25話
エルは、
運ばれていった。
担架ごと、
紅晶固定具に縛られ。
声もなく。
抵抗もなく。
まるで――
最初から“そうなる運命”だったかのように。
【被験体E-07】
【国家管理区画へ移送】
表示が、
淡々と切り替わる。
リィナは、
動けなかった。
「……待って」
その声は、
誰にも届かない。
扉が閉まる。
完全遮断。
音すら、
残らない。
「……これで」
リィナの声が、
かすれる。
「エルは……」
言葉にできない。
できないから、
黙る。
沈黙だけが、
そこにあった。
「……次の卓だ」
俺が言った。
自分でも、
驚くほど平坦な声。
「国家が主導する」
「拒否権はない」
カイルが、
俺を見る。
「……お前、
おかしくないか」
……そうか。
外から見れば、
そう見えるのか。
「おかしい?」
俺は、
首を傾げた。
「何が」
その瞬間。
【感情欠落:86%】
ああ。
また、
進んだ。
「……分かった」
カイルは、
それ以上言わなかった。
言っても、
無駄だと理解した顔。
リゼだけが、
静かに言う。
「削れてる」
「思ったより、
早いわ」
「紅晶と深く繋がりすぎた」
俺は、
返事をしなかった。
返す意味を、
感じなかった。
その時。
床の紋章が、
光る。
赤。
嫌になるほど、
見慣れた色。
【卓の招集】
【強制参加】
【対象:紅晶適合者】
文字が、
順に並ぶ。
そして――
最後。
【賭けるもの:感情】
……なるほど。
そう来たか。
「感情が、
チップ扱いね」
リゼが、
皮肉なく言う。
「失うほど、
有利になる」
「勝てば、
何かを取り戻せるかも」
リィナが、
俺を見る。
縋るように。
「……エルも?」
……分からない。
分からないから、
答えない。
答えない理由すら、
もうどうでもよかった。
【卓:開始まで30秒】
カイルが、
拳を握る。
「俺は――」
「来なくていい」
俺は、
即座に言った。
「今回は、
俺だけでいい」
「……は?」
「感情がない方が、
有利だから」
それが、
事実だった。
【感情欠落:89%】
数字が、
証明している。
俺は、
卓へ歩く。
迷いはない。
恐怖もない。
ただ。
胸の奥に、
“空白”が広がっていく。
その空白が、
俺を前に進ませる。
……皮肉な話だ。
エルを失って。
怒れなくなって。
悲しめなくなって。
――だからこそ、
勝てる。
【卓、展開】
赤い光に、
世界が塗り潰される。
その直前。
ほんの一瞬だけ。
エルの、
感情のない赤い目が――
脳裏に浮かんだ。
……次の卓。
確かに、
まだ続いている。




