第23話
意識が戻った瞬間、
最初に感じたのは――
自分の血の匂いだった。
口の中が鉄臭い。
喉の奥が焼ける。
「……生きてるか?」
カイルの声が、
やけに遠い。
【生命反応:維持】
【戦闘不能:確定】
……だが。
何かが、
決定的に欠けている。
俺は、
視界に意識を集中させた。
――出ない。
【成功率】
【死亡率】
【結末】
数字が、一切見えない。
「……あ?」
嫌な汗が、
背中を流れる。
因果補正。
あれは、
“切り札”だった。
数字が壊れた世界で、
結果だけを掴むための――
最後の保険。
だが今は。
【因果補正:使用不可】
【理由:代償支払い完了】
「……支払い?」
声が、
震えた。
リゼが、
ゆっくり近づいてくる。
彼女の顔は、
いつもの冷静さを保っている。
だが――
目が、少し赤い。
「代償は、
能力じゃない」
……何?
「“認識”よ」
リゼは、
淡々と言った。
「あなたは今、
未来を選べない」
理解に、
数秒かかった。
「……まさか」
「ええ」
彼女は、
はっきり言った。
「あなたはもう、
“因果の分岐”を見られない」
【因果視認:永久喪失】
……クソが。
闇カジノで言えば、
二度とカードが見えないってことだ。
「じゃあ……
俺は、ただの――」
「いいえ」
リゼは、
一歩踏み込む。
「あなたはまだ、
賭け方を知っている」
「でも、
もう“保証”はない」
つまり。
これからは、
本当に命懸けの賭けになる。
その時、
喉の奥が、
ぐっと熱くなった。
吐いた。
床に落ちたのは、
血と、黒い塊。
内臓の一部だ。
【内部損傷:慢性化】
【寿命影響:大】
「……副作用もある」
リゼは、
視線を逸らさずに言った。
「因果補正は、
世界より先に、
あなた自身を壊す」
……安いな。
世界を動かす力の代償が、
自分一人分の人生か。
俺は、
笑った。
「……上等だ」
「後悔は?」
「あるわけない」
だが――
その瞬間。
【警告:感情欠落進行】
胸の奥が、
妙に静かだった。
怒りも、
恐怖も、
薄れていく。
……ああ。
代償は、
まだ終わってない。




