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女神たちは今日もエリクサーをあおる。  作者: 猫大。
第2章:

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第11話:「……魔物にも祈るんですね」

森を通る街道。

その開けた場所に、下卑た笑い声がこだましていた。

 

いい感じの石に座り、今日も馬鹿話をする。

昨日はタスクラビットを獲ったのだの、一昨日は何喰ったのだの。

俺の棍棒は強い。いや俺の投擲の方が強い。


尖った耳を揺らしながら、仲間がギャヒギャヒ笑う。

 

女も抱きたい。

でも腹が減った。

そうだ、人間の女がいい。

 

犯しながら、柔らかい太ももに齧り付くのだ。

きっと美味い。

俺はふよふよな胸が良い。

おでは二の腕が良い。

 

きっと獲物は、ギャーギャー悲鳴を上げるだろう。

それもいいのだ。それを嘲笑うのだ。

きっと楽しい。

 

食事と性欲、両方満たせる。

俺たちは賢い、そして強い。

ギャヒギャヒ笑いながら、盛り上がる。

次にこの道を通る人間がいたら襲おう。

女がいい、女がいいな。

ああ、腹が減ったな。

そう言いながら、ニヤニヤと街道を眺めていると――


トス。


隣にいた仲間の頭に“矢“が生えた。


慌てて、棍棒を手に取るが、どこに相手がいるのかわからない。

森だ。草むらだ。岩の影か。

どこにもいない。

そうこうしているうちに、また仲間の頭に“矢“が突き立つ。


逃げな――


なんで、俺は地面に転がっているの……だ?


ああ。


俺の体が、向こうに立っている。



「ナイス援護。

 ってか、ホノカがほとんどやったな」

 

そう言いながら、タナスが剣に付いた血を布で拭う。

その足元には、数体のヴァルガーゴブリンの首が転がっていた。


「うわ、ヴァルガーゴブリンじゃん。

 まじ無理……」

ミホが嫌そうな顔をしてやってくる。

その後ろに馬車も続く。


タナスは死んだゴブリンの耳をナイフで切り取る。

「討伐証明に持っていかないと」

 

「ああ、手伝うよ。

 それにしても、こんな街道の真ん中で待伏せだなんて、経験のないやつしかやらねえ」

 ギルバードも剣収め、ナイフを抜いて耳を切り落とす。

「くせぇ……若い群れだろうな」


私は、少し離れた木の上から飛び降りて、みんなと合流する。


「よく、ゴブリンがいることがわかったな」

サエゾーが槍をしまいながら聞く。

「笑い声が……聞こえてたから」

「なるほど、いい耳だ。

 弓の腕も良い」

「おー、さすがホノヌヌ村いちの冒険者様」

 ミホが茶化すように言う。

「ミホも手伝えー」

「やだ。

 汚いし臭いもん」

 ミホは鼻をつまんで顔をしかめた。


ヴァルガーゴブリン。

人を喰ったゴブリンの成れの果てだ。

 

通常のゴブリンより一回り大きく、知恵も回る。

三十から四十ほどの群れを作ることが多い。


人肉の影響か、体色は赤みがかった汚い緑。

そして――ひどく臭い。


特に年老いたヴァルガーゴブリンは厄介だ。


「軽く周りを見てきたが、巣などはないようだ。

 群から出されたのかもしれない」

周囲を警戒していたリョウが、草むらをかき分けて戻ってくる。


「春先に追い出された若いのだろうさ」

ギルバードが耳袋を縛りながら言った。

 

「接近戦で戦いたくないですね。

 臭いが漏れないようにキツく縛ってくださいね」

嫌そうに眉をひそめたマリーも近づいてきた。


「すごい臭いですね」

司祭様とヴラドが馬車から降りてくる。

司祭様は一瞬、鼻を摘みそうになるが口元に手を当てる。

ヴラドも、わずかに顔を顰めていた。


街道の真ん中に死骸を放置するわけにもいかない。

森に穴を掘り、まとめて埋める。

七匹も埋めるのは、さすがに骨が折れた。

 

司祭様とヴラドは、その魔物の墓に祈りを捧げる。

 

森の風だけが、静かに木々を揺らしていた。


「……魔物にも祈るんですね」


ミホが不思議そうに呟くと、ヴラドは静かに答えた。

「神の前では、すべて等しく命ですから」

「ええ、すべての魂は女神エレキ様とイナンナ様の元に向かいます。

 そこで浄化され、再び輪廻の輪に加わるのです」


祈りを終えた司祭様が、こちらに振り返ってそう言った。

ヴラドはまだ、墓に向かって祈りを捧げていたが、ぼそりと


「……ええ、だから、魔を滅して浄化しないといけないのです」


そう呟いた。

ヴラドの表情は見えない。

祈りの言葉だけが、静かな森に落ちていった。



夕暮れ時。

日が落ちる前には、宿のある集落に着くことができた。

サエゾーが宿に入り、部屋を確保する。

司祭様とヴラド、私とミホ、マリー、あとの5人の3部屋だった。


馬小屋にユキノたちを預けて、宿に入る。

ドワーフの夫婦が切り盛りしており、活気があった。

一階の食堂兼酒場で食事を済まし、司祭様とヴラド、それに私たちは早々に部屋に戻ることにした。

 

男たちはそのまま酒場で飲むらしい。

 

今日は湯を入れた桶で、体を洗うこともできる。

湯船にゆったり浸かりたいが、これだけでもありがたい。


「あったかーい……」

ミホが桶に手を突っ込み、嬉しそうに声を上げた。


「ほらミホ、先に髪を流して」

「えー、冷たいじゃん」


「順番です」

マリーがタオルを絞りながら言う。


「……マリーは、着痩せするタイプだね」

「こら」

私はポンとミホの頭を叩いた。

 

湯気の立つ桶を囲みながら、三人で桶の湯を使い、身体を拭き合ってからベッドに入る。

「街に着いたら、絶対お風呂行こうね」

「うん、湯船入りたい……」

「私もです」

そんな話をしているうちに、眠気が押し寄せてきた。

明日の朝も出発は早い。

布団は暖かく、すぐに意識を手放してしまった。

その頃――


 

――そろそろ深夜に迫る時刻だ。

俺は外の風に当たって、酔いを醒ましてから部屋に戻ると伝え、酒場の喧騒を後にする。

今夜は満月だ。

外の風は冷たいが、酒で熱った身体にはちょうどいい。


「おい、こっちだ」

建物の影から、声がする。

「ああ、わかったよ」

返事をしながら、影に向かう。

「ホノヌヌ村の状態はどうだ?」

「……酷い有様だった。

 半壊で済んだのが奇跡だ。」

「噂は本当だったか」

「ああ、でかいドラゴンを、ヴラド神父が倒したらしい。

 喰われながら、でかい包丁を振るっていた……と証言があった」

「……なんと」


しばらく沈黙が落ちる。

 

「して、その神父は死んだのか?」

「いや、生きてる。

 村人の話じゃ、欠損がみるみる治ったそうだ」

「……本当か?」

「さぁ、俺は見ていないからな。

 ただ、死んだドラゴンを片手で捌くのは見た。

 とてもあの体格で振れる得物じゃない」

「おお、おお、なんということだ。

 ……素晴らしい。

 もしやその神父は、オズワルドと一緒にいた男か?」

「ああ、ヴラド神父だ。

 これからリフターズの街に行き、王都を目指す」

「なるほど、それはいい。

 お前もそのまま付いて行き、神父の情報を集めろ」

そう言い、影の者は袋を男に投げ渡す。

「情報料だ」

「……多いな」

「なあに、ヴラドはそれだけの価値はある。

 では、頼んだぞ」


スッと影が動いたかと思うと、もうそこには誰もいなかった。

男は袋を懐にしまい、タバコを取り出し火をつける。

「ふー

 ……相変わらず気味の悪いやつだ。

 身体が冷めちまった。

 戻っていっぱい飲んで寝るか」

タバコを吸い終わり、宿の扉を開けて喧騒に戻るのだった。

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