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女神たちは今日もエリクサーをあおる。  作者: 猫大。
第2章:

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第14話:「どうぞ召し上がってください」

――コンコンコン

「おはようございます、ホノカ様。

 朝でございます」

 

早朝にニコライ神父が起こしに来た。

身支度を終えて、ニコライに連れられ聖堂の主祭壇の前につく。

村の教会とは比べ物にならないほど、豪勢で威厳の満ちた主祭壇だ。

すでにヴラドが膝をついて祈りを捧げている所だった。

私も隣で軽く祈りを捧げる。

朝一番に祈るヴラドの姿は、村にいた頃と変わらない。――そんな日常を、思い出していた。

そこへ、オズワルド司祭がやってきた。


皆が集まり、教会内の朝の説法が始まる。

一般のミサまでは、まだ一時間ほどあるらしい。


凛とした空気にオズワルドの言葉が響く。

短い話の後、姉妹神に感謝の言葉を述べて終わった。

その後は聖堂の清掃と朝食の準備が始まった。

朝食は白パンに卵焼き、ブルスト、サワークラウト、コーンスープ。――白パンだ。

村の主食は黒パンだ。だから、この白さが少しだけ落ち着かない。昨日も出たが、あれはオズワルドの帰還祝いだと思っていた。

リフターズの教会の力が垣間見える。

 

ふと視線をヴラドに向けると、食卓をじっと見つめ、わずかに眉をひそめていた。普段から引くほど敬虔なヴラドだ。贅沢をあまり好まないのかもしれない。


白くふわふわなパンを手でちぎり、頬張る。

小麦の香りが鼻腔をぬけて、ほのかに甘い。

そのままでも十分に美味しいのだが、半熟の卵の黄身に付けて食べるのもまた格別に美味しい。


私が夢中で食べている横で、オズワルドとヴラドは今日の予定を話していた。

 

「今日は、この後に朝のミサを終えてから領主様の砦へと向かいます。村で起こったことは、そのままお話になって構いません。

その際は、ホノカ殿にもお話していただけると助かります」


「ふぁい」

 急に話を振られて口にパンを詰めたまま、思わず変な返事をしてしまった。……恥ずかしい。


「ふふ、慌てずとも大丈夫ですよ。

 おかわりもして頂いて大丈夫ですからね。

 ヴラド神父も遠慮せずに、どうぞ召し上がってください」


「ええ、ありがとうございます。」

そう言ったヴラドは――わずかに視線を落としたまま、パンに手を伸ばさなかった。


「……この教会の白パンは、古い小麦でも作られます。

 リフターズは物流拠点でもありますから、余った穀物ですが、教会に回ってくるのです。ありがたいことです」

トレーを持ったニコライ神父が笑顔で教えてくれた。


「……初めて領主様にお会いになるので、緊張されていると思います。

 ですがご安心ください。領主様は大変お若い女性ですが、とても聡明でお優しい方です。

 きっと親身になってお話を聞いていただけると思います。私も同席しますので」

そう、優しくオズワルドはヴラドと私にも話しかけてくれた。


ヴラドは最後までパンには手を伸ばさなかった。


食事が終わり、片付けと清掃をして朝のミサが始まる。

村とは比べものにならない程の人が、この大きな大聖堂を埋め尽していた。

これが、この街の日常らしい。

 

聖歌隊による讃美歌が歌われ、ミサが終わる。

美しい歌声に思わず、涙が溢れてきた。

圧巻だった。息をするのも、忘れるほどに。


その後、リフターズの紋章が入った馬車が迎えにきた。

御者にはマリーが乗っていた。


「司教様、ヴラド神父様、それにホノカ殿。

 お迎えにまいりました。

 砦にてスフィア様がお待ちです。

 兵隊長もお話合いには、同席されるとのことです。」


3人で馬車に乗り込み砦に向かう。

ニコライ神父が手を振って見送ってくれた。


私は、実は貴族様に謁見するのが初めてだ。すでに緊張している。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。

 スフィア様は聡明でお優しい方です」


御者の窓からそう、マリーが言ってくれる。

そうは言っても、丘の上に建てられた無骨な砦が近づいてくるにつれて、胸に不安が広がっていた。

砦の門を見上げると、胸の奥のざわめきが、はっきりと形になった気がした。

ヴラドは無表情で砦の門を見ていた。

門が開き、身なりの整った妙に隙のないドワーフが応接間まで案内してくれる。

彼はソウエモンと名乗った。

流石に、フードを被るのは失礼だろうと、ヴラドは外套を外したが、ソウエモンは何も気にしないかのように対応してくれた。

ドワーフは豪快な性格の人が多い気がしていたが、彼のようにデリカシーのあるドワーフもいるのかと、少し感心してしまった。


オズワルドから彼はカムイ家の総執事長だと耳打ちされた。

……なるほど。

執事とは、家政を取り仕切る最高位の使用人らしい。

領主に最も近い方がわざわざ私たちを案内してくれたことになる。

緊張がさらに強まった。

 

装飾品が少ない応接間に案内された。

無骨な印象を受けたが、置かれているソファーなどの家具は素人の私から見ても上質で、どこか上品に感じた。

よく聞いた“派手で贅沢な“お貴族様の噂とは、まるで違っていた。


ヴラドは無言のまま周囲を観察していたように見えたが、どこが落ち着いているようにも見えた。私もより贅沢で豪勢な部屋に通されたらもっと緊張するかもしれない。


「どうぞ、おかけになってお待ちください」

ソウエモンに促されて、3人がけのソファーに座る。

なぜか私がオズワルドとヴラドに挟まれる形になった。


それでも、そんな上質なソファー上に、ガチガチになりながら私は小さく縮こまっていたのだった。




 

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