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女神たちは今日もエリクサーをあおる。  作者: 猫大。
第2章:

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第13話:「――開けなさい」 

領主の朝は早い。

日の出前に起き一杯の紅茶を飲みながら、今日のスケジュールを確認する。


昨晩は遅くまで、ホノヌヌ村から帰還した兵隊長の話をまとめていた。

ほぼ徹夜明けの状態だ。

卓上に積まれた資料を手に取る。

 

ドラゴン……1頭

グリーンゴブリン……31匹

ヴァルガーゴブリン……17匹

フォレストウルフ……10匹

フォレストオーク……13頭

そして――判別不明、23匹


「凄まじいな」

これで村は“半壊”に留まったというのだから。

どう考えても魔物の数が異常だ。

 

討伐された数がこれなら、逃げた数は――考えたくもない。

最近、スタンピードで滅んだ集落や村が増えていると聞くが、この数なら頷ける。


だが――種類が多すぎる。

異なる生態の魔物が、これほど混在しているなど聞いたことがない。


朝日が差し込む執務室で、私はぽつりと呟いた。

 

「……奇跡、か」


報告によれば、これらの魔物の大半を――

“ただの神父”が、たった一人で討ち果てたらしい。

事実だとしたら、めっちゃ怖い。


何?

報告には、食われながら肉斬り包丁でドラゴンの首を刎ねたとあるんだが?

怖すぎるだろ。

しかも、その間、経典を歌っていたらしい。

訳がわからん。 

おまけに、頭に瓦礫が刺さってるとあるんだが、よく生きてるな。

これから会うことになってるんだが、好奇心より不気味さが増す。

ぶっちゃけ、会いたくない。

 

――私は小心者なのだ。

嫌だなー、絶対厄介ごとになる。

だが、逃げるわけにはいかない。


この街の――この一帯の主として義務を果たさねばならない。

お兄様から預かったこの街を、土地を守るのが私の勤め。

 

まだ婚姻もしていない身で領主など、お兄様に反対したけれど『お前なら何かできるんちゃう?』と押し切られてしまった。

 

北部辺境伯の我がカムイ家は、慢性的な人手不足ではあると理解している。……理解しているが。

 

前線基地でもあるこの街に、末の妹を送るか普通。

周りの者も何故か反対しなかった。


――コンコンコン 

「おはようございます、お嬢様

 朝食のご用意ができました。

 今朝も片手で食べれるサンドイッチでございます」


長年仕える執事――ドワーフのソウエモンが、静かにワゴンを押しながら入ってくる。


……はわ。


ホットサンドにコーンスープ。

ほとんど寝ずに働いていた私に、その香りは効く。


――ぐぅ。


一応レディである私のお腹が鳴ってしまった。


涼しい顔をしたソウエモンが、手際よく応接テーブルに料理を並べていく。

自室で朝食を摂らなくなって、いったい何日になっただろうか。もはや砦の執務室が、私の部屋のようなものだ。

 

書類仕事ばかりで、目、肩、腰が辛い。

年頃の娘がする仕事でもないだろうに。


……ああ。

伝説のエリクサーでもあればいいのに。


スープに口をつける。

甘くクリーミーな味が、じんわりと胃に染み渡った。


「お嬢様、あと二時間ほどでオズワルド司教がお越しになります。

 一時間ほど仮眠を取られては?」


……寝られる気がしない。

だが、寝ておかねばならないのだろう。

ソウエモンがそう勧めるのなら、今の私は徹夜明けで、相当ひどい顔をしているのに違いない。

朝食の紅茶も、カモミールティーに変えてあるあたり――さすがだ。


「そうするわ。

 一時間後に起こしてちょうだい。……いつもありがとう」

「ありがたき幸せに存じます。

 かしこまりました」



「……様。お嬢様」

メイド長が私を呼ぶ声が、遠くから引き戻すように聞こえる。

……ほとんど、寝れた気がしない。


「おはようございます、お嬢様。

 御面会まであと一時間を切っております。

 お湯が沸いておりますので、お風呂へお急ぎください」


そう言って、メイド長は非情にも私の布団を剥ぎ取った。

あっという間に服も剥ぎ取られ、そのまま風呂で洗われていく。

毎回のことだが――まるで拾われた猫のような気分だ。

入浴を終えて、メイド長たちにドレスアップとメイクを施される。

領主としての威厳が私に付く。

さぁ、面会だ。

……“あの神父”にできれば会いたくないが、仕方ない。


――コンコンコン

「お嬢様。

 オズワルド司祭様とヴラド神父様、冒険者のホノカ様がいらっしゃいました」

「わかりました。

 応接間にお通しして。

 私もすぐに参ります」

「かしこまりました」


とうとう来てしまったか。

ソウエモンが応接間に向かい、十分ほど経ってから廊下を歩く。

使用人たちが、一礼する。


いつもと同じ光景のはずなのに、今日はやけに静かに感じた。

応接間の前に立つ騎士の表情が硬い。


……ああ、そうか。

彼らはヴラド神父の姿を見たのだ。

報告を聞いた私ですら、異様に感じたのだ。

もしかすると、門番や街の者から、噂がもう砦に広がっているかもしれない。


……ますます、会いたくない。

来客用の応接間の扉に立つ。

無駄に重厚な作りになっている。

この向こうにいるのが――ヴラド神父。

彼に会って、話をして、私はどう判断すべきなのか。

もし彼の“奇跡”が本物なら、おおよそ八十年ぶりに神託が降りたことになる。

 

――何故、彼なのか。

そして、何故、今なのか。


……一度、深く息を吐く。

もしかしたら、歴史的な何某なのかもしれない。

胃がきゅっと閉まる気がした。

何故、私なのだ。


……おし、覚悟を決めた。

逝くぞ。


「――開けなさい」 


それは、希望の扉、はたまた、絶望の扉か。


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