第24話
エルは、
生きていた。
だが――
そのままではなかった。
彼女は、
地面に横たわっている。
胸には、
大きな穴。
本来なら、
即死している傷だ。
だが、
紅晶が――
無理やり肉を繋いでいる。
「……呼吸、
かろうじて維持」
リィナの声は、
震えていた。
【生命維持:紅晶依存】
【自力回復:不可】
エルの身体は、
何度も痙攣している。
骨が、
内側から動く。
皮膚が、
裂けては塞がる。
――生きているというより、
留め置かれている。
「……目を覚ます可能性は?」
カイルが、
低く聞いた。
リゼは、
首を横に振った。
「目は覚める」
一拍。
「でも、
“同じエル”じゃない」
……来たな。
「紅晶は、
記憶と因果を保存する」
「代わりに、
感情を削る」
リゼは、
妹の顔を見る。
「彼女はもう、
“人としての選択”をしない」
つまり。
笑わない。
迷わない。
恐れない。
……愛さない。
その時。
エルの指が、
わずかに動いた。
喉が、
かすかに鳴る。
「……」
目が、開いた。
だが。
そこにあったのは――
感情のない赤。
「……成功……
したのね……」
声は、
平坦。
俺を見る。
だが――
何も宿っていない。
「……あなた、
勝った……」
それだけ言って、
視線を外す。
……クソ。
【救命:成功】
【人格:不可逆的変質】
リィナが、
唇を噛みしめる。
カイルは、
何も言えない。
リゼだけが、
静かに言った。
「これが、
国家と紅晶のやり方」
「生かす。
だが、奪う」
俺は、
拳を握った。
だが――
怒りが、湧かない。
【感情欠落:進行】
……なるほど。
代償は、
能力だけじゃない。
怒る権利すら、
少しずつ奪われていく。
エルは、
もう一度だけ俺を見る。
「……次の卓……
まだ、続く……」
そう言って、
目を閉じた。
生きている。
だが、
もう同じ場所にはいない。




