種らしい、古い呼び名でそう言った。

「……ええ、女神様のお言葉を頂きました」

「ほほっ、トルヒノカミ様かいも頂いてそうじゃな」


 間を置いて

「……どんな加護かは聞かんでおこう。」

 ぼそっと呟いた。

 

「どれ、ちょいとおいどんに預けんか?

 研ぎ直して、柄を神父どんが扱いやすいように作り直すど」

「よろしいのですか?」

「うむ。そいの方がゴロウも、この包丁も喜ぶじゃろで。無銘じゃっどん、村ん英雄に使ってもらえるんじゃから。ドワーフ冥利に尽きるわい。

 二、三日ばかい預かっど」

 そう言い、オーレン爺さんは預かった包丁を若い男に持たせて工房に戻っていった。


「……ホノカ! よかった、生きてた!」

後ろから声をかけられた。振り向くとそこには冒険者仲間のミホが涙を浮かべながら立っていた。

「……ミホ? 皆、どうして?」

「村がドラゴンに襲われたって聞いて、姉妹教の司祭様が慰問されるってことで護衛の依頼を受けたんだ」

タナスが答える。 

「ザックやアーシェ、ラオウ……は?」

 私は首を横に振ることしかできなかった。

 

「そんな……」

「……くそ、いい奴らだった」

 そう言い、私たちは再会の喜びと悲しみで泣きながら抱き合った。

「またかよ……」

 タナスの呟きは、誰にも届かなかった。

 その様子を、少し離れた場所に腰を下ろしたヴラドが、微笑みながら眺めていた。

 穏やかに笑っているはずなのに、どこか遠くを見るようだった。

  


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